宙畑 Sorabatake

宇宙ビジネス

3つのケースで考える衛星データビシネスと法実務~実践編~

衛星リモートセンシングを用いた衛星データビジネスについて、どのような法的問題があるのか、3つのケースと合わせて紹介します。

(1)衛星データビジネスの概要

昨今の宇宙ビジネスの中でも大きな柱として注目されているのが衛星データを利用したビジネスですが、、一口に「衛星データ」ビジネスといってもその切り口は様々。

例えば、有名な例としてOrbital Insight社の石油タンクの例を知っている方も多いでしょう。国内では『ウミトロン社』は衛星リモートセンシングデータを用いた養殖業の支援を事業化し、『天地人』のように日本の宇宙ビジネスアイデアコンテストで賞をとってから実際に法人化して衛星データ活用事例をどんどん産み出している企業もあります。

その他にも、衛星を用いた位置情報データを指して「衛星データ」ということもありますが、今回は例に挙げたような衛星リモートセンシングを用いた衛星データビジネスについて、どのような法的問題があるのかを検討していこうと思います。

(2)衛星データビジネスに関する法務の概要

衛星データビジネスを運営するにあたって、考えなければならない法律や法的な論点はいくつもあります。

本章では、問題となる法律群及び契約上の留意点について、以下の仮想事例を用いながら、概要を紹介いたします。

※なお、本稿で使用する題材は仮説事例であり、また、下記に記載する諸論点は問題となる可能性のある法的論点の一部について著者個人の整理と見解を示したものであり、著者が所属するいかなる団体の見解でもなく、また実際のビジネスにあたっては個別に専門家の検討を受ける必要がある点にはご留意ください。

(Case①)
X社は、宇宙空間に複数の衛星を打ち上げ、取得したリモートセンシングデータを第三者に売却するビジネスを検討している。

【対応・検討が必要な法令】
・衛星リモセン法
・電波法
・知的財産関連法

【契約上の留意点】
・打上げに関する責任
・衛星データの販売権限・利用権限
・衛星データの取得困難時の責任

(Case②)
Y社は、A社から衛星データ(生データ)を譲り受け、これを解析して、都内と道路の混雑状況及び特定の経路まで要する時間と、電車や自転車等のその他の交通手段を利用した場合の必要時間を算出し、どの手段が最も早く目的地に着くか演算しデータ提供をするビジネスを開発した。
(a)Y社のクライアントである甲社は、Y社から取得したデータを自社のカーナビシステムに使用するのみならず、乙社に無断でデータ提供をしている事実が発覚した。
(b)丙社はA社から同様の生データを取得の上、より安価で同一のデータを提供するビジネスを開始してしまった。

【対応・検討が必要な法令】
・衛星リモセン法
・知的財産関連法
【契約上の留意点】
・衛星データの販売権限・利用権限

(Case③)
Z社は、自社の測位衛星を用いた位置情報サービスを使用し、ユーザーの現在地と目的地までの経路に関するナビゲーションを提供する会社であるが、提供するデータに誤りがあり、使用者の事故を誘発してしまった。

【対応・検討が必要な法令】
・知的財産関連法
・不法行為法

【契約上の留意点】
・衛星データの取得困難時の責任

1.衛星リモセン法

(1)概要

衛星リモートセンシング技術の進歩によって、そのデータはより情報として精密で、価値の高いものになっています。

また、それはつまり、衛星リモートセンシングデータから取得できる国防上の機密情報も増え、安全保障上の観点からのルールの策定に関する重要性も高くなりました。

このような状況に照らして、衛星リモートセンシングデータの適正な取り扱いについて定めた法律が「衛星リモートセンシング記録の適正な取扱いの確保に関する法律」(通称:衛星リモセン法)です。

この法律は大きく分けて、①衛星リモートセンシング装置の使用に関する規制及び②衛星リモートセンシング記録の流通に関する規制の2つの観点から定められたルールです。

ポイントとして、衛星リモセン法は、上記①及び②の各規制につき、センサー毎に分解能の基準値を設け、その基準値を超えた場合にのみ規制の対象となります。
※分解能の説明については「人工衛星から人は見える?~衛星別、地上分解能・地方時まとめ~」をご覧ください。

なお、宇宙二法については「宇宙二法とは~国際的な背景と各法律の概要、今後の課題~」の記事もご参照ください。

(2)必要な対応

本法は衛星リモートセンシングデータを用いたビジネスであるCase①とcase②で検討が必要になります。

例えば、Case①では、X社はセンサーを搭載した自社の人工衛星を宇宙空間に打上げ(この打上げに関する契約上のポイントは後述します。)、リモートセンシング記録を取得してビジネスを行おうとしています。

衛星リモセン法第4条は「国内に所在する操作用無線設備」を用いて「衛星リモートセンシング装置」の使用を行おうとする者について、事前に許可を取得しなければならないと定めています。

「衛星リモートセンシング装置」とは、人工衛星に搭載されたセンサーを含むリモートセンシングを行うために必要な装置全般と考えて構いません。「操作用無線設備」とは、この衛星リモートセンシング装置を操作するための設備程度に考えていただければ十分です(詳細な定義規定は衛星リモセン法2条2号及び3号を参照)。

ここでは、2つポイントがあります。

まず、衛星リモセン法による事前許可取得の義務は「国内に所在する操作用無線設備」を用いる場合に限って課されることです。

したがって、この操作用無線設備が日本国外にのみ所在する場合には、日本国内で衛星が製造されたかどうかに関係なく、また、Case①のX社が日本の会社であるかどうかに関係なく、衛星リモセン法の事前許可に関する規制は適用されないことになります。

※操作用無線設備が設置される国の法令等に規制が適用される可能性がある点にはご留意ください。

もうひとつのポイントは、規制の対象となる「衛星リモートセンシング装置」は、上述のように内閣府令で定める分解能の閾値を超えるもののみということです。

つまり、搭載するセンサーの分解能をこれらの閾値以下にすることによって、装置の使用に関する規制の対象外となります。

※分解能の閾値は、「生データ」と補正処理を行ってメタデータを付した「標準データ」とで異なります

また、衛星リモセン法は、衛星リモートセンシング装置の使用に関する上記の規制のほか、衛星リモートセンシング記録(衛星リモセン法2条6号参照。ここでは、上記衛星リモセン装置を使用して取得したデータという程度でお考えいただければOK)の取り扱いに関して一定の規律を定めており、この衛星リモセン記録は、原則として内閣総理大臣の認定を受けた者の間でのみ流通させることができます。

※この規制も、国内に所在する操作用無線設備を用いて取得したデータが対象ですので、操作用無線設備が国外にある場合には規制は及ばないですし、上述のような分解能に関する閾値の制限があります。

Case①では、X社は衛星リモセン装置の使用許可(前述)を受ける必要があると思われ、この場合には別途衛星リモセン記録の取り扱いに関する認定を受ける必要はありませんが、X社は、内閣総理大臣の認定を受けた者に対してのみ当該データの提供をすることができます。

ただし、X社が取り扱う衛星リモセンデータが(i)日本国外に所在する操作用無線設備を用いて取得された場合、もしくは、(ii)分解能が内閣府において定められた閾値を超えない場合には、この規制は発動しません。

Case②においても、当該データが国内に所在する操作用無線設備を用いて取得されたデータであって、かつ、分解能が法令の定める閾値を超えるものである場合には、上述と同様の規制に対応する必要があります。

(3)まとめ

以上のとおり、日本国内で衛星リモートセンシングビジネスを行おうという場合でも、必ずしも衛星リモセン法の規制対象となるわけではありません。勿論、法律上必要な手続は適切に対応する必要がありますが、自社のビジネスが衛星リモセン法の規制なく実現可能かどうかもビジネス設計時に十分に吟味する価値があるといえましょう。

2.電波法

(1)概要

電波法は「電波の公平かつ能率的な利用を確保することによって、公共の福祉を増進することを目的」として制定された法律です(電波法1条)。

電波は、電磁波のうち(通常)3キロヘルツから300万メガヘルツまでの周波数の範囲のことを指しますが、人々が利用できる電波はこの範囲の一部に限られています。

重要なのは、同じ地域で同じ周波数を割り当ててしまうと混線が生じてしまうため、実質的には電波の利用は無制限ではなく有限であるということです。

電波利用の有限性を鑑み、混線や妨害を防ぎ、人々が公平に電波を利用することができるように定められたルールが電波法です。具体的には、無線局を開設し、電波の利用をしようとする者は(微弱な電波を利用する場合を除いて)総務大臣の免許を受ける必要があります(下記図参照)。

それでは、この法律にしたがって粛々と免許を受ければ良いかというと、問題はそう簡単ではありません。次項で述べるとおり、電波の利用に関する調整は国内だけにはとどまらず、国際的な調整も必要であるためです。

そして、この電波法界隈の対応が極めて煩雑かつ厄介であり、衛星ビジネスを行う上で最も大きなハードルであるように思います。

(2)必要な対応

先に上げた3つの事例との関係では、人工衛星を運用しようとするCase①で本法への対応を検討する必要があります。

具体的には、①事前公表資料(APIと呼ばれます。衛星通信に関する詳細な情報をITUの定めるフォーマットで記入したもの)を総務省経由でITUに提出します。

また、実務的な問題(法的な問題ではありません)として、総務省はITUへの申請のために予算が必要であり、この予算を使い切ってしまっていると、その年度の申請ができなくなってしまいます(あくまで建付としては、総務省が国際調整をして割当を受けた周波数を事業者に免許するというものであるため、事業者がこの費用を負担することはできません。)。

したがって、できる限り早い段階で総務省(電波部電波政策課国際周波数政策室)に相談をすることが重要です。なお、このAPIの作成にあたっては、総務省の支援が得られますので、相談をしながら進めることができます。

※目安として、総務省に必要な資料を提出し、APIの作成に着手してから実際にITUに申請するまで、概ね半年を要します。

次に、②APIを受け付けたITUは受領から約3ヶ月後に、これをITU回章によって公表します。電波の有害な干渉がないかを各国に確認させるためです。そして、公表から4ヶ月の期間が各国からのクレームの申立期間です。

最初のクレームに対して返答の書簡を返せば(あるいは会議を行えば)このステップは実質的にクリアとなり、この段階でようやく国内での電波法上の免許「交付」のステップへと移行します。

※APIの受領から交付までの約3ヶ月間、クレームの申立期間の4ヶ月間及びクレームへの対応の数ヶ月間で、大凡1年程度みておく必要があると考えられます(最短で9ヶ月と言われています)

そして、③国内での免許交付については、干渉が懸念される国内機関との調整に数ヶ月から半年程度要するのが通常です(ただし実際には、上記国際調整(②)と国内調整(③)は担当部署が異なることもあり、ある程度並行して進めることが通常です)。

以上の手続を簡単に図式化すると以下のとおりです。

Case①では、人工衛星局を開設する場合、上記電波法上の対応が必要になることから、十分に余裕を持った準備を行う必要があります。特に、宇宙ビジネスに利用する営利目的での衛星の場合、運用の制限(例えば運用時間等)をかけられることは望ましくないため、十分な調整を行う必要があります。

(3)まとめ

以上のように、電波法の問題の解消は、国際調整が不可避的に伴う結果、極めて煩雑で時間のかかるステップになっています。したがって、繰り返しになりますが、衛星の打ち上げを検討している事業者はとにかく早期に総務省に事前相談することが重要です。

3.知的財産関連法

(1)概要

知的財産関連法は「発明」や「著作物」といった目には見えない権利(無体物と言います。)を保護するための法律です。

私人(国民や会社等の法人)の権利関係を定める原則的な規定は民法ですが、民法上、所有権(自分のものであると主張する権利)は有体物(いわゆる目に見えている「物」です。)に限って認められています。その結果、有体物ではないものについては、私人が自己の権利を主張することができなくなってしまいます。

しかしながら、発明や著作物といった知的財産は、それ自体は目に見えないものであっても人々の経済活動・文化活動の上で重要なものですし、これらに権利を認めてあげないと、人々は技術を発明したり、著作したりするモチベーションが保てないことになります。

このような不都合を回避するために、無体物である知的財産について権利を認めたのが特許法や著作権法を代表とする知的財産関連法です。

衛星データビジネスは、「データ」を第三者に利用させたり、譲渡したりすることによって、対価を得るビジネスが基本的な設計です。

しかし、「データ」は有体物ではないため、提供した情報が不正に第三者に渡ってしまった場合、民法上、返すように求めることができず、同じようなデータを第三者に利用させるビジネスを始められてしまった場合にそれをやめるように言うことができません。

そこで、今回取り扱うような「衛星データ」ビジネス(もとい「衛星データ」に限らず「データ」ビジネス全てに関連しますが)を保護するために知的財産関連法を用いて権利を守ることができないかという点が議論されています。

※なお、以下に記載する議論はおよそ衛星を用いて取得されるデータを用いたビジネス全般との関係で問題となるものであり、衛星リモートセンシング技術を用いたデータに限られません。

(2)必要な対応

衛星を用いて取得されるデータを取り扱うCase①、Case②、Case③のいずれとの関係でも、知的財産関連法の検討は重要ですが、特にCase②との関係は知的財産関連法の論点は重要です。

衛星データを用いたビジネスを行う際に知的財産権関連法との関係で考える必要があるリスクは、以下の3つに大きく分けられます。
・衛星データが承諾なく流通してしまった場合の対応
・類似の衛星データビジネスが出た際の対応
・解析技術等について他の会社や個人の知的財産権を侵害していないか
このうち、三点目は事前に弁理士や弁護士等の専門家に相談の上必要に応じて調査することで足りますが、一点目及び二点目については、衛星データを使用するビジネスを行う上で特に慎重な検討が必要な点であるといえます。

一点目の論点が問題となるのはCase②の(a)のような場合であり、二点目の論点が問題となるのはCase②の(b)のような場合です。

今回の事例において、Y社は乙社に対して、又は乙社からY社の衛星データをY社に無断で受け取った会社(以下、「譲受会社」といいます。)に対して何らかの法的な請求をすることができるでしょうか(Case②(a))。また、Y社と同様の技術を用いてビジネスを開始した丙社に対して何らかの請求をすることができるでしょうか(Case②(b))。

いずれのケースについても、考えられる主張としては、(i)お金を払えという主張(損害賠償請求)
と(ii)当該データの削除や使用停止を求める主張(削除請求、差止請求等)が考えられます。

そして、法律的にどのような根拠でこれらの主張をするかという点については、(α)法律でそのような権利が認められている場合と、(β)契約でそのような取り決めがなされている場合が考えられます。これを簡単に図にすると次のように整理されます。

まず、原則として、契約はそれを結んだ当事者間との関係でのみ拘束力を持つので、このケースにおいて、Y社は契約を結んでいない乙社や丙社に対して契約に基づいて何らかの請求を行うことはできません。
※下記図の下の段参照
例えば、「Y社と甲社」との契約において、乙社や丙社に対して何らかの請求ができる旨を定めていても同じです。契約は、あくまでも、それに同意をした当事者との関係でのみ拘束力を有します。)

そこで、次に、Y社の主張として、乙社又は丙社はY社の知的財産権を侵害しているから、金銭を支払え又は使用を停止し削除せよといった主張が考えられます※上記図の上の段参照

しかし、この主張との関係では、Y社の何がどのような知的財産権として保護されているのかを考えなければなりません。乙社又は丙社がY社の知的財産権を侵害しているという主張は、さらに細かく分けると、以下の3つの主張に開けられます。

AY社の衛星データは著作物であるという主張(したがって、乙社又は丙社はY社の著作権侵害をしている)
B.乙社又は丙社はY社のデータ解析に関する特許権を侵害しているという主張が考えられます。
C対象のデータが不正競争防止法上の営業秘密や限定提供データにあたるという整理が考えられます。

以下、3つの主張について、ひとつずつ考えていきます。
まずAに関して、著作権法上保護の対象となる著作物とは,「思想又は感情を創作的に表現したものであって,文芸,学術,美術又は音楽の範囲に属するもの」(著作権法2条1項1号)のことを指し、データはここでいう「著作物」には該当しないという整理が一般的です。

したがって、本件でY社が算出する「道路の混雑状況及び特定の経路まで要する時間」、「電車や自転車等のその他の交通手段を利用した場合の必要時間」、「どの手段が最も早く目的地に着くか」という各データは、それ自体は著作物として保護されません。

それらのデータをユーザーに対して表示した画面につき、創作性が認められれば、その点については著作物として保護される可能性もありますが、これらのデータが甲社から乙社に流れてしまったことに対して、著作権法上は何らの請求もできないこととなります。

甲社から乙社に漏洩した情報が衛星データそのものではなく、Y社の解析技術であった場合には少し状況が異なります。当該技術情報を取得した乙社や丙社は、Y社と同様のデータを自己で解析・取得することができますが(例えばCase②(b))、この「データ」の漏洩について、著作権法上何らかの主張を行うことが難しいのは前述のとおりです。

一方で、Bに関して、Y社がその解析技術を特許として登録している場合には、丙社の行為は特許権侵害であるとして、損害賠償請求や差止請求をすることができます。
※特許として登録された技術は、他者が勝手に真似をすることができなくなるという強い権利を付与される反面、その技術の詳細は公表されるため、この場合には、もはや甲社から乙社や丙社へのY社の特許技術に関する情報の伝達は何らの問題もないことになります。特許として登録されていない情報で、Y社の技術情報が漏洩してしまった場合、特許法上Y社は何らの請求もできないばかりか、丙社に先に特許権の登録がなされてしまうと、当該技術に関する権利はY社ではなく丙社のものとなってしまう点にも注意が必要です。

最後にCに関して、著作権法と特許法の規律とは別に、不正競争防止法に基づく請求を行うことも考えられます。不正競争防止法は、一定の要件を満たす情報につき、「営業秘密」又は「限定提供データ」として法律上の保護を与えます。

営業秘密は、完全に秘密情報として管理される情報であり、限定提供データは他者との情報共有を前提に一定の条件下で利用可能な情報のことを言います。これらに該当するデータについては法律で保護されることから、不正取得や使用に対して差止めを請求することができるほか、損害賠償請求を行うことも可能です。

Case②(a)では、確かにY社の情報は不正に流出していますが、この情報は収益をるために第三者に開示することが想定されているものですので、そもそも営業秘密として位置づけることは困難でしょう。

ただし、契約に基づきアクセス権のある者だけに利用させるデータであって(①限定提供性)、IDやPWによって電磁的な管理をしており(②電磁的管理性)、当該データが相当程度の量蓄積されたものである場合には(③相当蓄積性)この限定提供データとして保護されることとなります。

衛星データを含むデータビジネスにつき、この限定提供データによる保護は極めて有用かつ強力ですので、データの管理・設計にあたってはこの「限定提供データ」に該当するように構築することが理想的です。

さらに、もうひとつ注意しなければならないのは、衛星データビジネスを含む広くデータを取り扱うビジネスで注意をしなければならないのは、データは複製や移転が容易であることから、一度流出してしまうと流出前の状態に戻すことが困難な場合が多い点です。

データは、有体物(いわゆる「物」)に比べて、複製が可能であるほか、移転も容易です。例えば、盗まれたダイヤの指輪は、盗人からこれを取り返せば、少なくともダイヤの指輪の所在というレベルでは、盗まれる前と変わりのない状態に戻りますが、データの場合には、不正利用をしている者に対して使用停止や削除を求め、当該不正使用者がこれに応じた場合であっても、既にデータは複製され、拡散してしまっているかもしれません。

したがって、衛星データを用いたビジネスを行うにあたっては、そのデータが不正に流出してしまうことを防ぐことが最も重要なポイントであり、本件では、Case②(a)のような事態を避けるために甲との契約でデータの管理や取扱いについて定めることが必要ですし、Case②(b)のような事態を避けるために、競業他社に情報が漏洩しないような社内システムを構築することも重要であるということになります。

(3)まとめ

衛星データビジネスを行う上で、そのデータや解析過程を知的財産権として保護することは不可能ではありませんが、基本的にはデータの保護を知的財産権で行うのは必ずしも容易ではありません。したがって、不正流通・漏洩しないような管理システム及び契約での取り決めをしっかりと準備することが非常に重要なポイントとなります。

4.不法行為法

(1)概要

日本において、私人(会社等の法人や自然人と呼ばれる普通の一般人)の間の権利関係を定めているのが民法です。例えば、契約に違反した場合の損害賠償請求や、違法な行為で被害を受けた場合の損害賠償請求等は基本的に民法の規律に基づいて請求がなされます。

(民法)
第709条
故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。

この不法行為責任は、契約関係の有無に関わらず、故意(わざと)又は過失(注意義務違反)がある場合に認められる責任です。①相手方が国である場合には国家賠償法が、②衛星メーカーや受信機メーカーに請求をする場合は製造物責任法がそれぞれ特則として適用されますので注意が必要です。

(製造物責任法)
第3条
製造業者等は、その製造、加工、輸入又は前条第三項第二号若しくは第三号の氏名等の表示をした製造物であって、その引き渡したものの欠陥により他人の生命、身体又は財産を侵害したときは、これによって生じた損害を賠償する責めに任ずる。ただし、その損害が当該製造物についてのみ生じたときは、この限りでない。

(2)必要な対応

先に上げた3つの事例で、本法の検討が必要となるのはCase③です。

Case③では、自社の測位衛星を用いた事業でサービスを提供しているため、測位衛星に故障があった場合には製造物責任法上の責任が問題となります。製造物責任法上、Z社は自社の測位衛星に「欠陥」があった場合に、生じた損害の責任を負うこととなりますが、ここでの「欠陥」はその製造物が通常有すべき安全性を欠いていることをいいますので、測位衛星一般に生じうる情報の誤りについては、ここでいう「欠陥」には該当しないと考えられます。むしろ、測位衛星はその情報の誤りを補正するシステム(DGNSSといいます。)を併用していることが多く、この補正するシステムすら使用されていない場合には「欠陥」があったと判断される可能性があります。また、情報の異常を感知した場合に、これをユーザーに警告するシステム等も搭載することが期待されます。

(3)まとめ

以上より、衛星データに誤りがあったことによってユーザーに生じた損害について、事業者は常に責任を負うわけではありません。データの誤りを補正したり、感知した場合に警告したりするシステムを備え、対応策を準備しておくことが重要です。

5.契約上の留意点

これまでに述べた法規制との関係での留意点とは別に、契約上、どのような点に気をつける必要があるかということも考えなければなりません。例えば、上記caseとの関係では、一般論として以下のような点に留意する必要があります。

①打上げに関する責任(case①)

Case①では、自社の人工衛星を打ち上げることになりますが、この場合、一般的には、打上事業者との間で打上契約を締結することになります。

この打上契約は、委託者のペイロード(今回では委託者であるX社の人工衛星)を宇宙空間の特定の軌道上まで運び、かつ、委託者がこのサービスの対価として金銭を支払うことを主たる内容とする契約です。

本稿の中心論点ではないので、ここで詳述することはしませんが、打上契約に関する大きなポイントとしては、打上失敗時の損害をどのように取り扱うかということが非常に重要です。

一般的には、契約の目的が達成できずに損害が生じたような場合には、帰責事由(責められるべき事由)がある当事者がその損害を負担するという定めが一般的です。

もっとも、宇宙ビジネスの業界では、実務上、契約で想定していた目的を達成できなかった場合であっても、それぞれに生じた損害は自己負担とするといういわゆる自損自弁の原則がとられることが多いです。そのため、各当事者は自信が負う可能性のあるリスクにつき保険に加入して手当をすることとなります。

打上げの遅延等によってペイロード輸送がスケジュール通りにいかなかった場合等に委託者に生じた損害についても、打上げ事業者の責任が免責されていることが通常であり、したがって、端的な物損(ペイロードの故障)のみならず、スケジュール遅延等のリスクも十分に想定したビジネスプランを設計することが求められます。

②衛星データの販売権限・利用権限(case①、case②)

前述のとおり、衛星データは所有権の対象になりませんので、契約としては当該データを「使わせてあげる」契約となります。このとき、第三者に対してデータの利用権を与え、かつ、自身データ利用権を削除する場合、実質的にはデータを「譲渡」した状況に近づきますが、衛星データを用いたビジネスではほとんどの場合、データ提供者の元に利用権は残りつつも、相手方にも利用権を与えるという契約になります。

ここでは、Case②でも検討をしたとおり、不正にデータが流出してしまったり想定外のデータの使用がされると、データ提供者には甚大な損害が生じる恐れがあります。

したがって、契約上は、誰に対して、どのような用途で、いかなるデータを利用させるのかを明記すると共に、そのデータを別の第三者に提供して良いのかといった点や、データの管理方法、流出時の損害賠償に関する定め等を細かなに規定しておく必要があります。

③衛星データの取得困難時の責任(case①③)

衛星データは、(例えばリモートセンシングデータの場合)宇宙空間にある人工衛星に備え付けたセンサーを用いて取得することになります。

ここでの大きな留意点は、仮に想定していたデータの取得ができなかった場合、その原因がどこにあるのか直ちに解明することが困難であるという点にあります。一般的に、契約上の義務を果たすことができなかった場合でも、義務を果たせなかったことにつき「責めに帰すべき事由」がないのであれば契約上の責任は負わないとするのが民法のルールです。

ただ、想定されたデータの取得ができなかった場合に、その原因がデータ提供者にあるのかどうか分からず(例えば、センサーの初期的不良によるのか、想定外のデブリの衝突による故障か)契約上の責任の所在がすぐに分からないことが往々にして生じます。

したがって、契約上、一定の基準を満たさない場合には対価を支払わない(又は一定の基準を満たす限り対価を支払う)といった規定や、データ内容につき保証する(又はしない)ことを明記することによって、想定していたデータが取得できなかった場合の権利関係を早期に確定する工夫が有効です。

また、Case③のような場合に、サービス提供契約の契約違反として損害賠償請求をすることも考えられます(法律上、契約違反の損害賠償請求と不法行為責任に基づく損害賠償請求は別の請求と整理されます。ただし、生じた損害の二重取りはできません。)。

もっともCase③を離れ、GPSの信号について誤りがあった場合、GPSは受信機さえあれば誰でも使用できる以上、GPSを運用する米国政府と利用者の間には契約はなく、契約違反を主張することはできません。また、法的には米国が軍用に開発したGPSの信号を無償で勝手に受信をしているだけであることから、GPSの信号に誤りがあった場合でも米国政府は責任を負わないというのが多数説です(諸説あります)。

(3)今回のまとめ

今回、ご紹介した衛星データビジネスに関する法的論点は、ほんの一握りです。実際には前回ご紹介した関連法律をはじめ、様々な問題を検討する必要があるので、①担当官庁との綿密な事前相談や、②重要な契約書を専門家にチェックしてもらうといった対応が、後のトラブル防止の観点から極めて重要であるといえます。

次回は、今回と趣向を変えて、宙畑オリジナルビジネスアイデアに対して筆者が法的な検討に挑むというテーマで、1つのサンプルビジネスモデルに対してより具体的な検討をご紹介します。

(4)参考資料

・(本稿で触れていませんが)人工衛星の打ち上げに関して
内閣府宇宙開発戦略推進事務局「人工衛星等の打上げ及び人工衛星の管理に関する法律に関する申請マニュアル」
https://www8.cao.go.jp/space/application/space_activity/documents/manual.pdf

・衛星リモセン法の対応に関して
内閣府宇宙開発戦略推進事務局「衛星リモートセンシング記録の適正な取扱いの確保に関する法律に基づく措置等に関する申請マニュアル」
https://www8.cao.go.jp/space/application/rs/documents/application_manual.pdf

・電波法の対応に関して
総務省「小型衛星通信網の国際周波数調整手続きに関するマニュアル 第2版」
https://www.tele.soumu.go.jp/resource/j/freq/process/freqint/001.pdf

・宇宙ビジネスと知的財産権に関して
内閣府宇宙開発戦略推進事務局・経済産業省「宇宙分野における知財対策と支援の方向性 報告書」
https://www.meti.go.jp/press/2019/03/20200331018/20200331018_a.pdf
・不正競争防止法に関して
経済産業省 知的財産政策室「不正競争防止法平成30年改正の概要(限定提供データ、技術的制限手段等)
https://www.meti.go.jp/policy/economy/chizai/chiteki/H30nen_fukyohoshosai.pdf

・データ取引に関して
経済産業省「AI・データの利用に関する契約ガイドライン(データ編) 1.1版」
https://www.meti.go.jp/press/2019/12/20191209001/20191209001-2.pdf

・打上げ契約(Launch Services Agreement)のサンプル(公開情報)
Virgin Galactic – Sky and Space Global Ltd
https://www.asx.com.au/asxpdf/20160913/pdf/43b4gypc1xswxj.pdf
SpaceX
https://www.sec.gov/Archives/edgar/data/1361983/000119312513112208/d468141dex102.htm