地球観測のパラダイムシフトと将来予測(後編)

前編に引き続き、イタリア・ローマで行われた、地球観測セミナーの様子をレポートする。セミナーは大きく2つに分かれており、前半のテーマはパラダイムシフト(革命的な変化)、後半のテーマは将来予測だ。

後半戦では、Google EarthやAmazon Web Serviceなど、誰もが知るITプラットフォームで世界を席巻する企業のキーパーソンが、地球観測の将来について語った。

Google Earth が狙う、衛星画像ビジネスの将来

Google Earth Engineの共同創設者で、以前はNASAで火星探査に関わっていたというNoel Gorelick氏は、Google Earth上にある9PB(ペタバイト)の地球観測データを使って、どのようなことが分かるのか実際に見せてくれた。

膨大な量の衛星画像データを使って何が分かるのか

衛星写真は撮影した時に雲がかかっているところを見ることができない。違うタイミングで撮像した複数の写真を重ね合わせていくと、疑似的に雲の全くない衛星写真を作成することができるという(写真)。

雲のかかった元の写真(上)と何枚もの写真を使って雲を除去した写真(下)(Google Earthのプレゼン資料より)
Image Credit: Google Earth Engine

長い年月同じ場所を定点観測していくと、どう街が広がったのか、湖が小さくなったのか、森林が減少したのか、地球規模の変化を見ることができる(写真)。その上、これらの情報は一般人にも公開され、知識やスキルを身に付けていないユーザーにもアクセスが可能となっている。

ラスベガスの街が大きくなっていく様子(写真左側)。右側の湖は小さくなっていることが分かる。(Google Earthのプレゼン資料より)
Image Credit: Google Earth Engine

Googleはプラットフォームを様々な機関に提供

これらの情報は研究者が研究のために使うだけでなく、様々な意思決定者に提示され意思決定が行われる。そこで、Google Earth Engineでは、研究者がデータを理解できるだけでなく、データをプレゼン用に加工できるツールも備えている。

既にGoogle Earthはこれらの情報を研究機関に提供し、これら機関がGoogleで作成したデータを応用することにより、新しいサービスや発見に繋げている。

これらのデータを使って、21世紀の森林面積の変化についてまとめた論文がScience誌に掲載され、Global Forest Watchというサイトでは誰でも、インタラクティブに任意の場所の森林面積の変化を調べることができるサイトになっている(写真)。

Global Forest Watchのサイト。中央部緑の線で囲まれた領域の時間変化を見ることができる。(Google Earthのプレゼン資料より)
Image Credit: Google Earth Engine

Google Earthのスクリプトは公開されており、コードが分かる人であれば、自分のシステムに簡単に組み込むことができる。本機能は、プログラミングの知識がなくともデータをカスタマイズ出来るように作られているため、誰しもがプレゼン等に自身でデータし処理を出来るようになっている。

その一例として、パキスタンでは災害監視サイトの中に、Google Earth Engineを組み込み、洪水を中心とした自然災害の情報公開に成功している(写真)。

Google Earth のデータをもとに構築されたパキスタンの災害監視サイト(Google Earthのプレゼン資料より)
Image Credit: Google Earth Engine

Google Earth Engineの今後

今までは非商用のユーザーのみに限定されていた利用が、今年の夏にはいよいよ商用向けに利用可能となる。

今後Googleは自身のクラウドプラットフォームに膨大なデータを蓄積し、Tensor Flowというオープンソースの機械学習ツールを用いて、誰もが簡単にデータを解析できる環境を用意する。最終的には、データをiPhoneアプリで使えるようにしたいと、Noel Gorelick氏はいう。

現在の地球観測データの利用は、インターネット回線の通信量の制限がネックになっている。地球観測データは莫大なので、いちいちダウンロードするのは難しい。そのうえ、現段階では複数箇所でダウンロードされているデータを統一する術がないため、一点に全データをを集めて皆がアクセスできるようにするしかない。自然とデータは、クラウド上のデータ倉庫に集められ、ユーザーが閲覧できるような形になる。

今後は、情報共有とデータ処理がより分かりやすく、効率よく行うことができるシステムが完成され、それらがiPhone等の誰しもが手の届く媒体を通して使用できるようになるのが理想だ。今まで地球観測データに詳しくなかった様々な人に使われるようになり、地球観測分野のエコシステムが拡がる世界がくるだろう。とNoel Gorelick氏は締めた。

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Amazonも地球観測分野に参戦

続いて登壇したのは、Amazon Web Service(以下、AWS)で研究クラウドプログラムのリーダーを務めるBrendan Bouffler氏だ。

あまり知られていないが、AWSもGoogle Earthと同様に既にNASAやESA(欧州宇宙機関)が公開している地球観測データを自身のプラットフォームに取り込み、サービスとして扱っている。

https://aws.amazon.com/jp/earth/

今まで衛星で撮影された地球観測データを公開するだけでは情報提供の意味が無い。とBrendan Bouffler氏は主張する。いかにデータを解析するための面倒な手順をAWSで請け負い、より分かりやすいく扱いやすい状態でユーザーに届けることが重要となる。地球観測データがクラウド上に蓄積されることによって、誰でもたくさんのデータを制限なく、扱うことができる。従来のように、ダウンロードしたりどこかに保存したりする必要はない。

AWS自身が地球観測データをどう使うか、答えを持っているわけではない。AWSはデータプラットフォームを提供する。使いこなすのは、ユーザーである。

たとえば、AWSはスロベニアの企業Sinergiseに研究費用を提供し、どのようにしてAmazonのストレージを介してSentinel-2(欧州の地球観測衛星)のデータを共有するか検討を行った。Sinergiseのように、NASAとの繋がりがなく情報源となる地球観測データが得られない、大量のデータを保存できるほどのスペースを持ち合わせていない等の理由よりサービス展開を躊躇する会社は少なくないとBouffler氏は語る。

実際に、世界規模の研究者団体Zooniverseがエクアドルの地震被害の軽減のために、クラウドソーシングで支援をした際に用いられた。他にも、Building Radarという会社が建設現場の上空からの様子をお客さんに見せるのに用いたり、EOXという会社では雲のない地球の写真の提供に用いられた。

Sinergiseはサーバーのいらない技術と、AWS上のSentinalのデータを用いてOGC(Open Geospatial Consortium:地理空間コンテンツとサービス、GIS*1サービスの処理と交換の標準化を推進)に適合したWebサービスレイヤーをSentinel imageryのトップに作りだした。

ヨーロッパでは地球観測に関する研究が盛んだ。研究されているアイディアをビジネスにする部分でAWSは貢献したいと考えている。

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Microsoftが見据えるクラウドでの情報共有の先

Matthew Smith氏は、Microsoftが推進するデジタルトランスフォーメーションのチームに所属している。

今ある情報量とそれによって新たに導かれる情報量の関係は、比例ではない。今ある情報量が増えると、予測情報の量は指数関数的に増加する。
ただ単に物事を測定するだけではなく、得られたデータから特性や特徴を見出すための情報処理までも出来るかが肝となる。例えば、ある集団の人数を測定するだけではなく、その場で発生しうる暴動や社会反乱の確率までをも計算するなど、より迅速な意思決定が行えるようにデータを整理した状態で得られるかどうかがポイントだ、とMatthew Smith氏は主張する。

Microsoftは現在、作物収量、 生態系の構造及び機能、海洋生産性、土壌炭素、森林の状況、絶滅危惧所の調査など、様々な地球上のデータを収集しこれらすべてに関連する物事の確率を数値化している。

様々な地球表面の様子(Microsoftのプレゼン資料より)
Image Credit: Microsoft

Microsoftが考えるデータ予測の鍵は精度の保証

様々な情報から、新しく予測をするときは精度(accuracy)が重要である。
「将来こうなります、信じてください!」ではなく、「将来はこのくらいの精度でこうなります」と言わなければ、使える情報にはならないのである。したがって、Microsoftは中身の分からない機械学習は用いない。

Landsat(米国の衛星)と地上のデータを組み合わせて、プロトタイプとして作ったサイトがFetch Climateだ。地球上の任意の地点、広さ、時間で、その場所にひもづけられた情報を見ることができる。情報とはたとえば、その地点で測定された情報や今までの天気予報、これからの天気予報などである。

何が情報共有を難しくしているのか

まずは、「アクセスできるデータが少ない」ということがあげられるが、それだけではない。

・使うのが難しいデータ:API(Application Programming Interface)のコードの塊をそのままさらされても、役には立つが、99%の人はAPIの使い方が 分からない。

・信用の欠如:公的なデータと各々のデータの組み合わせ方である。両者は異なるレベルでセキュリティを要求されている。ヘテロジニアス(異質であるさま)なものをどう組み合わせるのか。権利や時間の問題を考えなければならない。

・持続可能なビジネスモデルをつくることが難しい。

などの問題点が挙げられる。

これらの問題を解決するのが”TRUSTED DATA COLLABORATIVES”である。
複数の参加者が、今までよりも効率よく情報交換を行うことができる。
持続可能性の促進や、サプライチェーンの効率化を行うことができるのである。

例として、Matthew Smith氏は自身が参加しているプロジェクト、食品供給のエコシステムについて挙げた。

核となるサプライチェーンがあり、彼らは既に情報を共有してはいるものの、多くの場所で情報が足りていないがためにエコシステム全体の流れが滞ってしまっている。情報不足により、生産における非能率は50%となり、何度も何度同じプロセスを繰り返すという効率の悪さが発生してしまうのだ。これら問題を避け、より持続性の高いエコシステムを築き上げるかには、いかに情報共有を複数人数でスムーズに行えるかが鍵となる。

食品供給のエコシステム(Microsoftのプレゼン資料より)
Image Credit: Microsoft

下の図は、Microsoftができることを示したものである。
食品供給業界には多くの関係者がいる中、情報共有をスムーズに行うことにより、各業者内での生産量また特性等の基準(ベンチマーク)が設けやすくなる。例えば、農家Aは自身の管理する作物の種類や所有地の特徴が似ている農家Bの情報を知ることにより、比べながら作業を効率的に進められるようになる。その際に、必要な分だけ情報共有を行い、個人の住所などプライベートな情報まで漏洩させずに済むのが本システムの特徴となる。

また、本システムにより製品のトレーサビリティを高め、透明性の度合いを上げることも可能になる。日頃消費している製品の原材料を一つ一つ知ることに価値を見出している若い世代の声に応えることにより、本システムの価値も確立されるのだ。

情報が食品供給のエコシステムを支える(Microsoftのプレゼン資料より)
Image Credit: Microsoft

これらの話は、技術的に可能だが、莫大な費用がかかる。これに対するソリューションが必要である。とMatthew Smith氏は締めた。

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欧州最大規模のソフトウェア会社SAPは宇宙機関と強力タッグ

最後に登場したのはSAPだ。前3社に比べ、SAPという社名を聞きなれない人が多いかもしれない。SAPは欧州最大規模の企業向けソフトウェアの会社で、例えば日本でも大企業の在庫や発注管理などに用いられている。

Carsten Linz氏は、まず、イノベーションアプローチにおけるデジタルシフトを指摘した。様々な産業で、旧来は製品型のビジネスモデルであったものがプラットフォーム型に移行しつつある。そのプラットフォームを通じて新たなサービスが生まれるという。

イノベーションアプローチにおけるデジタルシフト(SAPのプレゼン資料より)
Image Credit: SAP

SAP HANAは、SAPの機械学習のプラットフォームであり、リアルタイムかつオープンなエコシステムになっている。
また、SAPは1年半前に欧州宇宙機関(ESA)と衛星データの利用についての協定を結んだ。このプラットフォームを利用して、建設現場の計画立案に役立つ情報を集めるBuilding Radarや宇宙から撮影した地球の写真を共有するsnap planetなどのサービスが生まれている。

実際に商品になっている地球観測データサービスとして、森林火災予測サービスがある。
これはミュンヘン再保険会社向けに提供したサービスで、ESAの衛星データを用いて、森林火災にかかるコストやリスクを正確に計算し、将来の森林火災の可能性についての知見を得ることに成功した。

また、先日ドイツで開かれたイベントでは、日本の安倍首相に対して、地滑り予測のサービスを紹介したSAP。これは地中の水分や天気などから、地滑りの予測をするサービスである。SAP HANAにより地滑りが起こる15日前に結果を得られ、優先的に救助すべき幼稚園や病院、老人ホームなどを整理し、仮設の救護所をどこに置くか判断できる。安倍首相からは「日本にぜひ欲しい」との言葉をもらっているとのこと。

SAPが見据える地球観測データ利用の鍵

地球を撮影したデータが多く集まってビックデータとなるが、ビックデータはビックデータのままでは役には立たない。ビックデータからスマートデータを作り、そこからスマートな知見を得、具体的なアクションにして初めて役に立つ。衛星データ以外のデータとも組み合わせながら、いかにラストワンマイルを埋め、顧客に届くサービスとなるかが鍵である。

地球観測分野の可能性は大きいが、様々なプレーヤーと協力しないと、世界規模の課題は解決できない。だからこそ、オープンエコシステムなプラットフォームを形成する必要がある、とCarsten Linz氏は締めた。

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まとめと所感

全ての講演を通して、地球観測の潮流をまとめると、
(1) 低価格/短納期な小型衛星を軌道に配置し、
(2) 衛星で撮影した膨大な量の地球の写真データ(Big data)をクラウド上に保管し
(3) 他の地上のデータと合わせて、機械学習(Machine Learning)を用いてデータを処理し(これもクラウド上で実施)
(4) 具体的なビジネスに役立つ知見(Insight)にしていく
ということであった。

今までは専門のスキルを持った人しか地球観測データを扱う機会が無かったが、(1)~(4)により誰でも地球観測データを扱える時代となったということだ。まさに、地球観測の分野でパラダイムシフトが起きている。

今回登壇した企業はどこに注力しているかに違いがあり、PlanetやUrthecastは(1)に、Google Earth EngineやAWSは(2)と(3)に、MicrosoftやSAPは(4)に注力している印象を受けた。

PlanetやUrthecastなど小型衛星の打上げを計画しているベンチャー企業は、衛星から生み出される膨大なデータをどこかに保存していかなければならなくなる。各社は自前でそのプラットフォームを用意するよりは、クラウドコンピューティングや機械学習などの点で進んでいるGoogle EarthやAWSなど既存のITプラットフォームを利用する道を選択するものと考えられる。

その結果、多くのデータを集められたサービスに多くの人が集まるという連鎖が生まれ、将来的にはGoogleもしくはAWSが地球観測データのプラットフォームの覇権を取ることになる可能性が高い。

最終的にプラットフォームとして勝つのは、GoogleとAWSのどちらなのかはまだ分からないが、GoogleはGoogle Mapに代表される位置情報に紐づいた情報を持っており、一方のAmazonは多くの購買情報を有している。これらの地上のデータと地球観測のデータを組み合わせて、いかに有意な知見を作り出すかがポイントとなりそうだ。

宇宙ビジネスに参入する場合、(1)~(3)の部分は初期投資や事業のある程度のスケール感が必要であり、参入障壁が大きいが、(4)についてはGoogleやAmazonが提供する画像データを用いて誰でも実施可能であり、顧客も多岐にわたるため、今後チャンスの大きい領域と考えられる。

用語解説

*1 GIS (Geographic Information System):地理情報システム

出典元

2017/05/11,ESA, Paradigm shifts and future prospects in Earth observation
http://www.esa.int/Our_Activities/Observing_the_Earth/Watch_live_Paradigm_shifts_and_future_prospects_in_Earth_observation

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