宙畑 Sorabatake

特集

衛星データでどう変わる!? 第4回『Tellus Open Discussion』~保険・金融 篇〜レポート

衛星データのビジネス利用を促進することを目的とした、各業界向けの実践的な衛星データ活用セミナー『Tellus Open Discussion』。その第4回目として開催された保険・金融篇イベント当日の様子をご紹介します!

ビジネス効率を加速させる衛星データの利用方法について、各業界ごとに海外事例の紹介を交えながら基礎的な知識から実践的な手法までを解説する『Tellus Open Discussion』。

2019125日の4回『Tellus Open Discussion』~保険・金融篇~では、日本発のオープン&フリーな衛星データプラットフォーム「Tellus(テルース)」の開発・運用を行っているさくらインターネットと、衛星データビジネスの創出において数多くの海外実績を持つPwCコンサルティングがその知見を活かし、保険・金融をテーマに具体的な衛星データの活用法の紹介やディスカッションを行いました。本記事では、その模様をお届けします。

保険・金融における衛星データ活用の事例紹介

まずはじめに、Tellusの利用の仕方や仕組みなどについて、さくらインターネット株式会社 新規事業部の田中が行い、続いてPwCコンサルティング合同会社の山田さんより衛星データの特徴や活用の概要について説明がありました。

詳細については、過去のイベントレポートでもご紹介していますので、ぜひそちらをご覧ください。

そして次のパートとして、PwCコンサルティングの永金さんより海外の保険・金融事業者が衛星データをどのように活用しているのか、最新の事例が紹介されます。

事例紹介1:衛星データとAIを活用した保険サービス DELOS

Credit : Delos HPよりPwC作成

カリフォルニアでは、一度の山火事で保険金の支払額が1兆円を超えることも少なくありません。保険のアドバイザービジネスを行う『DELOS』社では、衛星データから得た気象情報や地理情報、地上で得た山火事の被害状況などのデータとAIによる機械学習を組み合わせ、さまざまなリスクをシミュレーション。その情報をもとに、保険会社と顧客の双方に最適な保険プランを提供しています。今後はハリケーンに関して同様のサービスを開発する予定で、日本の台風被害に対しても参考になりそうな事例です。

事例紹介2:衛星画像分析による保険引き受けの自動化 ALTOROS

Credit : ALTOROS HPよりPwC作成

ITサービスプロバイダーの『ALTOROS』社の事例です。同社では衛星写真などから建物を分析し、どういったタイプの家屋にどれくらいのリスクがあるのかといった独自の画像分類モデルを持っており、資産検査のプロセスを自動化しています。実際にリスクが高い家屋には調査員が足を運んだり、ドローンを使ったりして詳細な検証を行っています。これにより、引き受けのライフサイクルの短縮化を実現しました。ドローンも含めた同様のソリューションの市場は、2020年までに10億ドル(約1,200億円)を超えると予想されています。衛星データは、被害状況の把握だけでなく、災害発生確率の予測や予防対策にまで活用されるのが、世界的な動きになっています。

事例紹介3:小規模農家の利益を高める衛星画像と作物保険 インド政府

世界第二位の人口を有し、その大半が農業従事者であるインドでは、第一次産業の農家を守る仕組みの一つとして政府として衛星データを有効活用しています。光学衛星を活用して圃場(農地)と作物の生育状況(植生)をとらえて、生産高や予想される利益を算出。平常時と災害時の生産高を比較し、小規模農家向け作物保険の正確な運用や、適切な保険プランの開発ができるようになりました。このデータを活用した保険会社『バジャジアリアンツ』社は合計307,677ヘクタールの農地に保険をかけ、約3,400万ドル(約37億円)の損失をカバーしたと発表されています。

事例紹介4:衛星データを活用した農業マイクロファイナンス Sagri

Credit : Sagri HPよりPwC作成

農業最適化アプリケーションの提供を行う日本の会社『Sagri』社が、インドで展開している農業マイクロファイナンスの事例です。衛星画像から土壌の状態を把握するだけでなく、適切な肥料の種類や使用量を分析することができます。これにより、効率的な農業を行うことができ、より高精度に生産高や利益を上げるための予測が可能となります。金融機関は農家のスコアリングから信用度を判断して、*1マイクロファイナンスを実施しています。同様の取り組みは養殖などの漁業分野でも行われており、第一次産業へのマイクロファイナンスにおいて、リスクの補填や仕組みの構築に衛星データを活用することが世界的に広がってきています。

*1マイクロファイナンスとは?
貧困層向けに小口の融資や保険サービスを提供すること

事例紹介5:夜間照明の観測による経済指標 SpaceKnow

Credit : SpaceKnow HPよりPwC作成

AIを活用した衛星データ提供会社『SpaceKnow』社がアフリカで行っている事例です。同社では、衛星データで*2夜間光を捉え、その規模の大きさにより、どれくらいの経済規模があるかを指標化して政府機関や投資家に提供しています。実際にナイジェリアの夜間光を分析することで、エボラ出血熱などの感染症により経済がどれだけ影響を受けているか、将来的なGDPがどれくらいになるのかなどが把握できるようになってきました。こうした衛星データによる経済指標は、事実に基づいた正確性のある情報として、金融機関や投資家から注目を集めています。

*2夜間光とは?
宇宙から見た夜景を夜間光と表現することがあります

事例紹介6:穀物の生育状況による経済指標 Bloomberg terminalサービス

Credit : Global data institute WebサイトよりPwC作成

大手総合情報サービス会社『Bloomberg』社のterminalサービスでは、衛星データから穀物の育成状況などを把握し、気象データや過去のトレンド、地域性などを組み合わせて将来予測を指標化。先物取引の指標として提供しています。信頼ある情報が増えることで投資家の判断精度が高まるだけでなく、サービス提供者にとっても、顧客の維持拡大や不正確な情報による*3レピュテーションリスクの回避といったメリットがあります。

*3レピュテーションリスクとは?
企業に対するマイナスの評価や評判が広がり、信用やブランド価値が低下する経営リスクのこと

パネルディスカッション

左から、永金明日見さん(PwCコンサルティング)、山田洋平さん(PwCコンサルティング)、竹林正豊(さくらインターネット)、田中康平(さくらインターネット)

続いて行われたパネルディスカッションでは、あらかじめ設定されたテーマに沿い、保険・金融業界での衛星データの活用状況や、マイクロファイナンスなど新しい領域での衛星データ活用などについて、登壇者それぞれの意見が出し合われました。

登壇するのはPwCコンサルティングで宇宙ビジネスを担当する永金さんと山田さん、さくらインターネットでTellusのプロモーションを統括する竹林、Tellusのビジネス開発を担当する田中です。

ここからは、その模様を会話形式でお届けします。

増加する自然災害と保険会社のリスク

永金:モデレーター兼パネリストの永金です。最初に、近年どれくらい災害が増加しているかを再確認したいと思います。

Credit : ESA
Credit : 国土交通省

永金:上のグラフは、ヨーロッパの高所得国において水害や火災などにより損失が発生した自然災害件数、下のグラフは日本の土砂災害の数です。ここ数年で災害は急激に増えており、さまざまな報告機関の推計によると、今後も年々増加していくことが予想されます。このように増加する災害に対して、保険会社は保険金を払いきれないリスクがあります。また、そのリスクを引き受ける再保険会社も、投資家から資金を集めるのに苦労しています。このような状況に対して、衛星データを使うことでどのような対策ができますか?

山田:これまでは災害が起きた後に、政府系機関やその外郭団体などが、航空写真や衛星写真を使って被害状況の把握を行ってきました。これからは地形ごとに、どんな災害が起こる可能性があるかなども衛星データから事前に予測できるようになってきます。

永金:地形から災害の予想がわかると、何が変わってきますか?

山田:これまではハザードマップなど、公共機関がデータを出していましたが、今後は民間が衛星データを解析して結果を公表していく。そういったボトムアップ型の社会になっていくのではないかと思います。

永金:市民が自分で考えて行動を起こすことができるようになると?

山田:そうです。もし民間が運営する災害予測サービスが増えてくれば、事前に「自分で保険をかけておかなければならない」などといった判断材料も増えますよね。

永金:すると、災害予測に基づいて、保険会社や金融会社はさまざまな商品ラインアップを用意することができますね。

山田:商品は増えると思います。最近では24時間単位で加入できる1日自動車保険がありますが、同様に、大雨が降りそうだとわかった場合に一時的に加入できる保険が、ネットやスマホで手軽に買えるようになるかもしれません。

永金:昨今の災害は突発的に発生するので、そのような保険があるといいかもしれませんね。

衛星データと機械学習について

永金:次のスライドに移ります。保険・金融業界において活用されている衛星データと機械学習について、山田さんに解説をお願いします。

山田:衛星データを用いたソリューション開発のプロセスは、上図のような構図で説明できます。地上で起きたさまざまな出来事は、位置情報や地理空間情報として蓄積されています。予測モデルをつくるには、まず溜まっているデータを処理しなければなりません。そういった膨大なデータを衛星データと掛け合わせ、どのような相関関係があるかを機械に教え込む。そこで初めて、事例紹介のような、特性に応じた予測モデルをつくることができます。

永金:掛け合わせる衛星データもそれぞれ違ってきますか?

山田:実は、どの予測モデルやサービスも、使っている衛星データ自体に大差はなく、どこもほとんど同じものを使っています。むしろ自分たちが持っているデータと衛星データをどう掛け合わせるか、それをいかに機械に学習させるかが重要なポイントです。だから発想次第でいくらでも新しい使い方ができる。こういった衛星データの活用法が、保険・金融業界においてもトレンドになっているのではないかと感じています。

田中:今私達は、衛星データのアーカイブを充実させることに注力しています。そのアーカイブをご自身でお持ちのアーカイブデータと組み合わせることで、新しいサービスを検討していただくことができると思っています。

永金:例えば、プログラミングができなくてもTellusのデータにアクセスすれば解析をかけられるのか、それともやはりデータサイエンティストなどの素養が必要なのか。Tellusのユーザビリティについて聞かせてください。

田中:ある程度は機械学習の知識がなければ難しいかもしれません。そこで私達は、eラーニング講座などで機械学習を体験できる機会を提供しています。また、毎年開催している『Tellus Satellite Boot Camp』というラーニングイベントに参加することで、あらかじめ専門的な知見がなくても、衛星データ活用の勘所は押さえられるようになるのではないでしょうか。また、Tellus事業推進のために結成したアライアンスの中には、AI領域に強いスタートアップも入っており、協力して新しいモデルを作っていくことができると思っています。

竹林:現在、宇宙業界の従事者は9,000人と言われていますが、その方々のためだけのTellusではなく、もっとユーザーの裾野を広げていくのも私達の役目だと思っています。プラットフォーム開発にとどまらず、さまざまなラーニングイベントの提供や、オウンドメディア『宙畑』での情報発信を通じて、ユーザー開発にも力を入れていきたい考えです。

永金:同じ衛星データでも、それをどう使うかによって、ビジネスとして提供できるサービスになるかどうかが変わってくると思います。既存のデータと衛星データの相関関係を導き出す複雑な計算式は研究機関などの専門家に任せて、企業側はそれを使ってどんなビジネスができるかを模索する。まさにアイデア勝負ですよね。個人的には、まずはやってみることが一番大事で、どんどんトライする価値がある領域なのかなと思っています。

竹林:今後、POSデータや新聞のテキストデータなど、衛星データ以外の情報も積極的にTellusに盛り込んでいきたいと思っています。内閣府が提供している地域経済分析システム「RESAS(リーサス)」のデータも、すでに一部入っています。そういったさまざまなデータをクラウドで解析できるのがTellusの特長で、お手持ちのデータと掛け合わせてもTellus上で解析ができます。Tellusは衛星データプラットフォームではありますが、優れた解析環境でもあるんです。

永金:さまざまなデータを掛け合わせて、可能性を広げられる場がTellusということですね。山田さんに聞きます。保険・金融業界と相性がいいのは、どのようなデータですか?

山田:今、一部の損保会社では、ハザードマップや衛星データなどから推察されるリスクと、実際の被害状況を比較したデータを蓄積し始めています。個別の被害状況を把握するだけでなく、その情報を地理空間にマッピングして俯瞰で見られるようにしている。5年後、10年後の競争環境で勝ち抜くために、今からデータを溜めているんですね。

生命保険や疾病保険と衛星データ

永金:損害保険だけでなく、生命保険や疾病保険の分野でも衛星データを活用することはできますか?

山田:例えば、PM2.5などの微粒子のトレンドも衛星データから把握できます。そこにカルテの情報や、地上の排気ガス濃度といったデータをかけ合わせれば、特定の場所や気象条件のもとでどれくらいの罹患率があったかなどがあぶり出せるのではないでしょうか。製薬会社や生命保険会社にとっては有用なデータになりますよね。

永金:事例紹介5で、エボラ出血熱による経済へのインパクトを夜間光から推測していることに触れました。それにプラスして、伝染の経緯やルートを分析して地域ごとの罹患リスクまで割り出せれば、非常に有意義なデータになります。疾病データは、衛星データとはかけ離れたデータのように感じますが、全く異なるデータを掛け合わせることが、新しい保険商品やサービスの開発に繋がる。ヘルスケアと衛星のデータの組み合わせは、非常に可能性が広がる分野だと思っています。

金融分野における衛星データ活用

永金:では金融の分野では、Tellusの衛星データを利用してどのようなことができそうですか?

田中:農作物の育成状況を見られるデータはすでに載っているので、事例紹介4Sagri社のようなサービスは、過去データではありますがお試しいただくことができるかと思います。

永金:実は、衛星データを農業に活用する話自体は10年以上前からありますが、衛星データを取得するためのコストがかかりすぎて、これまで多くの企業が断念してきました。それが今、Tellusのようなサービスが登場して、構造改革に取り組んでいる。この状況はチャンスだと思います。まず衛星データを活用したビジネスの入り口としてTellusを利用して、まだ事例の少ない分野で積極的にトライする価値はあると思っています。

田中:最近は、さまざまなデータを保有している方々からTellusへの問い合わせが増えています。そういったデータを多角的に掛け合わせてアイデアを見つけていけば、金融業界にも新しいサービスが生まれてくるのではないかと思います。

永金:ありがとうございました。

オープンディスカッション

会場の参加者を交えたオープンディスカッションでは、参加者から「被災地の衛星データをスピーディーに取得するにはどうすればいいか」「リアルタイム性の高い衛星データを得るための仕組作りは検討されているか」「今後オープン予定のマーケットで、より高解像度の衛星画像を入手できるか」といった質問が上がり、パネリストと意見交換が行われました。

保険・金融分野での衛星データ利活用について、今後積極的なビジネス活用の可能性が感じられるオープンディスカッションとなりました。

まとめ

大規模な災害が増えている昨今、衛星データを他のさまざまなデータと組み合わせて災害範囲やリスクを予測する取り組みは、保険会社の人件費や運用コストを削減できるだけでなく、合理的な保険プランの設計にも役立ちます。また、金融分野においても、マイクロファイナンスによる第一次産業の活性化や、信頼性のある情報を的確にとらえた経済指標の発信などに活用されていることがわかりました。

これまで4回にわたって開催された『Tellus Open Discussion』。日本発のオープン&フリーな衛星データプラットフォームTellusの登場により、衛星データの利活用は今以上に広がっていくことは間違いなさそうです。Tellusでは、今後もラーニングイベントなどの機会を積極的に増やしていく予定ですので、ぜひご参加ください!