宙畑 Sorabatake

宇宙ビジネス

小型ロケットベンチャーは成功するか~鍵となる3つのポイント~

先月末(2017年7月30日)、インターステラテクノロジズ株式会社(以下、IST)が行ったロケットの打上げが大きな話題になった。

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ARTSAT:INVADER(中央)と同期の開発メンバー。右から1番目が菊地氏。 Credit : Rocket Lab

期待が高まる小型ロケット市場

先月末(2017年7月30日)、インターステラテクノロジズ株式会社(以下、IST)が行ったロケットの打上げが大きな話題になった。ISTはIT起業家堀江貴文氏が設立したロケット開発ベンチャーである。

堀江貴文氏が狙うのは「小型ロケット」市場だ。小型ロケットは、近年増えつつある超小型衛星と呼ばれる、小さな衛星(ISTでは100kgまでを想定)を打ち上げるためのロケットだ。

従来、超小型衛星は大型衛星が打ち上げられる際のロケットの隙間にちょこんと搭載したり、たくさんの超小型衛星を一度にロケットに載せて宇宙に打ち上げたりという手段を用いていた。

しかし、これでは自分の好きなタイミング/軌道に打ち上げることができないという問題があった。自分の好きなタイミング/軌道に打ち上げるためには、ロケット1機を丸ごとチャーターしなければならず、価格が高くなってしまう。

本課題を解決するのが「小型ロケット」だ。従来のロケットよりもかなり小さく、超小型衛星のためのロケットにすることで、価格を安く抑え(ISTでは一桁億円前半を想定)、好きなタイミング/軌道に衛星を投入できる。

日本のロケット比較(IST資料:民間ロケットの 軌道投入に向けた活動の現状と今後の論点より) Credit : インターステラテクノロジズ株式会社

アメリカの小型ロケットベンチャー

小型ロケット開発は日本だけのものではない。アメリカでも盛んに開発が行われている。有望なベンチャーの一つとして、Vector Space Systemsを紹介したい。

宙畑でも以前紹介したが、Vector Space SystemsはSpace Xの創設メンバーが設立した小型ロケットベンチャーである。ISTと同様に超小型衛星に特化したロケットであるが、搭載できる衛星の質量はISTよりやや大きく160kgとしている。

Vector Space Systemsは8月3日に2回目の試験飛行を成功させた。打ち上げの40分前に点火システムのトラブルがあり、一時は打ち上げ中止となったが、技術者が、射点で調整を行い問題を解決した。

今回の打上げの高度は3km程度であり、ISTが7月の打上げで目指していた高度100km以上と比較するとだいぶ低いが、徐々に試験のレベルを上げていくのがVector Space Systemsの開発戦略だ。

Vector Space Systemsは6月29日に約21億円の投資を獲得したことも発表している。1年以内に小型ロケットを打ち上げビジネスを開始すると発表している。ISTは2020年頃のサービス開始を想定しているので、計画通り進めば、Vector Space Systemsより2年遅れる計算になる。

8月3日に打ち上げ実験行われたVector-R 2号機 Credit : Vector

小型ロケットのビジネスは成功するか

そもそも小型ロケットの市場は今後広がるのか。ポイントは3つある。

(1) 大型ロケットがどこまで安くなるか

従来のロケットは高いと書いたが、既存のロケット打ち上げ業者も静観しているわけではない。各社、価格低減を謳った新しいロケットの開発を発表している。

例えば、商用ロケット打ち上げ市場で圧倒的な経験を誇る欧州のArianespaceは現在使用しているAriane5の次号機としてAriane6の開発を行っているが、Ariane6はAriane5と比較し、重量当たり40~50%の打ち上げ費用の削減が可能となるという。

日本の新型ロケットH3も同様に、従来のH2Aロケットの半額に相当する約50億円での打上げを目指して、開発を進めている。
※Arine6、H3ともに2020年に初号機の打ち上げを予定

現在大型ロケットの隙間に載る場合の打ち上げ相場はSpaceflight IndustriesのWEBサイトによると、100kgの衛星で約4億円である。やや強引な推定だが、これが2020年に半額になるとすると100kgの衛星は約2億円で打ち上げが可能ということになる。

こうなると、ISTが目指す「一桁億円前半」よりも価格が安くなる可能性がでてくる。

(2) 軌道をカスタマイズしたい超小型衛星はどれほどでてくるのか

2つめのポイントは、冒頭で書いた軌道を選べることがどれほど価値を持つのか、という点である。

昨今の超小型衛星のトレンドを見ていると、衛星の機数が多いプロジェクトは2つの傾向がある。1つはPlanetのFlockに代表される地球観測用のカメラを積んだ衛星で既に100機レベルで衛星打上げを行っており、もう一つはOneWebに代表にされる通信衛星で、こちらは2027年頃までに数千機を打ち上げる構想である。

前者の地球観測衛星ネットワークの場合、ある程度軌道が異なっていれば、特定の軌道でなくても地表の写真は撮影することができる。したがって、Planetはあまり軌道を気にせず、ロケットの打ち上げ機会に合わせて、衛星をばらまいている印象がある。

後者の通信衛星は、打ち上げた衛星で地球上のどこでも通信ができる環境を整えようというプロジェクトであるので、通信が途切れることは問題であり、衛星がどこにいるか把握するため軌道をある程度選ぶことが必要。

その場合、小型ロケットは適していると考えられるが、問題になるのはその質量である。

OneWebの衛星は150kgと発表されており、ISTの搭載能力100kgでは打ち上げられない。一般に通信衛星は地球観測衛星ほど小型化が進んでおらず、100kgを切っているものは、用途を極端に絞った衛星(IoT用途)であり、少なくとも今の主流ではないし、IoTの場合切れ目のない通信は必要とされないケースが多い。

したがって、ISTのロケットがこれらの超小型衛星のトレンドに適合するためには、ロケットの能力を向上するか、通信衛星の質量が半減する程のブレイクスルーが必要ということになる。

もちろん上記トレンドに該当しない衛星も存在するので、少ない打ち上げで回していけるビジネスモデルを持つ、というのも手だ。

(3) 本当に所定の軌道に投入できるか

仮に(2)の問題を克服できたとして、続いて挙がるのは軌道投入の精度の問題である。

衛星は、所定の高度に打ち上げられて終わりではない。ミッションを達成するために、意図した軌道ぴったりになるように衛星側で軌道の最終調整を行うのである。この最終調整には、衛星に搭載された燃料が用いられる。ロケットが投入する軌道の精度が悪いとこの調整のための燃料が多く必要になり、その後、軌道を維持していくために必要な燃料に割ける割合が少なくなる。すなわち、衛星の寿命が短くなるという問題に直面する。

ロケットの軌道投入の精度は、衛星の寿命に直結する大きなポイントである。したがって、大型ロケットでは各社どうやって精度を良くするかということにしのぎを削っている。小型ロケットではまだ精度に関する発表が現時点では、ほとんどされていない。

小型ロケットはどの程度の精度で衛星を投入できるのか、その点にも関心の目が向けられている。

今週の英語フレーズ

“We’re already buying hardware and doing things that are directly impacting” those orbital launches, he said.

「我々はすでにハードウェアを購入しているし、軌道への打上げに直接影響のある作業を行っている」と彼は述べた。

【関連記事】

【出典元】

[1] インターステラテクノロジズ株式会社

[2] Vector Space Systems

[3] 2017/08/03, SPACE NEWS, Vector performs second test flight of smallsat launch vehicle,

[4] 2016/04/06, SPACE NEWS, Ariane 6 designers say they’ll beat SpaceX prices on per-kilogram basis,

[5] 2017/02/24, SPACE NEWS, OneWeb weighing 2,000 more satellites,

[6] 2016/04/19, OneWeb, OneWeb Satellites Unveils The World’s Largest High Volume Satellite Manufacturing Facility

[7] Spaceflight industries

[8] 2016/07/20, H3ロケット 基本設計結果について 2016年度記者説明会, JAXA

[9] 2016/11/25, 宇宙政策委員会 宇宙産業振興小委員会 第7回会合 資料2 民間ロケットの 軌道投入に向けた活動の現状と今後の論点,