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月面利用市場における非宇宙産業参画促進にあたっての現状整理と展望_PR

本記事は株式会社日本総合研究所さまによる宙畑への寄稿記事です。全3回を予定しており、第3回では新たな市場創出が期待される月面利用市場における目指すべき方向性について、示唆をまとめています。

本記事は株式会社日本総合研究所さまによる宙畑への寄稿記事です。全3回を予定しており、第3回では新たな市場創出が期待される月面利用市場における目指すべき方向性について、示唆をまとめています。

■全3回のラインナップ
第1回:宇宙産業の現況と宇宙産業における日本が目指すべき2つの方向性
第2回:宇宙利用分野(リモセン分野)における市場獲得・創出にむけた示唆
第3回:月面利用市場における非宇宙産業参画促進にあたっての現状整理と展望

はじめに

宇宙産業における日本の目指すべき方向性について、第1回は国内外の宇宙産業の概況を踏まえた方向性の提案、第2回は方向性の1つである宇宙利用産業における民需獲得によるビジネス創出の具体例としてリモートセンシング市場におけるビジネスの課題、方向性について考察を行いました。

第3回となる本記事では新規市場における非宇宙産業参画の促進として、新たな市場創出が期待される月面利用市場における目指すべき方向性について考察をまとめました。

1.月面利用に向けた日本の動向

(1)NASA提案月面探査プログラム「アルテミス計画」と同計画における日本の役割

現在、アルテミス計画にのっとり各国政府機関の協力のもと月面利用に向けた取組を推進しています。

アルテミス計画とはNASAが提案している、月面探査プログラム全体をまとめた計画です。

月に関する計画としては1960年代のアポロ計画が有名ですが、アポロ計画は「月面への到達」が目標であったのに対して、アルテミス計画では「月に人類の活動の拠点を築くこと」を目的としています。

アルテミス計画は大きく3段階で構成されています。

1段階目は月周回軌道への到達、6日間の月周回後、地球帰還までの安全性を検証することを目的とした大型ロケットと宇宙船の無人飛行試験で、2022年12月に無事打ち上げに成功しました。また、この打ち上げに際して10基の超小型衛星:キューブサットの深宇宙への放出も行い、そのうち6基が予定通りに動作しています。

続く2段階目は2024年に予定されており、大型ロケットと宇宙船の有人飛行試験で月を周回し、着陸候補地の調査を実施します。

そして最終段階ではいよいよ有人月面着陸を目指します。同ミッションは2026年以降に実施される予定です。

宇宙開発利用部会 国際宇宙ステーション・国際宇宙探査小委員会(第42回)会議資料「アルテミス計画に関する各国の開発状況について」より引用 Credit : JAXA Source : https://www.mext.go.jp/kaigisiryo/content/0210630-mxt_uchukai01-000016486_5.pdf

日本は2019年10月にアルテミス計画への参加を表明するとともに、2020年7月にNASAと文部科学省が共同宣言に署名しました。日本の他、カナダ、イタリア、ルクセンブルク、UAE、イギリス、オーストラリアが本計画に合意しています。

さて、日本はアルテミス計画においてどのような役割を担うのでしょうか。日本が担う役割は①月軌道ゲートウェイ居住棟への機器提供・補給、②探査機による月面データの共有、③与圧ローバーの開発、が中心となっています。

① 月軌道ゲートウェイ居住棟への機器提供・補給

月軌道ゲートウェイとは、月の周回軌道上に構築される宇宙ステーションで、2026年の完成が予定されています。

日本はミニ居住棟(HALO)へのバッテリなどの提供、国際居住棟(I-Hab)の居住機能(環境制御・生命維持装置)の提供を行います。

さらに、2020年代中ごろ以降、国際宇宙ステーションへの物資輸送を行う補給船であるHTV-Xの発展型をH3ロケットで打ち上げ、ゲートウェイへの物資や燃料補給を実施する予定です。

② 探査機による月面データの共有

アルテミス計画の初期段階は無人でのミッションを想定していますが、来る有人ミッションに際しては着陸地点の選定などに月面に関するデータが必要になります。日本は有人月面着陸に要するデータの提供に向けて探査機によるミッションを実施し、データや技術の提供を行います。

具体的には2023年度に打ち上げ予定の小型月着陸実証機SLIM、同じく2023年度に打ち上げを目指す月極域探査ミッション(LUPEX)等が挙げられます。

図表1:探査機ミッションの概要

探査機ミッション
概要
小型月着陸実証機SLIM SLIM (Smart Lander for Investigating Moon) プロジェクト。将来の月惑星探査に必要な高精度着陸技術を小型探査機で実証する計画。従来の「降りやすいところに降りる」着陸から、「降りたいところに降りる」着陸への転換を目指す。
月極域探査ミッションLUPEX 月の水資源が将来の持続的な宇宙探査活動に利用可能か判断するために、水の量と質に関するデータを取得することを目的とした、JAXAとインド宇宙研究機関(ISRO)との国際協働ミッション。

③ 有人与圧ローバーの開発

有人与圧ローバーは、宇宙服による乗降が可能で、飛行士の操作、遠隔操作及び自律運転により月面上の広い範囲を持続的に移動可能なモビリティです。移動範囲を拡大する機能は、月面活動の活性化に必要不可欠です。

現在JAXAとトヨタ自動車が共同で月面探査用の与圧ローバーの研究開発を進めています。

(2)月面開発に関する省庁横断型研究開発プロジェクト「宇宙開発加速化戦略プログラム」

日本政府では月面開発、衛星基盤技術の強化など、各省の縦割りを排し、連携して取り組むべき研究開発プロジェクトを推進する新規予算として、宇宙開発利用推進費が計上され、当該予算を原資とした「宇宙開発利用加速化プログラム(スターダストプログラム)」を創設しました。

このプログラムの中で月面にフォーカスした研究開発は、測位・通信技術の開発、無人建設革新技術開発、エネルギー関連技術開発、長期滞在を支える高度資源循環型食料供給システムの開発が挙げられます。

図表2:宇宙開発加速化戦略プログラムの概要

研究開発プロジェクト
所管
概要
月面活動に向けた測位・通信技術開発 主担当省庁:文部科学省
連携省庁:総務省
月面活動に向けた測位・通信の在り方を早期に検討するとともに、コアとなる要素技術の研究開発を行う。
宇宙無人建設革新技術開発 主担当省庁:国土交通省
連携省庁:文部科学省
月面開発に資する無人建設技術(施工、建材製造、建築等)の開発を重点化・加速化するため、優先的に開発すべき技術・水準を明確化し、無人建設に係る各種技術の水準、達成見込みを的確に見極めるために実証を行う。
月面におけるエネルギー関連技術開発 経済産業省、総務省 将来の月面活動に必要となるエネルギー関連技術の開発・高度化にむけて、月周回軌道において発電した電力の送電技術として、地球低軌道からの無線送電技術の開発・実証を実施。
月面等における長期滞在を支える高度資源循環型食料供給システムの開発 農林水産省 月や火星の持続的な有人活動において活躍が期待される高度資源循環型かつQOL重視型の食料供給システムの研究開発と実証を実施。

(3)産業界からの政策提言「月面産業ビジョン」

産業化を視野に入れた月面開拓活動の実現を目的に、産学官からなる「月面産業ビジョン協議会」が設立され、産業界が自律的に月面ビジネスを実施・展開するにあたり、宇宙基本法第 16 条「民間事業者による宇宙開発利用の促進」に基づく施策等の事業環境の整備を求めるものとして、産業界の決意並びに政府に対する政策提言を示す月面産業ビジョンが取りまとめられています。

2.月面利用市場とは:分類及び市場規模予測

アルテミス計画や政府の施策、さらには民間企業主導の取組みにより、宇宙産業における月面利用市場が存在感を増しています。

ただし、一言で月面利用市場と言っても様々な事業が生まれています。本章では、月面利用市場を整理しました。

月面利用市場を考えるうえで、月面にヒトが降り立つ前の無人探査等を行う時期に相当するステップ1:黎明期~成長期、月面に人が降り立つためのインフラ整備や人が月面で活動を行う時期に相当するステップ2:成長期~成熟期に分類すると、それぞれの時期の注目市場が見えてきます。

ステップ1:黎明期~成長期

黎明期~成長期に創出される月面利用市場

は、①軌道上ペイロード、着陸船、探査機の各ミッションの市場価値からなる月輸送市場と、②月面の状況の把握、データの市場価値からなる月データ市場に分類できます。

① 月輸送市場

月輸送市場は2020年~2040年に一定のペースで拡大し、当該期間の市場規模は累計で月軌道ペイロードは20億米ドル、着陸船(ランダ―)は470億米ドル、探査機(ローバー)は300億米ドルになると試算されています。

この市場の大きな原動力となっているのはアルテミス計画であり、市場全体の2/3は米国が占め、次いで中国と日本が約12%ずつ、EUが5%を占めると予測されています。

② 月データ市場

月面における活動に向けて、探査機などによる月環境に関するデータの収集が進められます。

月環境に関するデータは過去のミッションで一部入手はできてはいるものの、探査範囲の拡大、データ取得頻度の増加に伴うデータの品質が向上により、継続的に価値も向上していくものと考えられます。

このような月データの販売等による市場規模は2020~2040年の累計で85億米ドルになるものと考えられています。

ステップ2:成長期~成熟期

アルテミス計画の最終段階以降、月面における活動が活発化することが予想されます。

月面における大規模な人類の長期滞在を維持するために、地上と同様の産業が次々と立ち上がるでしょう。

図表3:月面で立ち上がりが予想される産業分野

これらの産業の立ち上げに際して、まずは地球より必要な資源、設備、必需品を送ることが予想されます。

仮に「月面産業ビジョン」で想定されている2040年頃に1,000人程度の滞在を実現する場合を想定のうえ、これを実現するために必要な物資の輸送に係る費用を月面における産業の市場規模として算定を行うと2020~2040年で累計1兆2500億米ドルになるものと考えられています。

この市場規模のうち51%を米国が占め、次いで中国と日本で合計31%を占めるとの予想もあります。

また月面資源の開拓が進むと、月面からの打ち上げに活用する推進剤の市場が立ち上がることが予想されます。

この市場は2030年以降に急激に成長し、2040年までに630億米ドルに到達すると推定されています。

※出典「月面市場調査:市場動向と月面経済圏創出に向けた課題(2021年9月)」

3.日本として注力するべき分野

(1)将来的な月面利用市場における日本の取組マッピング

図表4に将来的な月面利用市場における我が国で現状確認できる取組をマッピングしたものを示します。

Credit : 図表4:月面利用市場における我が国の取り組み状況

月輸送市場については、アルテミス計画の各国の分担に従って、JAXAによる官主導ビジネスが進んでいます。ランダ―はispace、ローバーはタカラトミーやソニーとJAXAが連携したSORA-QやダイモンによるYAOKI等、官民協力プロジェクトや民間主導のプロジェクトも立ち上がっています。

月データ市場についてはデータ取得が進んだ段階で本格的に組成されるものと考えられ、現状は主だったプレイヤーはいませんが、データ取得を担う探査機関係のプレイヤーがデータプラットフォーマーとして活躍していくことも予想されます。

人類の月面活動に向けた環境整備を主とする月面市場については国主導の研究開発プロジェクトが後押しをする形で主に建設、エネルギー、農業・食糧、通信分野を中心にビジネス組成に向けた取組が進められています。

ここで注目すべきはいずれもこれまで宇宙を専業としていた企業ではなく、各分野に関係する非宇宙企業が名を連ねているということです。

月面利用市場はリモートセンシング市場とは異なり、非宇宙産業が持つノウハウの月面への横展開可能性の高い市場であり、非宇宙産業の参入が求められる市場、歓迎されている市場となっています。

(2)注力することが望ましい分野

① 月面探査機から月データビジネスへの移行

月データはアルテミス計画の成功、さらに人類の長期滞在の実現に向けて必要不可欠であり、その需要は高いものと考えられます。

月データに関して、現状は主だったプレイヤーは不在で、官主導の探査機プロジェクトにおいてデータの取得が行われることが予想されますが、ゆくゆくは民間主導のビジネスに移管するものと予想されます。

その際に月データビジネスで有利なポジションを形成するため条件の1つとしては、リモートセンシングビジネスと同様にデータを取得するためのインフラを有していること、つまりデータ取得が可能な月面探査機を有していることであると考えられます。

月面探査機は官主導のプロジェクトのみならず官民共同や民間主導のプロジェクトも進められています。

まずひとつめはispace社が進める月探査ミッション「HAKUTO-R」です。HAKUTO-Rは地球―月輸送サービス構築並びに月面データ取得に向けた技術検証で、Mission1として民間主導ランダ―による月面着陸、Mission 2としてランダ―に搭載したローバーによる月面探査が予定されています。

また、提供予定のサービスとして、ランダ―とローバーへのペイロード搭載や、月のデータ収集・加工・提供等も想定されており、宇宙船・着陸船⇒探査機⇒データ取得・加工といった一連のバリューチェーンを統合したサービス展開が期待されます。

ふたつめはSORA-Qです。SORA-QはJAXA、タカラトミー、ソニーグループ、同志社大学の共同開発によって生まれた超小型の変形型月面ロボットで、タカラトミーの玩具開発によって培われた技術によって変形機構や小型・軽量化が実現されています。搭載された前後2つのカメラで撮影した画像を別の探査機を経由して地球に送信する計画となっています。

最後に紹介する事例は株式会社ダイモンによるYAOKIです。YAOKIは自動車の四輪駆動システムのノウハウを活用することで、超小型、超軽量、高強度、低コストを実現した月面探査機ロボットです。

ダイモン社は月着陸船を開発している米Intuitive Machines社と月輸送に関する契約を締結し、Intuitive Machines社の2回目の月輸送ミッション(2023年後半を予定)で、月着陸船Nova-CにYAOKIを乗せ、月の南極に送り込みます。月面着陸後、YAOKIは地球からのリモート操作による月面走行および月表面の接写画像データの獲得など、民間企業による月面探査を実施します。

SORA-QやYAOKIの特徴は主体企業の出自が非宇宙産業であるところにあります。月面探査機は耐久性や動作の安定性のみならず、月までの輸送コストを抑えるために小型化・軽量化が必須となります。

SORA-Qはタカラトミー社の玩具開発によって培われた技術によって小型軽量化を、YAOKIはダイモン社の中島氏が過去に手掛けた自動車の四輪駆動システムに係るノウハウを活用することで動作の安定性に係る課題解決ができたことが月面への輸送フェーズまでプロジェクトが進行している成功要因であると考えます。

これらのプロジェクトは先発隊であり、今後更なる課題の発見・解決が求められる可能性があります。その際に課題解決に寄与しうる技術を有していることが、月探査機市場、そして月データ市場においてポジションを形成するための鍵になると考えられます。

② 上流の鉱業~下流のエネルギー・推進剤市場からなる一連のバリューチェーン

アルテミス計画において各国の分担が大筋決まっている月輸送市場と比較して、本格的な人類の長期滞在に向けた市場である月面市場は、国家間における主だった役割分担はありません。

そのため、外的要因の影響が比較的大きくない市場であると考えられます。このような月面市場において注力すべき市場の1つに鉱業からエネルギー・推進剤市場までの一連のバリューチェーンが挙げられます。

月面開発初期段階は地球からの資源輸送が行われることも予想されますが、月面での滞在人数の増加、滞在期間の長期化にあたっては生存に必要な水資源やエネルギー源となる資源を月面で獲得することが必要不可欠であり、資源採掘を行う鉱業や、資源からエネルギーへ加工流通を行うエネルギー・推進剤産業は月面におけるあらゆる産業を支える基盤として位置づけられます。

現状はどこに資源があるのかを探査機などによって探索を行うフェーズにありますが、その場所が明らかとなれば、官民共同での深鉱・開発フェーズへ、その後は加工・流通フェーズに移行していくでしょう。

月の資源の採掘や利用はアルテミス合意で認められていることに加えて、米国、ルクセンブルク、アラブ首長国連邦に続き日本でも探査先の天体で水や鉱物といった資源を採取し、利用可能とする「宇宙資源法」が2021年6月に制定されています。

この法律に基づくと、宇宙資源の探査や開発をしたい企業が目的や時期、方法などの計画を国に提出、許可されれば所有権が認められるため、月の資源獲得を自社の利益に直結させることが可能になると考えられます。

新しく開かれた月面というフィールドで資源獲得を率先して進めていくことは将来的な月面市場においてとても重要です。

③ 建設

月面における人類の長期滞在に向けては、生活基盤に必要となる様々な施設や拠点を形成する建設分野も月面におけるあらゆる産業を支える基盤として位置づけられるでしょう。

現在、国土交通省が主導する「宇宙無人建設革新技術開発」において、日本の建設業界の多くの企業が参画し、無人建設、簡易施設建設、建材製造などの実現性検証、研究開発が推進されています。

人類の滞在の本格化に向けては建設の規模も拡大することから、当該分野における市場を確立するためにも、今後も注力のうえ技術の確立を実現するべき分野であると考えられます。

(3)月面利用市場への参入に向けて

月面は将来有望なビジネス環境であり、非宇宙産業のノウハウの横展開が期待される分野です。

すでに紹介したispace社やダイモン社のようなベンチャー企業が参入する場合、経営判断などの意思決定をスピーディーに行い、ビジネスの効率化を図れる点ではメリットもありますが、資金調達や人材獲得等の面においてはハードルが高いという一面もあります。

今回は月面利用市場への参入パターンとしてベンチャー企業設立以外のパターンとして、複数企業で連携して取組を進めるコンソーシアム組成パターンと、国のプロジェクトを活用するパターンを紹介します。

① コンソーシアム組成パターン(例:SPACE FOODSPHERE)

将来的な月面市場においては、地球上と同様の建設や農業・食糧といった分野の市場が形成されるものの、地球上の技術がそのまま転用できるわけではなく、月面利用に向けた研究開発が求められます。

この研究開発を単独で行い、自社優位の競争力を確立していくことも1つの方法ではありますが、資金面、人的面のリソースの確保、長期研究開発を行う経営判断のハードルは高いでしょう。

このような状況下において、月面市場の各分野においては同業他社と連携のうえ研究・開発を共創領域として進めるコンソーシアム組成が行われています。

例えば、食料分野における一般社団法人SPACE FOODSHEREが挙げられます。

SPACE FOODSPHEREは、地球と宇宙の共通課題である「食」の課題解決を目指す共創プログラムでリアルテックホールディングスやJAXAらが主導し、食糧生産・資源再生・生態系、食品加工・自動調理・遠隔化、食空間・食文化・栄養・QOLといった「食」にまつわる様々な分野と、宇宙/地上実証を担う宇宙関連事業者の合計約60の企業、大学、研究機関等のキーマン、プロフェッショナルが集い、分野横断的、かつ有機的な連携による研究開発や事業創出に向けた活動を推進しています。

SPACE FOODSHEREは前述の宇宙開発加速化戦略プロジェクトの1つ「月面等における長期滞在を支える高度資源循環型食料供給システムの開発(農林水産省)」を受託しています。

このコンソーシアムについて筆者が注目する点は、食料分野に係る食料生産~加工・調理におさまることなく、その土台となる空間形成や、実装前の宇宙/地上実証といったあらゆるフェーズを考慮の上、関係ステークホルダーを漏れなく巻き込んだ取り組みであることです。

これらのステークホルダーが連携を図ることにより、食料生産や食品加工、といった1つのフェーズの研究開発に終始せず、月面における市場形成につなげることが可能になると考えられます。

先に言及した注力分野のエネルギーや建設分野については、宇宙開発加速化戦略プログラムにおいて、各省庁の全体取りまとめのもと、個別のテーマごとにコンソーシアムが組成され取り組まれているものもあり、月面市場の導入に向けた参入パターンとしては主流なものの1つであると考えられます。

② 国プロジェクト活用パターン(例:宇宙開発加速化戦略プログラム、宇宙探査イノベーションハブ)

現在は月面の活動に向けた研究開発のフェーズであり、その研究開発の推進のために国家プロジェクトを進行させている状況にあります。このような取り組みは先に説明した宇宙開発加速化戦略プログラムともう一つ、JAXAによる宇宙探査イノベーションハブがあります。

宇宙探査イノベーションハブは「太陽系フロンティア開拓による人類の生存圏・活動領域拡大に向けたオープンイノベーションハブ」であり、企業・大学・研究機関等の研究開発者より提供された宇宙探査に関する技術情報を基にJAXAからの課題を設定し研究を募ることによって、オープンイノベーションハブの研究開発を進めています。

同イノベーションハブでは住む、建てる、作る、探る、の4つのカテゴリーに分類され、目指す技術が明確な「課題解決型」と、有効性が期待できる未知の技術やアイデアの発掘を目指す「アイデア型」、特定の課題にとらわれず、挑戦的なアイデアを形にする研究を目指す「チャレンジ型」の研究課題が設定されています。

先に説明したSORA-Qも第1回提案募集でタカラトミーが採択されたことを発端に進行しているプロジェクトになります。これらの研究課題より自社のノウハウの発揮や横展開が可能なものを選定し、フォーカスしていくこともアプローチ方策の1つとして挙げられます。

おわりに

本情報発信では3回の記事を通じて、国内外の宇宙産業の概況を踏まえた日本の宇宙産業の目指すべき方向性について論じてきました。

宇宙利用産業におけるビジネス創出に向けては、よりエンドユーザーの視座に立ったサービスの開発が必要であり、そのためにはエンドユーザーの有する課題・ニーズを基に衛星画像の利活用によるソリューションの提供やコンサルティングを実施する機能や役割がリモートセンシング事業者とエンドユーザーを仲介することが必要となるでしょう。

このような機能や役割を担うものとしては、データ分析を生業とするプレイヤーが当てはまると考えられます。このようなプレイヤーの参画によってエンドユーザーの宇宙利用の敷居を下げていくことが重要でしょう。

また将来的に地上における技術を活用した市場形成が予想される月面市場は有望市場であり、市場の形成を確実なものとするためには本稿で記載の通り、非宇宙産業の参画が必須となるでしょう。

このように日本における宇宙産業の成長のカギとなるプレイヤーは現状宇宙分野に携わっている事業者とはまた異なる別業種の事業者等であると考えられます。

今回の情報発信が、非宇宙産業の宇宙ビジネスへの挑戦の一助となることを願っています。