超小型宇宙機をつくる〜尾崎直哉〜

今回は、東京大学大学院の博士課程に在籍し、これまでARTSAT(アートサット)、Nano-JASMINE(ナノ・ジャスミン)、PROCYON(プロキオン)、EQUULEUS(エクレウス)と4機の超小型宇宙機プロジェクトに携わってきた、期待の若手研究者、尾崎直哉さんにお話を伺いました。

現代のフォン・ブラウンとの出会い

物心ついた時から研究者になるのが夢で、自然科学・数学・物理が大好きな少年でした。特に、ものづくりが大好きだったので、明石高専を経て、東京大学へ進学しました。当時読んだ1冊の本と、大学で出会った1人の先生が、超小型宇宙機をつくる道を切り開いてくれました。

月をめざした二人の科学者―アポロとスプートニクの軌跡 (中公新書) 」という本を読んで、ロケットの父と言われるフォン・ブラウンを知り、宇宙への夢を追いかける姿に感動しました。そんなフォン・ブラウンの夢に魅せられたエンジニア達が切り開いた世界が、現在の宇宙開発の礎となっています。彼は、エンジニアとしても、プロジェクトマネージャーとしても優れています。

結局、宇宙開発は1人ではできない。だから、みんなに慕われていて、みんなと夢を共有して、みんなを動かすことのできる人が重要です。

そんなフォン・ブラウンと似ていると感じたのが、超小型人工衛星の第一人者である東京大学の中須賀真一先生です。宇宙への夢を追いかける姿に、関西生まれの気さくさも相俟って、多くの研究者やエンジニア達が慕っている素晴らしい先生です。そんな現代のフォン・ブラウンの下で学ぶべく、中須賀研究室の門を叩きました。

趣味の読書に没頭する尾崎氏

ものづくりの感動と失敗

初めて「ものづくり」の感動も失敗も味わったのは大学3年生の時です。

当時、大学の同期とARLISS(アーリス、 A Rocket Launch for International Student Satellite)というカンサットの大会に出場していました。アメリカのネバダ州で毎年開催されるこの大会は、小型のアマチュアロケットを使って、模擬人工衛星を高度3km程度まで打ち上げ、地上に落下するまでの間に事前に決められたミッションを行い点数を競います。

秋葉原で買ってきた部品を組み合わせて、仲間達と夜通しプログラミングやはんだ付けに没頭し、そして、組み合わせたパーツが上手く動作した時の感動は今でも忘れません。

しかしながら、コンテストの結果は散々でした...(苦笑)

技術力、マネジメント力、問題発見・解決能力、インテグレーション及び試験などの計画能力、あらゆるものが足りていませんでした。あれだけ盛大に失敗することは、今となっては許されないのですが、この経験を通して多くを学びました。

ネバダ州ブラックロック砂漠で開催されたARLISSでの写真。最前列、右から2番目が尾崎氏。

地球と宇宙が初めて繋がった

ARLISSで得た学びを糧に、ARTSAT(アートサット)という多摩美術大学と東京大学の共同プロジェクトに参加しました。このプロジェクトでは、世界初、芸術利用を目的とした超小型人工衛星であるINVADER(インベーダー)の熱解析や構造解析、カメラ周辺の開発を担当しました。

プロジェクトは順調に進み、2014年2月28日にINVADERは種子島からH-IIAロケットで打ち上げられました。INVADERを搭載したロケットが種子島から爆音と眩い光と共に空へ駆け上げっていくのを見て、初めてこう思いました。

僕たちの地球と宇宙がリンクした。

それまでも人工衛星の運用で宇宙と通信していたのですが、現実世界とインターネットのように、いつも僕の中で地球と宇宙は乖離していました。これがINVADERの打ち上げによって、初めて繋がりました。あの感動は、今でも忘れることができません。

種子島宇宙センターへARTSAT:INVADERの打ち上げを仲間と見に行った時の様子。右から3番目が尾崎氏。

世界初の超小型深宇宙探査機PROCYON

PROCYON(プロキオン)は、わずか50cm立方の超小型深宇宙探査機です。このような超小型深宇宙探査機が実現すると、深宇宙ミッションの可能性は大きく拡がります。

僕が修士1年生の頃に船瀬龍先生(後にPROCYONのプロジェクト・マネージャ)が赴任され、その頃から概念検討を開始し、修士2年生が終わる頃(2014年12月3日)に「はやぶさ2」と一緒に打ち上げられました。やってみたかった深宇宙ミッションを、立上げから運用まで全てを経験できたことは非常に運が良かったと思います。通常の宇宙機は5年から10年かけて開発するところを、PROCYONは1年2ヶ月という短期間で開発されました。当時は、本当に...激務でした苦笑

このプロジェクトを通じて自分が楽しむこと、そして、楽しみを仲間と共有することが、非常に大切だと気づきました。自分たちの手掛けた宇宙機が組み上がっていき、宇宙で正常に動作すると嬉しいものです。特に、ファースト・ボイス(最初の通信確立)を運用室で待ち受けた緊張と感動は大きかったですね。

しかし、宇宙機開発プロジェクトは面白いことばかりではありません。辛いこと、泥臭いことが多々あります。だからこそ、自分が楽しんで開発できているか、そして、その楽しさを他のメンバーとも共有できているかが大事なんです。

残念ながら、打ち上げから1年が経ち、基本的な技術実証を終えた後に、PROCYONの電波は途絶えてしまったのですが、僕に多くのことを教えてくれました。

PROCYON(プロキオン)と開発メンバー。衛星の右側で白衣を着て腕組みをしているのが尾崎氏。

海外で武者修行を決意

海外へ出て行く決意をしたのは、GTOC(Global Trajectory Optimisation Competition)という宇宙機軌道設計の「ワールドカップ」がきっかけでした。GTOCは簡単には最適化ができないような軌道設計問題に対して、最適性(=獲得点数)を競う大会です。1年に1回開催されて、20チーム程が世界各国から参加します。このとき、ESA(欧州宇宙機関)とJAXA宇宙科学研究所の共同チームに混ざって、優勝を果たしました。優勝したものの…同チームののスペシャリスト達のレベルの高さに圧倒されるばかりでした。自分にはまだまだ経験と知識が足りないと感じ、海外で武者修行を積もうと決心しました。

そこで、それまで共同研究をしていた研究員の方を通じて、ドイツに所在するESAの軌道設計グループにてインターンシップを行ないました。2016年10月から3ヶ月間という短期間ですが、実用的なミッションを踏まえた電気推進の軌道設計を行っていました。軌道設計の専門的な事から欧州文化まで様々なことを学びました。
特に、ESAの働き方は日本と大きく異なることが3つありました。

1つ目は、分業が進んでいることです。日本だと何でも屋さん(ジェネラリスト)が好まれる傾向が強いですが、ESAではスペシャリストが多いです。分からない事は聞く、自分で分かる事は自分でする。自分で考えると1日を無駄にしてしまいがちですが、スペシャリストに聞くことで効率よく学べ、時間も節約できます。

2つ目は、ネットワーキング、つまり、人との繋がりを重要視していることです。コーヒーブレイクがまさにその場でした。学会での社交パーティのようなものが毎日ありますので、嫌でも英語でのコミュニケーション能力が鍛えられます。スペシャリストを育てる傾向の強いESAでは、誰が何のスペシャリストかを知ることが必須です。このために1日3回のコーヒーブレイクは欠かさず参加していました。

3つ目はよく遊ぶことです。週末が近づくと「週末、何する?」という話題になり、週明けは「週末、何した?」という話題になり、みんなよく遊んでいました。こういった遊び心が、気持ちに余裕を産んで面白いアイディアが生まれる源になるのでしょう。

文化の違いもあるので、そのまま日本に当てはめる事は難しいですが、帰国後からネットワーキングを常に意識するようにしています。

そして、次のステップとして、NASAジェット推進研究所の軌道設計チームでの海外武者修行を計画しています。博士号取得後も、世界に通用するスペシャリストになるべく、修行を積んでいくと決心しています。

ESAの同僚と尾崎氏。

新プロジェクト:EQUULEUS(エクレウス)始動

PROCYONミッションが落ち着いた博士課程1年生の冬頃(2016年初旬)に、指導教員である船瀬龍先生から宿題が与えられました。PROCYONよりも更に小さい6U (30×20×10cm)サイズの超小型宇宙機で将来の深宇宙港の候補地点である地球と月の第2ラグランジュ点へ航行できないかというものです。

この軌道設計を宇宙科学研究所の研究員の方と2人で取り掛かったときはワクワクが止まりませんでしたね。太陽・地球・月の重力をうまく利用すると、ほとんど推進剤に頼らず航行できてしまうのです。いくつかの概念検討を通じて、実現性が確認され、EQUULEUSプロジェクトがついに始動しました。

EQUULEUSプロジェクトは地球と月の第2ラグランジュ点への航行を通じて太陽・地球・月圏での軌道操作技術を実証、地球・月圏のプラズマの観測、そして隕石による月面衝突閃光を観測する超小型深宇宙探査機です。現在エンジニアリング・モデルの開発を進めており、2018年にNASAの新型ロケットSLSで打ち上げられる予定です。このプロジェクトでは、PROCYONでの失敗を活かして、地球と月の第2ラグランジュ点までの軌道制御を成功させたいですね。

EQUULEUS(エクレウス)のイメージ図

今後の目標

「今後10年以内に何が起きるだろうか。有人火星着陸?系外惑星探査?」そのような未来を見据えて、自分は何をしたいのかを常に考えるようにしています。いまのところは多数の宇宙機が自由に惑星間を飛び交うような(スターウォーズのような)世界を実現するために一役買いたいです。

そのためにまずは、博士課程修了後にポスドクとして宇宙機関で研究・修行を積んで、力を付けたいと思っています。また、日本では様々な宇宙スタートアップが盛んになって来ていますが、僕はそういった企業を研究者としてサポートできる立場になりたいと考えています。

尾崎直哉(おざき なおや)。東京大学大学院工学系研究科航空宇宙工学専攻博士課程に在籍。中須賀・船瀬研究室に所属し、多数の超小型宇宙機プロジェクトに携わる。2016年10月よりESA(欧州宇宙連合)にてインターンシップを行い、2017年よりNASA JPLにてインターンシップ予定。第8回大域的軌道最適化競技会(GTOC8)優勝、第60回宇宙科学技術連合講演会で若手奨励賞 最優秀論文賞を受賞。

記者:宮谷 聡(みやたに さとし)

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