宙畑 Sorabatake

衛星データ

課題に応じて変幻自在? 衛星データをブレンドして見えるモノ・コト

衛星データは波長の組み合わせ次第で見えるモノ・分かるコトの幅が拡がることも特徴のひとつ。今回は組み合わせの基礎と、初心者向け・玄人向けの組み合わせの一部をご紹介します。

今回は衛星データの波長について、「光の波長って何? なぜ人工衛星は人間の目に見えないものが見えるのか」でご紹介した内容をさらに深掘りしていきます。

様々な波長を組み合わせてデータを見る面白さは、まるでお客様の気分に合わせてカクテルを作るバーテンダーのように、波長の特性を理解し、調べたいものを目に見えるように浮かび上がらせることにあるといってもいいかもしれません。

Credit : sorabatake

たとえば、Google Earthで見ることができる写真のようなカラー画像や、過去の宙畑の記事でも出てきている植生(NDVI)や水分量(NDWI)も波長の特性を使って可視化したものの一例に過ぎません。

「NDVI」「NDWI」はお酒で言えば「カシスオレンジ」「ジントニック」といった衛星データ初心者向けのメジャーなもの。そして、カシス、ジンの銘柄によってカクテルの味が変わるように、どの衛星から取得したデータかによっても、見えるモノも変わるという面白さ(=難しさ)こそ衛星データ解析エンジニアの腕の見せ所です。

本記事では、少し玄人向けの衛星データの組み合わせもご紹介してるので、ぜひ衛星データ解析の深みにはまっていただけますと幸いです。

記事執筆協力:久保 海(RESTEC)

写真で撮ったように見える可視光画像(True Color)
可視光域の波長(赤、緑、青)を使って人の目で見えるのと同じような画像にしたもの
植生の画像例(False color)
植生を強く反射する近赤外(NIR)を赤に配色し、赤が濃いところほど植物が多いことを示したもの

ぜひみなさんも波長の組み合わせで地球のどんなことが見えるのか試してみてはいかがでしょうか。

(1)衛星データで分かること・できること

衛星データは波長の特徴を活かして、調べたい地球の情報を可視化します。

例えば、植生を目立たせた画像を作りたい場合、植生を目立たせることができる波長で観測している衛星のデータを使う必要があります。

Credit : sorabatake

衛星によって観測している波長が決まっているので、必要な波長を観測している衛星のデータがあるのか注意が必要です。分解能や観測周期も衛星によって異なるので気を付けましょう。

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(2)衛星データの波長のブレンドは無限大

衛星によって観測している波長の種類や数は異なりますが、10以上の波長で観測している人工衛星は、Landsat-8やsentinel-2、ひまわり8号といった衛星があり、この3つの衛星データは無料で公開されています。

今回は、ひまわり8号が観測している波長を例に波長のブレンド方法をご紹介していきます。

ひまわり8号は、日本を含む地球半球分を10分おきに、16の波長で観測しています。日本域周辺に限ると2.5分に一度観測しています。

この16もの波長を使って雲の動き以外にも、降水量や地表面温度など様々なデータを調べることができ、天気予報の精度向上に役立っています。

(3)衛星データの波長ブレンド、メジャーな組み合わせ4選

波長のブレンドをご紹介する前に、波長ごとの特徴を生かし、植生や水分量などを目立たせるための波長の計算式をご紹介します。基本的には2種類の波長における反射率の違いを明らかにする(AーB)/(A+B)という式があり、このAとBにどのような波長を当てはめるかで調べたいものを明らかにします。

Credit : sorabatake

例えば、画像のある1画素に注目した時、波長aでは数値が10、波長bでは数値が2であった場合、
(AーB)/(A+B)=
(10-2)/(10+2)=8/12=0.66…

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波長aでは数値が4、波長bでは数値が6であった場合、
(4-6)/(4+6)=-2/10=-0.2

Credit : sorabatake

AのほうがBより大きいほど、1に近い数値になり、Bのほうが大きいほど-1に近くなり、差が少ないほど0に近くなります。

Credit : sorabatake

この数値を画像で表示させるときに、例えば、数値が大きければ白。小さければ黒くなるように配色すると、二つの波長の差を表した白黒画像ができあがります。

それでは、メジャーな波長の組み合わせから紹介していきましょう。

1.NDVI(Normalized Difference Vegetation Index)正規化植生指標

■NDVI=(IR-Red)/(IR+Red)

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緑植生の茂り具合を示す指標です。IR(赤外線)を強く反射し、R(赤色)は葉緑素によって吸収されるという植生(緑葉)の反射特性を利用しています。

この指標を使うと、より緑が茂っている場所ほど目立たせることができます。

過去と今の差分を抽出すれば、緑植生の変化があったところを調べることができます。

※ちなみに、NDVIには様々な派生系が考案されており、SAVI(Soil Adjust Vegitation index)という背景土壌の影響を補正した植生指標などもあります。

【参考文献】
分校反射と温度情報を用いた植生リモートセンシング

Tellusで表示させたNDVI画像
Landviewerで表示させたTruecolor画像
(https://eos.com/landviewer/?lat=35.64893&lng=140.69092&z=10&s=Landsat8&id=LV-UzJC-X3Rp-bGVf-MjAx-OTAz-MjRf-NTRT-VkVf-MA%3D%3D&b=Red,Green,Blue&anti)
Landviewerで表示させたNDVI画像
(https://eos.com/landviewer/?lat=35.64893&lng=140.69092&z=10&s=Landsat8&id=LV-UzJC-X3Rp-bGVf-MjAx-OTAz-MjRf-NTRT-VkVf-MA%3D%3D&b=Red8,Red&expression=(B8A-B04)%2F(B8A%2BB04)&anti)
Landviewerで表示させたSAVI画像
(https://eos.com/landviewer/?lat=35.64893&lng=140.69092&z=10&s=Landsat8&id=LV-UzJC-X3Rp-bGVf-MjAx-OTAz-MjRf-NTRT-VkVf-MA%3D%3D&b=Red8,Red&expression=1.5*(B8A-B04)%2F(B8A%2BB04%2B0.5)&anti)

2. NDWI(Normalized Difference Water Index)正規化水指標

■NDWI = (RedーSWIR)/(Red+SWIR)
→地表面における水域について定義

■NDWI = (NIRーSWIR) /(NIR+SWIR)
→植生に含まれる水分量について定義

Credit : sorabatake

「NDWI(Normalized Difference Water Index)」は、地表面における水域(雪を含む)や、植生に含まれる水分量の存在を示す指標です。

水や雪などによる光の反射は可視光帯で最も大きく、SWIR(短波長赤外線)で最小の値を持つことが知られています。

これはSWIRが水に吸収されることによって生じる現象であり、これらの特性を利用しているのがNDWIです。

Landviewerで表示させたTruecolor画像
(Vasylivka, Ukraine / no NDWI 46.20502°N 34.06002°E)
Landviewerで表示させたNDWI画像
(Vasylivka, Ukraine / width NDWI 46.20502°N 34.06002°E) Credit : https://eos.com/ndwi/より

【参考文献】
衛星リモートセンシングデータを用いた正規化植生,土壌,水指数の開発
NDVI, NDBI & NDWI Calculation Using Landsat 7, 8

〇〇指標という名前ではありませんが、これ以外にも赤外データやSARを利用して土壌水分量の推定を試みている研究はたくさんあるようです。

3. NDSI(Normalized Difference Snow Index)正規化積雪指標

◼︎NDSI =(GreenーSWIR)/(Green+SWIR)

Credit : sorabatake

地表面における積雪域を示す指標です。雪の分光反射特性が緑(Green)の波長 600 nm 付近で高く、短波長赤外(SWIR)波長 1500 nm 付近において低い(吸収される)ことを利用して作られています。

この指標を利用することで、雲と積雪を識別することが可能です。

Landviewerで表示させたTrueColor画像
(Greenland / no NDSI 74.64548°N 21.58813°W)
Landviewerで表示させたNDSI画像
(Greenland / with NDSI 74.64548°N 21.58813°W) Credit : https://eos.com/ndsi/

4. NDSI(Normalized Difference Soil Index)正規化土壌指標

◼︎NDSI =(SWIRーNIR)/(SWIR+NIR)

Credit : sorabatake

地表面における砂やコンクリートなどの分布を示す指標です。砂やコンクリートは可視光域で反射率が小さく、短波長赤外域に行くにしたがって反射率が高くなるため、これらの性質を利用しています。

【参考文献】
衛星リモートセンシングデータを用いた正規化植生,土壌,水指数の開発

(4)さらにマニアックな波長ブレンド5選

ここからはさらにマニアックな指標です。

研究者向けというイメージが強いですが、今後衛星データの利用が当たり前になってくればこれらの指標を活用したビジネスモデルも生まれてくるのかもしれません。

1.GSI(Grain Size Index)粒径指標。

■GSI =(RedーBlue)/(Red+Blue+Green)

土壌表面の粒度サイズが小さいほど値が大きくなる指標です。細かな砂やシルト(沈泥)などの含有率の変化と反射率の変化に相関があることから作成されているようです。そのため、砂漠化の進んだエリアなどはGSI値が高い傾向にあります。

[画像]参考文献その1から

【参考文献】
Mapping soil degradation by topsoil grain size using MODIS data
Development of topsoil grain size index for monitoring desertification in arid land using remote sensing

2.SGI(snow grain size index)雪結晶粒径指標

■SGI =(GreenーNIR)/(Green+NIR)

雪の結晶のサイズを示す指標です。雪の結晶サイズが大きくなると反射率が低下するという関係にあることから作成されています。

雪の結晶粒径の変化は、氷床表面の特徴を示したり、融解域や雪丘の特定などに役立つとされています。雪質の判定にSGIを使うことができます。

参考文献にはSGI以外にも雪に関わる指標が記載されているため、興味のある人は読んでみてください。

左:光学画像   右:SGI画像

【画像参考】
Snow Grain-Size Estimation Using Hyperion Imagery in a Typical Area of the Heihe River Basin, China

【参考文献】
Development of a new thermal snow index and its relationship with snow cover indices and snow cover characteristic indices

3.NDSI(Normalized Difference Spectral Index)正規化差分光反射指標

これまで紹介してきたものとは異なり、ハイパースペクトルセンサによって測定されたデータを分析・解析する際に開発された指標です。

※通常のセンサと比較してより細かく観測波長を分割し、細かい波長ごとのデータを取得することが可能であるセンサをハイパースペクトルセンサと呼びます。

ハイパースペクトルセンサによって測定されたたくさんのデータを用いて、対象物の観測に最適な波長帯を調べることがあります。

この際、以下のアルゴリズムのもと、全波長帯について差分を抽出し、目的の推定に最適な波長を探します。

参考文献では、米粒のたんぱく含有率推定に有効な波長を探索するためにNDSIを利用しているようです。

■NDSI(i、 j) =(RiーRj)/(Ri+Rj)
Ri、Rjは波長i(nm)、j(nm)における分光反射係数

左:通常のRGBセンサ 赤、緑、青つまり可視光の波長をRGBに振り分けられるようにしている
右:ハイパースペクトルセンサ 青から赤の波長域を細かく切り分けて観測している

上図の横軸、縦軸はそれぞれRiとRjの波長(nm)を示しています。直接的にNDSIの計算結果を表示しているわけではありませんが、NDSIを利用して最適な波長の組み合わせを推定したという結果になっています。興味のある方は画像参考や参考文献をご覧ください。

【画像参考】
ハイパースペクトルリモートセンシングによる作物特性評価法とその水稲生育診断・収穫管理への応用

【参考文献】
ハイパースペクトルデータによる米粒タンパク含有率推定に関する研究

4.NDPI(Normalized Difference Polarization Index)正規化偏波指標

※正規化偏波指標は直訳しているため別の言い方もあるかもしれません。

◼NDPI =(HHーHV)/(HH+HV)
H:水平偏波 V:垂直偏波
HH:送受信ともに水平偏波
HV:送信が水平、受信が垂直偏波

衛星から電波を送信し、地表面からの反射を受信するSARと呼ばれるレーダの情報を利用した指標です。

これまで紹介してきたものとは異なり、特定の対象物を検出する指標ではなく地表面の状態の違いを可視化しています。

地表にどんな物体があるかによって電波の散乱特性が異なる、つまり水平方向(H)に電波を衛星から地上に向けて送信したときに、物体によっては水平(H)のまま返ってくるものと、垂直(V)となって返ってくるものがあるというSARの特性を活かしています。

SARセンサの偏波イメージ Credit : sorabatake

参考文献では、下図のように二時期のNDPIを比較し差分を抽出することで地すべりや斜面崩壊エリアの推定を行っています。

二時期のNDPIの差分をとり、差分値の大きいエリアが白く表示されている

【参考文献】
ALOS(だいち)合成開口レーダーを用いた崩壊地抽出手法と適用
衛星リモートセンシング技術の土砂災害への応用

5.NDBI (Normalized Difference Built-up Index)正規化都市化指数

■NDBI = (SWIR2ーNIR) / (SWIR2+NIR)
※SWIR2:1560~1660nm

式としては正規化土壌指数と同じ形を示しています。コンクリートなどの反射を捉え、人工構造物が密集する都市部を強調させることができます。

◼︎BA= NDBIーNDVI

さらに、NDBIとNDVIの差分をとり、都市域(BA:built-up area)を抽出する方法も同時に提案されているようです。

(a) Normalized difference built-up index (NDBI; warmer colors indicate a higher index)
(b) non-built-up (white) and built-up (red) areas extracted using Otsu's method.

【画像参考】
Extraction of High-Precision Urban Impervious Surfaces from Sentinel-2 Multispectral Imagery via Modified Linear Spectral Mixture Analysis

【参考文献】
Study of normalized difference built-up (NDBI) index in automatically mapping urban areas from Landsat TM imagery.
千葉県千葉市と市原市における評価論文

(5)ひまわりで観測する波長以外の波長で求めることができる指標3選+おまけ

1.VRI(Vegetation Roughness Index)植生ラフネス指標

多方向から観測が可能なセンサ(例 しきさい「SGLI/GCOM-C」)より得られる、「観測方向による観測光の違い」から植生の三次元構造の情報を抽出した指標です。また、他にも植生の立体構造によって生じるカゲの割合を、観測光の波長特性から推定したカゲ指標(SI:Shadow Index)と呼ばれる指標もあります。

 

2.LAI(Leaf Area Index)葉面積指標

地表面の単位面積当たりのその上部の植物のすべての葉の片側の総面積を示した指標です。

【参考文献】
GCOM-C Biomass product GCOM-C Vegetation Roughness Index product Algorithm Theoretical Basis Document

3.海氷密接度

マイクロ波放射計と呼ばれるセンサ(例:しずく「AMSR2/GCOM-W」)によって海氷の密接度を推定することが可能です。一年氷や多年氷と呼ばれる海氷の放射特性を利用していて、海氷の継続的なモニタリング、例えば物資輸送の業界などで重宝されています。

JAXAの水循環変動観測衛星「しずく」の観測データによる2018年9月21日の北極海氷の画像
(https://www.eorc.jaxa.jp/earthview/2018/tp180925.html) Credit : NiPR/JAXA

【参考文献】
AMSR2による海氷観測の高度化

おまけ.さとやま指数

日本全国を対象に生物の多様性を評価する「さとやま指数」を国立環境研(NIES)が算出したもの。下記サイトより、さとやま指数メッシュデータが無償で提供されています。

日本全国さとやま指数メッシュデータ

(6)まとめ

波長の特性を利用したいろいろな指標の求め方を紹介していきましたが、マニアックとは言いつつも、論文を探してみるともっと複雑な計算式を使った指標などほかにもたくさん使われています。

今回紹介した指標や、自分なりに気になる波長の差分を調べてみてどういった画像が作れるのか試してみるのはいかがでしょうか。地球の意外な一面を見ることもできるかもしれませんよ。

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