宙畑 Sorabatake

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【宇宙での医薬品製造・創薬の加速を予感させる2つのニュース】Vardaの3度目の軌道飛行と再突入、ElevationSpaceとルクセンブルク創薬ベンチャーの業務提携

2025年7月に発表された、宇宙での医薬品製造・創薬の加速を予感させる2つのニュースについて、それぞれ簡潔に紹介します。

2025年7月10日、宇宙での医薬品製造を目指すアメリカのスタートアップ企業Varda Space Industries(以下、Varda)が、シリーズCラウンドで1億8700万ドル(約280億円)の資金調達を実施しました。累計調達額は3億2900万ドル(約490億円)となっています。

Vardaは、無重力環境を活用し、地上では得られない結晶構造で医薬品の有効成分を生成する技術を開発中で、これまでに3度の軌道飛行と再突入に成功。

Credit : Varda Space Industries

現在は4つ目のミッション(W-4)が軌道上を周回中です。今回の資金調達により、今後の飛行頻度を高めるとともに、世界初となる無重力下での商業用製薬ラボの構築を加速させます。

また、同社はカリフォルニア州エルセグンドに、延べ約930㎡の新たな製薬研究施設を開設しました。ここではモノクローナル抗体のようなバイオ医薬品を結晶化する製造プロセスの開発が進められています。(モノクローナル抗体の分野は2022年時点で市場規模が2,100億ドルに達するとされています。)最高科学責任者(CSO)のAdrian Radocea氏は

「この新しい研究施設は、宇宙での製薬が軌道経済の基盤となるという当社の信念への投資です。より複雑な分子への対応や、製薬業界が求める短期間での開発サイクル実現にも貢献できるでしょう。」

と強調しています。

さらに、無重力環境を活用した創薬に挑む動きは、日本でも加速しています。

宇宙空間で研究開発した物資を、地球に持ち帰るための大気圏再突入・回収技術に挑む、日本のElevationSpaceと、ルクセンブルクの創薬ベンチャーExobiosphereは、宇宙空間で創薬実験の成果を、地球に高速回収するための業務提携を発表しました。

Exobiosphereが開発した実験装置「OHTS」は、宇宙空間において数千の細胞・分子サンプルを同時評価し、病気に有効な薬剤候補を見つけることが可能です。

これをElevationSpaceが開発する回収衛星「ELS-R」や、宇宙ステーションからの高頻度回収カプセル「ELS-RS」に搭載することで、宇宙空間での実験の成果をタイムリーに回収し、地上での詳細な解析と創薬サイクルの高速化を実現します。従来のISSでは年3〜4回に限られていた回収頻度が、ELS-RSを利用した場合、月1回ペースにまで高頻度化する見込みです。

宇宙での医薬品製造・創薬は、地上とは異なる物質の挙動を活用する新たなフロンティアとして、アメリカ・日本をはじめとする複数の企業・研究機関の間で注目を集めています。

【参考記事】
Varda Announces $187 million in Series C Funding to Make Medicines in Space
ElevationSpaceとルクセンブルクExobiosphere社が、宇宙空間からの高頻度サンプルリターンサービスの実現に向けた基本合意書(MoU)を締結 | News | ElevationSpace

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