宙畑 Sorabatake

ビジネス事例

宇宙ビジネスの一丁目一番地!衛星通信についてスカパーJSAT社に聞いてみた

日本で長らく衛星通信サービスをけん引してきたスカパーJSAT社に、そのビジネスと同社が新たに見据えるビジネス領域について、詳しくお伺いしました!

「宇宙ビジネス」と聞くと華々しいロケットの打ち上げや衛星自体の製造などがイメージされがちですが、実は市場の多くを占めるのが「衛星通信」の領域です。

日本でこの領域のビジネスを実施しているのは、スカパーJSAT社。
宇宙ビジネスの中では比較的”手堅い“領域でビジネスを行う同社ですが、近年は、新規事業にも積極的に取り組まれています。

今回は、同社の主要ビジネスである「衛星通信」について詳しくお伺いした上で、新しく参入されようとしている事業についても、宙畑編集部がお伺いします。

森田 靖彦(もりた やすひこ)様

スカパーJSAT株式会社 宇宙事業部門新領域事業本部長
1997年日本サテライトシステムズ(現スカパーJSAT)に中途入社し、以降衛星通信エンジニアとして従事。2019年にスペースインテリジェンス開発部に異動し、衛星通信とは異なる新しい事業領域の開発に携わる。2020年にスペースインテリジェンス事業を事業部化、2021年度にはリモセン分野以外の新事業開発を別組織化し、その二つの部署をまとめる本部長に就任。

◆スカパーJSATのこれまでの歩み

・スカパーJSAT社の歩み

Credit : sorabatake

宙畑編集部(以下、宙畑):まずは簡単にスカパーJSAT社の歴史について、ご紹介頂けますか。

森田靖彦様(以下、森田):衛星通信の分野では、1985年頃に日本で日本通信衛星社、宇宙通信社、サテライトジャパン社の3社が創業しました。その後、日本通信衛星社とサテライトジャパン社が合併し日本サテライトシステムズ社となり、2000年にJSATに社名変更しています。

衛星放送の方も90年代に数社の企業が立ち上がり、それらがやはり合併しながらスカイパーフェクト・コミュニケーションズ社にまとまっていきました。2007年にとスカイパーフェクト・コミュニケーションズ社とJSAT社が経営統合し、2008年に宇宙通信社も経営統合し、現在の形であるスカパーJSATになっています。

宙畑:35年以上続けてこられた中で、会社としてのターニングポイントはどこになりますか。

森田:衛星通信におけるターニングポイントは、1995年に打ち上げた「JCSAT- 3」という、海外と通信できる機能を初めて積んだ衛星の利用拡大です。

「JCSAT- 3」衛星のサービス範囲。東南アジアを中心にハワイまで広がっている。青:信号の特に強いエリア(36dbW)赤:サービスエリア全体(28dbW) Credit : ⒸスカパーJSAT

打ち上げた当時はお客さんもおらずガラガラでしたが、ハワイにゲートウェイとなる衛星通信の拠点となる場所を作って、アメリカのメディアの映像素材などをアジア向けに展開することを始めるなど、アジアを中心にしたグローバルマーケットに入っていったというのが、その頃のターニングポイントです。

衛星放送におけるポイントは、1996年に日本初のCSデジタル放送である「パーフェクTV!」の本放送が開始されたり、孫正義さんを社長にした ジェイ・スカイ・ビー株式会社が立ち上がったりして、その後両社が合併して98年に「スカイパーフェクTV!」が始まりました。宇宙通信社が始めた「ディレクTV」も2000年に「スカイパーフェクTV!」に統合されていくこの流れが、スカパーの拡大期ですね。

・意外と身近?衛星通信が使われているシーンは?

宙畑:衛星通信について、具体的に利用されているシーンをいくつか教えていただけますか?

森田:一番生活に身近な事例としては、国内の衛星通信では、衛星放送とテレビ局の中継が一般的でしょうか。衛星通信のメリットとして、通信を機動的に、ある程度の容量を確保して使えるという点があり、長く使われている用途ですね。

あと、都心を離れると、携帯の基地局の後ろ側に衛星アンテナがついている場合があります。それが衛星につながって、衛星経由で携帯の基地局につながっているというのが身近なところではあると思います。

災害時に臨時で設置した衛星通信基地局 Credit : ⒸスカパーJSAT

森田:もう1つ重要な使い道としては防災関係です。例えば、被災地に緊急の携帯電話の基地局を立ててということがありますが、そういう時も衛星通信を使って被災地の携帯電話の回線をバックアップしていますね。

発災時は地方自治体でも、緊急時の自治体の中で通信しなければいけないというニーズがあるので、自治体でも自前で衛星通信のネットワークを作っています。

あとは、鉄道だったりガス会社だったり社会インフラを担うような業界は、衛星通信での災害対策は昔から導入していて、BCP(事業継続計画、Business Continuity Plan)という形で最後の通信回線ということで人工衛星が使われています。

・今後、利用が増えて行く衛星通信の使い道

飛行機のWi-Fi需要が伸びていく

宙畑:今後利用が増えて行く用途についても教えていただけますか。

森田:最近、飛行機や船でインターネットにつながるようになってきたと思うんですが、あれは衛星通信を使っています。まさに衛星の強みを活かした用途ですね。

宙畑:市場規模としては広がってきているんですか?

森田:ずっと広がってきたんですけど、昨年のコロナ禍の影響で停滞しています。
ただ、これもコロナ禍が明ければ、飛行機のインターネットは復活して、さらに伸びると予想されています。

宙畑:飛行機でWi-Fiは、利用者にとって当たり前になってきているので、逆につながらないと「なんでつながらないの?」という風にとらえられる時代になりそうですね。

森田:そうですね、そうすると今度は「遅いじゃないか」という話になるので、今度は回線速度が速くなっていくことが求められる。そうやって、どんどん広がっていくと考えています。

あとは、海底石油田やガス田などのプラットフォーム。ああいったところにも人がいて、製造の管理などが必要になるので、そこの通信回線に衛星通信が使われています。

宙畑:歴史としては長い衛星通信ですが、意外とまだ衛星通信が入っていないところもいろいろあって、今後もそういうところが増えていきそうという見通しなんですね。

森田:そうですね。今まで通信回線がなかったところに通信ができるようになると、じゃああれもこれもというふうになって、通信量が増えていくから、需要自体は増えていく傾向にあると思いますね。

アジアでは携帯電話の普及に伴って衛星通信が拡大

宙畑:世界を見渡した時に、今後利用が増えていきそうな地域はありますか?

森田:日本だと通信回線が日本中に引いてあるので、実はアジアの方が衛星の需要は強いんです。

アジアの国って地上の回線の前に、衛星通信を使って携帯電話が普及してしまうようなところもあったりします。そうなると、基地局の後ろの回線は全部衛星がつながっているみたいな形になります。

したがって、アジアは携帯の普及とともに、衛星通信もどんどん広がっていく形になっていますね。

・NEW SAPCE(低軌道通信コンステ)をどう見る?

宙畑:現在、SpaceXやOneWebなどの新興企業が、これまで通信衛星が運用されてきた静止軌道よりも低い、地球低軌道に通信衛星をたくさん配置して、通信サービスを提供していこうという動きがあります。この潮流について、どのように見えられていますか。

森田:SpaceXは、ターゲットがBtoC(消費者向け)に近いビジネスを狙っていて、我々は、基本的にBtoBの商売になってくるので、あまりSpaceXのビジネスは意識していないです。

OneWebは1度破産申請をしたというのもありますし、そもそも低軌道の衛星衛星サービスは、衛星1機上げたからといって、サービスとしては完成しないという点が難しいと思っています。

全部の衛星を打ち上げるまで、最初の2~3年は売上を立てるのが難しくて、でも一方で7年経ったら衛星の寿命が来てしまうので、衛星を全部入れ替えないといけないという課題があります。

そうなると、お客様と見つけるのもスピードがいるし、衛星を置き換えるためにもお客さんを集めなければいけない、といった難しさもあります。

あとは、低軌道の通信サービスの場合、海上も含めて全球でサービスを展開できるわけですが、海の上って面積で考えると、船なんてそんなにたくさんいるわけではないから、稼働していない時間が意外と多いんじゃないかな。そのため、本当に元取れるのかな、というのは、個人的にはまだ懐疑的に見ています。

ただ、そういうプレーヤーが「ある領域でパートナーになりませんか?」という話があれば、具体的に何かやろうという話までは至っていないですが、考える余地はあるかなと思います。

・衛星通信の今後の方向性

サービス価格低減の鍵は「フルデジタル」衛星

宙畑:御社の衛星通信事業について、今後の方向性を教えてください。

森田:先ほどお話した飛行機のWi-Fiのように、回線速度のニーズがあるのでそれに答えていく必要があると思っています。ただ、回線を速くした分、費用をいただくというモデルも難しいと思っているので、価格を抑えながら、回線速度を確保するサービスを作っていくというのが、我々のミッションだと思っています。

宙畑:基本的に衛星通信サービスの価格を決める考慮事項としては、衛星自体の費用が大きく関わってくるのでしょうか。

森田:ほぼ衛星自体の費用ですね。あとは地上で使う端末の費用が安くなるというのも当然要素ではあるんですが、こちらはかなり安くはなってきているので。

宙畑:そうすると、衛星側としては、費用同じで速度をあげるのか、速度は同じで費用を安くするのか、ですね。

森田:衛星自体が安くなる可能性というのはあると思います。最近、弊社でも発注したフルデジタル化した衛星というものがあります(通信衛星 Superbird-9 の調達契約の締結について、2021年3月25日)。

これまでの通信衛星はあらかじめサービスを提供するエリアや通信容量を決めて、その要求に基づいてカスタマイズした衛星を打ち上げていたのですが、フルデジタル化すると、デジタルでそのあたりが調整できるので、通信衛星が個別のカスタム品ではなく同一規格品になっていきます。

そうなると、設計や試験などの費用を大きく抑えることができます。今は出始めなので高いかもしれないですが、衛星自体が安くなる可能性というのはあると思います。

あとは、通信衛星の打ち上げに使うロケットも、SpaceXのおかげで価格破壊が起きていて、安く上げられる方向性になってきているので、様々な観点でコストが下がっていく方向には来ているんじゃないかと思います。

◆NTT社と発表した新しい宇宙事業

宙畑:ここまで、スカパーJSATの主力ビジネスである衛星通信について詳しくお伺いしてきましたが、ここからは、最近発表されたNTT社との協業について、詳しくお伺いしていければと思います。どういったきっかけで両社の連携が始まったのでしょうか。

森田:先ほどの話の通り、スペースインテリジェンス部門でリモートセンシング関連の事業を始めていて、NTTさんもNTTデータで衛星データ解析をやられていたりするので、何か一緒にできないかねという会話は、以前から実はしていたんです。

NTTの方では、研究所で色々と研究を進めている中で研究成果の出口戦略を探していて、一方で、スカパーJSATとしては宇宙ビジネスのネタを探していたというところもあり、そういうのを一緒にやれたらいいねという形になりました。

Credit : NTT/スカパーJSAT提供

宇宙センシング事業はアジアでの展開を視野に

宙畑:まず、宇宙センシング事業についてお伺いしていきたいと思います。宇宙センシング事業は、衛星データとグローバルに設置されている地上IoT端末データを収集する基盤を提供するということですが、すでに市場としては見えているのでしょうか。

森田:IoT事業に関しては、調査やヒアリングの結果から、マーケットはあるという感触はあります。

日本ではスマートシティなどで、IoT自体の市場は大きくなると思いますが、日本は地上の回線があるので、多くのエリアでは衛星のニーズは少ないと思っています。一方で、アジア地域については、主力事業である衛星通信で持っているサービスエリアでもあるので、最初のマーケットだと思っています。

宙畑:アジアでのIoT事業の具体例について、もう少しお伺いできますか。

森田:アジアのプランテーション(大規模農園)は、とても規模が大きいので、水や肥料が適切に与えられているかという生産管理のニーズはあるという話を聞いています。

IoTに加えて、観測衛星のデータを融合して、他ではできないサービスが提供できたらと考えています。

宇宙RAN事業はいつでもどこでも快適につながる世界を目指す

宙畑:続いて、宇宙RAN事業の話をお伺いしていきます。具体的にどういったところにサービスを提供することを想定されていますか。

森田:目標としては、携帯電話のような、一般ユーザーが使える通信ができる場所をまず拡大することを考えています。

先ほど話がでた飛行機や船など空中や海上でも、陸上で使っている状態と変わらないぐらいに高速で普通に通信ができて、そのための端末もどこに行っても同じ端末が使えるようなイメージですね。

そういう世界観を実現するためのパーツとして、衛星を使ったり、HAPS(*)を使ったりということが考えられるので、そういった技術を一緒に検討していく予定です。

宙畑メモ:HAPS
通信装置を搭載した高高度無人機HAPS(High Altitude Platform Station)を上空20kmに飛ばすことで、広いエリアに通信サービスを提供する取り組みが進められています。スカパーJSATは、NTTドコモと実証実験を行っています。

宙畑:宇宙RANの技術課題、ブレイクスルーポイントはどこになりますか?

森田:1番難しいかなとは思っているのは、回線速度を地上と同じレベルにするということです。そのためには、通信のビームを狭くしていく必要があります。

宙畑メモ:通信衛星のビーム幅

ビームあたりの通信容量は決まっているので、ビームを細くすると、通信できるエリア(スポット)は狭くなりますがその分通信速度は速くなり、逆にビームを広げると通信できる範囲は広がるものの通信速度は遅くなります。
(補足:大きいカバーエリアになるとそこに収容される端末が多くなり、端末あたりに割り当てができる帯域狭まるため、小さいエリアにして収容される端末を少なくするほうが有利)

もっと細かいスポットを──いわゆる地上の基地局ってせいぜい1キロとか2キロぐらいの広さなんですが、それを衛星の高度からやるのは、ビームが狭くできずなかなか難しいので、例えばHAPSぐらいの高さになればもう少し小さいスポットを作れるよね、などという検討が必要だと思っています。

一方で、海でサービスを展開する場合、海洋全域で回線を太くしてもしょうがないよねというのもあって。

宙畑:船がいないところが大半ですからね。確かに。

森田:本当は高速化するために、船ごとにビームフォーミングのようにスポットをあてることができると良いのですが、技術的な課題も多く出てくるでしょう。
あとは、高速化しなくてもいいような使い方もあって、IoTであればデータ量が少なく、スピードはいらないので、むしろどこでも使えていいということで通信衛星がいいよねという話もあります。

利用用途だったり、利用場所だったりによって、自動的にどのルートを使うのが最適なのかが選択される仕組みが作れたらいいなと考えています。

宇宙データセンタ事業

宙畑:最後の宇宙データセンタ事業についてもお伺いします。
宇宙空間にデータセンタを作るということで、なかなか壮大なスケールだなと思うんですが、本事業のビジネス的なポイントを教えてください。

森田:正直、3つの事業の中でこれが1番ビジネスとしてどうやっていくか、難しいなというところではあります(笑)

地球観測衛星は撮影してから、地上に伝送して、画像処理をして、利用者に提供するまでに現状、半日ぐらいかかっています。それをもっとスピード感を持ってできるようにしたいということで、それならデータ処理の機能を宇宙空間に置けば速くできるよねというのがコンセプトです。

宙畑:地球観測データの提供のリアルタイム性を上げていくという意味では、2つアプローチがあると思っていて、一つは宇宙側でデータ処理して、ある程度データ量を小さくしたものを地上に伝送するというパターン。もう一つは、地上側の通信ネットワークを広げてしまって、とりあえず大量に伝送して地上側で後は処理をするパターンです。

スカパーJSATさんとNTTさんの連合なら、地上の通信を広げるほうが得意分野としては良いのかなというのが素直な所感なのですけど、宇宙側の処理の方が、今のところは良さそうという見立てですか?

森田:地球観測衛星の業務が、地上に渡すだけじゃないのかも知れないですね。

宙畑:宇宙側で判断までしてしまうようなミッションということですか?

森田:そうですね。具体的にどのようなミッションが考え得るかは、さらに検討が必要だと思います。この1年でプランを詰めていければと思います。

今後の展望

宙畑:ここまでお話をお伺いしてきて、まさにこれから検討進められていくところかなと思うのですが、今後の展望をお伺いしてもよろしいでしょうか。

森田:まずは今年1年ぐらいかけて、今回お話したような、インフラの具体化とビジネスプランをしっかり詰めていく予定です。

その後は、先日発表させていただいた通り「2025年ぐらいからの事業開始」に向けて準備をしていくことになると思います。

宙畑:ありがとうございます。一つひとつがすごいスケール感なので、どうなっていくのか非常に楽しみですね。

森田:本当に伸びるかどうかというのは、市場の反応が1番大きいので分からないですが、リモセンの話は、今すごく注目もされているし、使い道もどんどん開発されているので、市場規模はもっと大きくなるとは思っていて、その中でそれなりの規模感は目指したいと思っています。

◆まとめ

衛星利用の一丁目一番地で、当初から宇宙ビジネスを牽引してきたスカパーJSAT社。衛星通信というと私たちの生活との関わりがあまりないのかなと思いがちですが、携帯電話の基地局や、飛行機のWi-Fiなど様々な場所で利用され、今後もさらに需要の高まりが期待される領域なのだと分かりました。

さらに、これまでの手堅い領域に加えて、リモートセンシングなど新しい領域にも踏み出している同社。新たな領域ということで、まだまだビジネス面でも技術面でも課題は多くあるようですが、大企業の強みを活かして、長いスパンでのスケールの大きい事業が進んでいくことを期待しています!

後編では、同社が進める新規事業の中でもビジネス化の目途が立ちつつある、リモートセンシング領域について、さらに詳しくお伺いしていきます。