宙畑 Sorabatake

解析ノートブック

衛星データだけでグランドスラムのテニスコート素材を当てる!

大坂なおみ選手の日本人初グランドスラム優勝で盛り上がる今、グランドスラム決勝コートの素材を衛星から当てるゲームをしてみました。

大阪なおみ選手の全米オープン優勝、とても盛り上がりましたね。おめでとうございます!

そしておそらく次のグランドスラムも……と期待される方がおそらく多いことでしょう。次に控えるグランドスラムは来年1月の「全豪オープン」です。その後、「全仏オープン」「ウィンブルドン選手権」と続きます。

では、限られた人のみがその場所に立てるグランドスラム決勝のテニスコートの素材はクレー?人工芝?天然芝?それともハード?

衛星データを使って、テニスコートの素材を当ててみました。

※本記事は宙畑メンバーが気になったヒト・モノ・コトを衛星画像から探す不定期連載「宇宙データ使ってみた-Space Data Utilization-」の第5弾です。まだまだ修行中の身のため至らない点があるかと思いますがご容赦・アドバイスいただますと幸いです!

グランドスラムのテニスコート素材当ての結果

今回グランドスラムのテニスコートを衛星データから確認し、以下のようにそれぞれの素材を予想してみました。

Credit : 'Copernicus Sentinel data

その結果はというと、すべてのテニスコートの種類を衛星データを使って見分けることができました。

「離れた場所の素材や状態を知ることができる」という衛星の強みは、今後様々なところで活用されることが期待されています。

たとえば
・大会が行われるコート・グラウンドの状態(素材、風速、気温など)を分析し、対策をとる
・桜の開花状況や紅葉の色づきを知る
・穴場のビーチや絶景スポットを発見する
・某スーパーの駐車場に停まっている車の台数の推移から売り上げを予測する
・ふたご座流星群がきれいに見えるスポットを探す
などなど

いかがでしょうか、衛星データについて少しでもわくわくしていただけましたか?

では、実際に衛星データはどうやったら使えるのか。グランドスラムのテニスコートの素材予想を題材にご紹介します。

(1)衛星データで遊べる「EO Browser」の使い方

まずは衛星データで様々なものを見て解析する方法からご紹介します。

衛星データというと、高価で一般人ではなかなか触れられない、触れられるとしても難しくて扱えないものと思われがちです。

しかし、実際は、誰でも簡単に衛星データで遊べるサイトがあります。それが「EO Browser」です。

「EO Browser」の使い方について、基本的な流れは以下のようになります。

「EO Browser」の使い方
(i)衛星データで解析したい場所を表示する
(ii)データを確認したい衛星と日付、被雲率を選んで検索
(iii)検索結果からデータを見たい画像を選ぶ
(iv)衛星データの表示方法(見たまま?植生?水?)を選ぶ

それでは上記の流れに沿って「EO Browser」の使い方を以下でご紹介します。

ぜひ実際に触りながら記事をご覧ください。

(i)衛星データで解析したい場所を表示する

Credit : Copernicus Sentinel data

最初に衛星データで見たい場所を右上の検索ボックスから検索、もしくは自分でカーソルを動かして画面の中心に合わせます。

今回は筆者の母校である熊本の済々黌高校に標準を合わせてみました。

(ii)データを確認したい衛星と期間、被雲率を選んで検索

Credit : Copernicus Sentinel data

見たい場所に標準を合わせたら、「EO Browser」で取得したいデータを持つ衛星と日付、被雲率を選んで検索ボタンをクリック。

まず、衛星については「sentinel-2」を選んでおけば可視光(人間の目で見たままの画像データ)やその他基本的な地表面の情報が分かります。
※その他何が取れるかについては、衛星横の「?」マークをクリックして確認を。

また、想像以上に雲がかかっていることが多いので、被雲率(画像1枚を雲が占有している割合)は20%程度にして、日付の期間を長めにしておくのがおすすめです。

(iii)検索結果からデータを見たい画像を選ぶ

検索結果が出てきたら日付と時間、被雲率を見て、解析したい検索結果をクリック。

(iv)衛星データの表示方法(見たまま?植生?水?)を選ぶ

Credit : Copernicus Sentinel data

クリックすると左側に「True color」「False color」「NDWI」など聞き慣れない単語が並びます。

ここでは、「何を見たいか」が選べます。

Credit : Copernicus Sentinel data

植物を赤色で示す「False color(※)」や、水を青で示す「NDWI」など、衛星データではGoogleマップのように人間の目で見たままの画像を見ることができる「True color」以外にも様々な地上の状態を知ることができます。

尚、False colorは様々なバリエーションがあり、EO Browser上では赤色が植物を示しますが、そうでない場合もあります。

Credit : Copernicus Sentinel data

実際にFalse colorで済々黌高校を見てみると、隣にあるの熊本大学の陸上トラックの内側が赤くなっており、芝が茂っていることが分かります。

 

Credit : Copernicus Sentinel data

また、NDWIを選ぶと、済々黌高校のプールの箇所だけが青くなっていることも分かります。

衛星データで何が見えるかが分かったところで、グランドスラムのテニスコートを見てみましょう。

(2)全米オープン、全豪オープンのテニスコートはハードと推測

まずは大阪なおみ選手が優勝した全米オープンと次に控える全豪オープンのテニスコートから。

全米オープンの会場であるUSTAビリー・ジーン・キング・ナショナル・テニス・センターは「True color」では以下のように見えました。

Credit : Copernicus Sentinel data

続いて、植物を赤く示す「False Color」を見てみます。

Credit : Copernicus Sentinel data

コートの内部は周りの植物と比較して赤くなく、かつ、先に見た済々黌高校のクレーコートのような薄茶色をしていないことが分かります。

続いて、全豪オープンの会場であるメルボルンパークを見てみましょう。

こちらも「True color」では以下のように見えています。

「False color」でも確認してみます。

Credit : Copernicus Sentinel data

こちらも、コートの内部は周りの植物と比較して赤くなく、かつ、先に見た済々黌高校のクレーコートのような薄茶色をしていないことが分かります。

以上の結果から、全米オープンと全豪オープンの会場は人工芝もしくはハードコートと絞り込んでみます。また、「True color」を見るといずれのテニスコートも青いことから、おそらくハードコートなのでは?と推測できました。

※青い人工芝のコートがある場合はその限りではないので、もっと精度を上げる方法はたくさんあると分かりつつ、無理やり推測してみました

(3)全仏オープンのテニスコートはクレー!

全豪オープンの次に行われるのは全仏オープンです。
パリのスタッド・ローラン・ギャロスというところで開催されます。

例にならってまずは「True color」から。

Credit : Copernicus Sentinel data

「True color」だけでも土の色をしていることが分かりますね。では実際に「False color」で見てみましょう。

Credit : Copernicus Sentinel data

冒頭で見た済々黌高校と同様の薄茶色をしていることが分かります。つまり、全仏オープンのコートがクレーコートだと推測できます。

(4)ウィンブルドン選手権のテニスコートは天然芝or人工芝が分かる!

最後はウィンブルドン選手権です。

こちらも例にならってまずは「True color」から見てみましょう。

Credit : Copernicus Sentinel data

これまでのテニスコートと違ってコートが緑色ということが分かります。つまり、人工芝か天然芝なのでしょう。そういうときは「False color」を使います。

Credit : Copernicus Sentinel data

見てみると、テニスコートも周りの植物と同様の赤色をしていることが分かります。つまり、ウィンブルドン選手権のテニスコートは天然芝であることが分かります。

本当に?と思われるかもしれませんが、以下の早稲田大学所沢キャンパスの衛星画像をご覧ください。

Credit : Copernicus Sentinel data

左側が「True color」、右側が「False color」です。見てみると周りの植物と野球場は同じ赤色ですが、テニスコートだけ赤色が薄いように見えます。早稲田大学のテニスコートは人工芝です。

つまり、人工芝のテニスコートは「False color」では赤が薄くなるとわかりました。もう一度ウィンブルドン選手権のテニスコートを見るとしっかり赤色であることが分かりますね。

Credit : Copernicus Sentinel data

ただ、上のタイムラプスのように、日によってウィンブルドン選手権が行われる天然芝コートの赤が薄くなる日もあるようです。

なぜだろうと思いGoogleマップを見てみると原因が判明しました。

Credit : Googleマップ

日によっては上のキャプチャのように、テニスコートをシートで覆っているようなのです。

(5)やってみたまとめ

最後に今回できたことと、テニスコートを見るならこういうこともできるようになりたいという欲をまとめてみました。

【今回できたこと】

・テニスコートの素材を推測(特に人工芝or天然芝の判別)

クレー、人工芝、天然芝、ハードの4つであれば、ある程度衛星データから推測できることが分かりました。

 

【今後やってみたいこと】

・コートの平均風速を知る

今回はグランドスラム、つまり、硬式テニスのお話でした。ただ、テニスにはもうひとつ、軟式テニス(ソフトテニス)もあります。

硬式テニスボールの直径約6.5cm、重さ約58gと比較すると、軟式テニスは質量が30gしかなく、風の強さに左右されるスポーツです。そのテニスコートの風が強いのか否かは重要な指標になります。

 

・コートの水はけ状態を知る

クレーコートは大量の雨が降るとしばらくはコートが使い物にならなくなってしまいます。

衛星データを使って、リアルタイムにそのコートの状況を把握することは難しいかもしれませんが、地上データとうまく掛け合わせながら、衛星データから見て何時間前にこのような状態であれば、あと何時間でコートが乾くだろうという機械学習が進むと大会のスムーズな運営に活用できるかもしれません。

以上、第5回「宇宙データ使ってみた-Space Data Utilization-」ではテニスコートをネタに衛星データで遊んでみました。

次回以降のネタもたくさん(100個以上)たまっていますが、もっと解析の力を上げたい宙畑……。やりたい!というデータサイエンティストの方いらっしゃいましたらぜひFacebook or Twittterまでメッセージをいただけますと幸いです。

 

おまけ:NDWIも使ってみよう

せっかくEO Browserを使うのに、「True color」と「False color」だけではもったいない!

ということで、「NDWI(Normalized. Difference Water Index):水の有無が分かります」の事例も最後におまけです。

Credit : Copernicus Sentinel data

上画像のUSTAビリー・ジーン・キング・ナショナル・テニス・センターのテニスコート下側の丸い部分にはその右上にある「pond = 池」から水があるようにも見えます。

実際に水があるのでしょうか。「NDWI」で見てみましょう。

Credit : Copernicus Sentinel data

見てみると「pond」の部分は青くなっていますが、気になった部分は青くなっていません。つまり、この部分には水がないことが分かりました。

また、全豪オープン会場メルボルンパークのNDWIも見てみましょう。

Credit : Copernicus Sentinel data

テニスコートの下側に長く太い青が見えます。このように、NDWIを見ればテニスコート横を川が流れていることが一目瞭然です。

このように、植物の状況以外にも衛星データから様々な情報を広域で取得することができます。冬場には「NDSI」で雪の堆積状況を把握することも可能です。

ぜひ気軽に遊び感覚で衛星データを使ってみてください。

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