XPRIZE財団注目の瞬間移動技術「ANA AVATAR VISION」が宇宙ビジネスにもたらすもの

XPRIZE財団注目の瞬間移動技術「ANA AVATAR VISION」が宇宙ビジネスにもたらすもの

2000年以降、通信技術の発達により遠方にいる相手とのコミュニケーションは音声だけなく映像を通したものも可能になった。近くにいない遠方にいる家族・友人たちの様子や表情までもが伝わってくるビデオ通話が登場した時の感動は記憶に新しい。

そして 2020年に差し掛かった今、私達は新しい感動を体験することになるかもしれない。

電話越し、そして画面越しに相手の情報を受け取るだけではなく、実際に相手側の世界に入り込み、そこで自由に行動を起こすことが出来る。そんな夢のような世界が実現するかもしれない。

その夢の実現の要になると期待されているのが「AVATAR(=分身)」である。

【目次】
1.新技術「AVATAR」とは - 何者にでもなれるコピーロボット
2.「ANA AVATAR VISION」の2つの取り組み
3.人類のために根本的なブレークスルーをもたらす「XPRIZE」とは
4.AVATAR技術発展を促進させる一大プロジェクト「ANA AVATAR XPRIZE」
5.AVATAR技術の宇宙分野における応用可能性

1.新技術「AVATAR」とは - 何者にでもなれるコピーロボット

「AVATAR(=分身)」とは、遠隔で「見て」「聞いて」「触る」ことができ、自分の意識、技能や存在感を擬似的に瞬間移動させる新たな移動手段である。
 
これまで遠隔操作するロボットには、VR(仮想現実)やAR(拡張現実)などの技術が用いられているものが多かった。

日本の航空会社、全日本空輸株式会社を子会社にもつANAホールディング株式会社は、これらにロボティクス、センサー、通信、触覚技術などを融合させた「テレプレゼンス(遠隔存在感)」と呼ばれる技術を用いて、AVATAR一台で様々な用途に利用できる「ジェネラル・アバター」の実用化を目指している。

ANAホールディングスCEOの片野坂氏は、このAVATAR技術を「未来のサービスに発展させていきたい」と将来展望を述べている。たとえば医師や教員が不足している地域や、人間が立ち入れない災害現場等にロボット(AVATAR)を送り込めば、時間や空間を大きく超え、遠隔治療や遠隔救助を行うことが出来る。これはあくまで一例であり、AVATARの活用を通じて、社会的な課題を解決していくことが可能になっていくだろう。

2.「ANA AVATAR VISION」の2つの取り組み

夢のような「瞬間移動」は本当に実現するのだろうか。ANAの2018-2022年度グループ中期経営戦略を見るとその本気度が伺える。

Society 5.0(超スマート社会)の実現に向けた取り組みのひとつとして「AVATAR」事業を掲げ、『ANA AVATAR VISION』を策定したのだ。このビジョンを実現するために、具体的に2つの取り組みが進められている。

1つ目は「ANA AVATAR XPRIZE」という取り組みだ。これは現時点で高性能なアバターはまだ存在しないため、その開発を世界的に促進することも目的とした賞金レースだ。こちらは3月12日にアメリカで開催された「SXSW 2018」で正式に発表されたもので、ANAはXPRIZE財団のスポンサーとして、このプロジェクトを進めている(詳しくは次ページ)。

もう1つは積極的な実証実験の実施だ。大分県を世界初のAVATARテストフィールドのパートナーとして、そこで宇宙開発・農林水産業・観光・教育・ 医療など、様々な分野で実証実験を行っていく。

AVATAR技術の発展には、既に開発されている技術をいかに市場へ出していくかが大きなカギになっている。代表的な取り組みとしては、JAXAを含む産官学と連携し、AVATARによる月面施設の遠隔建設等の地上実証を行い、宇宙開発・利用を推進している。

さらにANAが運営するクラウドファンディング「WonderFLY」では、AVATARに必要な技術の開発を進めている世界中の多数の企業・団体への資金調達を行っている。

3.人類のために根本的なブレークスルーをもたらす「XPRIZE」とは

AVATAR XPRIZE
Image Credit: ANA

「XPRIZE」を取り仕切るXPRIZE財団は、1995年に設立された非営利組織である。賞金コンテストを開催し、人類のための根本的なブレークスルーをもたらすことによって、新たな産業の創出と市場の再活性化を刺激することを使命としている。

これまでには、民間による最初の有人弾道宇宙飛行を競うコンテスト「Ansari X PRIZE」や、超低燃費の実用的な自動車を開発するコンテスト「Progressive Insurance Automotive X Prize 」などを開催してきた。

しかし、日本にXPRIZEという名が知れ渡ったのは、「Google Lunar XPRIZE」が大きいだろう。このプロジェクトは、民間による最初の無人月面探査を競うために行われ、賞金総額3000万ドル(約30億円)をかけて各国の参加チームが争った。

日本からは、株式会社ispaceが率いるチーム「HAKUTO」が出場していたのが記憶に新しい。結局、ミッション達成チームは現れずにこの賞金レースは幕を閉じたが、大規模で話題性のあるこのコンテストにより、世界の宇宙開発の流れは大きく加速した。

4.AVATAR技術発展を促進させる一大プロジェクト「ANA AVATAR XPRIZE」

「ANA AVATAR XPRIZE」のミッションとしては、統合ロボットデバイスを使って遠隔で視覚・聴覚・触覚を通じて周りの環境や人々と応対ができる多目的アバターを開発することが求められている。

先述したように、AVATARを実現させるには、ロボティックス・VR・AR・センサー・通信・触覚技術等、様々なエクスポネンシャル・テクノロジー(指数関数的に急成長している技術)が必要になる。

現時点ではそれぞれの技術が個別に開発が進んでおり、これらの技術を融合し実用化させるには数十年を要すると予想されている。

そのため、今回のような国際的な賞金コンテストを開催して世界的な関心を引き付け、分野を超えた技術開発を促進することは、非常に重要な働きかけになっているのだ。

ANAの片野坂氏も、「本コンテストを立ち上げることにより、全日空は残る障壁を打ち破り、かつてないほど物理的なつながり、リソースの共有、より明るい未来のためのコラボレーションの時代をもたらしたいと考えています。」と話している。

なお、この賞金レースは2018年3月12日から4年間の期間で行われ、賞金総額は1000万ドル(約10億6500万円)となっている。

5.AVATAR技術の宇宙分野における応用可能性

様々な可能性が広がるAVATAR技術であるが、この技術によって宇宙開発ではどのように進展していくのだろうか。実現可能性はさておき、「ispace」「SpaceX」の長期ビジョンと合わせて、AVATARによって実現される宇宙開発の未来をを大胆に予想してみた。

■ispace

「人類の生活圏を宇宙に広げ、持続性のある世界を目指す」をビジョンに掲げた月資源探査を目指す宇宙ベンチャー「ispace」は、2040頃までに、月面都市を開発することを目指している。

ispace 2040 Vision Movie(日本語)
Image Credit: ispace

■SpaceX

イーロン・マスク氏率いる米国の宇宙ベンチャー「SpaceX」は、独自の輸送技術で2024年に火星に人類を送り、2060年代にはで100万人規模の火星移住を目指している。

部分的に再利用が可能なSpaceXのロケット「Falcon 9」
Image Credit: SpaceX

それぞれ壮大なビジョンを掲げているが、その実現にあたり、まずは人類を効率的に宇宙空間ないしは各天体表面へ輸送することが必要不可欠である。しかし、有人飛行はコストや安全のリスク管理のハードルが非常に高く、一度に輸送できる人数、滞在できる人数は非常に少ないのが現状である。

各有人滞在(搭乗)施設の定員数
Image Credit:宙畑

※深宇宙探査ゲートウェイは、2020年代に月周回軌道に建設が提案されている有人の宇宙ステーション。資金が集まれば、深宇宙探査ゲートウェイは民間と国際パートナーの手により建設・運用・使用され、月や火星の有人、無人探査のための中継地点となる予定だ。

深宇宙探査ゲートウェイのイメージ図
Image Credit: NASA

そこで、これらの問題の解決の第一歩を担うのが「AVATAR」かもしれない。

現在、国際宇宙ステーション内では、システム運用や新薬の開発など、多岐に渡る業務があるが、それらのすべてを数人の宇宙飛行士が行うことになっているが、地上での研究、実験は各専門領域の研究者が担当している。いかに今の宇宙飛行士が大変かご想像いただけただろうか。

もしAVATAR技術が確立すれば、1台のAVATARを常にISSに搭乗させておくことで、各専門領域の研究者が地上からログインし、代わる代わる自分の業務に当たるということが可能になる。

また、月表面、火星表面に対しても、AVATARを送り込んでおけば、それは惑星科学者にもなれるし、医師にもなれる。時には観光客にすらなれてしまうわけだ。

このように、宇宙分野に限らず大きな可能性を秘めているAVATAR技術と、その発展を促進するAVATAR XPRIZE。宙畑編集部は引き続き、これらの今後の動向に注目していきたい。

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