宙畑 Sorabatake

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【2023年の仕事始めはこの記事から】PESTで振り返る2022年の宇宙ビジネスニュースまとめ

2022年、宇宙ビジネス業界で起きたニュースをPEST形式でまとめました。

あけましておめでとうございます。
旧年中、宙畑をお読みいただいた皆様、ご協力をいただいた皆様に感謝いたします。

本年もより良い情報を皆様にお届けできるよう、宙畑一同精進していきたいと思いますので、どうぞよろしくお願いいたします。

さて、2023年最初の記事は、毎年恒例となっている宙畑編集部による昨年の宇宙ビジネスニュースの振り返りと2023年の宇宙ビジネス予想です。

2022年、宙畑では208本の国内外の宇宙ビジネスニュースを公開してきました。

今回はこれらのニュースをPEST(Politics(政治)、Economy(経済)、Society(社会)、Technology(技術))の4種類に分類、それぞれの観点でニュースを解説していきます。

宙畑のこれまでの宇宙ビジネスニュース振り返り記事

(1)Politics:政治

ロシアのウクライナ侵攻が宇宙ビジネスのさまざまなシーンに影響をあたえる

宇宙ビジネスにとどまらず全ての分野において、2022年一番の政治的トピックは、ロシアによるウクライナ侵攻が始まったことでしょう。

衛星データを使って、ウクライナ侵攻の様子が伝えられ、分析が行われたほか、衛星通信サービスStralinkがウクライナで無償提供されるなど、宇宙技術を使った様々な支援が行われました。

一方で、ロシアが大きな役割を担っていた商用打ち上げサービス市場では、当初ロシアのロケットで打ち上げを予定していた企業が変更を余儀なくされるケースも見られました。通信衛星のコンステレーション構築を進めるOneWeb社はロシアのウクライナ侵攻の影響で22.92億米ドルの減損処理をしています。

また、同じくロシアが重要な役割を果たしている国際宇宙ステーションは、現在は計画通り運用が行われていますが、今後どうなっていくのか、不透明な状況です。

NASAがロケット関連企業12社と契約。打ち上げ機会を提供し、市場育成を狙う

2022年1月27日、NASAは政府の科学技術衛星の打ち上げを委託する企業として、12社を選定しました。

期間は5年間で、契約金額は最大総額3億ドル(約350億円)と公表されています。このプログラムはVADR(Venture-Class Acquisition of Dedicated and Rideshare)と呼ばれ、NASAが打ち上げ機会を提供することで、市場を育成することが目的です。

イギリスでは、人を載せた打ち上げに向けた整備を始めており、2022年11月南西部にある「スペースポート・コーンウォール」が国内で初めてスペースポートのライセンスを取得したことを発表。Virgin Orbitが打ち上げを予定しています。

また、日本では、2022年5月、宇宙基本計画工程表の改訂に合わせて岸田首相がロケットの国内の打ち上げ能力を拡充することを明言しています。具体的にどのような施策で、打ち上げ能力を強化していくのか注目です。

欧州のSAR衛星「Sentinel-1B」、復旧困難で観測終了。ESAは後継機の打ち上げを前倒す予定

政府系の地球観測衛星で2022年に大きなニュースとなったのは、8月のSentinel-1Bの観測終了のニュースでしょう。

Sentinelは欧州が進める地球観測衛星シリーズで、これまで7機の衛星が打ち上げられ、運用されています。Sentinel-1シリーズは、合成開口レーダー(SAR)を搭載した衛星です。

Sentinelシリーズの地球観測衛星は、無料でデータが公開され、1週間に1度程度の観測頻度であることから、様々な衛星データビジネスのベースラインとして使われています。

これまで2機体制だったSentinel-1が1機となり、観測頻度が二分の一になってしまうことで影響を受ける衛星データビジネスは、広範囲に及ぶと考えられます。

アルテミス計画の進展とそれに伴うISS運用の継続

2022年、国際的に各国政府の間で進められたプロジェクトは「アルテミス計画」です。

2022年は6月にフランスが20ヶ国目の署名国になり、有人月面着陸の候補地を発表、宇宙服や月面探査車、月での原子力発電システムなど、様々な領域で、開発を担う企業が発表されました。

日本と欧州は、国際宇宙ステーション(ISS)の運用を、すでに合意している2024年から2030年まで延長することを決定。アルテミス計画の実証の場として無くてはならない場としています。すでに2021年12月に延長を決定していたアメリカに加えて、ようやく2024年以降の国際宇宙ステーションの道筋が見えた形になります。

(2)Economy:経済

SpaceflightがSpaceXからのサービス終了通達を受領

世界中のロケット打上事業者と協業して衛星ライドシェアサービスを展開しているSpaceflight, Inc.が、SpaceXのRideshare Teamから今後のサービス連携を終了する通達を受け取りました。

Spaceflight, Inc.は2020年2月に三井物産と山佐が買収し、現在は三井物産エアロスペースが日本総代理店を務めている、日本とも関わりの深い企業です。

衛星のライドシェアサービスは、高まる小型衛星の打ち上げ需要を狙って大型ロケットとの間をつなぐシェアリングビジネスとして、数社が参入している分野ですが、小型ロケットという打ち上げ手段も台頭する中、今後の需要と供給のバランスがどちらに傾いていくのか、注目です。

Rocket Labが通信衛星のバスの設計と製造を165億円で受託

2022年2月、小型ロケットベンチャーでありながら独自の衛星バスシステムPhotonの開発も行うRocket Labが、通信衛星Globalstarの次世代機17機の設計と製造をカナダの衛星メーカーMDAから約165億円で受注したと発表しました。

地球観測衛星以上に、たしかな実績が求められる商用通信衛星バスの設計と製造において、古参衛星メーカーであるMDAが、新興の、しかもロケットベンチャーであるRocket Labを選んだことは驚きです。

Rocket Labは近年宇宙機の機器を開発する企業の買収を進め、ロケットだけでなく、衛星製造もできるようにするなど垂直統合を進めています。

背景には、資金調達を行っていくベンチャーとして、売上げの拡大が必要であるためと考えられ、今後ますますいろんな場所でRocket Labの名前を目にすることが多くなるかもしれません。

安全保障における衛星データ利活用に注目集まる

ロシアのウクライナ侵攻の影響から安全保障分野における衛星データの利活用に注目が集まった1年でした。欧米の衛星データがウクライナに提供された他、衛星データを用いた報道も世界各国で行われました。

また、欧州が無償で提供するSentinelシリーズのデータやアメリカが無償で提供するLandsatデータをもとに、個人がSNS上でロシアのウクライナ侵攻の状況をチェックした結果を投稿していたということは衛星データがオープン化することにより、これまで衛星データを扱ってこなかった人が扱えるようになる事例のひとつだったように思います。

また、アメリカ国防総省の諜報機関である米国家偵察局(NRO)が衛星事業者3社と最大10年間、約1300億円規模の契約を締結したとの発表があったのも2022年でした。衛星データのスペックやデータ取得頻度がさらに上がることで、今後も安全保障における衛星データの重要性は高まるでしょう。

環境モニタリングに衛星データを活用するプロジェクトも増えた1年

2022年は11月にエジプトで、国連気候変動枠組条約第27回締約国会議(COP27)が開催され、宇宙以外の分野でも気候変動に関する取組が数多くありましたが、宇宙も例外ではありません。環境モニタリングにおける衛星データの利用に関する話題も多い1年でした。

小型衛星を活用した地球観測サービスを提供するPlanet Labsは官民プロジェクトとして、ハイパースペクトル衛星の開発を発表、メタンガスの排出源の特定に貢献するとしています。

GHGSatが新機能「SPECTRA Premium」をリリースし、世界中の6ヶ月間の総メタンガス排出量を提供することを発表した他、国連がCOP27で衛星データを利用したメタン検知システム「MARS」を発表しました。

日本では、内閣府の衛星データ利用モデル実証にブルーカーボンのエリア評価が採択された他、天地人社やDATAFLUCT社が衛星データ分析による水田マッピングのアルゴリズムを開発し、水田由来のメタン排出量削減に貢献するといったニュースもありました。

衛星データベンチャー企業のウミトロン・上天草市・ENEOSなどが、藻場や浅瀬等の海洋生態系に取り込まれた炭素は、ブルーカーボンのマッチングプラットフォームの開発を発表。衛星データと地上データを活用し、ブルーカーボンの蓄積量およびポテンシャル評価を行うそうです。

衛星データではありませんが、ANAは航空機とドローンを活用し温室効果ガスを観測する計画を発表しました。

日本からも新しいGOSATシリーズ「GOSAT-GW」が今後打ちあがる予定です。国際的にどのような環境モニタリングの体制が整備されていくのかにも注目です。

地球観測衛星の製造・データ販売を行う各社の次の一手に注目

国内外の地球観測衛星を製造し、データ・ソリューションを提供する各社の動向にも注目の1年でした。

国内では、SAR衛星を開発し、ソリューション提供まで行うSynspective社が119億円を調達に成功したことは大きな話題となりました。調達した資金は、衛星の量産施設の準備やソリューション開発等に活用するとのこと。

同社は2022年に地盤変動から災害予兆変動を検知する機能を開発し、特許を出願したことを発表しています。

また、アクセルスペース社が衛星プロジェクトに関わる長く複雑なプロセスをパッケージ化するサービス「AxelLiner(アクセルライナー)」を発表したのも2022年でした。年間で50台程度の衛星を製造できるようなキャパシティを作っていきたいと記者会見で語っていました。

また、同社は、IoT向けのソニーグループ独自LPWA通信規格に対応した衛星無線実験装置を搭載した、多様なミッションに対応できる汎用衛星バスシステムおよびペイロードの開発に取り組むことも発表しており、日本発の地球観測衛星プロジェクトが加速することに期待が高まります。

海外では、Capella Spaceが9700万ドルの資金調達し、高解像度SARデータをより多くの顧客に提供すると公表した他、同じくSAR衛星ベンチャーICEYEがシリーズDで約150億円を調達し、災害対応製品の提供拡大を発表しています。

また、光学衛星コンステレーションのリードランナーであるPlanet Labs社が次世代衛星群Pelicanの構想を発表し、分解能30㎝で同地点1日最大12回の観測実現を目指すことが分かりました。さらに、同社はメタンガス検出を目的とするハイパースペクトル衛星Tanagerの構想も発表しています。

衛星データを用いたソリューション提供事業者の資金調達も活発に

2022年は衛星製造を行う宇宙ベンチャーに限らず、衛星データを用いたソリューション提供や利活用事例を創出する企業の資金調達も活発な1年だったように思います。

国内では衛星データから現実そっくりの3DCGメタバース空間作成を行うスペースデータ社が10億円超の資金調達を発表。また、衛星データを用いた土地評価エンジンを開発する天地人社は、JAXAからの出資を初めて受ける企業となりました。

海外でもUrsa Spaceが資金調達を発表し1600万ドルを獲得したことを発表しています。

これまでは、ロケットや衛星製造などのハード開発が宇宙市場を支える宇宙ベンチャーに投資が集まっていました。ただし、市場拡大の鍵は衛星データをどのように活用するかにかかっています。

衛星データの利活用は農業、漁業ですでに利用が進んでいますが、2022年もインフラ監視や環境モニタリングでの利用が拡大するというニュースが多くありました。

さらには、今回資金調達を行ったSpacedata社のようなこれまで想像もしなかった産業での利用プロジェクトが動き始めています。

そのようなトレンドを反映するように、2022年は衛星データを用いたソリューション提供を生業とする宇宙ベンチャーにも10億円を超える大型の資金調達が増えていると感じた1年でした。

衛星データ利活用による社会へのインパクトの大きさが徐々に理解され、浸透してきたということかもしれません。今後各社からどのようなサービスが提供され、展開していくのかとても楽しみです。

LEO通信衛星コンステレーションの価値が認知された1年

ロシアのウクライナ侵攻があり、SpaceX社が衛星通信サービスStarlinkをウクライナに無償提供したというニュースを耳にした人も多いのではないでしょうか?

非常時であっても、地上設備がなくとも、アンテナ一つあれば4G相当のインターネットが利用可能になるというその価値に多くの人が気づいた瞬間だったように思います。

2022年から日本でもStarlinkによる通信サービスの提供が始まっており、世界各国で加入者数が100万人を突破したとの発表もありました。地上の通信設備が整っていない国や中山間地域での導入が大きく進んだ1年となったようです。

また、航空機内のWi-fiの速度がさらに早くなるだろう期待高まるニュースもありました。SpaceX社から航空機向けのStarlink新サービス「Starlink Aviation」が発表された他、OneWeb社も衛星通信を活用した機内Wi-Fi接続試験に成功しています。

楽天モバイルが出資するAST SpaceMobile社も、携帯電話と直接5G通信できる試験衛星の大型アンテナの展開に成功したと発表しています。

そして、SpaceX社は安全保障分野を主要顧客と設定した新たな通信衛星構想「StarShield」を発表しています。常に競合他社の1歩、2歩先のサービス提供を進めるSpaceX社には2023年以降も注目です。

防衛省が、スペースデブリ監視の海外ベンチャーと契約

2022年6月、地球低軌道(LEO)マッピングサービス及びスペースデブリの脅威から人工衛星を守る宇宙状況認識(SSA)に取り組むLeoLabsが、日本の防衛省と契約を締結し、航空自衛隊向けにデータやサービスを提供することを発表しました。

アメリカではこうした宇宙ベンチャーのサービスを、安全保障系の政府機関が顧客として利用する例も多く見られ、今後日本でも増えていくのではないかと思われます。

ispace、NASAから100億円規模の契約を獲得

2022年7月25日、月面探査を計画する日本のベンチャーispaceの子会社であるispace technologies U.S., inc.が、アメリカのチャールズ・スターク・ドレイパー研究所(以下ドレイパー研究所)らとともに、NASAへ 商業月面輸送サービスの提案を⾏い、採択されたことを発表しました。

今回提案が採択されたことにより、ドレイパー研究所のチームは総額7300万ドル(約97億円)の売上を獲得しました。

今回のニュースでは、日本発の宇宙ベンチャーがNASAから大規模な契約を獲得したことになります。ベンチャー企業の資金調達計画を考える上で、自社のビジネスモデルの中の顧客の1人としてNASAがいること、また、その金額規模の大きさを示せることは強力な追い風になると考えられます。

2022年は、Virgin OrbitとD-OrbitがSPAC上場、Intuitive Machinesが続く

2021年はSPAC上場する宇宙ベンチャーが目立ちましたが、2022年は前年と比較すると少ない一年でした。

2022年1月にVirgin OrbitがNASDAQ市場に上場を果たしたほか、小型衛星の打上げアレンジや軌道投入を行うイタリアのベンチャー企業D-Orbit、月面着陸船や月面のインフラ開発などに取り組むIntuitive Machinesも同じくNASDAQ市場への上場を発表しています。

有人飛行や月面開発など、宇宙ビジネスの中でも特に初期投資が大きい企業の選択肢の一つとなっているようです。一方で、SPAC自体が疑問視される動きもあり、2023年もSPAC上場する宇宙ベンチャーが生まれるかは不透明です。

NASAがアルテミス計画で使用される新型宇宙服の開発を行う企業としてAxiom SpaceとCollins Aerospaceを採択

2022年6月、Axiom SpaceとCollins Aerospaceの2社が、NASAの探査船外活動サービス(Exploration Extravehicular Activity Services) 契約のもと、アルテミス計画に使用される可能性のある次世代宇宙服を製造する事業者として採択されました(なお、現時点ではAxiom Spaceのみ最初の最初のタスクオーダーを受注を受注しています)。

2034年までの期間で、2社合計で最大35億ドル(約4700億円)が支払われる契約となるようです。

人類が月や火星に出ていくことが本格化し始め、その宇宙服をも民間企業が担う時代が訪れようとしています。

(3)Society:社会

民間人の宇宙空間利用の準備が進む

有人宇宙飛行サービスや有人宇宙構造物製造で世界を牽引するAxiom社は、同社の商業宇宙ステーションにドッキングする専用の娯楽施設を受託しました。

このモジュールは映画やテレビ、スポーツ、エンターテインメントの制作・放送を行うモジュールとなる計画です。トム・クルーズの映画撮影はこのモジュールで行われるのではないかと推測されています。

また、高高度気球による高度約30kmの成層圏旅行サービスの提供を目指すSpace Perspectiveが、気球内部の設計イメージを披露しました。

Credit : Space Perspective

軌道上商業ステーションや有翼宇宙機Dream Chaserの開発に取り組むSierra Spaceが、世界初の完全統合型商業有人宇宙飛行センター及び宇宙飛行士訓練アカデミーを創設すると発表しました。

日本のispace社の月面着陸船が打ち上げ!世界初の民間月面着陸を目指して

12月11日、月面探査を計画するスタートアップispaceの月面着陸船(ランダー)がSpaceXのFalcon9により打ち上げられました。ispaceのランダーの月面着陸は2023年4月末頃になることが見込まれています。

2023年初頭にはアメリカの民間企業も打ち上げを予定していますが、まだ民間のランダーが月面着陸した事例はないため、ispaceが最初に月面着陸できる可能性があります。

(4)Technology:技術

衛星データをリアルタイムで配信!

小型人工衛星が次々打ち上がり、コンステレーションを構築してきた2022年、衛星データのスペックそのものだけではなく、いかに早く衛星データを集めるかにも注目が集まりました。

地球観測サービスを提供するPlanetは、衛星通信事業者SESとTelesatと実証実験を実施。将来的には撮影から数分以内にデータ配信を完了させるとしています。

また、BAE Systemsでは、人工衛星内のエッジプロセッサで衛星データを処理し、そこから地上に下ろしてくることで、軍事産業の顧客向けにリアルタイムで観測データを届ける計画を発表しています。

ロケットは失敗と成功で一進一退

2022年は大型ロケットも小型ロケットも一進一退の様相を呈していました。

米国の小型ロケットベンチャー企業Astra社は2022年2月の打ち上げを失敗、その後3月には要因を特定したと発表し、続く6月の打ち上げでは再び失敗という結果になっています。欧州のロケット打ち上げ大手アリアンスペース社のVEGA Cロケットでも2回目の打ち上げに失敗。

日本の新型基幹ロケット「H3ロケット」は、当初2020年度の打ち上げを予定していましたが、技術的なトラブルにより延期を繰り返していました。今年12月にようやく、初打ち上げが2023年2月12日に設定されました。

また、日本の小型ロケット「イプシロン」は2022年10月に実施した6号機の打ち上げに失敗、原因調査を進めています。

ロケットの失敗が相次いだ印象のある2022年。新型ロケットの開発や同じシリーズのロケットの打ち上げでさえ、簡単ではないのだなという認識を新たにしました。失敗から多くを学び、2023年には多くのロケットの打ち上げが成功することを願っています。

民間宇宙機が月軌道へ

アルテミス計画が進んだ2022年は、民間の宇宙機が月軌道に到達した年でもありました。小型ロケット及び宇宙システム企業のRocket LabがElectronでNASAの超小型衛星を月軌道へ投入。

地上のサービスが宇宙でも使われる時代に!

有人の分野では地上で私たちが良く使っているテクノロジーが、宇宙でも使われるというニュースがありました。

アルテミス計画の第一段階では、AI音声認識サービス「Alexa(アレクサ)」ビデオ会議ツール「Webex」などの技術を利用して宇宙飛行士や管制官をサポート。

国際宇宙ステーションでは、取得したデータをより効率的に分析するためにAWSのSnowcone SSDデバイスが使われています。

このように身近で使われている技術が、宇宙でも私たちの暮らしを快適にしてくれる世界が近い将来来るのかもしれません。

(5)2023年何が起こるか

卯年である2023年、まずは月探査が盛り上がりを見せるでしょう。

4月頃にはいよいよispaceが開発した民間探査機が月面着陸を控えています。JAXAが開発するSLIMも打ち上げを予定しています。海外の他のスタートアップも含め、実際に資源を回収する探査機が現れることで、月面探査はより盛り上がっていくでしょう。

さらに、無人探査のみならず有人宇宙分野でも、SpaceXのスターシップに搭乗して前澤友作氏が月周回旅行を予定しているのも2023年です。

国内ではロケット分野も盛り上がりを見せるでしょう。JAXA/三菱重工業が開発を進めるH3ロケットの打ち上げや、スペースワンが開発するカイロスの初打ち上げが予定されています。

これらに続く形で、インターステラテクノロジズが開発している軌道投入ロケット「ZERO」の打ち上げも近く行われる予定です。各社実績を積み重ね、衛星の打ち上げを受注することで事業化を押し進めることができるか注目です。

2022年は通信衛星のコンステレーションが大活躍した一年でしたが、続いて地球観測衛星のコンステレーション構築も進み、その数も着々と増えることでしょう。地上を観測する頻度が向上することで、新たなアプリケーションも登場するかもしれません。

懸念点としては、SPACを通して上場した各社の事業の行方や、上場を目指す各社の動向です。上場当初に比べてどの企業も株価が低調に推移していることに加えて、昨年実施した宇宙ビジネス企業各社の資金調達額の予想も、減少すると回答していた企業が増えていました。

COVID-19などの影響で部品の調達も困難になってきている中で、各宇宙関連企業の開発も遅れているケースが多々見受けられます。止むを得ない事情であったとしても計画が遅れることは投資を受けているスタートアップにとっては痛手となることが多く、どのようにステークホルダーとの対話を重ねていくかが重要となりそうです。

スタートアップへの投資状況などを詳しく知りたい方にはBryce Techのレポートがおすすめです。

(6)まとめ

2022年は宇宙産業が政治・経済を考えるうえで今後も重要な産業であると認識するきっかけの多かった1年だったように思います。

ロシアによるウクライナ侵攻

ひとつは、決してポジティブな理由ではありませんがロシアのウクライナ侵攻です。ロシアのウクライナ侵攻の状況を把握するために地球観測衛星が取得したデータの利用機会が増えたことはもちろん、報道やSNS上でも衛星データを見たという人も多いのではないでしょうか? 

さらには、SpaceXがウクライナにStarlinkを無償提供したことも話題になりました。地上の通信設備がない場所でも4G相当の通信環境が提供できるということが多くの人に知れ渡るきっかけとなりました。あらためて、安全保障分野において宇宙産業の果たす役割が大きいと認識されたのではないでしょうか。

また、元々契約していたロシアのソユーズロケットでOneWeb社の衛星が打ち上げられなくなど、ロシアのウクライナ侵攻の影響で同社が22.92億米ドル(同社のレポートが発表された2022年8月3日のドル円為替レート132.74で約304億円)の減損処理を行うなど民間企業の計画にも大きな影響がありました。

不安定な世界情勢の中で、自国、自社でロケットを保有することの意義や衛星の打上げを行うロケットの選び方についてその重要性が再認識されました。

月面宇宙ビジネスの本格化

2つ目は、月面を舞台とした宇宙ビジネスの本格化を期待させる具体的なイベントが複数ありました。

NASAの新型ロケットSLSロケットの打上げはアルテミス計画が本格化するのろしとなり、オリオン宇宙船の地球帰還も成功し、2023年以降の順調な計画遂行に向けての弾みとなりました。

また、オリオン宇宙船が地球に帰還した前日の12月11日には、日本の宇宙ベンチャーispaceが開発する月面着陸船「HAKUTO-R」を搭載したロケットの打ち上げ成功しました。

さらに、2022年7月には、ispace technologies U.S., inc. が、アメリカのチャールズ・スターク・ドレイパー研究所らとともに、NASAの商業月面輸送サービス(CLPS)に採択されたことを発表。月面への人・モノの輸送手段が確立し始めています。

アルテミス計画の有人月面着陸で使用される新型宇宙服の開発をAxiom Spaceが受注したというニュースも2022年です。2040年には月面に人類が一定数滞在するという計画や予測が様々なところで語られていましたが、2022年にはその予兆が明確に見えた1年となったのではないでしょうか。

今後ますます月面に人類が滞在するという未来を見据えて様々な宇宙ビジネスが動き始めると予想されます。

衛星データを用いた地球環境モニタリング

3つ目は、全球を観測できる衛星データの環境モニタリングへの期待値アップとニーズ増加に伴う衛星データのスペックや利用環境のアップデートです。

衛星データを用いて森林破壊やカーボンクレジット、温室効果ガスの計測を行うビジネスに、国内外問わず様々なプレイヤーが参入するという発表が相次ぎました。全球を国境関係なく定期的に観測できる衛星データの環境モニタリングにおける利用価値は今後もますます高まっていくことが考えられます。

衛星機数の更なる増加

また、衛星データ利用のニーズ拡大に対応するように、衛星データの課題を解消する動きも加速しています。ひとつは、地球観測衛星の機数の増加による、知りたいタイミングで特定の場所を撮影する機会の増加です。

もともと様々な民間企業がコンステレーション構想を打ち出していましたが、光学衛星のコンステレーションのリードランナーであるPlanet Labsはタスキング需要の増加を見込んでか解像度30cmという高解像度の新型衛星Pelicanを30機開発することを発表しています。同地点1日最大12回の観測実現を目指すとしています。

また、Synspective社の119億円という大規模な資金調達も今年でしたが、同社は衛星の量産施設建設に資金を使うとしています。国内宇宙ベンチャーでも衛星製造数を増やす環境が整いつつあります。

エッジコンピューティングで加速するデータ提供

もうひとつは、衛星データの撮影から地上に解析結果を届けるまでの時間の短縮です。BAE Systemsは衛星側にエッジプロセッサを搭載し、衛星自らがデータを解析して、その結果のみを地上におろすという計画も発表されています。

解析結果のみのデータとなることで、データが軽くなり、宇宙から地上にデータをおろす速度が速くなると期待されています。

以上、2022年のニュースまとめと2023年にむけての注目ポイントをまとめました。2023年はどのような宇宙ビジネスニュースがうまれるのか、今後も出来る限り読者の皆様に注目すべき話題を取り逃しのないようにお伝えしていきたい所存です。