宙畑 Sorabatake

ロケット・衛星

【SPACETIDEレポート】2022年の宇宙ビジネス振り返りとSPACETIDE発のアクセラプログラムとは

2022年12月16日に開催された「SPACETIDE 2022 YEAR-END」で語られた2022年の宇宙産業の振り返りとこれからの宇宙産業を加速させるだろうアクセラプログラムについてまとめました。

(1)はじめに

宇宙ビジネスカンファレンス「SPACETIDE 2022 YEAR-END」が、NIHONBASHI SPACE WEEK 2022の最終日である2022年12月16日に開催されました。

2021年は「宇宙ビジネス、事業化ステージのはじまり」をテーマに、事業化が進む宇宙ビジネスの最前線について議論されましたが、2022年は宇宙産業以外の⺠間企業やスタートアップ企業の宇宙ビジネスへの参入が進み、宇宙と私たちの生活がぐっと近づく一年となりました。

今回は「宇宙ビジネスは、新たな価値を届ける」をテーマに掲げ、事業化が進む中で求められる新たな価値について業界を代表する参加者とともに議論されました。

2022年宇宙ビジネスの振り返りと共に、宙畑編集部が宇宙産業成長の鍵と注目する宇宙分野のスタートアップに特化したアクセラレーションプログラム「AXELA」についてご紹介します。

(2)宇宙大忘年会~メディアからみる宇宙ビジネスの重大ニュース~

セッションのなかで取り上げられた宇宙ビジネスの重大ニュースと共に、2022年を振り返っていきましょう。

月面リバイバル

近年、月面探査がアポロ計画以来の大きな盛り上がりを見せていると切り出したのは、株式会社ニューズピックスの中居 広起氏でした。

2022年は、人類の月面での持続的な活動と、その先に有人火星探査を目指すアルテミス計画の第一歩を象徴する出来事として、NASAが開発する大型ロケットSLSの打ち上げがありました。

月面着陸技術実証また、セッションで盛り上がったのは、2022年12月に打ち上げられた日本の宇宙ベンチャーispace社の月着陸船「HAKUTO-R」です。来年4月末に月面へ着陸する計画となっており、成功すれば民間企業で初めての月面着陸となります。

「HAKUTO-R」は月面着陸後も、月輸送サービス構築に向けた荷物の運搬ミッションなどが計画されており、将来的な宇宙資源売買など宇宙ビジネスの可能性に目が離せません。

日本で「スターリンク」開始

株式会社日本経済新聞社 小玉祥司氏にとっての今年の重大ニュースは、衛星通信の民間活用でした。

ロシアの侵攻によりインフラが破壊されたウクライナへ、イーロン・マスク氏が衛星通信「スターリンク」を使用した高速通信サービスを提供したことは、多くの人にとって記憶に新しいニュースだと思います。2022年10月には、アジア初となる日本での提供も開始しました。

持ち運び可能な地上アンテナを使うことでインフラ整備が難しい海上などでも高速なインターネット回線を利用でき、災害時の通信確保も期待されています。

シームレスな宇宙生活を目指して

若田宇宙飛行士と共にISSへ送られた宇宙と地上で使える日用品についての話題を取り上げたのは、株式会社マイナビの小林 行雄氏です。

宇宙生活の困りごとをまとめた「Space Life Story Book」を元に、企業から課題解決アイデアを募集し今回9つの日用品が選ばれました。

例えば、水が使えない宇宙での暮らしをより良くするため、飲み込んでも安全な歯磨き粉や、水を使わずに衣服の清潔を保つ事ができる洗浄液を含んだシートが今回ISSへ送られています。

注目は、これらの日用品が宇宙空間だけでなく地上でも使用できる点です。具体的には、地上でも水の使用が制限される断水された地域などでの使用が期待されています。

将来的には、宇宙と地上が同じものを使うシームレスな時代も夢ではないでしょう。

(3)宇宙産業成長の鍵~SPACETIDE「AXELA」に注目が集まる~

このセッションにパネリストとして参加したのは、

・Letara株式会社 共同代表取締役CEO/北海道大学大学院工学研究院 特任助教 ケンプスランドン氏
・国立研究開発法人 宇宙航空研究開発機構(JAXA) 経営企画部推進課主査/スターシグナルソリューションズ代表 岩城陽大氏
・将来宇宙輸送システム株式会社代表取締役/一般社団法人 SPACETIDE/AXELA Program Manager 畑田康二郎氏

の3名です。モデレーターとして、宇宙エバンジェリストとして活躍される青木英剛氏が登壇しました。

3社が語る宇宙ビジネスの課題

セッションは「シード期の宇宙ベンチャー企業におけるhard thinghsはどんなものがありますか」というモデレーター青木氏の投げかけで始まりました。

小型人工衛星用推進ユニットを開発するランドン氏は、実証実験と衛星打ち上げにかかる資金調達にジレンマがあると切り込みます。JAXAに所属しながら宇宙ベンチャー代表を務める岩城氏からも宇宙検証のハードルとして資金面はもちろん、仮説検証での予期せぬ事象や契約など乗り越えなくてはならないハードルが沢山あると説明します。

経済産業省への入省経験を持ちながら今年5月に宇宙ベンチャーを立ち上げた畑田氏からは、事業継続に向けて慎重に検証を進める一方で、失敗しながら素早く軌道修正し最適解を導くバランスの難しさの指摘がありました。

ベンチャー企業にとって宇宙検証に集中しながら事業を成長させる環境整備が、今後の宇宙ビジネスをさらに盛り上げる1つの鍵になるのではないでしょうか。

SPACETIDEからうまれたアクセラレーションプログラム「AXELA」とは

日本発の宇宙ベンチャーを増やし、企業の活動を加速させる仕組みづくりとしてSPACETIDEが2022年に新しく始めたのがアクセラレーションプログラム「AXELA」です。

宇宙産業発展の新たなエコシステムを作りたいとビジョンを掲げるAXELAの特徴はシード期スタートアップを対象とした宇宙特化型のアクセラレーションプログラムであること。

プログラムの内容は、事業アイディアのブラッシュアップを目的とした適切なマッチングの機会提供や、事業化へ向けたアクセラレーションとして資金調達に向けた機会提供、支援プログラムなどが検討されています。

2022年12月から2023年1月の上旬まで対象スタートアップの選定、2023年1〜3月にかけてアクセラレーションプログラムの提供が行われ、4月に成果発表会が予定。有望なスタートアップを発掘・支援し、宇宙ビジネスの存在感を高めるプログラムとなっています。

AXELAが生み出す新たな価値

AXELAの宇宙産業やビジネスに精通したプロフェッショナルによる手厚い支援と、SPACETIDEの繋がりを活かした企業とのマッチングは、宇宙検証や事業成長のハードルをかかえるシード期のスタートアップにとって心強い支援となることは間違いないでしょう。

AXELAの先には世界で活躍できるスタートアップ創出と、持続的に日本宇宙ビジネスの競争力を向上させ、宇宙産業全体の発展・拡大につながることに期待が高まります。

AXELAに興味があるシード期のスタートアップの方はぜひSPACETIDEに問い合わせをしてみてください。

(4)2023年以降に向けて

2023年も宇宙産業が盛り上がるイベントが目白押しです。最後に、宙畑編集部が注目するイベントを2つピックアップして紹介します。

民間月面着陸を競う日本~YAOKI or HAKUTO-Rの着陸~

「HAKUTO-R」の月面着陸が2023年4月を予定していることは先述の通りですが、世界初の民間月面着陸を争うチームが実は日本にもう1つあります。

世界初の民間月面探査も狙う株式会社ダイモンの月面探査車「YAOKI」です。手のひらに乗るほどの超小型、衝撃に強く倒れても走り続ける設計となっており、アストロボティック・テクノロジー社の月着陸船ペレグリンに乗って月に送り込まれます。

どちらの月面着陸が先になるのか、いずれにせよ民間企業による着陸になるということで、SPACETIDEでも話題になっていました。

新型基幹ロケット「H3」の打ち上げ、「だいち3号(ALOS-3)」は軌道投入なるか

JAXAは、新型基幹ロケット「H3」について、2023年2月12日に打ち上げると発表しました。

ペイロードとして、高分解能と広視野を両立させた先進光学衛星「だいち3号(ALOS-3)」が搭載されます。

ALOS-3は、地球の陸域全体の観測を目的とした衛星で、80cmの高解像度ながら観測幅が70kmという広さを持つことが特徴です。蓄積した平時の画像や、災害発生時の画像は防災・災害対策等に活用される予定です。

来年の「H3」打ち上げと「だいち3号(ALOS-3)」の軌道投入は注目のイベントです。

以上、SPACETIDEの振り返りレポートとSPACETIDE発のアクセラレーションプログラム「AXELA」の注目ポイント、2023年以降の注目イベントを紹介しました。

SPACETIDE内でも語られていましたが、宇宙ビジネスは毎年必ず大きなイベントやホットトピックがうまれています。特に2022年はSPACETIDEが掲げていた「宇宙ビジネスは、新たな価値を届ける」をまさに体現していた年だったのではないでしょうか? 2023年はどんな1年になるのか、とても楽しみですね。

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