地球観測のパラダイムシフトと将来予測(前編)
2017年5月11日、イタリア・ローマで、欧州宇宙機関(ESA)地球観測に関するセミナーが開催された。
欧州宇宙機関主催!地球観測のパラダイムシフトと将来予測セミナー
2017年5月11日、イタリア・ローマで、欧州宇宙機関(ESA)地球観測に関するセミナーが開催された。セミナーは大きく2つに分かれており、前半のテーマはパラダイムシフト(革命的な変化)、後半のテーマは将来予測。
登壇したのは、PlanetやUrthecastなど超小型衛星ベンチャーの有望株を始め、Google EarthやAmazon Web Serviceなど、誰もが知るITプラットフォームで世界を席巻する企業のキーパーソンばかりだ。また、詳しい紹介はなかったが会場からの質問を聞いていると、オーディエンスも欧州で衛星利用を行っている企業や、研究機関、投資家など関係者が多く参加していた。
セミナーはLive Streamで全世界にライブ配信されており、だれでも無料で見ることができた。今回はPCの前から、リアルタイムでセミナーに参加した報告をする。記事末のリンクから実際の録画映像が視聴できるので、興味のあるセミナーを実際に聞いてみてほしい。
新鋭No.1宇宙 ベンチャー Planetが見るパラダイムシフトの鍵
Planetの共同創設者Robbie Schingler氏は、地球観測におけるパラダイムシフトのカギとして10点挙げた。
最初の5点は宇宙に関わるもので、
(1) 衛星の打ち上げ機会
ロケットからの打ち上げはまだまだ少なくイノベーションの障壁となっているが、ISISが行うクラスターロンチ(1度の打ち上げで、衛星をまとめて打ち上げること)などが解消していく。この分野が発展していくことを強く願う。
(2) センサーの技術的革新
宇宙だけでなく、携帯電話・車・ドローンなどで起きている革新を、衛星に取り入れることで安いコストで、参入障壁を下げることができる。Planetでは、宇宙用ではないジャイロをPlanetの小型衛星に適用することで、高性能な衛星を作ることができた。
(3) センサーのネットワーク化
複数機の衛星を運用することで、リスクが分散するだけでなく、多様性を持つことができる。Planetでは様々な解像度を持つ衛星を所有している。これらの衛星を用いて、新しいミッションにチャレンジできる。
(4) 公開された宇宙監視情報
多くの衛星が打ち上げられ我々の生活に欠かせなくなっている昨今、衛星自身もスペースデブリ(宇宙ゴミ)も増えるので、宇宙空間で問題とならないようにリーダーシップを取って、解決していく必要がある。
(5) 政府の対応の変化
以前は、政府は製品(衛星やロケット)にお金を払っていたが、サービス(衛星から得られる情報など)にお金を払うようになってきた。アメリカの国家地球空間情報局(NGA)では、鉛筆を買うのと同じプロセスで、定期的に商用のモニタリングデータを買うようになってきた。
後半の5つは地球観測全体に関わるもので
(6) 目的のあるミッション
ある画像は、ベトナムと中国の国際問題に発展している南沙諸島、ラッド礁における中国の活動を監視するのに役立つ一方で、全く同じ画像から、サンゴ礁に関する科学的に有益なデータを得ることができた。政府用途と商用用途と科学的用途のすべてに用いることができる新しいミッションを設計しなければならない。
(7) 地球観測データのストレージと計算のコモディティ化・オープンアルゴリズム
クラウドコンピューティングがコモディティ化していくのは世界の流れ。難しいアルゴリズムを操らずとも数週間でプロトタイプを作成することができるようなプラットフォームを考えている。
(8) 機械学習に足るデータ量
衛星が打ちあがっていく毎にデータは増えていき、データサイエンス、機械学習の領域で使えるようなデータ量になっていく。
(9) 契約・プロダクトベースアプローチ
我々の産業は極めて組織化されており、付加価値サービス会社は、補助金を得て、プロジェクトを見て、サービスの一部分を担う。それではスケールしない。
プロジェクトベースアプローチを改め、プロダクトベースアプローチにする必要がある。すなわち継続的に契約できるようにする必要がある。農業は21世紀に入りIT技術が入り始めた良い例で、カナダのFarmersEdgeはPlanetの顧客のひとつで、とてもうまくいっている。
こうしたB to Bアプローチで、地球観測市場よりも広い市場がつかめる。
(10) Planetの4つのIフレームワーク
下図は、一番下がもっともデータの量が多い状態であり、情報(Information)からクラウドコンピューティングや機械学習などを用いて知見・洞察(Insight)を得る。コミュニティはこれをもとに、指標(Indicator)を作り、それが道具(Instrument)となる。データの価値が高まる。
炭素の損失などが具体例だ。Planetの衛星から、どれほどの炭素が失われたかを推定することができる。
Robbie氏は最後に、「我々は変革期の只中におり、新たなアクターが変革をもたらそうとしている。どう共に活動するかは我々次第だ。宇宙サイドの問題ではやることが山ほどあるし、地球観測サイドは市場として非常に大きなチャンスがあるとても持続可能性の高い分野だ。」と締めた。
講演動画はこちらから視聴できる。
宇宙版シェアリングエコノミー urthecast
カナダ発ベンチャーurthecastが狙うのは、AirbnbやUberのようなシェアリングエコノミーの宇宙版だ。PanGeo Allianceと名付けられた衛星群は、世界中から8つの企業が参加、それぞれが所有している地球観測衛星を互いにシェアしながら使うことで、より多くの撮像機会を得ることができる。
urthecastのCEO Wade Larson氏は、New Space(もしくはSpace 2.0)と呼ばれる新たな宇宙産業界の動きについて、ビジネスのけん引役が技術から市場へ、戦略的な注力ポイントが顧客から投資家へうつる変化が起きていると語った。
また、宇宙分野のサービスについて、大きく分けて3種類、通信とナビゲーションと地球観測がある。もっとも早く商用化したのは衛星通信であり、続けてGPSなどのナビゲーションが2000年代から商用化しはじめ、地球観測は今まさに商用化が始まろうとしているところだと述べた。
地球観測の商用化の大きなトレンドとして、(1)他分野からの技術移転による価格低減と高性能化(2)クラウドコンピューティングでの膨大なデータの蓄積(3)機械学習を用いた地球観測データの分析技術をあげた。
これらのトレンドにより、今までは政府相手に人の手を介して行われていた地球観測ビジネスが、すべて自動で行えるようになり、企業向けビジネスになり市場規模が大きくなるという見立てだ。
urthecastは来るべき将来に向け、Urthe DailyとOptiSARという複数衛星群(コンステレーションと呼ぶ)のサービスを計画している。
講演動画はこちらから視聴できる。
元祖小型衛星製造ベンチャー、イギリスSSTL
続いて登壇したのは、イギリスの大学発ベンチャーで小型衛星の製造を行うSSTLのLuis Gomes氏だ。SSTLは1985年創業の、いわばNew Spaceの先駆け的存在だ。
2015年に打ち上げられたCARBONITE-1というSSTLの衛星は、質量90kg以下と小型ながら、地上分解能1mの高解像度カラー動画撮像が可能だ。地上分解能1mとは、地上を走る車がはっきり確認できるレベルだ。
驚くのはその開発期間だ。通常、大型衛星なら5年程度、小型衛星でも数年はかかるところだが、SSTLはCARBONITE-1を6か月と12日で開発・製造してのけたのである。
SSTLは長年培ってきた小型衛星の製造ノウハウと3Dプリンターなどの最新技術を組み合わせ、地球観測のパラダイムシフトを支える、安く高性能な衛星を製造している。
講演動画はこちらから視聴できる。
地球観測データ分析 Descartes Labsでできること
Descartes Labsはアメリカ・ロスアラモス研究所のトップサイエンティストチームであり、10年以上に渡る機械学習や地球観測データ、大規模計算の経験を持つ。
彼らは、長期に渡って有している衛星画像データをもとに、極めて正確な穀物の収穫予測や飢饉の予測を行っている。また、Planetのデータと機械学習を合わせて、様々な画像から自動で滑走路を見つけ出すアルゴリズムを開発した。
講演動画はこちらから視聴できる。
以上が、前半のパラダイムシフトに関する講演の概要である。
それぞれの発表の中で、パラダイムシフトのキーワードとして「機械学習」「クラウドコンピューティング」という言葉が良く出て来ていた。後半のセッション「地球観測の将来」については次の記事で紹介する。
出典元
2017/05/11,ESA, Paradigm shifts and future prospects in Earth observation