情報収集衛星を打ち上げるのは何のため? ~用途、予算、今後~

2018年2月27日、情報収集衛星光学6号機が種子島から打ちあがった。
”情報収集衛星”という名前に耳慣れない方も多いかもしれないが、6号機という名が示す通り、日本政府が着々と整備を進めている衛星群である。
本記事では、普段あまり掘り下げることのない”情報収集衛星”について紹介する。

目次

(1)情報収集衛星は”安全保障用衛星”
(2)衛星を所有するのは内閣府衛星情報センター~予算、計画~
(3)防衛省は衛星通信と商用衛星画像を利用~きらめき1号、衛星画像の解像度、予算~
(4)今後の注目は「赤外センサ」
(5)まとめ

情報収集衛星は”安全保障用衛星”

衛星を所有する内閣府衛星情報センターによると、情報収集衛星の目的は「外交・防衛等の安全保障及び大規模災害等への対応等の危機管理のために必要な情報の収集」とあり、「作成した成果物は、官邸及び利用省庁に配付され、情勢判断や政策決定に活用されている。」(*2)

地球上の特定の地点を1日1回以上撮影するため、光学衛星2機、レーダー衛星2機が常に軌道上にあるように開発が進められている(光学衛星、レーダー衛星についてはこちら)。現在は、光学衛星、レーダー衛星合わせて6機(予備機含む)の情報収集衛星が運用されている。衛星の詳細な仕様については明らかにされていない。

大規模災害への対応という点では、災害発生直後に衛星画像を公開している。
例えば最近では、2018年1月23日に噴火した草津白根山の様子について、1月28日の午前に衛星での撮像を行い、翌29日に公開している(*3)

草津白根山の火山活動に関しての内閣府衛星情報センターの発表(http://www.cas.go.jp/jp/houdou/pdf/180129csice.pdf)
Image Credit: Cabinet Secretariat

日本の宇宙開発が安全保障用途にも使われていることに驚かれる方もいるかもしれない。その認識はある部分正しい。というのは、1969年日本は「日本の宇宙開発は平和目的に限定する」ことを国会決議し(*4)、以来JAXA(当時はNASDAと宇宙科学研究所)を中心に、平和目的に限定した研究開発としての宇宙開発を進めてきたからだ。

明確に宇宙開発の安全保障利用が明記されたのは、平成20年(2008年)に成立した宇宙基本法で、「国際社会の平和及び安全の確保、我が国の安全保障に資する宇宙開発利用の推進」という文言が記載された(*5)。

実際には、周辺国との緊張の高まり等を受け、宇宙基本法が成立する前の2003年に、初めての情報収集衛星は打ち上げられている。

衛星を所有するのは内閣府衛星情報センター~予算、計画~

では、情報取集衛星を所有する内閣府衛星情報センターとはどういったところなのか。

公開されている情報によると、平成10年度に初めて予算がついて以来、ここ20年近くは600億円ほどの予算(さらに補正予算で100~150億円)を使用している。その内訳をみると2/3を衛星開発費として、残りの1/3を衛星を運用するなどの維持費用として使っている。

[情報収集衛星の予算の推移](https://www.cas.go.jp/jp/gaiyou/jimu/pdf/h30_suii.pdf)
Image Credit: Cabinet Secretariat

JAXAの予算はというと、ここ数年は本予算で1,500億円、補正予算で300億円弱である。
内閣府衛星情報センターは、その知名度とは裏腹に、JAXAの1/3ほどの予算を用いて衛星開発を進めているということになる。

JAXAの予算の推移(http://www.jaxa.jp/about/transition/index_j.html)
Image Credit: JAXA

内閣府情報センターの30年度の予算案をみると今後の計画についても見えてくる。
光学・レーダーともに8号機までが計画されており、加えて撮影した画像データを地球に送るための「データ中継衛星」の開発も進んでおり、「時間軸多様化衛星」なる衛星も進められている。

「時間軸多様化衛星」とは現行の4機体制では、撮像頻度が十分ではないと考えられており、コストを抑えた衛星を数多く投入するととにより、撮像頻度を増やす計画のようだ(*6)。

情報収集衛星の研究・開発および打上げスケジュール([情報収集衛星に係る経費の平成29年度補正予算案及び 平成30年度予算案](https://www.cas.go.jp/jp/gaiyou/jimu/pdf/h29h30_yosananan.pdf)より)
Image Credit: Cabinet Secretariat

防衛省は衛星通信と商用衛星画像を利用~きらめき1号、衛星画像の解像度、予算~

安全保障という言葉から、一般的に思い浮かぶのは防衛省である。この防衛省も、人工衛星を活用している。

平成30年度防衛省予算(*7)によると、防衛省は宇宙関連経費として、502億円を計上している。ここには弾道ミサイル防衛関連経費の宇宙関連部分は含まれていない。その内訳をみていくと、
●宇宙状況監視に係る取り組み:28億円
●衛星通信の利用:363億円
●商用画像衛星・気象衛星情報の利用:110億円
●宇宙を利用したC4ISRの機能強化のための調査・研究等:7,600万円
●米空軍宇宙業務課程等への派遣:2,300万円
となっている。特に金額として大きいのは、衛星通信と商用画像衛星の利用だろう。

衛星通信はXバンド通信と呼ばれる通信であり、作戦部隊の指揮統制や作戦情報支援など、部隊行動に関わる重要な通信に使用される(*8)。
打上げが延期されていた「きらめき1号」は2018年4月6日にフランス領ギアナから打ち上げ予定である。

「商用画像衛星の利用」とある通り、内閣府情報衛星センターとは異なり、防衛省は人工衛星を所有しておらず、商用で手に入る画像を利用していることが分かる。具体的に利用している衛星として、WorldView-4、国産商用光学衛星、超小型地球観測衛星を挙げている。

WorldView-4は、2016年に打ち上げられたアメリカの人工衛星であり、その解像度は最も良い条件で31cmである(*9)。これは、自動車はもちろんのこと人の数が数えられるレベルである(下図)。

WorldView-4のサンプル画像(http://www.sed.co.jp/sug/contents/sample/wordview4_SydneyBeaches_WM.html?target=_blank)
Image Credit: DigitalGlobe Inc.

さらに、超小型地球観測衛星としては、公開されている防衛省の調達情報をみていくとアメリカPlanet社のDove衛星の画像調達をしていることが分かる(*10)Dove衛星の解像度は3-5mであり、WorldView-4と比較するとだいぶ粗い画像であるが、その分衛星を数多く(175機以上)打上げており、撮影頻度を高めることができる。

内閣府衛星情報センターでも「時間軸多様化衛星」として、コストを抑えた衛星を数多く打ち上げ撮像頻度の向上を図るととしており、同様に超小型衛星の利用の可能性がある。

すでに、アメリカの情報機関NGAはPlanet社への投資を行っており(*11)、日本の安全保障関連機関のこのような動きは当然とも言えるだろう。

Dove衛星のサンプル画像(https://www.planet.com/markets/civil-government/)
Image Credit: Planet Labs Inc.

今後の注目は「赤外線センサ」

今後、日本の安全保障衛星関連での注目は「赤外線センサ」だ。

 内閣府情報センターの昨年度の概算要求(*12)の中には「新たなセンサの導入として、赤外線センサの研究を継続する。」とあり、防衛省の予算の中にも調査・研究として「宇宙空間での2波長赤外線センサの実証研究」とある。
 後者については、JAXAが開発している先進光学衛星(ALOS-3)に搭載の予定だ。

先進光学衛星(ALOS-3)の仕様。ミッション機器の一番下に、防衛省ミッションの記載がある。 (http://www.satnavi.jaxa.jp/project/senshin/)
Image Credit: JAXA

なぜ、赤外線センサが注目されているのか。
それは、赤外線センサが、光学ともレーダーとも異なる特徴を持つことによる。

国際線空港でのサーモグラフィ検査を想像してみてほしい。サーモグラフィ画像には赤外線センサが用いられている。人や物体の温度の違いを可視化できるのが赤外センサの特徴である。

赤外画像の一例 (http://www.avio.co.jp/products/infrared/lineup/ir-thermo/tvs200iss_tvs500iss/?target=_blank)
Image Credit: Nippon Avionics Co.,Ltd

安全保障用途で考えてみると、この特徴はすなわち
●昼夜問わず撮影ができる
●車両、艦艇等のエンジン、航空機、ミサイルの排気ガスなど周囲よりも高温な熱源の探知
という利点につながる。

さらに、前述の防衛省の「2波長赤外線センサ」では、遠赤外線と中赤外線という波長の異なる2つの赤外線を用いることにより、例えば、ミサイルのプルームと本体、あるいは航空機の排気ガスとその本体などの識別が可能になると考えられている(*13)。

2つの赤外線を用いるとより詳細にモノの識別が可能になる (http://www.sjac.or.jp/common/pdf/kaihou/201607/20160702.pdf?target=_blank)
Image Credit: SJAC

まとめ

本記事では、普段はあまり注目されない日本の宇宙開発の安全保障利用の側面について紹介した。

日本では、「宇宙開発」というと「夢がある」というイメージであるが、世界を見てみれば、人工衛星やロケットはそもそも安全保障利用を目的として開発が促進された経緯もあり、「宇宙」と「安全保障」は切っても切れない関係がある。すなわち、そこにこそ最も大きいマーケットがあるとも言える。

近年のNEW SPACEと呼ばれる新しい宇宙ベンチャーの動きも、アメリカでは「安全保障」とも絡み始めているのは既報の通りである。

今までのところ日本ではNEW SPACEと「安全保障」の関係は特に見て取れないが、今後両者が交わることになるのか、注目である。

関連記事

アメリカの情報機関が選んだ宇宙ベンチャーとは(宙畑)

出典元

*1:H-IIAロケット38号機による情報収集衛星光学6号機の打上げ延期について
2018/02/24, JAXA,http://www.jaxa.jp/press/2018/02/20180224_h2af38_j.html
*2:情報収集衛星の概要
内閣府衛星情報センター、https://www.cas.go.jp/jp/gaiyou/jimu/pdf/csice2.pdf
*3:草津白根山の火山活動に関する加工処理画像について
https://www.cas.go.jp/jp/houdou/180129csice.html
*4:我が国における宇宙の開発及び利用の基本に関する決議
http://www.jaxa.jp/library/space_law/chapter_1/1-1-1-4_j.html
*5:宇宙基本法(骨子)
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/utyuu/kossi.pdf
*6:今後の情報収集衛星の整備に係る検討状況(平成27年6月)
http://www8.cao.go.jp/space/comittee/27-minsei/minsei-dai5/siryou2.pdf
*7:我が国の防衛と予算(案)平成30年度予算の概要
http://www.mod.go.jp/j/yosan/2018/yosanan.pdf
*8:Xバンド衛星通信中継機能等の整備・運営事業
http://www8.cao.go.jp/space/comittee/27-anpo/anpo-dai12/1-6siryou2.pdf
*9:ワールドビュー4号(WorldView-4)衛星・センサの概要
http://www.sed.co.jp/sug/contents/satellite/satellite_worldview4.html
*10:情報本部調達仕様書 超小型地球観測衛星画像データ
http://www.mod.go.jp/dih/29.2.14-12-2.pdf
*11:アメリカの情報機関が選んだ宇宙ベンチャーとは
http://sorabatake.jp/gn_20170719
*12:情報収集衛星に係る 平成29年度概算要求について
http://www8.cao.go.jp/space/comittee/27-anpo/anpo-dai15/shiryou4.pdf
*13:2波長赤外線センサの研究および衛星搭載型2波長赤外線センサの研究の紹介
http://www.sjac.or.jp/common/pdf/kaihou/201607/20160702.pdf