宙畑 Sorabatake

ビジネス事例

東京都デジタルツイン実現プロジェクトに学ぶ、DXの進め方のコツ!

東京都が進める「デジタルツイン実現プロジェクト」。その中に衛星データを利用した実証事業もあります。担当の方に、進め方のコツを詳しくお伺いしてきました!

近年、世界中でDXが急速に進む中で、メタバースやデジタルツインというキーワードもよく耳にするようになってきました。デジタルツインは、収集された現実世界の情報をもとにして、仮想空間(メタバース)に双子のように再現したものです。

東京都が、このデジタルツインを使って、課題解決と都民のQOL向上に向けて取り組んでいることをご存じでしょうか?その名も「デジタルツイン実現プロジェクト」。

〇東京都デジタルツイン実現プロジェクト
https://info.tokyo-digitaltwin.metro.tokyo.lg.jp/

同プロジェクトでは、2030年までにデジタルツインを実現し、2040年までに継続的な改善サイクル構築に発展することを目指しているとのこと。プロジェクトの成果はHPでオープンにされており、2030年までのデジタルツイン実現に向けて着実に進んでいるようです。

デジタルツイン実現プロジェクトを主導する東京都デジタルサービス局の元島様、髙橋様とプロジェクトの利用者側の立場である都市整備局のご担当者の方に、衛星データを使ったプロジェクトや、プロジェクトを進めるにあたって大切にしていること、成功のコツを聞いてきました!

東京都デジタルサービス局デジタルサービス推進部オープンデータ推進担当課長
元島大輔さま

(経歴)メガバンクに新卒入社、営業・経営企画・人事関連業務に従事。2020年東京都へ入都し、デジタルツイン実現プロジェクトの主管として事業全般をリード。※2022年9月末で任期満了により東京都退職。

東京都デジタルサービス局デジタルサービス推進部データ利活用担当課長
髙橋大輔さま

(経歴)2005 年東京都庁入庁。これまで庁内各局での勤務を経て、2022 年4月より現職にてデジタルツイン実現プロジェクトを担当。

(1)東京都が進めるデジタルツイン実現プロジェクトとは

目指すは、都民のQuality of Lifeと都政のQuality of Serviceの向上

宙畑:まず、東京都が進めるデジタルツイン実現プロジェクトについて教えて頂けますか。

髙橋さん(以下敬称略):我々がデジタルツインで目指しているのは、都民のQuality of Lifeと都政のQuality of Serviceの向上です。現実空間を良くするためのツールとしてデジタルツインを活用する、ということを明確化しています。データとしては、リアルタイム情報、点群データ、ハザードマップなどのように平面の地図状になっているデータ、ポイントデータまで色々なものに対応します。衛星データもその1つです。

宙畑メモ:宇宙産業の市場規模
レーザーなどを使って現実空間の3次元形状を計測したデータ。レーザーが照射した点の集合になるため、点群(てんぐん)と呼ばれる。

Source : https://info.tokyo-digitaltwin.metro.tokyo.lg.jp/roadmap/

デジタルツインの構成要素を、「システム」、「データ」、「インフラ」、そしてそれらを上手く回すための「付帯要素」として整理をし、これらを一つずつ整備をしているのが現状です。

Source : https://info.tokyo-digitaltwin.metro.tokyo.lg.jp/roadmap/

宙畑:デジタルサービス局は、どのような役割を担っているのでしょうか。

髙橋:我々が提供するのは「システム」の部分です。データを持っているのは東京都の各局の事業なので、各局のデータをまとめて使えるようにし、重ねられるようにするという推進も、我々が行っています。

宙畑:どのようなゴールを想定されていますか。

髙橋:2030年までに、リアルタイムデータを用いたデジタルツインが、意思決定、政策立案や日常業務に全分野で活用されている状況がゴールです。

広範囲の監視ができる衛星を活用

宙畑:β版事業創出「衛星データを活用した予兆検知高度化検証」では、どのような活動をされているのでしょうか。

元島さん(以下敬称略):まずは、行政の大事な役割である防災分野で、衛星データがどれくらい使えるのかという基本情報の整理をしました。これはホームページで一般にも公開しています。その後、ユースケースの選定をし、実際に検証するというフェーズで進めています。

調べていくと衛星データは「広域」で「定期的」であることがキーワードになりそうだということが分かったので、衛星データと相性が良さそうな局にヒアリングをして、ユースケースとして「不適正盛土の監視」、「山岳道路斜面の変状把握」、「台風による離島港湾の被害状況把握」の三つを検証することになりました。

東京都がβ版事業として取り組む衛星データを活用した予兆検知高度化検証の3つのユースケース Credit : 東京都

宙畑:使用する衛星データは全て合成開口レーダ(SAR)なのですね。なにか理由があるのでしょうか。

元島:そうですね。光学衛星のデータを用いるという発想もあるのですが、それだと用途に限界があると言うか、光学画像は使い道がわかるというのもあり、わざわざ検証する必要もないというのが正直なところです。

また、光学画像から車などの物体検出等をする場合、AIを 組み合わせなければいけないので、準備コストもかなりかかるので、まずはSARからと思っています。

宙畑:なるほど。

元島:1つ目の「不適正盛土の監視」は、解析作業はある程度見えて来ていて、どうやって実務に応用していくかというところを検証中です。

都市整備局担当者:現時点では、検知できるというところまでわかったので、来年度以降は実運用に向けて、検知した結果をどう処理するか検討していきたいと思っています。

宙畑:実際の利用者サイドとして、衛星データがどれくらい使えそうか、感触はいかがですか。

都市整備局担当者:変化があったということは分かっているのですが、それが本当に盛土かどうかや、目的とする盛土かどうかという点は検証中です。盛土の規模が分かるとより実用性が高まると思っています。

宙畑:現状の不適正盛土対策として、都では具体的にどのようなことをされているのでしょうか。

都市整備局担当者:現状の不適正盛土の監視は、行政職員によるパトロールや、住民の方からの通報に頼っています。この実証に参加したきっかけは、昨年度の熱海市伊豆山土石流災害を受けて、我々が所管する宅地造成等規制法が改正されたことです。

法改正により、今後、不適正盛土を監視すべき範囲が大幅に拡大することから、広域的に監視する方法を探っていました。そんな中、デジタルサービス局に相談したところ、衛星データ活用のお話を頂きました。

宙畑:衛星データ以外のアプローチも検討されたのでしょうか。

都市整備局担当者:当初は、デジタルツイン実現プロジェクトで整備する点群データに興味を持ちました。点群データが、1年やさらに短いスパンで更新できるのであれば、地形の変化も監視できると思ったのですが、我々の求める頻度には合致しないようでした。衛星データであれば少し精度が落ちるものの、低コストで情報が得られるのではないかと思いました。

宙畑:次に、2つ目の「山岳道路斜面の変状把握」はいかがでしょうか。

元島:東京都内でも、予兆なく崖崩れが発生することがあるのですが、このような崖崩れは予知できるのかを検証するのが目的です。過去データを集めて、経年でどれくらい変化があったのかを見るのですが、危険幅である累積の変動が何ミリ以上という変化が見つかるのか試しています。

これで予兆がわかるのだったら、きっと日常的に使っていただけるのではなかろうかということで、道路管理の所管である建設局と一緒に進めています。

宙畑:全体のスケジュールはどのような感じでしょうか?

元島:検証結果が良ければ早ければ次年度から実際にやってもらいますし、使えないのだったら技術の進化まで待ちます。今は、これが使えるか使えないかを検証している段階です。

宙畑:では最後に、3つ目の「台風による離島港湾の被害状況把握」について教えていただけますか。

元島:これは、天候に左右されず、荒天時でも情報が得られる(SAR衛星の)特徴を生かし、離島港湾の被害状況を見ることができるのはどこまでかという検証です。具体的には、島にあるいわゆる船が着く桟橋ですが、それがどの程度ずれたのが見えたのかを検証しています。この時は Sentinel-1を使ったのですが、見えるけど粗かったですね。

宙畑:この検証で出てきた結果をどう使うかは、それぞれの局が判断することになるのですね。

元島:はい。あとは、どこまで精度を求めるかというのも、日常的にこれを管理している方々でなければ判断できないので、このケースは港湾局に協力してもらって、一緒に考えているというところです。

(2)プロジェクトの進め方のツボ

役割分担の妙

宙畑:ここまでお話を伺って、デジタルツイン実現プロジェクトで行われている検証は、まず、東京都の各局の人達に使って頂くことを想定して進められているということなんですか。

元島:そうです。まずは自分たちで使うものを作って繋げていくという発想です。

ある意味東京都庁の DXであり、新規事業という位置づけです。各局は、既存の業務を抱えている中、新しい取り組みを考え、実施していく時間がなかなかない状況もあり、我々デジタルサービス局が色々な技術について「こんなことできるんじゃないですか」というご提案をし、一緒にやりましょうよ、という感じで進めています。

実際に都庁の中で成果を使う方々を増やしていけば、各局の事業のクオリティやスピード感がアップし、結果的に都民の方が幸せになっていく、という仕組みを考えています。

宙畑:先ほどご紹介頂いた「衛星データを活用した予兆検知高度化検証」では、かなり技術的な検討が進んでいるように感じましたが、リモセンのプロが入っているのでしょうか?

元島:もちろんです。

宙畑:なるほど。ユースケースの検討にあたっての情報収集には、コンサルの方とも協力されていますよね。専門家に頼るべきところは頼り、全体の取りまとめや意思決定はデジタルサービス局さんできちんと行われている印象です。上手に様々なプレイヤーの役割分担をされているのも、うまくいくコツなのかなと、勉強になりました。

宙畑:デジタルサービス局の皆さんが、東京都の各局に提案をしに行く際に、意識されたことはありますか。

元島:衛星データありきではなく、実際に業務を遂行されている局の視点に立って、「これを入れると各局の仕事の中でどんな良いことがあるか」を常に考えながら、提案をしていましたね。

すぐ結果が出るものをまず作る

宙畑:大規模なプロジェクトだと思いますが、どのような仕事の進め方をされていますか。

元島:我々のチームの構成は、中途採用組、民間出身者が非常に多いので、ゆっくりとというよりは、全力で走りながら早いものを出していくというスタイルの仕事の進め方ですね。

例えば、ユースケースの検討では、すぐに結論が出るだろうという観点も、選定基準としてかなり強めに出しています。ユースケースとして各局で使って頂きたいというのがありましたので、検証に何年もかかるものを悠長にやってる暇は正直なかったです。どうしても結果が欲しかったので。数年後になればできるというものよりは、現時点の技術でできることをぜひ導入いただきたいという観点です。

データ活用のGO/NOGO判断

宙畑:技術導入の意思決定するにあたっての判断基準やポイントを教えてください。

髙橋:基本的には費用対効果が重要です。予算を取るわけですので、予算要求という中でそのジャッジは避けては通れません。一方で、新技術やDXに関わるものについては、その費用対効果は当然重要ではあるものの、それをなかなか示しきれないところもありますし、実証実施について後押しする空気も最近の庁内には少しあると感じています。

都市整備局担当者:B/C(費用便益比)ではっきり示すことができればいいのですが、例えば、先ほどの不適正盛土の監視は、不適正盛土を監視することが最終目標ではなく、不適正な盛土に対してきちんと対処をし、盛土に伴う災害により都民に被害が起こらないようにするのがゴールです。

しかし、これをやったからどうだ、やらなかったからどうだった、という効果は示せません。監視する方法の中で最もコストが安く済んで、ランニングコストとしても現実的な費用でできるというところがポイントになってくるかなと思います。

宙畑:なるほど。山岳道路斜面の変状把握については、どれくらいの費用感であれば使ってもらえるか、という感覚はありますか?

元島:具体的な金額は出せませんが、現在、予兆検知のための検査は、車を走らせて人がやってるんですよね。その人が10年後20年後も継続的に確保できるかと考えた時、その人たちの代替コストが生まれてくると思っています。それをこの技術でカバーできるのであれば、それが使える予算になるのだろうなと思ってます。

(3)まとめ

東京都のデジタルツイン実現プロジェクトを進める皆様にお話を伺ってきました。

HPを見ると、魅せ方がすごく上手で、なんだかすごくかっこいいプロジェクトが進められている!とワクワクするのですが、ご担当の方々のお話を伺っていると、営業先のことや衛星データを含めた様々なデータについてすごく勉強されていて、地道な努力と、熱い気持ちがあってこそなのだと感じました。

また、チームメンバーに民間出身者が多く、スピード感を持って進められている点も印象的でした。検証の結果、すぐに改善が見込まれるものはすぐに実務に反映していくというアジャイル思考は、日々の発展が著しいデジタル分野でも特に重要な考え方だと感じました。

東京都のデジタルツイン実現のゴールとして設定されている2030年に、どのような世界になっているのか楽しみです!