宙畑 Sorabatake

特集

「宇宙天気」を徹底解説! 数兆円の経済損失を起こしうるそのワケとは

「宇宙天気」について、基本的な内容から地球に与える影響、今注目されているポイントについてまとめています。

「宇宙天気」という言葉を見かけたことはありますか?雨がふったりするわけではありませんが、嵐だったり似たような現象が宇宙空間で発生し、私たちの生活に影響を及ぼすことがあります。

最近ではSpaceXが世界中にインターネットを届けようと進めているStarlinkプロジェクトに実被害が出ました。このプロジェクトでは、1万基を超える人工衛星を地球の周りに設置し、それらを組み合わせてインターネットを届ける始めているのですが、2022年2月3日に打ち上げられた衛星のうち最大40基が、宇宙天気の影響で利用不能になったと発表されています。

この原因の一つは「太陽活動」です。太陽の影響で地球の大気が膨張したためです。宇宙では普段は気にする必要がない空気ですが、地球の空気が膨張したことで空気抵抗が人工衛星にかかることとなります。それによって十分な地球周回スピードを確保できなくなり、想定していた軌道に乗ることができなくなり、墜落せざるを得なくなりました。

これ以外にも実際の被害は発生しており、「宇宙天気」は世界中で注目を集めています。本記事では太陽のように自ら輝く恒星を中心に「宇宙天気」に関連がある「フレア」の研究をしてきた専門家が、今注目の宇宙天気とはなにかを解説します。

積み上げられたStarlink衛星 Credit : SpaceX

宙畑メモ
SpaceXが展開するスターリンクに関して、もっと詳しく知りたい方はこちらがおすすめです。
https://sorabatake.jp/19526/

宇宙天気とは!?

Credit : NASA Source : https://science.nasa.gov/heliophysics/space-weather

冒頭でいきなり「宇宙天気」というワードが飛び出しましたが、そもそもどういうものなのかを説明します。

「天気」というと、気温や湿度といった地球の大気・環境の状態を表す単語として普段は利用していますが、地球上のみならず宇宙にも天気があります。宇宙の天気のことを特に「宇宙天気」と呼んでいます。人工衛星の破壊に寄与するプラズマや、宇宙飛行士の被曝に関わる放射線量など、宇宙空間・環境の状態などを含んでいます。

今後人類が月や火星含めて地球外への進出が進むほど、さらに普及していくことが予想されるのが「宇宙天気」です。

このように、今後身近になっていくだろう宇宙天気の中でも、特に理解しておくべきトピックをここではピックアップしてご紹介していきます。

太陽フレアによる経済損失は5兆円!?宇宙天気による実害

宇宙天気は地上に暮らしている私たちにとってはまだまだ遠い話だと思っていませんか?

実際はそのようなことはなく、既に宇宙天気が要因と考えられる被害は、身の回りでいくつも確認されています。例えばカナダにおける大規模停電や、人工衛星の破壊などの大きな経済損失も出ています。

「宇宙天気」に関する小難しい話をする前に、まずは実例を見ながら、「宇宙天気」について理解する準備をしていきましょう。

Credit : NASA Source : https://www.nasa.gov/mission_pages/station/multimedia/gallery/iss026e012474.html

宇宙活動への影響例

太陽フレアが放出した放射線によって、宇宙空間や飛行機に搭乗している人は被害を受けると言われています。

突然ですがクイズです。

地上で生活している場合の被曝量は年間1 mSv程度と言われています。これに対して国際宇宙ステーションに約半年間滞在する宇宙飛行士の宇宙空間での被曝量はどの程度だと思いますか?

正解は、50-180 mSv(ミリシーベルト)だとNASAは発表しています。宇宙飛行士の被曝量は生涯で600 mSv以下であることが望ましいとされています。

年間で50 mSvを超える被曝量であると、人体に健康被害が出ると言われているため、宇宙空間に今後人が進出していくことを考えると、この問題は避けては通れないのです。

Credit : NASA Source : https://www.nasa.gov/audience/forstudents/5-8/features/nasa-knows/what-is-the-iss-58.html

しかし、宇宙に出ていかなくても、宇宙からの放射線の影響を考えなければいけない場合があります。それは飛行機に搭乗しているときのことです。

そもそも、地上で宇宙からの放射線の影響を受けないのは、地球大気がそれらに対するバリアの役割を果たしているからです。そのため、上空に行けば行くほどバリアは薄くなっていき、宇宙からの放射線の影響は強くなります。

京都大学の山敷教授によれば、太陽フレア発生時に飛行機内で受ける被曝量は1時間あたり2 mSvになると言われています。例えば、1回のフライトで10時間乗った場合は20 mSvとなります。健康被害の基準として、年間50 mSv以下であれば良いとされている中で、この数値は無視できるものではなく、健康被害という面で注意が必要だということがわかります。

太陽フレアが発生した場合に、緊急運休をするなどを検討することも、理学研究の面から提言されています。その場合の経済損失は、年間で1,500ドル(日本円で17万円程度)と決して高くはありません。乗客や乗務員の健康被害を考慮するという面で、対策を講じる航空会社が今後出てくる可能性があります。

人工衛星への被害例

GPSや通信衛星、気象衛星など私たちは生活する上で実は多くの人工衛星サービスを利用しています。これらの人工衛星の運用に対して宇宙天気は影響を与えます。

今後、人工衛星がビジネス利用されていくことが増えていく中で、宇宙企業かどうかを問わず重要になってくるので、宇宙天気を知ることは重要であるのです。

地上への被害例

まず紹介するのは、太陽活動が原因となって生じる地上の大規模停電です。

太陽の表面では、「太陽フレア」という爆発現象が発生します。この影響で1989年にカナダのケベック州で大停電が発生しました。この停電による被害総額は650万ドルと言われています。

具体的な説明は後述しますが、太陽フレアによって放出された電気を帯びた粒子の影響で地球の磁場が乱され、それに影響を受ける形で地上の発電所や送電線に影響がでました。

1989年という今よりも世の中のデジタル化が進んでいない時代ですらこの経済損失です。デジタル化が進んでいる現代では、どの程度の経済損失になるのかを推定する研究も進んでいます。ケンブリッジ大学のOughtonらの研究によるとその研究によると、最悪のケースではアメリカだけで4.8兆円規模の被害が出ることが想定されています。この被害規模を減らすためにも宇宙天気の知識は重要となってくるでしょう。

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以上のように、宇宙空間から地上まで、宇宙天気は広い範囲に関連することがお分かりいただけたでしょうか?

以下では、宇宙天気を大きく乱す太陽フレアについてだけでなく、世界中の宇宙天気の取り組みや、実は内包されるロマンチックなオーロラについても解説していきます。

※1ドル=115.60円(2022/2/12時点)で計算

参考文献

・カナダケベック州の被害額

・太陽フレアによる被害額予想(Oughton et al. 2016)

・宇宙飛行士の被曝量に関する情報

・飛行機の経済損失及び被曝量

・被曝量の健康被害の目安の数値(その1)

・被曝量の健康被害の目安の数値(その2)

そもそも太陽フレアって何!?専門家がサクッと解説

Credit : NASA Source : https://encrypted-tbn0.gstatic.com/images?q=tbn:ANd9GcTjag3oKpm9LShhdDKz5X2Hq0iqlFds1oVXtSno2IP5_6rhspwuwS5BLyuKlVJLqgA9j3o&usqp=CAU

太陽フレアが原因で私たちの生活に実害がでることがお分かりいただけたでしょうか?それでは、宇宙天気にとって非常に重要な太陽フレアについての理解を深めていきましょう。

太陽フレアを一言でいえば「太陽表面で発生する爆発現象」です。太陽フレアの発生に伴ってさまざまなモノが放出されます。電波やX線などの放射線や、電子や陽子などの電気をおびた粒子が飛び出してきます。

すると、地球上空の電離層や地磁気を乱して、磁気嵐と呼ばれる現象を引き起こします。簡単にいえば、「地球の磁場を強めたり変形させる現象」です。この影響で、カナダの電線に過剰な電流が流れたり、停電や発電所の破損を起こしたり、地球の高層大気を加熱して大気が膨張したりすることがありました。

Credit : Harverd University Source : https://news.harvard.edu/gazette/story/2021/02/new-theory-behind-asteroid-that-killed-the-dinosaurs/

太陽系における過去最大級の太陽フレアは、1 x 1025J(ジュール)のエネルギーを放出しました。

25桁にもなる数字は全くピンとこないかもしれませんね。どのぐらいすごいエネルギーかというと、一説として地球上の恐竜を絶滅させた一因となっているチェクシュルーブ衝突体と言われる隕石が衝突した時のエネルギーと概ね同じだと言われています。

学術研究でも明らかになっていますが、この規模の太陽フレアは、1-10年に1度発生すると言われており、その頻度の高さには驚かされます。上で書いた放射線や粒子の量は、このエネルギーが高くなればなるほど増加するため、宇宙天気の観点から見ても危険性は明らかなのです。

参考文献

・恐竜を絶滅させた隕石のエネルギー

・太陽フレアの発生頻度

1万年に1度の大爆発?太陽はどれほど大きな爆発を起こすのか

太陽フレアの危険性はご理解いただけたと思います。その中で、今太陽フレア関連で最も注目されているトピックの一つが「どれほど大きなフレアが発生しうるのか?」という問題です。

観測史上、最大規模の太陽フレアでの被害では、大規模停電を誘発し数100億円規模の損害を出しています。同レベルの太陽フレアが発生した時の現代での経済損失の予測は約5兆円です。今後、さらに大きな太陽フレアが発生しうるかどうかは、人類の宇宙進出にとって非常に重要になることは明らかなのでより詳細にみていきましょう。

Credit : 京都大学 Source : https://www.kyoto-u.ac.jp/ja/research-news/2019-05-01

さっそくですが「スーパーフレア」という言葉をご存知でしょうか?

これは、太陽における過去最大規模のフレアに対して10倍以上大きいエネルギーを放出するものを指しています。主に太陽と特徴(温度や大きさなど)が似た太陽型惑星で発生する爆発に対して、スーパーフレアという呼称が用いられます。

京都大学の前原氏らの研究で、過去最大の太陽フレアに対して最大で1,000倍大きいスーパーフレアが発見されました。この研究から、太陽でこのような巨大フレアが発生する可能性が0ではないと考えられる様になり、世界中で注目されるようになりました。

過去最大級の太陽フレアでの経済損失だけでもかなりの額であることから考えると、1,000倍も強いフレアが発生した時の被害は、甚大なものと容易に想像できます。

ただし、過去最大規模やその10分の1程度の比較的巨大な太陽フレアの発生頻度が年に1回あるかどうかなのに対して、1,000倍も大きなフレアが発生する確率は1,000年から1万年に1度程度です。可能性があるという指摘が出てきているものの、このレベルの爆発にはそこまで気を使う必要はないのかもしれません。

参考文献

・天文月報

・Superflare Nature論文

世界が注目! 国内外で進む宇宙天気への対策

経済損失や健康被害を出す危険性があることから「宇宙天気」への理解は重要な課題であることをお伝えしてきました。さらに、2021年には、国連防災機関が宇宙天気を対処すべき災害の一つとすると発表するなど、注目度はさらに高くなっています。

本章では世界中で宇宙天気に関する政府機関や民間団体がデータ提供や理解促進に動いている具体的な活動内容を紹介します。

NASA Space Weather Prediction Centerの様子 Credit : NASA/SWPC Source : https://www.swpc.noaa.gov/content/contact-us

まずはアメリカの取り組みです。アメリカは2007年に「Sapce Weather Prediction Center(宇宙天気予報センター)」を設立しています

NASA、NOAA(アメリカ海洋大気庁)を中心として、他アメリカの機関と連携し、宇宙天気に関する研究やデータ提供を行っている組織です。

現在、太陽と地球の間に、NOAAの人工衛星が滞在し、太陽から放出される電気を帯びた粒子などの速度・磁場・温度・密度などのデータをその場で観測していたります。そのほかにもシンポジウムなども開催し、世界の宇宙天気やその理解促進をリードしています。

NICT宇宙天気予報センターの様子 Credit : NICT Source : https://swc.nict.go.jp/knowledge/

日本国内でも情報通信研究機構(NICT)が宇宙天気に関する研究を推し進めています。宇宙天気予報センターは、前身の設備も含めると1949年から活動を行っている由緒正しい機関になります。

宇宙天気に関する研究だけでなく、太陽活動や地球周辺でのその影響に関するデータを取得及び分析し、24時間365日の有人運用による予警報(宇宙天気予報)を関係機関に提供したりもしています。

実社会への影響と、研究の橋渡しをすることも推し進めており、「科学提言のための宇宙天気現象の社会への影響評価」というレポートを公開するなどさまざまな取り組みを進めています。

民間の宇宙団体でも、いくつか動きが出てきています。宇宙ビジネスに関わるコミュニティの一つであるABLabでは、宇宙天気予報に関する活動を積極的に進め、ビジネスとの関わりやその危険性を伝えるアウトリーチ活動だけでなく、「宇宙天気キャスター」という新たな役割を生み出しています

政府の動きだけでなく、このような民間からのアウトリーチ活動も、「宇宙天気」が一般化していくにあたり非常に重要な役割となっていくと思われます。

Credit : ABLab

世界中で研究の枠組みからだけでなく、ビジネス、社会への影響を検討する場面が増え、認識も高まっているため、今後宇宙天気が社会に浸透していくのに多くの時間はかからないことでしょう。

※2007年まではSpac Environment Center(宇宙環境センター)として運営

参考資料

・Space Weather Prediction CenterのHP

・NICT「宇宙天気予報センター」ホームページ

・NICT「科学提言のための宇宙天気現象の社会への影響評価」

運任せは時代遅れ!宇宙天気予報がオーロラ発生を言い当てる

Credit : NASA Source : http://www.nasa.gov/sites/default/files/thumbnails/image/colorfulaurora.jpg

宇宙天気を知ることは、自らの身を守るために重要であることをここまで書いてきましたが、実はオーロラを予測することができるという点でも有効です!

北欧名物のオーロラは時の運ではなく、発生する理由は科学的に解明されていて、太陽フレアが関係しています。オーロラも、宇宙天気に含まれる重要な現象なのです。

太陽フレアによって放出された電気を帯びた粒子などの影響により、磁気嵐と呼ばれる現象を引き起こすことは上述しました。この時、磁場の強度が変化するだけでなく変形させる作用もあります。

地球は南極から北極にかけて、大きな磁場構造があり、それぞれに磁場の足元が集まっています。太陽による磁場の変形によって、その位置は変化して、より低緯度(南極や北極よりも赤道に近づいていく方向)にも移動していきます。そしてその磁力線にそって飛んできた粒子が地球に降り注ぎ、空気と反応することでオーロラとなるのです。

Credit : NASA Source : https://www.nasa.gov/mission_pages/sunearth/news/gallery/Earths-magneticfieldlines-dipole.html

このように、太陽フレアや太陽の活動に伴って起きる地球磁気への影響によってオーロラが発生するので、太陽の活動に注目していれば、オーロラが見えるタイミングを予測することができます。

つまり、宇宙天気はオーロラ予報にも繋がる面白い分野なのです。実際に、オーロラアラートというサービスもNICTから提供されていて、まるで天気予報のようにオーロラの発生を予測できるようになってきています。

北欧の旅行代理店やオーロラツアーを行っている会社でも、オーロラ発生予測をサービスとして展開しており、既に旅行市場では「オーロラは運任せ」ではなくなっています。

【オーロラ予測を行っている会社】
・YM Tours Lte.
・AURORA REYKJAVÍK

まとめ

今世界中で注目を集めている宇宙天気について説明しました。宇宙天気に密接に関わる太陽フレアを軸に、大停電など身の回りに起きうることや、オーロラなど実際の出来事などを紹介したことで、少しは身近に感じていただけたのではないでしょうか。

今後宇宙へ人間が進出していくことが増えていき、「今日の天気は何かな?」と検索する中で「今日の”宇宙天気”はどうかな?」という機会が出てくるかもしれません。そんな時に今回の記事が少しでも参考になれば幸いです。
これは、太陽における過去最大規模のフレアに対して10倍以上大きいエネルギーを放出するものを指しています。主に太陽と特徴(温度や大きさなど)が似た太陽型惑星で発生する爆発に対して、スーパーフレアという呼称が用いられます。

京都大学の前原氏らの研究で、過去最大の太陽フレアに対して最大で1,000倍大きいスーパーフレアが発見されました。この研究から、太陽でこのような巨大フレアが発生する可能性が0ではないと考えられる様になり、世界中で注目されるようになりました。

過去最大級の太陽フレアでの経済損失だけでもかなりの額であることから考えると、1,000倍も強いフレアが発生した時の被害は、甚大なものと容易に想像できます。

ただし、過去最大規模やその10分の1程度の比較的巨大な太陽フレアの発生頻度が年に1回あるかどうかなのに対して、1,000倍も大きなフレアが発生する確率は1,000年から1万年に1度程度です。可能性があるという指摘が出てきているものの、このレベルの爆発にはそこまで気を使う必要はないのかもしれません。