宙畑 Sorabatake

ビジネス事例

5機体制になり変わったことは?アクセルスペースの事業責任者に聞く、コンステレーションの構築とサービス開発

日本初の商用地球観測衛星コンステレーションを構築したアクセルスペース。ユーザーの潜在的なニーズを汲み取りながらデータ利用の裾野を広げる「AxelGlobe」の事業戦略や今後の展望を、サービスを統括する中西佑介さんに聞きました。

「衛星1機での運用から5機体制になったとき、反応がポジティブな意味で大きく変わりました」

こう話すのは、日本初の商用地球観測衛星コンステレーションを構築したアクセルスペースの地球観測プラットフォーム「AxelGlobe」を統括する、取締役CPO(最⾼プロダクト責任者)の中西佑介さんです。

アクセルスペースは2021年3月に地球観測衛星「GRUS」を4機打ち上げ、同年6月から5機体制でのAxelGlobeの運用をスタート。2022年1月に開催された事業進捗報告会では、AxelGlobeの新サービスとユースケースが続々と産まれ始めていることを紹介しました。

ユーザーの潜在的なニーズを汲み取りながら、データ利用の裾野を広げるAxelGlobeの事業戦略や今後の展望をCPOの中西さんにうかがいました。

株式会社アクセルスペース
取締役CPO(最高プロダクト責任者)/AxelGlobe事業管掌
中西佑介さん

一橋大学商学部経営学科卒業。AGC株式会社(旧旭硝子株式会社)での営業・企画業務経験後、スタートアップ役員、ボストンコンサルティンググループを経て2020年アクセルスペース入社。2021年4月より取締役CPO・AxelGlobe事業本部長に就任。

ポジショニング戦略から見出した勝ち筋

―改めて、AxelGlobeとGRUS衛星のコンセプトを教えてください。

アクセルスペース 取締役CPO 中西佑介さん。インタビューはオンラインで実施しました

まず、アクセルスペースは「Space within Your Reach(宇宙を普通の場所に)」を会社としてのビジョンを掲げています。

これまでの衛星データは、軍事や防衛向けにデータを提供するのが中心でした。一般の企業やユーザーにとって、衛星データは手が届かないような価格帯でしたし、そもそもどうやって購入すればいいのかもよくわからない状況で、それを変えていこうというコンセプトになっています。そのため、アクセルスペースでは、衛星は超小型化して、安く早く打ち上げて、データを取得することが設計の根本になっています。

―高分解能のデータを提供している地球観測事業者が多いなか、中分解能のデータを提供しているのはGRUS衛星の大きな特徴ですね。中分解能のデータ提供に踏み切った理由は何ですか。

まず、データの市場について説明させてください。政府の支援を受けながら、軍事や防衛用途の高分解能のデータを提供するプレイヤーが多くいます。一方、低分解能のデータは無償で提供されている場合もあります。

ところが、高分解能と低分解能のデータの間にあたる中分解能のデータを提供しているプレイヤーはほとんどいませんでした。データの品質と価格のバランス、適用できる領域を考えてみても、やはり中分解能がいいだろうと。

―同程度の分解能の衛星の観測幅は10〜30kmが平均的ですが、GRUS衛星は57km以上とかなり広くなっています。ユーザーからはどのような反応がありますか。

画像内にある撮影幅55kmは、正確には57kmとなっており、東京駅から高尾山まですっぽりと入るほど。 Credit : アクセルスペース

衛星5機体制で広域のデータを一定の期間で撮影しきるのに、観測幅の広さで補完している部分もあり、お客様からは評価していただいているのではないかと思います。

同型機でコンステレーションを構成していても、衛星の高度がバラバラで、撮影条件が異なるという話も聞きます。その点、弊社の場合は、一つの衛星の観測幅が広くて、一度に撮影できる面積が大きいため、安定した品質と一貫したクオリティを担保することができ、データの利用用途が広がりますし、アドバンテージになります。

―GRUS衛星は初号機からレッドエッジのセンサが搭載されていたのは、とてもチャレンジングなことだったのではないかと思います。どういう狙いでレッドエッジのセンサが搭載されたのでしょうか。

宙畑メモ:レッドエッジ
レッドエッジとは、赤と近赤外の間に位置する波長で、植物の活性度合いに敏感に反応すると言われており、主に農業分野などでの利用が期待されます。下の画像はアクセルスペース社に提供いただいたtrue view、レッドエッジ、NIRの画像比較です。

□比較①:True Color表示(左)とFalse Color表示(レッドエッジ)(右) 
credit:アクセルスペース


□比較②:False Color表示(左: NIR, 右: レッドエッジ)
credit:アクセルスペース

分解能や撮影頻度から、農業や森林モニタリングがデータの適用先の候補として挙がっていました。地球観測事業に取り組む先発企業がいるなかで、我々がどうイニシアチブとシェアを取っていくか検討し、レッドエッジが俎上に上がり、実装に至りました。

―地球観測業界を牽引するPlanet Labsと比較した、GRUS衛星の強みは何だと考えていらっしゃいますか。

宙畑メモ:Planet Labs
地球観測事業者の中では最多となる超小型衛星150機以上を打ち上げ、地球上のあらゆる場所を日々観測、衛星画像の提供を行っています。

フレキシビリティは、AxelGlobeの強みとして挙げられると思います。Planet Labsをはじめとする競合他社は衛星コンステレーションで全地球を常時撮影し、そのなかからユーザーが欲しいデータを選択しているのに対し、AxelGlobeはお客様がご希望のタイミングで撮影することができます。

競合他社のように、常時網羅的に撮影する方式である特定エリアの画像を手に入れようとすると、撮影頻度が2日に1回のときもあれば、1週間に1回のときもあるなどバラバラで、欲しい頻度とタイミングが揃わないことも多いようです。AxelGlobeはご要望を聞いて撮影していることを評価していただいているのではないかと思います。

それから、コスト構造にも競争力があるのではないかと思っています。やはり衛星の機数を増やしてとりあえず撮影していても、売れるデータはわずかです。そうすると、コスト負担をデータの提供価格に反映せざるを得ませんよね。

反対に、“意味のある画像”を集中的に撮影していればコスト負担が軽くなります。要は、リーズナブルで競争力がある価格でサービスをご提案できるところも、データ利用の間口を広げたり、新たなお客様を獲得したりする上で重要だということです。

5機体制になり変わったこと

―当初想定していたAxelGlobeの事業と比較して、現在の進捗はいかがですか。

国内の行政機関や民間企業の皆様にご利用いただき、非常にありがたいなと思っています。その反面、やはり衛星画像というプロダクトの特性上、グローバルに展開できるビジネスで、そのポテンシャルの高さを改めて認識したところでもあります。

想定外だったのは、衛星1機での運用から5機体制になったとき、反応がポジティブな意味で大きく変わったことです。1機体制での撮影頻度は2週間に1回でしたし、撮影できる面積も限られていました。営業をかける際に、5機体制に増えることを説明させていただくと「実現できてから改めてお話を聞かせてください」といった感じでした。

それが5機体制になると、皆様の食い付きが全く違ったんです! 大規模な案件の入札がありましたし、こんな業界でもご活用いただいているのかと驚いたこともあります。光学画像なので天候が悪く、雲がかかっていると地上の様子が見えませんが、撮影の頻度が増えたことによって、地表の様子を捉えられる成功率も上がりました。

営業の方針を変えたことも関係していると思いますが、5機体制に強化したことの意味は非常に大きかったなと感じています。

―営業の方針も変えられたのですか。

そうですね。これまでは社内の営業メンバーがアンテナを張って、お客様のところに足繁く通っていました。それを2021年からパートナー企業と連携しながら、営業活動を進めていくかたちにしたのです。この方針は間違っていなかったと思っています。

社内の営業チームも、人材を採用して強化しました。国内だけでなく、海外の主要な地域に営業メンバーがいて、それぞれがボールを拾いながら、ダイレクトに営業をかけるようなチームを組もうとしています。

営業メンバーのなかには、リモートセンシング分野の知見がない方ももちろんいらっしゃいます。業界の常識にとらわれない新しい営業のスタイルで成功事例も出てきています。

―中西さんはこれまで衛星データビジネスに携わったご経験はありましたか。

宇宙や衛星、リモートセンシングとは全く関わりがありませんでした。化学メーカーで事業企画や営業を担当した後に、コンサルティング会社で経験を積んだので、次は事業会社に行こうと。社会的意義があって、世の中にインパクトを与えるスタートアップ企業で働きたいと思っていました。複数の企業に声をかけていただき、アクセルスペースもそのうちの一社でした。CEOの中村と話をして「宇宙って面白そう」「将来性がありそう」と思ったんです。

AxelGlobeは、衛星データをいかに民主化するかというのがコンセプトになっています。民主化すると、どういう変化が起こるのかが非常に楽しみなんですよね。みんながデータを安価に使えるようになると、どんなアプリケーションが生まれるんだろうって。もしかすると、我々が全く想定していないBtoCビジネスが立ち上がることもあるかもしれません。

私にとって宇宙は全く知らない業界でしたが、大きな変化の一助になれるのは面白いと思ったのがスタートです。宇宙業界出身でなくても、やる気とスキルがある方は積極的に採用しています!

ユーザーの声をもとに進めるプロダクト開発、誰が使う?

―1月の事業進捗報告会では、4つの新プロダクトを発表されていました。これらのプロダクトはどのように検討、設計されましたか。

宙畑メモ
アクセルスペースは2022年1月に、これまで撮影した全世界の過去画像を自由に利用できる「AG Archive」、撮影時期の異なる複数の画像から雲のない画像を作成し提供する「AG Cloudless Mosaic」、撮影日を自由に設定して撮影できる「AG Custom Capture」、撮影と画像利用を別々に行うことが可能な「AG Reservation」を発表しました。

新プロダクトは、お客様から個別に具体的なご相談をいただいた内容から組み立て、幅広いお客様向けに展開したり、ビジネスとして成り立つかどうかを考えたりしつつ、4つのプロダクトを発表することになりました。

AG Archiveはセールスパートナーの方から「アーカイブをマーケティングに使いたい」というご意見をいただいたこと、AG Cloudless Mosaicは行政機関の皆様から防災や国土調査に日本全土の画像を利用したいという問い合わせを多くいただいたこと、AG Custom Captureは防災科学技術研究所との取り組みでニーズが見えてきたこと、AG Reservationは報道機関の皆様から「事件が起こる前の様子を衛星画像で見たい」というお話をうかがったことがサービス化のきっかけとなりました。

撮り貯めた画像をリーズナブルに提供するAG Archiveは、新規のお客様に「衛星画像を扱ってみたい」「解析に使ってみたい」という風にご利用いただけて、衛星画像の間口を広げるのに非常に意味があるプロダクトだと思っています。

AG Cloudless Mosaicは、日本全土のマップを作成し、災害が起きる前の様子を記録することができます。発災後の様子と比較するのに必要な発災前のデータはあまり整備されておらず、ニーズがあるようです。海外からも同様の引き合いをいただいています。

AG Custom Captureは、自由に撮影日を設定できるので、海外の生産拠点をタイムリーに確認したり、災害時に現地の状況を素早く把握したりされる方にご利用いただけるサービスだと思います。

AG Reservationをご利用いただくのは、やはり報道機関の皆様が中心になると想定しています。お客様のリクエストから、撮影しておく価値がある場所をインプットできるので、私たちとしてもメリットがあります。穀物倉庫など先物取引に関わる施設を撮影して欲しいというご要望もいただいていて、将来的には金融機関のお客様にもご利用いただけるようになるかもしれません。

5機体制になり、お客様の声に触れる機会が増えているので、プロダクトに反映できるような状況になってきています。1月のタイミングでは4つのプロダクトを発表させていただきましたが、やりたいことや、やらなければならないことは、まだまだ山盛りです!

―さらに、1月の事業進捗報告会では2022年第四四半期にGRUS衛星を追加で4機打ち上げ、9機体制となる予定を発表されていました。9機体制となることで新たにリーチできるようになる業界や適用先として、どのようなものを考えていらっしゃいますか。

地球上のあらゆる地点を1日に1回撮影できるようになり、撮影できるようになる面積も広がるので、国土全体を撮影するなど、これまでよりも大規模なプロジェクトにリーチできるようになるというのはあるでしょう。

加えて、解析事業者の外部パートナーもいらっしゃるので、提供するデータの量が増えることで、プロダクトも充実していくのではないかと考えています。アクセルスペースは、衛星で画像を撮影してお客様に届ける1から10までの流れを全部はやらずに、パートナー企業と組んで進めるようにしています。パートナー企業と一緒にマーケットを作っていくのは、競合他社と差別化できるポイントだと思います。