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アクセルスペースが新事業「AxelLiner」を発表。受注から最短1年で衛星を提供可能に【宇宙ビジネスニュース】

【2022年5月24日配信】一週間に起きた国内外の宇宙ビジネスニュースを宙畑編集部員がわかりやすく解説します。

4月26日、地球観測プラットフォームを運用するアクセルスペースが新サービス「AxelLiner(アクセルライナー)」の構想を発表しました。

AxelLinerのロゴ。"Liner"は定期便を意味する Credit : アクセルスペース

同サービスは、衛星プロジェクトに関わる長く複雑なプロセスをパッケージ化し、顧客により早く、コストを抑えてデータを提供するのが狙いです。

記者発表会で語られたサービスの詳細や構想された背景、今後の展望をまとめます。

地上のものづくり企業との連携で、衛星を早く安く製造する

AxelLinerの大きな特徴は、地上のものづくりのノウハウを取り入れることです。アクセルスペースは、機械部品の製造・販売を手掛けるミスミグループと精密切削加工技術に特化した由紀ホールディングスと「宇宙機製造アライアンス」構築に向けた覚書を締結しました。アライアンス構築の意図を代表取締役CEO・中村友哉氏は、このように説明しました。

アクセルスペース 代表取締役CEO・中村友哉氏

「我々の衛星設計の歴史は長いわけですが、量産は未知の世界です。製造業のノウハウを活かしながら、地上の製品と同じような考え方で早く、安く作れるかを考えていかないといけません」(代表取締役CEO・中村氏)

「宇宙開発に携わっている人は『宇宙は特別だから時間やコストがかかっても仕方がない』という発想になってしまいがちです。工夫して、いかに地上のものづくりに近づけていくかがポイントだと思っています。ピラミッド型の下請け構造ではなく、対等な関係で、それぞれの強みを生かす仕組みを実現したいと思っています」(代表取締役CEO・中村氏)

アクセルスペースは、同社初となる衛星の量産に取り組み、2021年3月に同時に4機を打ち上げました。さらなる事業の加速に向けて、製造業のノウハウを持つ企業と連携して、調達から製造までのプロセスを組むことで、量産体制の強化を図ろうとしているのです。

今後は、汎用的な小型衛星システムを構築し、アクセルスペース社内のミッション実現チームがその枠組みのなかで顧客のニーズをどのように満たすかを検討します。

発表資料より Credit : アクセルスペース

また、アクセルスペースは、2021年より経済産業省の補助を受け、日本初となる小型衛星のワンストップサービス実現に向けた体制構築を進めています。今回発表されたAxelLinerは、経済産業省の実証事業の成果を活かしたものだということです。

実証機の打ち上げは2023年に計画されています。この実証機にはアクセルスペースが今後標準搭載する予定の機器に加えて、顧客から搭載の相談を受けている実証機器があり、現在は交渉している段階だといいます。

2023年の実証以降、アクセルスペースが製造する衛星は、AxelLinerのコンセプトに沿ったものに切り替えられていくことになります。

量産時代へのパラダイムシフト

代表取締役CEOの中村氏は、アクセルスペースの事業のパラダイムシフトを挙げて、AxelLinerを構想した背景を説明しました。

1.0:専用衛星ビジネスの時代
2.0:データビジネスへの進出
3.0:量産時代への移行

アクセルスペースは創業当初、民間企業が独自の衛星を所有する時代が来るのではないかと考え、フルカスタムの衛星を提供していました。一方、企業が衛星を所有するには、ハードルもあります。

「企業が欲しいのは衛星のハードウェアそのものではなく、データです。衛星を所有するリスクを我々が取り払えば、リスクフリーで宇宙の価値を提供できるようになるわけで、そちらの方向にシフトしていくことになりました」(代表取締役CEO・中村氏)

そして始まったのが地球観測プラットフォーム「AxelGlobe(アクセルグローブ)」です。現在はGRUS衛星5機体制で運用されていて、2022年第4四半期には4機が追加で打ち上げられる予定です。

「お客様のニーズに合わせてフルカスタムで開発すれば、痒いところに手が届き、細かい要望にも応えられますが、時間とコストがかかります。社内的な事情を言えば、エンジニアが一斉に一つの衛星の開発・製造に回るので、ほかの案件をパラレルに動かすのが難しくなることもありました。(共有して使える)汎用システムを私たちの中で定義しておけば、お客様のミッションを短期間かつ低コストに実現できるようになります」(代表取締役CEO・中村氏)

取締役CTOの宮下直己氏は、地球観測プラットフォームAxelGlobeと今回発表されたAxelLinerとの関係性をECプラットフォームのAmazonとそのITインフラを支えるAWSを例に挙げて説明しました。AxelLinerは衛星を使ったサービスのインフラであり、AxelGlobeやほかのミッションを支えていくことになります。両事業で得られたノウハウを上手くインプットしていくことで、強みを発揮するのが狙いです。

アクセルスペース 取締役CTO・宮下直己氏

「(AxelGlobeとAxelLinerの)2つの事業が車の両輪として、今後のアクセルスペースの成長の加速に貢献します。この事業形態は世界的に見てもユニーク。何がデファクトスタンダードになるかわからない状況の中で、変化に素早く対応する体制が求められています。これは両事業に取り組むことによって実現できると思います」(取締役CTO・宮下氏)

また、記者発表会の最後には、AxelLinerにおいて衛星の開発期間がどのくらい短縮できるのかという質問が挙がりました。取締役CTOの宮下氏によると、受注から軌道上でビジネスサービスインまで最短1年未満で達成するのが目標。打ち上げやサービス開始前の機器チェック等を実施する初期運用の期間を考慮して、6カ月から10カ月程度で衛星を量産したい考えです。宮下氏はチャレンジングな目標だと話した上で、意気込みを語りました。

「宇宙は『ビジネスインまでに3年』となると、それだけで離れていってしまうお客様もいらっしゃいます。ベンチャー企業が増え、ロケットの調達スピードが速くなってきているなかで、ロケットが調達できているのに衛星が追いつかないというのは、我々衛星屋としては悔しい話ですよね。やはりこのくらいのスピード感は達成していかなければならないと考えています」(取締役CTO・宮下氏)

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参考

アクセルスペース、日本初となる小型衛星量産体制を 活用した新サービス「AxelLiner」を発表