衛星データはタイムマシン!? 不動産登記ビッグデータ×衛星データの可能性
不動産ビジネス×衛星データの可能性を探る株式会社トーラス代表取締役木村さんに宙畑編集部で突撃してきました!
衛星データって、実際、日本の社会にどう役立とうとしているの?
そんな素朴な疑問を胸に、今回、やってきたのは株式会社トーラス。不動産ビジネスから衛星データを活用しようとアプローチしている会社です。
そしてインタビューを受けていただくのは、トーラス代表取締役の木村幹夫さん。
いま最も熱い衛星データ活用法フロンティアに、果たしてどこまで迫れるのか?
聞いていいこと、言えないこと、いろいろあるでしょうが、ええい、全部ぶつけてしまえっ、という気持ちで突進してまいりました。
(1)トーラスの事業内容について「ニーズとは、つまり困っているタイミング」
木村さん:まずは私の経歴からお話しますね。私はかつて金融機関で仕事をしていたんです。銀行で10年ぐらい働いていました。そこでさまざまな経験を積むことができたのですが、銀行業務のなかで最も難しかったのが“富裕層の新規開拓”でした。つまり、「お金持ちをつかまえてこい!」というのが一番大変だったんです。
宙畑:ええっ。いきなりそんなこと言われても、どうしたらいか分からないですよね(苦笑)。
木村さん:おっしゃるとおり。僕が担当した代々木上原エリアは、一軒一軒がお屋敷みたいに大きく、いかにも富裕層というお宅がたくさんあるのですが……。
宙畑:お宅を訪ねたところで、中にも入れてもらえない?
木村さん:ガードが固すぎて、銀行の名刺も看板も、現場では何の意味もないんです。
宙畑:ウチは間に合ってます、と。
木村さん:はい。そうやって、銀行の営業は、みんな、頭を抱えるわけです。でも、そのときに気づいたのがお金に色はないということでした。銀行商品は誰が売っても同じなんです。
宙畑:商品に代わり映えはない。と。
木村さん:にもかかわらず営業の成績の差はものすごく大きい。「商品が一緒なのに、何でこんなに成績が変わるのか?」と。不思議ですよね。これは営業の行動パターンの違いにほかなりません。
宙畑:“できる人、できない人”を区分けする、“できる行動パターン、できない行動パターン”があるのですね。
木村さん:そうです。それじゃあ、できる人を追っかけたほうが早いよね、と気づきました。
宙畑:正解者の真似をする、という判断ですね?
木村さん:はい。ということで、実際に追っかけをやってみたんですよ。するとできる営業ほど法務局に駆け込んでいたことに気づきました。
宙畑:法務局?
木村さん:はい。法務局で、いったい何をやってるのかな、と思って覗いてみると、彼らは登記簿を見ていました。土地の権利・抵当関係を調べていたんです。
たとえば、代々木上原の土地に、抵当権が5年前についていたなら、すなわち5年前にお金を借りているんです。それは住宅ローンだったりアパートローンだったりします。アパートローンだったら1億、2億の単位でお金を借りていることになる。金融マンがこれ見ると、「あ、このときに金利の据え置きをやっているな」「この条件がそろそろ外れそうだ」と分かるわけです。
宙畑:近いうちに、ローンの金利が動くと。
木村さん:ええ。つまり金利が上がるということですよね。そういう予測ができるので、それだったら「今、借り換えましょう」「うちのほうが安いですよ」と言えるわけです。つまり、そこが唯一の営業のタイミングなんですね。
宙畑:それだったら話を聞いてもらえそうです。
木村さん:それからもうひとつ。やがて2次相続が行なわれる土地があるとしますね。数年前に、亡きお父さまからお母さまに相続で権利が動いておられると。これも登記簿を見れば書いてあります。では、そのお母さまが次に亡くなると……。
宙畑:子ども世代に権利が動く。
木村さん:はい。お父さまとお母さまは年齢が近いケースが多いため、10年以内に2次相続が起こるのが一般的です。そして税金が大きくかかるのはそこ。つまり数年前の相続を読み解くだけで、あとわずか数年後に2次相続が起こることが予測できるのです。
宙畑:資産家ほど相続が怖いと言いますもんね。
木村さん:たとえば。世田谷区とかに5億円ぐらいの土地を持っていますと、相続税は恐らく2億円ぐらいはします。でも2億円を現金で寝かしてる人あまりいないはず。すると土地を売らなきゃならない。つまり優良な不動産が放出されるタイミングでもあるわけです。話を戻すと、できる営業はファイナンスのニーズを、登記簿から読み解いていたんです。
宙畑:アタマいいなあ。
木村さん:僕は「これだ!」と思いまして。困ってる人の隣に立つということが、いかに大事かということを理屈ではなくて身体で感じました。金融機関にいたときに、一番、勉強させていただいたのは多分このことだったんじゃないかな?
宙畑:困っている人の隣に立つ……。
木村さん:たとえ話で言うなら、歯がキリキリと痛いときに、隣に痛み止めの薬を持っている人がいたら、「おいくらですか?」なんて聞かないですよね。
宙畑:いくらでもいいから、とにかく譲ってくださいっていう話になります。
木村さん:でも同じ薬を薬局に並べてあったら、買い叩かれます。
宙畑:たしかに、より安いものを探すかもしれません。
木村さん:同じ薬なのに。お客さんの食いつきは、まったく違うんです。
宙畑:なるほど。ニーズが大事ということですね。
木村さん:そのニーズとは、つまるところ、困っているタイミングですね。金融機関は、資産家がどこにいるのかっていうことは分かっています。門構えがすごい家なんか、分かりやすい。でも、その資産家のガードが下がる瞬間がいつなのか。“黄金の瞬間”を察知することが大事なんです。
宙畑:ズバリ、相続のタイミングですね。あるいはローンの借り換えが迫っているときなど。
木村さん:そうです。これらは不動産登記に書いてあって、僕らはそのデータを掴んでいるということなんです。
宙畑:うわー、なるほど。
木村さん:ところで、日本人の個人の金融資産の合計はいくらぐらいだと思いますか? 実は1800兆円と言われています。これに不動産を入れると、4000兆円を超えてくるでしょう。
そして現在、80歳を超えている人口が1000万人。となれば、どう考えても毎年、数十兆円の規模のお金が世代間を動きます。しかも、その状態がこの先、数十年は続くのです。
宙畑:世代交代は確実に起こるわけですからね。
木村さん:そういう大きな流れの中で、僕らはどこで相続が起きたかを掴んでいる。これがビッグデータを利用した不動産テックです。
宙畑:一種の魚群探知機みたいなものですね。称して“お金の動き探知機”。
木村さん:その通り。魚群探知機の登場は、これまでの漁業の景色を塗り替えました。僕らも不動産マーケティングの景色を塗り替えていきたいと思ってるんです。
(2)不動産テックと衛星データが組み合わさると……タイムマシンが作れます
宙畑:では、その御社が衛星データに興味を持たれたきっかけは何ですか?
木村さん:ひと言で言ってしまえばご縁です。これまでの衛星データって、たとえば国防とか資源探査とか、そういう国益にかかわることにしか使われてこなかった。ところが世界では、ベンチャーがどんどん出てきてるんですね。日本もここで遅れるわけにはいかないということで、政府は本腰を入れて旗振りしています。
ところがサイエンティストが多く集まる政府主導の勉強会では、どうしても「いい衛星を飛ばすにはどうしたらいいか」「カメラの質を高くするにはどうしたらいいか」など、そういう話になりがちで、データをどう使うかの議論がなかなか出てこないんです。
このままでは出口がないなということで、じゃあベンチャーを交えた勉強会をやろうということになり、僕は1年半ぐらい前から定期的に参加してきました。
宙畑:そこで衛星データとの接点ができたのですね。では、御社のサービスとどうやって結びついていくのでしょうか?
木村さん:私たちが持っているのは、不動産のデータです、一見、衛星データと何の関わりもないように思えますが、それがいいんです。衛星データとは異なるレイヤーになるからです。
実は、これは衛星データの限界でもあるんですけど、衛星データとは結局、画像データです。
そして、ここから何らかの意味を見出そうという戦いをやっている。
これは言い換えると、教師なしの状態で、データ解析だけで賢くなろうとしているように思えます。画像にどういう意味があるのかっていうことを、教えてくれる先生がいない状態でなんとか模索しているんですね。
火山が噴火したとか、災害があって土砂崩れになったとか、そういう大きなイベントがあれば、わかります。事実があらかじめ分かっているところに、画像データを当てはめればいい。これが、教師付きのデータです。
でも、たとえば東京都内の街がどう動いてるか、みたいなことは、一個一個のイベントでは捉えきれない。これが限界だったんです。
そこで僕らは不動産権利の動きが分かっています。そうすると衛星データに対する教師データになり得るんです。
たとえば、何月何日に所有権が誰から誰に移ったなど、いつ何が起きたかっていう手がかりが、先にあるわけです。これに画像データを合わせることに意味があるのです。
宙畑:意味づけを行なえるのですね。
木村さん:僕らは衛星データを解析する手がかり情報を持っています。その不動産情報を使って、衛星データの出口を探っていこうとしているのです。
宙畑:つまりは、ビジネスモデルとしてのひとつの解を、ここで作りたいということですね。
木村さん:そうです。そして、その解をほかのジャンルにも当てはめていきたいとも思っています。
宙畑:なるほど。ただ、そのことはわかったんですけども、実際にどういうサービス内容をどう販売するなさるのかが、正直よく分からないです。
木村さん:それはまさに今、研究しているところです。近い将来にプロダクトを出していく予定ですが、金型としては先ほど申し上げたように、不動産登記上のイベントと衛星データ上の画像の違い、その紐づけをして、物差しを作ろうというものです。
一度それができると今度はその物差しを画像データのほうに当てていけば、これから何が起きそうか予測ができるようになります。
タイムマシンが作れるわけですよ。「この動き方だと、あれが起こる」と、導けるのです。
(3)見習うべきは、秀吉の一夜城。ビッグデータはミニマムがちょうどいい!?
木村さん:本当に欲しいのは、これから相続が起きそうかどうかを補足する情報ですね。そのあたりが衛星データを利用して取得できるといいです。
宙畑:相続は最初にお話しいただいた、ロボットを使って登記簿情報を片っ端から取得したビッグデータで全然成立してますよね?
木村さん:もちろん、そこからわかるんですけども、そのフロンティアがもっと広がって、精度が高くなる可能性があるんですよ。
宙畑:補完できる可能性があると?
木村さん:不動産登記簿を見ていると、1人の人がたくさん持ってるケースがあるんですよ。そうすると、一個一個見てると分からないけれど、30戸持ってる人のいくつかが動いてるね、と分かるだけでも、その人の未来って予測できたり。
宙畑:たしかに。小回り利くのは、登記簿を見ていくほうがよさそうですが、大きい動きを見て、それが何十年後かの都市計画に生かされそうな気がしました。
木村さん:たとえばなんですけども、地図の世界で“GIS”ってあるでしょ。ジオグラフィカルインフォメーションシステム。電子地図の世界ですね。ちなみに地図の最大手企業の売り上げは、およそ500億円ですが、GISそのもののマーケットサイズは、10兆円ぐらいあると言われています。
宙畑:10兆円に対する500億円。
木村さん:200分の1です。これはどういうことかと言いますと、GIS、つまり電子地図を欲しい人は、地図を買ってるんですけれど、地図を買ってる人って、別に地図が欲しいわけじゃないってことなんです。
宙畑:ほかと組み合わせて、何らかの解析結果が欲しい?
木村さん:そうです。カーナビとか。混雑してるところをすり抜けたいからたまたま地図を買ってるだけで、別に地図が最初から欲しいわけじゃないんです。
何が言いたいかっていうと、衛星データを使う人は、別に衛星データが欲しいわけじゃないです。何らかの問題を解決したいだけ。で、たまたま衛星データが使えそうだから、じゃあ使おうか、というだけのことです。
そのマッチングをどれだけ見つけられるかで、マーケットの規模は、幾らでも膨らみます。しかも、今までそれを、やってこなかった。
コロンブスの卵のように、ひとつブレイクスルーが起こると次々に発見できるかもしれない。僕たちは今、気づけていないだけで、10年後には当たり前になっていることが必ずあると信じています。
宙畑:御社の場合は、金融時代のお話のところからすごく説得力があったんですけども、結局、そういうニーズの発見、解決するべき問題を入手するためには、何に注意を払っていけばいいのでしょうか?
木村さん:まず、一番やってはいけないのは、自分の頭だけで考えるってことです。聞き込みを徹底的にす
るってことですね。そのため、科学者の方だけが集まってしまうと、どうしても見えなくなってしまうことが多いのです。
宙畑:ツールとして格好良く、素晴らしいものを考えてしまう、ということですね。
木村さん:いいものを作ろうとしてしまうのです。でもたとえば、普段の生活でロールスロイスは欲しいですか(笑)?
宙畑:うーん。普通に快適なクルマであれば、それで十分です。
木村さん:そうですよね。自分の目的に合ったミニマムなクルマでいいわけです。そういうクルマだったら売れる。ロールスロイスを買ってくれる人は現実的にほとんどいないわけですよ。それがマーケティングで、そういうことをちゃんとやらずに物作りすると、大体ろくなことがないです。
宙畑:それでは今、どのように研究が進んでいるのでしょうか?
木村さん:作りすぎないということです。言い換えると、顧客の目的に合ったミニマムなプロダクトにするにはどうしたらいいか。これを常に考えます。
戦国時代で言えば、秀吉が一夜城というのを作りましたよね。あれでいいんです。一夜で作ったけど、ちゃんと軍事上の意味を果たしましたよね。要は、城作りの人たちだけに任せると、清須城を作ろうとするんですよ。
宙畑:ちゃんと作ろうとしますね。
木村さん:そう。で、いい城ができたとか言ってるでしょ? 違うんです、ミニマムでいいんです。そのためには、お客さんのことを分かってないと、絶対無理ですね。
宙畑:そういう点で、この衛星データのジャンルでも、アメリカやヨーロッパが一歩進んでると思うのですが、両者の衛星データの使い方の優れた点はどこでしょうか?
木村さん:彼らは、ベンチャーの巻き込み方が上手だと思います。衛星データをオープンデータにして、ちゃんと提供してますよね。素材があるから料理しやすいわけです。日本の場合は、まず衛星データが使いづらい。フォーマットがバラバラだし。まずは、そこからなんです。
宙畑:衛星データに限らず、OSが登場したとき、インターネットが普及したときにも、そういう日本人の下手さが聞こえていた気がしますね。いいものを作り込むあまり、汎用性に乏しいというか
以前から言われてるのに、何で同じ間違いをしちゃうんでしょうか。逆に言うと、アメリカやヨーロッパは、なぜ同じように陥らないのでしょう?
木村さん:陥ってる人たちは、いっぱいいますよ。ただ競争原理が十分に働いているんです。それから大企業でもベンチャーのプロダクトを活用するケースが多いので、そこにお金も回っていくのでしょう。
(4)インタビューを終えて
というわけで、インタビューはここまでです。木村さんのお話は、身に迫るものがあり、金融業界から転じて不動産ベンチャーへと事業を移られたのも、なるべくしてなったのだと感じました。
衛星データのこれからの活用法として、衛星データがベンチャービジネスとして日本でももうすぐ具体化しようとしてます。
しかも、そのフロンティアが不動産ビジネスと結びつきつつあるということ、どこに縁があるのか分からないと感じていただけたのではないでしょうか。宙畑としても、あらゆる可能性を否定しない、というよりもむしろ先入観はなるべくなくす、のが正解なんだろうなと感じました。
現在進行形で、いま、まさに研究が最終段階へ向かっている日本発の衛星データ活用事案が表に出てくることを楽しみにしつつ、その際はまたこの場で報告したいと思います。
木村さん、ありがとうございました!