NASAインターンシップ〜菊地翔太〜

今回は東京大学大学院博士課程に在籍し、現在、NASA JPL(Jet Propulsion Laboratory, ジェット推進研究所)でインターンシップをしている菊地翔太さんにお話を伺いました。

宇宙開発の道を志したきっかけ

母親が元CAだったこともあり、物心がついた時には飛行機が好きで、小さい頃はパイロットになることが夢でした。それが中学・高校と進むうちに、いつしか飛行機そのものについて勉強したいと思うようになり、東京大学航空宇宙工学科へ進学したのですが、大学3年生の冬に転機が訪れます。

当時、私は航空系の研究室に配属が決まっていたのですが、同じクラスの友人からARTSATという超小型人工衛星開発プロジェクトに参加してみないか、と誘われました。ARTSATは多摩美術大学と東京大学が共同で超小型人工衛星(CubeSat)を開発し、衛星データを利用した芸術作品を創造する、というユニークなプロジェクトです。

このプロジェクトに携わる中で、宇宙開発の面白さにすっかり取り憑かれてしまいました。自分の手の届かない遠い存在にしか感じていなかった宇宙に、自分の手で作った人工衛星が打ち上がると思うと、とてもわくわくしましたね。2014年2月に、プロジェクトの仲間とこの人工衛星の打ち上げを種子島に見にいったのですが、あの時の感動 は今でも忘れることができません。

僕の中でもうひとつ宇宙をめざすきっかけになったのが、JAXAの小惑星探査機「はやぶさ」です。私が学部生の頃に、はやぶさが小惑星イトカワのサンプルを持って地球に帰ってきました。このニュースは日本でも大きく取り上げられて、私もはやぶさについての本や映画をいくつも見たのを覚えています。はやぶさの成功談を見聞きするうちに、宇宙エンジニアに対する憧れが芽生えたように思います。

ARTSAT:INVADER(中央)と同期の開発メンバー。右から1番目が菊地氏。

大学院はJAXA宇宙科学研究所へ

研究分野を航空系から宇宙系に変え、大学院はJAXA宇宙科学研究所の川口研究室を選びました。私が宇宙を目指すきっかけのひとつとなった小惑星探査機「はやぶさ」のプロジェクトマネージャーを務めた川口淳一郎先生のもとで、私は小惑星探査のための軌道解析を研究していました。

小惑星探査機「はやぶさ 2」や、ソーラー電力セイル実証機 IKAROS (Interplanetary Kite-craft Accelerated by Radiation Of the Sun)、ソーラー電力セイルによる木星トロヤ群小惑星サンプルリターン計画といった宇宙探査プロジェクトにも積極的に携わり、軌道設計だけでなく通信、熱設計、材料、エンジンといった様々な知識を学ぶことができました。

私の場合、興味の赴くままあれもこれもやりたくなってしまうので、そこら中におもしろいトピックが転がっている宇宙研は、僕にとってとても楽しい環境です。軌道設計の研究だけでなく、プロジェクトに必要なミッション内容の検討に携わることが、ある意味で良い息抜きになっていましたね。JAXA宇宙研での生活が充実していたので、川口研究室で修士課程から博士課程に進学するというのは、僕にとって自然な選択でした。

米パデュー大学への留学を決意

留学を意識し始めたきっかけは、学会で私の発表を見ていた研究者の方からの一言でした。
「菊地君くらい研究ができれば、きっと海外に出てみれば面白いと思うよ。」
この一言をきっかけに、留学という選択肢を明確に意識し始めました。

研究を進めているうちに、アメリカ・パデュー大学のある先生の研究室の学生が積極的に私と同じ分野の学会に参加し、論文を投稿していることを知りました。この先生の所に行けば、研究内容も深まるし、視野も広がると思いました。

とはいえ、当時は日本で博士課程に進学しようと思っており、正直なところ、アメリカで学位をとるという選択肢をはっきりと持てていませんでした。そこで、川口先生とも相談して、東大・宇宙研所属の博士課程学生という身分のまま、客員研究員(Visiting Scholar) という形でパデュー大学に1年ほど留学するという選択をしました。

留学当初は、やはり英語に苦労しました。特にアメリカの方は早口で話すので、聞きとるのには今でも苦労します。話す方もやはりまだ日本語のようにというわけにはいきません。それでも動いているプログラムや研究データ、導出した数式を見せれば彼らは納得してくれるので、不足している言語力は自分の持っているスキルでカバーしました。

日本と大きく違っていたのは、研究発表が毎週あることです。もちろんアメリカの研究室が全てそうというわけではありませんが、アメリカにいる学生は自分の意見や成果を人に伝える意識が高いです。そして、プレゼンテーションが上手ですね。日本にいた時にはこれ程発表の機会は多くなかったので驚きました。このOutputの機会が多かったおかげで、物事を伝えようという意識が強くなり、研究成果も着実に積み上げることができました。

パデュー大学での研究室メンバー。最後列、左から1番目が菊地氏。

NASA JPLでのインターンは運が味方した

NASA JPLでのインターンシップができたのは、正直、運が良かったとしか言いようがありません。 パデュー大学でも小惑星周りの探査機の軌道解析の研究をしていたのですが、そんな折にNASA JPLで私の研究分野に近いプロジェクトがあることを知りました。

そこで、知り合いのツテを頼りに、そのプロジェクトのリーダーにインターンシップをさせてもらえるようにお願いしました。私が今までしてきた研究や経験を気に入ってくれたようで、アメリカ留学中に NASA JPLでインターンできることになりました。私の研究が活かせるプロジェクトだったのは本当に偶然でしたし、「これなら自信を持ってできる!」と言える自分なりの武器があることは大事だと改めて感じました。

世界各国からインターンの学生が来ているのですが、大学の繋がり、研究室の繋がり、あるいはNASA JPL内で働いている個人との繋がりといったコネクションでインターンシップの機会を得ている学生が多いです。NASA JPLで働くにはアメリカ国籍かグリーンカード(永住権)が必要と思われがちなのですが、実はインターンシップの場合はそこまで厳しくありません。分野によっては、私のようにグリーンカードを持っていない日本人でもインターンシップをすることが可能です。さらに博士課程の学生でなくてもインターンはできます。実際、僕の周りにも学部を卒業したばかりのインターンが結構いますから。インターンシップの機会を得るために重要なのは、コネクションというか、人と人との繋がりですね。

もう1つ、インターンを得るために重要なのは、自分が持っているスキルや功績をアピールできるか否かです。インターンに応募する際には、履歴書を書いたり、電話面接をしたりすることになりますが、限られた紙面・時間で最大限自分をアピールしなければなりません。アメリカのインターンはフルタイムで数ヶ月に及び、成果を出せる人間が求められています。自分の持つスキルが、そのプロジェクトにどう貢献できるかを具体的に説明できることが重要です。

NASA JPLではE-Gliderというプロジェクトに携わっています。小惑星周りに形成される弱い電場から受ける静電気の力を利用して、燃料を使わずに探査機の軌道を制御できないかというチャレンジングなプロジェクトです。NASAではNIAC (NASA Innovation Advance Concepts)というプログラムがあります。これは将来の宇宙探査を見据えたミッションの実現可能性を検討するために、採択されたプロジェクトに少額の予算を配分して芽が出るかどうかを見極めるという仕組みです。E-GliderもこのNIAC Programの1つで、チャレンジングな基礎研究なだけに、とてもやりがいを感じています。

NASA JPLでインターン中の菊池氏

NASA JPLでの働き方に衝撃を受ける

インターンを始めて、驚いたのは働き方の違いですね。JPLでは、基本的に2週間で80時間労働という仕組みになっているのですが、1日9時間きっちり働いて、2週目の金曜日は、ほとんどの人が休みをとります。2週に1回は3連休になるわけです。

働き方はゆったりしているように見えますが、厳しい側面もあります。NASA JPLで働く日本人の方は、「NASAでは常に就活しなければならない。」と言っていました。常に自分のスキルや実績をアピールして、自分から仕事を取りに行かないと本当に仕事がなくなってしまうからです。油断していると、気づけば仕事が全くなく、NASAを去らざるを得ない状況になることもよくあると聞きました。

私の場合も、この貴重な5ヶ月の中で何としても成果を残したいので、いつも1番最初にオフィスに着き、1番最後にオフィスを出るといったストイックな生活を送っています。週末も家から出ずにひたすら研究に打ち込んでいますね。ここで成果を残しておけば、自分の博士論文にも使えますし、将来NASA JPLから仕事のオファーが来る可能性もありますから。

それ以上に、私にとって研究は趣味みたいなものなので、思う存分研究に打ち込める環境が楽しいです。

自宅でも研究に没頭する菊地氏

とにかく自分が面白いと思うものをやる

将来NASAで働きたいかというと、実は自分でもまだ答えを出せていません。僕の場合は、とにかく目の前にある自分が面白いと思うものをやりたい。

今1番面白いと思っているのは、2018年夏に小惑星Ryugu(りゅうぐう)に到着する「はやぶさ2」ですね。修士課程の頃から携わってきたプロジェクトの最も重要なフェイズであることに加え、自分の研究テーマにとっても重要なデータが取れる可能性もあるので、これを逃すわけにはいきません。なので、今後数年はJAXA宇宙科学研究所で研究できればいいなと思っています。

まだ誰も見たことのない世界へ

人生の目標を一言で言うと、宇宙探査を通じて、まだ誰も見たことのない世界を見ること。そしてその探査を支える技術やアイディアを1つでも多く生み出すことです。それが私にとって一番良い形で実現できるのがJAXAかもしれないし、NASAかもしれないし、もしかしたらベンチャー企業かもしれません。より良い場所で、より良い形で、宇宙探査に貢献できるように、今はNASAのインターンも含めて、色々なプロジェクトや研究に関わって、一つずつ知識と経験を磨いていくつもりです。

日本にいる宇宙を目指す後輩へ「ワクワクする道を選べ」

自分の経験から一つ言えるとしたら、迷ったらとりあえず目の前のワクワクする道を選択してみるといいと思います。進路を選ぶ時って、その時々で自分なりの理由があると思うのですが、好きでワクワクすることをやっている時のエネルギーって、どんな理由にも勝る強い力だと思います。本来は、将来の明確な目標があって、そこに向かうためのビジョンをはっきりと描けると良いのだと思いますが、私にはあまりそれができていなかった。

そもそも宇宙を志したのが大学3、4年生のころでしたし、私自身も1年前までは、まさか自分がNASAに来ることになるとは全く想像していませんでした。それでも、1個1個ワクワクする道を選択して打ち込んでいたら、いつのまにかJAXA や NASAで力を発揮できるくらい成長できていたのかなと思います。

菊地翔太(きくち しょうた)。東京大学工学系研究科航空宇宙工学専攻博士課程に在籍。2013年よりJAXA宇宙科学研究所川口研究室に所属。2015年9月より客員研究員として米パデュー大学へ留学し、2016年10月よりNASA JPLでインターンシップを行なっている。2017年3月に帰国予定。

記者:宮谷 聡(みやたに さとし)

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