宙畑 Sorabatake

宇宙ビジネス

転職したらまず読む宇宙業界ジョインガイド!~ ロケット、衛星、地上局のオリジナル因果ループ図付き~

宇宙業界に新しくジョインいただいた方向けにおススメの宙畑記事を一挙に公開します!

本記事では、宇宙産業に転職したらまず知っておくべきこと!を整理しています。

宇宙産業にジョインすると、ロケット、人工衛星、地上局といったハードウェアの知識に加えて、各ハードウェアに影響を与える宇宙環境の話、衛星が生み出す衛星データの話、衛星データのビジネス事例や機械学習などのソフトウェアの知識、さらには、世界の潮流に各国の法律の理解……宇宙産業に転職すると、インプットするべき情報が多く、大変だと気づきます。

そして、現在、ロケット、衛星、地上局、宇宙環境、宇宙に関する法律……と各要素の情報は一か所に集約されておらず、点在しており、状況は日々変化しています。

そのため、自分の関わっている分野が、他の宇宙ビジネスや法規、国際的な動きとどのように関わっているのか、各要素の関連性を俯瞰して全体像を学ぶ機会は多くありません。

しかし、これらの関連性を知らずに人工衛星を開発してしまうと、想定していなかったハードルが次々と出てきてしまい、計画が座礁してしまうということもあるでしょう。

このような課題は人工衛星の開発に限った話ではなく、ロケットの開発や地上局の設計、衛星データの利活用など、すべての宇宙産業に当てはまります。

本記事を通して、宇宙産業の全体像を理解し、宇宙ビジネスを加速する重要な人材となる方が一人でも多く増えることを願っています。

(1)ビジネス~産業全体とシステムの理解編~

産業構造とプレイヤー

宇宙産業に入ってこられた方にまずご説明したいのは、業界のプレーヤーです。

近年増えてはいるものの、まだまだプレーヤーの数が限られている宇宙産業では、自分とは違う領域で起こった事象が無関係では済まないこともよくあります。

業界内のプレーヤーや産業構造を正しく理解して、ご自身のビジネスに役立ててください。

上の図は、宙畑で作成している宇宙製造・インフラ業界マップです。

宇宙ビジネスと聞いて、まず頭に浮かぶのはロケットや人工衛星などの製造業のイメージではないかと思います。この図では、下段のManufacturer(製造業者)という層で記載しています。

この図からお分かりいただけるように、ロケットや衛星の製造は業界のほんの一部です。作った人工衛星は、ロケットを使って宇宙へ打ち上げられます。

ロケットを使って衛星を打ち上げる「輸送業」をしているのは、「打ち上げサービスプロバイダー(LSP:Launch Service Provider)」です。

例えるなら、飛行機を製造しているのは、BoeingやAIRBUSなどの航空機メーカーで、それを使って旅客業を営んでいるのは、ANAやJALといったところでしょうか。

そして打ち上げられた人工衛星は、宇宙空間でミッションを行います。上の図では上半分で記載しています。衛星のミッションは大きく分けて、①位置情報の提供、②衛星(地球観測)データの提供、③通信サービスの提供を行います。

それぞれ、衛星自体を運用している企業と、衛星から提供されるデータ・サービスを利用してアプリケーションを開発、提供する企業があります。

両方の役割を同時にやっている事業者もありますが、衛星を保有している企業は限られているため、アプリケーション開発事業者の方が数が多いということになります。

このように宇宙ビジネスは様々なレイヤーのプレイヤーが存在し、相互に影響しあっています。

宙畑のテーマの一つでもある衛星データの利用事例を増やしていくことを例に取ると、以下のような因果ループ図が描けます。

宙畑メモ:因果ループ図
システムの中に存在する様々な要素同士の関連性を視覚化する図のこと。

青い矢印は正の相関があるもの(元が増えれば矢印の先も増える)、赤い矢印は負の相関(元が増えると矢印の先は減る)を示しています。

左上から見ていくと、衛星の開発費用が増えると、衛星数は増え、生み出す衛星データ量が増え、結果として、衛星データを使ったサービスが存在する業界(ドメイン)の数や、衛星データを知っている企業数を増やすことができます。

そうすることにより、さらに衛星データの認知度が高まり、投資資金が集まり、それがスタート地点である開発費用に使われていくというループになります。

また、衛星数が増えるということは、衛星を宇宙空間に打ち上げたい需要が高まるということになるので、ロケットの打ち上げ回数が増えることになります。

ロケットの打ち上げ回数が増えていくと、規模の経済が働き、打ち上げ費用が安くなることが予想されます。

打ち上げ費用が安くなると、より安価に衛星を宇宙空間に持って行くことができるので、衛星数を増やすループに戻っていくことになります。

このように、衛星データ活用促進を考えた時、影響のある範囲は衛星データだけでなく、ロケットや衛星とも関わってくるということになります。

宇宙業界に新たに入られた方は、ご自身のポジションとその周辺のプレイヤーがどうつながってくるのか、考えてみると、宇宙ビジネス関連ニュースが面白くなってくるかもしれません。

市場規模と展望

様々なプレーヤーが相互に影響しあっている宇宙業界ですが、その世界の市場規模は、2019年時点で約40兆円(366 Billion USD/1ドル=110円換算)と言われています。

その内訳を見ていくと、ロケットの打上げは5000億円程度で全体の1%、衛星製造で1.4兆円程度で全体の4%と、非常にわずかであることが分かります。

市場の多くを占めているのが、受信用のアンテナなど地上設備系が14.3兆円、衛星通信やリモートセンシングなどのサービスが13.5兆円です。

それぞれの市場規模も、先ほどのプレーヤーと合わせて頭に入れておくと良いでしょう。

また、今後の展望ですが、モルガンスタンレーによる予測では、宇宙ビジネスは2040年までに100兆円規模となっています。

内訳としてもっとも多い4割を占めるのは「インターネット」で40兆円を越える予想です。SpaceXやOneWeb、Amazonなどが進める衛星通信によるインターネットの利用が進むとの見立てのようです。

また、もう少しミクロな視点で、それぞれのサービスの金額規模感を認識しておくことも有益です。

例えば、衛星データの価格は以下のようなイメージです。

また、衛星製造のコストや開発期間は以下のようなイメ―ジです。

ロケット打ち上げ価格は以下のようなイメージです。

これらの価格は年々下がってきており、ある一時点での価格であるということと、現在の円安の影響で、日本円での判断は難しいことも注意が必要です。

詳細は以下の記事で紹介しています。

世界情勢(各国の予算と取り組み)

宇宙ビジネスは、その性質上、即グローバルビジネスとなります。

また、金額規模が大きいことや、サービス範囲や影響範囲が広域であるという観点から、政府機関が宇宙ビジネスの顧客になることがよくあります。

主要な国の動向は常に気を付けておくと良いでしょう。宙畑では、毎週世界の宇宙ビジネスニュースを紹介しています。最近の状況はこういったところで確認しておきましょう。

アメリカ

アメリカは、言わずと知れた宇宙開発大国です。宇宙産業に関する文書は以下のようなものがあります。

National Space Policy(December 9, 2020)
UNITED STATES SPACE PRIORITIES FRAMEWORK(DECEMBER 2021)

ロケット打ち上げでは、月以遠の探査を見据え、世界最大級の輸送能力を持つSLSロケットの開発を進めていますが、開発が遅れています。

アポロ計画以来の月着陸を目指すアルテミス計画では、各国と協調しながら、2020年代半ばには再び月へ、2030年半ばには火星を目指す計画です。この壮大な規模の計画には、アメリカ以外にもたくさんの国の企業が関わっています。

アルテミス計画に関連する記事

地球観測分野では、長年にわたって継続した観測を続けているLandsat(ランドサット)の次号機Landsat-9の画像公開が始まった他、安全保障系の政府機関では、宇宙ベンチャーからのデータを買い上げるなど民間企業の力を積極的に採用する動きも見られます。

ヨーロッパ

ヨーロッパは、欧州宇宙機関(ESA)として様々な国が協力して宇宙開発を進めています。

ロケットでは、主力のアリアンロケットの新しいロケットAriane 6が、当初の2020年から2023年の第四クオーターまで打ち上げが遅れることを発表しているほか、小型ロケットであるVegaの新型ロケットも失敗を乗り越え、2022年10月に初の商用打ち上げとなりました。

地球観測分野では、欧州はコペルニクスプログラムという、長期にわたる地球観測プログラムを運営し、2022年10月現在6機の地球観測衛星が観測を行っています。

中国

中国は、近年急速に宇宙開発分野に力を入れている国です。
独自の宇宙ステーションの開発を進めている他、月面探査も着々と進めています。

中国に関する記事

日本

2017年に内閣府宇宙政策委員会が発表した宇宙産業ビジョン2030によると、、宇宙利用産業も含めた宇宙産業全体の市場規模は、1.2兆円と言われています。

中でも、宇宙機器産業については、一般社団法人日本航空宇宙工業会がまとめており、2020年度の宇宙機器関連企業の売上高の合計額は、3,521億円となっています。このうち、内需が3.395億円、輸出高が126億円となっています(参考)。

内需という意味ではその多くを政府が占めていますが、日本では、内閣官房、文科省(JAXA)、経産省、気象庁などが関連予算を有し、宇宙開発を行っています。

文部科学省は、独立行政法人宇宙航空研究開発機構(JAXA)の所管省庁であり、最も多くの予算を有しています。新型ロケットの開発や、地球観測衛星、探査機などの開発を行っています。
文部科学省予算概要(令和2年度)

防衛省は、宇宙状況監視(SSA)と呼ばれる宇宙空間の安全保障対策や、情報収集のための赤外線センサの研究、自衛隊が使う衛星通信網の整備などに宇宙予算を使っています。
防衛省予算概要(令和2年度)

内閣官房では外交・防衛等の安全保障及び大規模災害などへの対応などの危機管理のために必要な情報の収集を目的とした情報収集衛星の開発等を行い、政府の情報機能を強化しています。
内閣官房予算概要(令和2年度)

宇宙関係予算は内閣府がまとめていますので、気になる省庁の予算は以下のサイトを確認してみると良いでしょう。
内閣府宇宙関係予算について

その他、注目の国

ここまで紹介してきた国以外にも、近年宇宙開発に力を入れている国は多くあります。イギリスやルクセンブルクは、宇宙関連企業の誘致に力を入れていますし、UAEは自国での探査計画を進めるなど、様々な国が宇宙分野へ参入してきています。

また、アジア各国の宇宙ビジネスの動向については、以下の資料が参考になります。

New Space in Asia | European Space Policy Institute

宇宙ビジネスに関する法律

宇宙ビジネスに関わる上で、もう一つ知っておかなければいけないのは、「法律」でしょう。宇宙空間は日本だけのものではないので、国際的なルールも守る必要があります。

以下の記事で詳しく宇宙法について、まとめているので確認してください。

宇宙ビジネスを学ぶ

宇宙ビジネスを取り巻く状況やプレーヤーは日々変化しています。インターネットなどを使って情報収集を行う事が有用です。いくつか宙畑を使った情報収集方法をご紹介します。

①宙畑宇宙ビジネスニュースを読む

宙畑では毎週世界の宇宙ビジネスニュースを厳選して解説しています。潮流をつかむためにもぜひチェックしてみて下さい。
https://sorabatake.jp/news/

これまでの流れはニュースが多すぎるよという方は、1年毎にまとめている振り返り記事がおすすめです。

②宙畑のtwitterからリストをフォロー

宙畑のtwitterでは、宇宙関連企業をまとめたリストを公開しています。
https://twitter.com/sorabatake/lists

興味のあるリストをフォローして最新情報をいち早くゲットするのも良い習慣です。

③海外の宇宙ビジネスメディアをチェックする

ある程度、分かるようになってきたら、ぜひ海外の宇宙ビジネスメディアもチェックしてみてください。例えば、宙畑編集部では以下のようなメディアをよくチェックしています。

SpaceNews
Via Satellite
Payload

④ビジネスカンファレンスに参加する

以下に紹介するビジネスカンファレンスに参加すると、ビジネスの潮流を知ることができます。

【国内】
SPACETIDE

【海外】
World Satellite Business Week
Newspace Europe
Small Satellite Symposium
GEOINT Symposium
Space Symposium

(2)ビジネス~ビジネスモデル編~

ロケット

ロケットの役割は宇宙への荷物の運送であると言うと、ロケットのビジネスモデルを想像しやすいでしょう。

地上のビジネスモデルで最もロケットのビジネスモデルに近いのは、トラック運送会社です。宇宙の任意の場所に、人工衛星や探査機をロケットに乗せて運ぶ役務を提供してお金をもらいます。

ただし、トラック運送会社と違うのは、ロケットの場合は宇宙に荷物を運送するだけでなく、ロケットの開発もロケット会社が担うケースが多いということです。

また、宇宙に荷物を運ぶその金額も地上の運送費とは桁違い。だいたいの相場としては、1kgのものを宇宙へ運ぶのに100万円、10tで約100億円程度となっています。

これまでのロケット打ち上げでは、基本的にメインとなる荷物(主には大型衛星)の目的地と打ち上げ時期に、その他の荷物(主には小型衛星)が合わせる形で打ち上げを行っていました。

近年では、小型衛星の打ち上げニーズが高まっていることから、小型の衛星を任意のタイミングと任意の目的地に送り届けられる小型ロケットの開発や、大型ロケットで打ち上げた後、目的の軌道へ遷移させるサービスを行う企業も増えています。

また、最近の宇宙ビジネストレンドとしては、垂直統合が進んでおり、ロケット開発会社が衛星開発まで行い、人工衛星を活用したサービス提供を行っています。まだまだ衛星打ち上げ需要が爆発的には増えていかない中で、ロケット開発企業自らがこの分野に参入しサービスを作っていく動きと言えそうです。

人工衛星

続いては、人工衛星のビジネスモデルです。宇宙ビジネスの市場規模の内訳を見ると、ロケット産業が占める割合は約1%程度となっており、衛星関連サービスの割合が30%以上を占めています。

上記のグラフを見てもロケット産業は宇宙ビジネスを成り立たせる重要な要素ではありますが、宇宙ビジネスの市場規模の大部分はロケットが衛星を宇宙に運んだあとに提供されるサービスによるものとお分かりいただけるかと思います。

本記事では、人工衛星関連サービスのビジネスモデルについて、大きく4つに分類して紹介します。

1.通信衛星による通信サービス
2.地球観測衛星から取得した衛星データの販売と衛星データの解析ソリューションの提供
3.測位衛星による位置情報サービス
4.衛星の製造受託

それでは、それぞれのビジネスモデルについて解説していきます。

1.通信衛星による通信サービス

携帯の無線基地局や有線通信に関わる設備がない場所(飛行機や海の上、地上設備が被災した場所など)でもインターネットが使えたり、テレビを見ることができるように、衛星を介して通信を提供するサービスです。

通信衛星のビジネスモデルは、通常の電話やインターネットなどと同様に通信サービスを利用したい事業者や個人が、通信衛星を運用している企業に月額/年額でサービス利用料を支払っていることが一般的です。

日本にいると、テレビやインターネットを全国に提供するための通信回線が整備されているため、衛星テレビや衛星を介したインターネットと聞いてもピンとくる方は少ないかもしれません。

私たちの生活に身近な例では、飛行機内で使えるWi-Fiや、自然災害で通信回線が寸断してしまった際に、衛星通信を介した通信が行われたり、非常用のインターネット回線が利用される例などが挙げられます。

世界に目を向けると、衛星テレビの市場規模は10兆円超あり、その大きさに驚かされます。

また、これまで通信衛星と言えば高度約36,000kmの静止衛星を用いたサービス提供がメインでしたが、近年はSpaceX社のStarlink衛星に代表されるような低軌道の通信衛星コンステレーションによる通信サービスの提供に注目が集まっています。

低軌道の通信衛星サービスは、静止衛星の通信衛星サービスと比較して通信速度が高速(4G相当)かつ低遅延であることがメリットとなります。

また、新興国などこれまで限定的なインターネットアクセス環境下にあった人の数は全世界に約30億人いるとされており、それだけの人数に通信サービスを提供できる市場規模の大きさもが低軌道の通信衛星コンステレーションのビジネスの魅力となっています。

地上設備が整備されていない国にとっては、今から地上設備を整える投資を行うよりも先に通信衛星サービスの導入が進むなど、先進国が歩んできた技術進展を飛び越えて一気に広まる”リープフロッグ型発展”となることも期待されています。

宇宙ビジネスの市場規模について、現在の約40兆円から2040年には100兆円を超えるとの予測が出ていますが、通信衛星サービスの発展によってうまれる「Second Order Impacts」が成長すると見込まれている60兆円の半分以上を占めています。

Credit : Morgan Stanley Source : https://www.morganstanley.com/ideas/investing-in-space

2.地球観測衛星から取得した衛星データの売買と衛星データの解析ソリューションの提供

続いては、地球観測衛星の利活用に関連したビジネスモデルの紹介です。

地球観測衛星はその名の通り、衛星から地球を観測し、そのデータを活用することを目的として打ち上げられる衛星です。地球観測衛星のビジネスとしてもっともイメージがつきやすいのは気象観測/天気予報でしょうか。

地球観測衛星のビジネスモデルについては、衛星データを販売するビジネスと衛星データを解析した結果を事業判断に活かすソリューション提供ビジネスの2つに分けて紹介します。

衛星データの販売については、地球観測衛星を開発・運用する各社が取得した衛星データを販売するというものです。衛星データを購入するためには衛星製造を行う企業から直接購入もできますが、代理店を経由して買わなければならないケースもあります。

また、衛星データの購入方法はいくつかあり、主な手段は以下の3つです。

・特定の日時・エリアを指定して新規撮像を依頼する(タスキング)
・特定のエリア・期間を指定して必要な面積のアーカイブデータを購入する
・特定のエリアを撮影した衛星データに継続的にアクセスできるライセンスをサブスクリプション形式で購入

特に、最近はサブスクリプション形式での衛星データ購入のプランが増えており、定期的に特定のエリアの衛星データを利用したいという事業者や行政にとっては柔軟性のあるデータ購入が可能となっています。

価格の相場については、以下の記事にまとめているので、興味のある方はぜひご覧ください。

そして、衛星データを解析した結果のソリューション提供ビジネスについては、農業や漁業での利用、インフラの監視、保険支払いの迅速化……など、様々な産業で事例が生まれ始めています。

これらのビジネスモデルについては、ソリューションの内容によって様々で、スポットで解析した結果をデータ購入料金と合わせて販売するケースもあれば、定期的なモニタリングや解析結果の提供が必要な場合は月額や年額でのサブスクリプション形式でのプラン提供が行われているケースもあります。

具体的な衛星データの利活用事例については、本記事の第4章で関連記事を紹介していますのでぜひ合わせてご覧ください。

3.測位衛星による位置情報サービス

位置情報サービスとは、私たちが普段利用している地図アプリやカーナビに代表されるような物体の位置を特定する測位サービスです。

GPSやみちびきの電波の利用には費用はかかりませんが、電波を受信し位置情報を算出するための素子や製品を購入する必要があります。

GPSは今や携帯電話や車に当たり前に搭載されている機能となっており、先述の宇宙ビジネスの市場規模のグラフにもある通りGPS端末の市場規模は10兆円を超えています。

4.衛星の製造受託

衛星の製造受託のビジネスモデルは言葉そのまま、衛星製造を行う企業に国や事業会社が衛星の製造を委託するというものです。

NASAやJAXAなどの宇宙機関、内閣府や米国家偵察局(NRO)などの公的な機関が民間企業に衛星製造を委託しているだけでなく、最近ではウェザーニューズ社がアクセルスペース社に衛星の製造を委託するなど民間企業から民間企業への製造委託の事例も徐々に増えています。

5.地上局

ロケットの打ち上げから衛星、探査機の運用、衛星データの受信、データの処理まで、宇宙に飛び立ったものを操作するため、衛星や探査機との通信やデータの送受信を行うための地上局の設備は欠かせません。

また、地上局を利用する場合、企業によって地上局の契約方法は異なります。契約方法には大きく分けて3つのパターンがあります。

1.自社専用のアンテナを建設する
2.月額形式で専用のアンテナを借用する
3.アンテナのシェアリングサービスを利用する

どの契約形態を選ぶかは企業が運用したい衛星のミッションやその衛星機数などによって異なり、組み合わせて用いるケースもあります。

また、地上局を契約する主体も様々で、衛星オーナーが契約するケースもあれば衛星オペレーターや衛星データを販売している会社、SaaS企業が間に入る場合もあります。

地上システムの詳細については以下の記事をご覧ください。

6.宇宙旅行

地球から地上80km以上の宇宙空間に人類が普通に旅行する時代がすぐそこまで来ています。2021年12月に前澤友作さんが国際宇宙ステーション(ISS)旅行を実現し、YouTubeにアップされた動画を見たという方も多いのではないでしょうか?

宇宙旅行には様々な種類があり、旅費にも大きな差があります。現時点で発表されている宇宙旅行は大きく以下の4つに分類できます。

1.無重力を体験できる小宇宙旅行
2.ISSに滞在する宇宙旅行
3.宇宙を経由した旅行(移動)
4.月・火星への移住

いずれのビジネスモデルも、旅行を希望する個人が、旅行を提供する会社に旅費を支払うというシンプルなものです。一部の宇宙旅行については、旅行代理店が販売を行っているケースもあります。

宇宙旅行の旅費の目安については以下の記事をご覧ください。

7.軌道上サービス

軌道上サービスとは、文字通り軌道上で衛星に対して行うサービスのことです。

軌道上サービスは、現時点で実際に軌道上でサービス提供している事業は存在しませんが、徐々に軌道上サービスの企業が国や顧客企業との契約を締結したという話題が出始めました。

軌道上サービスは、NSR社のレポートによると、以下の4つに分類されています。

1.寿命延長(Life Extension)
燃料切れ(寿命)の衛星に対して、燃料を充填するサービス
2.ロボティクス(Robotics)
ロボティクスは検査(Monitoring)と修理 (Reparing)とアップグレードの3つに分けられ、対象となる衛星に近づいて外観を検査、必要に応じてロボットアームを用いて故障部分を修理、または、アップグレードを行うサービス
3.軌道離脱(Deorbiting)
用済みとなった衛星を移動させ、他の衛星がその軌道を使えるようにするサービス
4.救出(Salvage)
ロケット打ち上げの失敗により衛星自体は問題がなくとも計画していたサービスを提供できない場合や、衛星の推進系が壊れてしまい動けなくなってしまった場合に、指定の軌道まで移動させるサービス

現時点で軌道上サービスの価格やビジネスモデルが明らかになっているものは事例が少ないですが、軌道上の衛星への燃料補給サービスの提供を計画するOrbit Fabが2025年から静止軌道の衛星に燃料であるヒドラジン を100kgまで2000万ドル(約28億5000万円)で提供すると発表しています。

軌道上サービスは、サービス受益者にとっては新たな衛星を打ち上げる必要が無くなるメリットがありますが、サービス提供会社にとっては、ロケットで自社の衛星を打ち上げる必要があり、その分の打ち上げ費用が必要となります。新たに衛星を打ち上げるよりも魅力的なサービス料金の設定ができるのか、注目です。

軌道上サービスの詳細や、それらのサービスを提供する企業については、以下の記事をご覧ください。

(3)技術~ロケット・人工衛星・地上局編~

続いては、宇宙事業と切っても切れない「技術」分野についても見ていきたいと思います。

宇宙事業は、ディープテックのひとつに数えられ、まだまだ技術的にも発展途上の業界です。自社の事業の技術的な強み・課題はなんなのか、技術的実現性はどの程度なのかということを、エンジニア職で入られた/入られる方はもちろんのこと、ビジネスサイドの方もある程度理解しておくことは、ビジネスを進める上で重要です。

ここでは、まずは宇宙事業のインフラ的位置付けである、ロケット・人工衛星・地上局を取り上げ、一般的な技術分野と対比して、宇宙業界で特に気を付けるべきことについて説明していきます。

宇宙の技術を学ぶには

電子回路についてはある程度実務を経験してきたものの、宇宙独特の技術が何かあるのでは?それはどのようにしたら学ぶことができるのだろうか・・・という方も多くいるのではないでしょうか。そこで、編集部でおすすめの学ぶことができる情報源をご紹介します。

基本的には、どの分野にせよ、まずその分野で扱われる用語を知ることから始めるのがおすすめです。自分が興味があるキーワードがわかったら、そのキーワードについて書籍やWeb、論文等で調べてみることで更なる深堀ができるようになります。

宇宙分野の開発プロセス

宇宙空間で動作するとはいえ、開発するものは電気製品です。そのためものづくりのプロセスは一般の産業分野と大きくは変わりません。

ただし、ハードウェアの場合、限られた予算で高品質な一品モノを時間をかけて開発する性質上、手戻りや失敗が無いようにレビューする機会が開発のフェーズ毎に設けられているのが特徴です。

例えば近々打ち上げが予定されているH3ロケットの開発計画は以下のようになっています。

https://www.jaxa.jp/press/2013/12/20131224_rocket_j.pdfより抜粋

このような各レビュー会(図中のマイルストーンに記載されているPDRやCDRなどの略語が該当します)で何をするのか、ということは把握しておいても良いでしょう。

システムズエンジニアリングについて

宇宙に限らず一般的に普及し始めていますが、宇宙開発のプロセスを語る上で外せない話題の1つが「システムズエンジニアリング」です。

システムズエンジニアリングとは「システムを成功させるための、複数の専門分野にまたがるアプローチと手段のことを指します。(JCOSE/INCOSE Systems Engineering Handbookより)」のことを表します。

システムのミッションを成功させるために、運用中のあらゆる状態に備えて対策を打たなければいけない宇宙分野においては必須の考え方となります。

システムズエンジニアリングはロケットだろうが人工衛星だろうが関係なく、宇宙分野では身につけておくと良い考え方になります。例えば以下から学ぶことができます。

・Systems Engineering Handbook | NASA
・システムズエンジニアリングの基本的な考え方 初版
・システムズエンジニアリングの推進
・サルでもわかるNASA式システム開発 第0話 「NASA Systems Engineering Handbook」

システムズエンジニアリングの考え方はプロジェクトをマネジメントする立場の人だけでなく、要素技術を開発する人にとっても必要な考え方になりますので、宇宙開発に興味を持ったらまずは上記の中で自分に合っているなと思うソースから見てみるのが良いでしょう。

なお、広い分野を学習する上では、コロナ社による宇宙工学シリーズが有名です。
・宇宙工学シリーズ

JAXAのページにも分野を横断して宇宙で動作する装置に関して共有して必要となる技術的な知見が設計標準という形で公開されています。
JAXA共通技術文書

宇宙環境ならではの工夫しないといけない点についてまとめられていますので、まずは要素技術に興味がある方はこちらから見てみてもいいかもしれません。

では、個別の技術について学ぶことができる情報源について以下で紹介していきます。

宇宙環境について

宇宙空間で動くモノを作るには、その特殊な環境”宇宙環境”について学ぶ必要があります。真空や温度差の激しい熱環境、放射線や紫外線など、地上のものづくりではあまり考慮しない要素が数多くあります。

これらの環境をどう考慮すべきなのか、解説している情報源について紹介します。

こちらもJAXAのページに詳しく紹介されています。
JERG-2-141 宇宙環境標準

ただし、いささか詳しすぎるので初めて宇宙環境に触れる方には少し難しすぎるかもしれません。そのような場合には以下のような書籍から見てみることをおすすめします。
・宇宙環境リスク事典
(ただし、今は絶版の可能性があります・・・)

この他にも、宇宙機に関する書籍などでも宇宙環境について触れている場合があります。例えば以下のような書籍があります。
・宇宙ステーション入門 第2版補訂版 – 東京大学出版会

ロケットについて

ロケットに関する技術関連情報もJAXAのページで公開されているので、こちらから確認すると良いでしょう。
・JMR/JERG ロケット

本で学習したい、という方にはまずは以下がおすすめです。
・新版 手作りロケット入門 | 株式会社誠文堂新光社
・宇宙ロケット工学入門 |朝倉書店
・ロケット推進工学 |山海堂

宙畑編集部が学生の時に見ていた書籍のため、現在はもっとよい書籍が出ているかもしれません。その場合にはこの書籍が良いよ、と教えてください。

日本語で勘所を押さえたら、自分が興味のある分野・キーワードに関する英語書籍を探してみると、より専門的なことを知ることができるでしょう。

人工衛星について

人工衛星についてもJAXAのページに参考になる情報が多く公開されています。
JMR/JERG 衛星

ただしアクセスしてみるとわかりますが、衛星に関する標準は多くあります。そのため概要をつかむには難しい方が多いと思います。個人的に広く全般を押さえる上でおすすめなのが以下の書籍になります。
人工衛星の”なぜ”を科学する –

この他にも、実際にどう設計するのかを知りたい方には、超小型衛星を多く打ち上げてきた知見を集約したUNISECによるミッションアシュアランスハンドブックも目を通しておくと良いでしょう。
・超小型衛星ミッションアシュアランス・ハンドブック (案)

また、衛星設計についてのコンテストが毎年行われています。衛星設計コンテストに投稿された設計書は過去の作品含めて公開されているため、確認してみるととても勉強になります。宙畑メンバーが投稿した作品も載っているので探してみてくださいね。
・衛星設計コンテスト

書籍で学びたい方は以下がおすすめです。
・人工衛星をつくる ―設計から打ち上げまで―
・ 衛星設計入門(ただし絶版の可能性があります)

英語でも勉強してみたい!という方には以下がおすすめです。
・​​Space Mission Engineering: The New SMAD

地上設備について

地上設備についてもJAXAの資料をまず読むと良いでしょう。
・JMR/JERG 地上設備

その他通信設備に関する書籍などを見てみると参考になります。

技術を学ぶ学会

最先端の技術を知りたい場合には、学会に参加してみるのも良いでしょう。
国内で開催されている宇宙関連の学会だと、例えば以下のようなものがあります。

国内でもっとも大きな学会だと、日本航空宇宙学会が主催する宇宙科学技術連合講演会(略して宇科連(うかれん)と呼びます)、というものがあります。こちらの学会が発行している航空宇宙学会誌も見てみると良いでしょう。

分野が特化したものの場合には、JAXAが開催しているシンポジウムをみてみても良いでしょう。過去にどのような発表が行われてきたのか、こちらのシンポジウムで発表リストをみることで、その分野の流行を知ることもできるでしょう。

宇宙分野で国際的に最も大きなものとしては、INTERNATIONAL ASTRONAUTICAL CONGRESS(略してIAC)という学会や、超小型衛星関連ではSmall Satellite Conferenceなどがあります。宇宙飛行士も多くいらっしゃいますし、分野問わず様々な発表がある他、企業による展示も多く行われており、とても楽しい学会です。

この他にも、分野を特化した学会も多数行われていますので、興味のあるキーワードで検索してみると良いでしょう。

(4)技術~衛星データ編~

3章では、宇宙空間で動くハードウェアについてご紹介してきました。続くこの章では、衛星が生み出す衛星データについて、技術的な内容を紹介していきたいと思います。

地球観測衛星は何ができて、何ができないのか。また、様々な産業でどのように利用されているかについて、宙畑では様々な記事を執筆し、整理しています。

本章では、衛星データに関する知りたいと思ったこと別にどの記事を読むとその答えが分かるかを紹介します。

衛星データの種類と分かること

まずは衛星データで何が分かるのかということについて、まとめた記事を紹介します。

ざっくりと地球観測衛星からどのようなデータが取得できるのかということを知りたい方は以下の記事をご覧ください。

また、良く用いられている衛星データの種類としては、光学データとSARデータがあります。それぞれのデータについて詳細を知りたい方は以下をご覧ください。

■光学データ

■SARデータ

また、これらの伝統的なリモートセンシングのアプローチに加え、近年では、衛星データ量の増加と機械学習技術の発展により、衛星データを機械学習技術を使って取り扱う例が数多くあります。

宙畑では、機械学習を用いた衛星データ解析について、こちらでまとめていますので、興味のある方はご覧ください。

衛星データのスペックを理解する指標と料金の目安

衛星データでどのようなことが分かるのかについて理解した後は、衛星データのスペックについて整理した記事の紹介です。

現在、各国、各企業が様々な地球観測衛星を打ち上げており、同じ光学衛星、同じSAR衛星でも衛星によってそのスペックは異なります。

スペックとしてよく比較されるものの代表例としては解像度(空間分解能)、回帰日数(時間分解能)があります。スペックについて理解したい場合は以下の記事をご覧ください。

少し踏み込んだ内容になりますが、衛星データがなぜそのスペックになるのかについては、衛星の軌道が関係してきます。少し勉強したタイミングで以下の記事を読むと、より一層理解が進むと思います。

また、衛星のスペックによってデータを購入する際の料金ももちろん異なります。価格の目安についてまとめた記事はこちらです。

衛星データを扱う際に、理解しておくと良い衛星データの前処理の話はこちらで解説しています。

衛星データを閲覧できるサイト

続いては、衛星データを閲覧できるサイトの紹介です。

本記事では、無料で衛星データを閲覧できるサイトの代表例として以下3つをご紹介します。

・Tellus(日)

日本発のオープン&フリーな衛星データプラットフォームです。主に日本の衛星データを閲覧することができ、一部有料の衛星データのサンプルも閲覧できます。また、プラットフォームを通して様々な衛星データの購入も可能となっています。Tellusの使い方はこちらでも解説しています。

Tellusを見る

【使い方解説記事】

・Google Earth Engine(米)

Google社が提供する衛星データ含む様々な地理空間情報のデータを閲覧でき、クラウド上で解析もできるサービスです。LandsatやSentinelといった無料の衛星データを閲覧・解析することができる上、夜間光(夜の地球を撮影した画像)の衛星データも閲覧できます。

基本は英語での操作が必須となりますが、サンプルコードも複数準備されているため、衛星データでどのような解析ができるのかを知りたいという方にはおすすめです。

Google Earth Engineを見る

・EO Browser(欧)

欧州連合(European Union:EU)の地球観測プログラム「コペルニクス」の提供するGUI(Graphical User Interface)サービスのひとつです。Sentinelをはじめとする様々な衛星データを閲覧することができます。ユーザー情報を登録してログインをすれば簡単にタイムラプスを作成してダウンロードすることができるという点は魅力です。

EO Browserを見る

【使い方解説記事】

また、用途別に衛星データを閲覧可能なサイトをまとめた記事は以下になります。

衛星データの利用事例

最後に、衛星データを用いてどのような事例がうまれているかをまとめた記事を紹介します。

世界各国の衛星データ利用事例を整理した記事は以下になります。

また、代表的な事例について、どの衛星を利用するのがおすすめかをまとめた記事もありますので、実際に衛星データを利用したいという方は以下の記事も参考にしていただければと思います。

さらに、宙畑では実際に衛星データを活用したサービスを提供している企業や実際に利用している人へのインタビューも行っています。様々な利用事例についてその実態を知りたいという方はぜひインタビュー記事もご覧ください。

【用途・目的別】宙畑記事図鑑

衛星データについて学ぶ学会・実践の機会

衛星データについて最新の情報を学ぶことが出来る学会もいくつかあります。

日本で最も大きいのは、日本リモートセンシング学会が主催する学術講演会です。国際的にはIGRASSというカンファレンスもあります。

機械学習×衛星データの分野では、アルゴリズムの精度を競うコンペがkaggleやSIGNATE、solafuneなどで開催されており、技術の研鑽に役立ちます。

宙畑では、解析ノートブックと題して、宙畑編集部やエンジニアの皆さんが実際に手を動かして解析してみた内容をサンプルコードと共に公開しています。まずはこちらの写経から試してみるというのもいいかもしれません。

また、技術実証の機会という意味では、複数の実証事業が毎回実施されており、ご自身でやってみたいことに合わせて、挑戦してみるのもよいでしょう。

(5)まとめ

宇宙産業にジョインしたばかり、これからジョインする!という方にとって必要な情報を整理してみました。本記事が宇宙産業で活躍する皆様の一助となればと幸いです。

また、本記事に掲載した内容もまだ完全ではありません。本記事に関するフィードバックはぜひ、以下のアンケートフォームからお寄せください。

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