2020年代後半に日本人の月面着陸実現を図る。改訂された宇宙基本計画工程表のポイントを解説【宇宙ビジネスニュース】
【2022年1月3日配信】一週間に起きた国内外の宇宙ビジネスニュースを宙畑編集部員がわかりやすく解説します。
12月28日、宇宙開発戦略本部が開催され、宇宙基本計画工程表改訂に向けた重点事項について議論が行われました。
宙畑メモ 宇宙基本計画工程表
宇宙基本法に基づき策定している、日本が宇宙分野においてどのような施策を実行していく予定か、計画を示す資料です。この計画は毎年見直され、年末に改定されます。
岸田総理は「宇宙は、人々に夢や希望を与えるフロンティアであることに加え、経済安全保障の観点からも、重要な、経済・社会を支える基盤です」と説明した上で、衛星コンステレーションの構築と光通信の研究開発および実証、日本人宇宙飛行士の月面着陸実現、宇宙太陽光発電の開発、米国、オーストラリア、インドとの連携について言及しました。
SAR衛星コンステレーション構築
2021年6月に宇宙開発戦略本部で宇宙基本計画工程表の改訂に向けた議論された際に、災害対策の文脈での衛星コンステレーション構築が重点事項として挙げられました。
今回発表された「宇宙基本計画工程表のポイント」には、「高頻度観測が可能な我が国独自の小型のレーダー(SAR)衛星コンステレーションを2025年度までに構築すべく、関係府省による利用実証を行い、国内事業者による衛星配備を加速」と記載されています。
SAR衛星は天候や昼夜を問わず観測が可能であるため、発災時の迅速な情報把握に役立てられることが期待されています。
衛星コンステレーションついては、経済産業省が「超小型衛星コンステレーション技術開発実証事業」の補助事業者を2021年8月に発表したほか、文部科学省が要素技術の開発を支援する「衛星コンステレーション関連技術開発」事業の実施に向けて2022年度予算を要求しました。
アクセルスペースとSynspectiveが経済産業省の実証事業に採択。共同で衛星コンステの構築【週刊宇宙ビジネスニュース 2021/8/23〜8/29】
また、政府は衛星コンステレーション構築について民間からの調達を拡大していく方針も示しています。
2020年代後半に日本人宇宙飛行士の月面着陸実現へ
さらに、今回改訂された宇宙基本計画工程表では、「(アルテミス計画において)⽶国⼈以外で初となることを⽬指し、2020年代後半を⽬途に⽇本⼈による⽉⾯着陸の実現を図る」と、日本人宇宙飛行士の月面着陸の時期について言及されました。
日本はHTV-Xによる月軌道ゲートウェイへの物資補給、⼩型⽉着陸実証機(SLIM)や⽉極域探査機による⽉⾯着陸探査を通じたデータ共有、さらに有⼈与圧ローバなど⽉⾯での移動⼿段の開発研究など、⽉⾯活動に必須のシステム構築に取り組んでいます。
一方、宇宙飛行士を月面へ輸送する技術はアメリカに頼ることになると考えられます。
月面への切符を確保するには、国際パートナーと進めるアルテミス計画で、いかに日本がプレゼンスを発揮できるかが重要なポイントになるのではないでしょうか。
温暖化対策への貢献
2021年は各国が二酸化炭素排出量の削減目標を引き上げるなど、地球温暖化対策の重要性が再認識された1年でした。宇宙技術はカーボンニュートラルにおいても、貢献が期待されています。
宇宙基本計画工程表には、JAXAと国立環境研究所、環境省が共同で推進する温室効果ガス観測技術衛星「いぶき」シリーズのデータを用いた、温室効果ガス排出源の特定や排出量の推計精度の向上に引き続き取り組むとともに、削減効果の確認に活⽤されるよう利活⽤促進活動に取り組むことが記載されています。
岸田総理が挙げた宇宙太陽光発電とは、宇宙空間に巨大な太陽電池パネルと送電アンテナを設置し、宇宙で得た太陽光エネルギーを送電して地上でエネルギー源として利用するもの。天候や昼夜の影響を受けずに発電できることが特徴です。
宇宙基本計画工程表によれば、2025年度を⽬途に地球低軌道から地上へのエネルギー伝送の実証を⽬指し、パネルや無線送受電技術の開発が進められます。
また、2021年9月に開催された、日本・アメリカ・オーストラリア・インドの4カ国間で安全保障や経済について協議する「Quad(クアッド:日米豪印首脳会合)」では、災害対応や気候変動のリスク分析、海洋資源の持続的な利用といった平和的な目的での地球観測衛星データの共有について、協議を進めていく方針が発表されました。
宇宙利用先進国の4カ国の連携に注目が集まりそうです。