「一般の人々にも宇宙旅行を」PDエアロスペース 緒川氏が語る次世代の宇宙輸送像

「宇宙旅行」の今を日本の宇宙ベンチャーにインタビュー

「宇宙旅行」という言葉が生まれてから久しいが、いまだ宇宙に行った人(高度100kmを越えたこと)は2017年4月時点で551人。地球人口のわずか0.0000074%である。
果たして夏休み旅行の選択肢に宇宙が入るような、気軽に宇宙に行ける時代は、どれほど未来の話なのだろうか。

「宇宙旅行」の今を知るため、宙畑編集部は愛知県・名古屋市に本社、碧南市に開発拠点を置く宇宙機開発ベンチャー、PDエアロスペース株式会社 (以下、PDAS)の緒川社長のもとを訪れた。

インタビューに答える緒川社長
Image Credit: PDエアロスペース(株)

■目次

(1) PDエアロスペースが目指す「完全再利用型宇宙飛行機」とは

(2) 宇宙開発好きが集う「宇宙ハウス」

(3) 庶民は宇宙旅行へ、いつ・いくらで行ける?

(4) 宇宙旅行のその次は?

PDエアロスペースが目指す「完全再利用型宇宙飛行機」とは

提供:PDエアロスペース(株)/KOIKE TERUMASA DESIGN AND AEROSPACE

昨今、宇宙へ到達するシステムとして、殊、地球周回飛行に至らない、高度100km超の高高度に達して落下させる「弾道飛行(サブオービタル飛行)」において、従来型の垂直打ち上げ式に加えて、翼を持った水平離着陸方式など、様々な形態の機体が検討されている。

宇宙往還機としては、スペースシャトルがあったが、コスト高と安全性の観点から、2011年で運用を終えている。
   

垂直打ち上げ型であるスペースシャトル
Image Credit: Wikipedia
母機であるホワイトナイト2と中央に吊り下げられたスペースシップ2 *1
Image Credit: Wikipedia

PDASの目指す機体システムは、どのようなものだろうか?まずは、この点について伺うことにした。
   

緒川修治氏(以下、緒川):
「宇宙旅行を含め、宇宙輸送の最大の課題は、コストと安全性です。この2つを同時に満たすことは、かなり厄介であることは容易に想像できるかと思います。

今、垂直に上げて逆噴射で着陸させる方式や、途中まで飛行機運んで、ロケットを切り離す方式、従来通りロケットの先端にカプセルや往還機を取り付ける方式など、様々な方式が存在、或いは開発されています。どの方式が最適かは、現時点では分かりません。我々は、機体システムを「シンプルに」かつ「再使用」することで、この課題に対応しようと考えています。
 
その肝となるのが、ジェット-ロケット燃焼モード切替エンジンです。パルス・デトネーション・エンジン(以下、PDE)というエンジンをベースに、PDEの単純構造を活かし、大気がある領域では大気を吸い込み、ジェットエンジンとして機能させ、高高度に至り大気が薄くなってくるとロケットエンジンとして機能させるものです。

これにより、離陸から宇宙へ到達、地球への帰還/着陸までを一つの機体で、航空機のように繰り返し使うシステムが出来ます。機体1つ、エンジンの種類を1つにすることで、製造コスト、ランニングコストを抑えると共に、部品点数が少なくなり、重量低減、信頼性向上に繋げていく考えです。

また、運用においては、帰還時にエンジンを再始動させ、ジェットモードで飛行させることで、進入スピードの抑制や上空待機が出来る為、長大な滑走路を有する専用空港ではなく、一般的な空港への着陸が可能となります。これは、運用コストを下げるだけなく、安全性に大きく寄与します。」

弾道飛行イメージ
Image Credit: PDエアロスペース(株)

   

宇宙開発好きが集う「宇宙ハウス」

プロジェクト実施体制
Image Credit: PDエアロスペース(株)

PDASの組織体制は、ユニークである。社員はもちろん、研究室や企業、有志で集まった人々が開発に無償協力している。「宇宙ハウス」なるものも存在している。一体どんなものだろうか?
   
緒川:
「そもそも、我々はお金が無く、たくさんの人を雇用することが出来ませんでした。一方で、取り組んでいる内容は、多くの人の共感や興味を持って抱けるものであったため、我々が環境やコンテンツを提供する代わりに、支援者/参画パートナーはモノや時間などを提供頂く形で協力関係を構築してきました。

『プロジェクト参画』は、組織が対象で、相互に対価のやり取りを発生させない形での協力頂く形態です。現在16組織(企業、研究室、団体)に参画頂いています。この取り組みは、得てして参入障壁が高い航空宇宙産業の敷居を下げていく役割も担っています。我々のプロジェクトを通じて、言い換えれば、”踏み台”にして、実績を作って頂ければ、との考えです。

これを更に個人に広げたものが『宇宙ハウス』です。『宇宙ハウス』は、ボランティアメンバーで構成されます。個々の専門性(プロフェッショナル)を活かす形で活動に参加して貰っています。普段は、プロとして仕事をして、仕事が終わった後、或いは休日に、自身の技術や特技を活かす形で、プロジェクトに参加して貰っています。プロボノ(プロフェッショナル・ボランティア)と表現されたりもします。

日本は欧米に比べ、航空宇宙分野の人材の受け皿が少なく、また人の流動も滞っています。そこで、小規模ながら敷居の低い活動の場を設け、IT業界のハッカソン(Hackathon)のような動きを視野に入れて活動し、航空宇宙分野の技術や産業の新しい芽を作っていく場としたいと思っています。

宇宙開発が好きな人が集まって、宇宙談義を始め、宇宙開発の何かに携われるような環境を提供することが、そもそものスタートです。宇宙開発に関わりたくてもなかなか関われなかった個人を受け入れる組織です。『宇宙ハウス』をきっかけとし、1人、2人でも宇宙開発の世界に巣立っていき、ベンチャーなどを立ち上げていってくれたら、と期待しています。」

   
規模が小さく、資金も無いベンチャーとしては出来るだけ業務を手伝って欲しい。一方、個人の「面白いことならやってみたい」という思い。この需要と供給がマッチしているのが『宇宙ハウス』。さらにPDASでは「宇宙ハウス」という枠組みだけでなく、宇宙ベンチャーでは珍しく専門知識に乏しい学部1、2年生のインターン受け入れも実施している。果たしてインターン生にはどのような作業を任せているのだろうか?

緒川:
「学部とか学年とか、あまり気にしていません。飛行機やロケットの最低限の知識は身に付けていて欲しいですが、本当にやる気があるなら、誰でも受け入れます。やることは山のようにありますので(笑)。Scaled Composites社(宇宙機開発で先行しているアメリカのベンチャー)でも、学生上がりの子に機体開発を任せています。

その代わり、我々の業務に適応する必要があります。担当する範囲が広く、一つひとつ深掘りしなくてはいけなくて、さらにスピードが必要であり、加えて状況が時々刻々と変化します。(「さっきと言っていることが違う。」なんてことは、ザラです。)

そんな環境に食らいついていく必要があります。専門知識に乏しいからと、尻込みするのでなく、「やってみたい」という気持ちがあれば、1,2年生でもいろいろなことができるはずです。現に、そういう子が何人も、うちに来て開発を担当してくれています。集中的にインターンを実施する期間が終わっても、オフサイトで続けている子もいます。要は、本人のやる気です(笑)。」
   
宇宙ハウス、インターン生を含め、総勢70名ほどがPDASでの宇宙機開発に協力しており、さらなる開発のスピードアップに貢献している。さて、ここで気になるのはPDASの宇宙機はいつ、いくらで私達、庶民を宇宙に連れて行ってくれるのか、ということだろう。
   

庶民は宇宙旅行へ、いつ・いくらで行ける?

緒川:
「事業計画上は、2023年に商業運航を開始、2026年には年間1,000人の宇宙旅行者を輩出していくこととしています。これは、先行するヴァージン社が2019年に運航を開始し、市場開拓していくことを前提とした計画です。

気になるチケット価格は、ヴァージン社がどの程度の金額で維持、或いは下げてくるかに拠ります。高止まりしている段階で、あまり大きく下げる必要は、事業性の観点からはありません。(価格低減を期待している人には、申し訳ないですが。) 価格低減よりも、安全はもちろんですが、まずは安定してサービス提供ができる体制づくりをすることに注力したいと思っています。

初期段階が終了後は、宇宙旅行の付加価値を高めることにシフトします。極論を言えば、宇宙旅行は、どこの会社が提供しても、内容はおおよそ同じです。宇宙には、食事をするところも、買い物するところも、ありません。機体の形状や特性が違ったとしても、お客様にとっての商品価値判断には、それほど繋がりません。「宇宙へ行くこと」にプラスアルファする何かが無いと選んで頂けないと考えています。

例えば、ヴァージン社が展開しようとしているのが、スウェーデンのキルナで実施することです。ここから宇宙旅行に行くと、高度100kmからのオーロラを見ることができます。(100%ではないでいですが)これは大きな付加価値となると思います。他には、彼らはドバイに宇宙港を作り、富裕層向けへ展開を計画しています。こうした考え方は宇宙旅行に限らず既存の商品やサービスも同じです。差別を図り、陳腐化を打破していく必要があります。

このような動きが少し落ち着き、宇宙旅行事業として次のステージに進む段階で、価格低減、多拠点化などを展開していきます。一日も早く「庶民の宇宙旅行」を実現させたい気持ちは、あります。(本当に、真面目にそう思っています) しかし、生き残ってナンボの商売の世界ですので、今しばらく時間をください。早くこのステージへ行けるように、今の時点では、開発を手伝いに来てください。」
      

宇宙旅行のその次は?

話を伺っていると宇宙旅行への期待が高まるばかりだが、緒川社長は、既に宇宙旅行の次のビジネスを視野に入れている。
   
緒川:
「宇宙旅行は表現としてキャッチーであり、これまでの宇宙開発とは全く異なった客層(セクター)がビジネスターゲットとなる点で、ビジネスとして有意義です。一般の人が「僕(私)は、このロケットがいい」と個人がロケットを選べる世界が来ることになります。これは、宇宙産業にとって、物凄く大きな転換となります。

一方で、宇宙旅行がスタートして、仮に弊社が年間1000人に対し、サービス提供しても、百数十億円の売上にしかなりません。開発費、設備投資、実施リスクを考えると、決して、うま味のある商売とは言えません。利益を高めるために、宇宙旅行のマスを広げつつ、新しい領域へ踏み出す必要があります。その一つが、人工衛星などの軌道投入です。

安定的に宇宙旅行が提供できる状態は、安く、安全に、頻度高く、高度100kmへ到達できるシステムが存在することを意味します。この状態において、高度100kmへ「人」ではなく、人工衛星を搭載した「ロケット」を運び、高度100kmからロケットを空中発射させます。このとき母機(サブオービタル機)は、再使用可能なロケットの1段目と言えます。

SpaceXがロケットの1段目を地上に着陸させていることと同じです。人工衛星の軌道投入コストを下げることで、新たなマーケットへアプローチが可能となります。宇宙ホテルや、宇宙太陽光発電所など、宇宙空間に大規模建造物を作ることが経済的に有効になってきます。

そして更に、母機を数機束ねることで、より大きなロケットを搭載し、同様に高度100kmから発射させて、他天体へ到達させることを目指します。他天体に眠る鉱物資源の採取:Space mining (宇宙採掘)が目的です。既に米国企業は取り組み出しています。
もっと先では、我々のジェット-ロケットの切り替えの特性と航空機スタイルの特徴を活かして、大陸間の横断飛行:宇宙空間を経由した二地点間飛行に適用させることを目指します。東京~NY(10,830km)を2時間ほどで結ぶことができます。

どれも、現段階では絵に描いた餅どころか、妄想レベルですが、一つひとつ真剣に取り組んでいきたいと思っています。」
   

将来の展開
Image Credit: PDエアロスペース(株)

課題は山積みであろう。だが、着実に我々、一般の人々でも宇宙に行ける日は近づいている。さらに我々でもPDASの宇宙機開発に協力することができる。

PDASの宇宙機に乗って宇宙へ行ける日を早めるのはもしかしたら、我々の「やる気」なのかもしれない。
   
*用語解説*
*1 The Spaceship Company社が所有するスペースシップ2(写真中央)はScaled Composites社のホワイトナイト2に吊り下げられ、高度15kmまで上昇した後、機体に搭載されたロケットエンジンで宇宙空間に到達する。