【2023年版】未来の社会を考える4つのキーワードをまとめて解説! 〜プラネタリー・バウンダリー、プラネタリー・ヘルス、サステナブル、ウェルビーイング〜
プラネタリー・バウンダリー、プラネタリー・ヘルス、サステナブル、ウェルビーイング。私たちの未来社会の理想を追求するうえで重要となるトレンドのキーワードについて、これらの言葉が使われる背景からそれぞれの言葉が持つ意味について丁寧に解説します。
いま知っておきたい、未来社会を考える4つのキーワード
プラネタリー・バウンダリー、プラネタリー・ヘルス、サステナブル、ウェルビーイング。これらは私たちが安心して豊かに暮らし続けられる未来社会を追求するうえで重要となる、注目のキーワードです。
本記事では、よりよい未来の社会を実現するために理解しておきたい、これら4つのキーワードについて解説します。
【その1】プラネタリー・バウンダリーとは? 「地球の限界」を知る9つの指標
気候変動や自然災害の問題が増加していることは実感していても、「地球はすでに限界を迎えている」と聞くと具体性に欠けるように感じる人もいるかもしれません。しかし、この限界値を科学的に把握できる指標にまで落とし込んだ「プラネタリー・バウンダリー(地球の限界)」という概念が、世界的に注目されているのをご存知でしょうか。
押さえておきたい! 「プラネタリー・バウンダリー」の要点
「プラネタリー・バウンダリー」とは、地球という惑星において、人類が持続的に生存できる領域とその境界を示し、具体的に9つの項目で定義した概念です。
人間の活動が地球全体のシステムに与える影響が、「プラネタリー・バウンダリー」で定義された領域内であれば、人類は未来への発展・繁栄を続けられると考えられますが、この境界(閾値)を越えてしまうと、取り返しのつかない環境の変化が発生する可能性をもらたします。
「プラネタリー・バウンダリー」は、2009年に環境学者ヨハン・ロックストロームを中心とした29名の科学者グループによる論文で発表され、後ほど紹介する国連の持続可能な開発目標(SDGs)の採択にも大きな影響を与えました。
この9つの項目は、(1)気候変動(2)大気エアロゾルの負荷(3)成層圏オゾンの破壊(4)海洋酸性化(5)淡水変化(6)土地利用の変化(7)生物圏の一体性(8)窒素・リンの生物地球化学的循環(9)新規化学物質です。
図の青緑色で示されるエリア内にとどまっている場合は「安全」、点線で描かれている境界線を超え、オレンジや赤色になっている項目はすでに限界値を超えてしまっていることを意味します。
現段階では大気汚染が未計測の領域ともありますが、すでに海洋の酸性化、オゾン層の破壊、大気汚染(未計測)以外の6つの項目において安全域を超えていることが分かっています。
【その2】プラネタリー・ヘルスとは? 「地球の健康」と「私たちの健康」の関連性
【その1】でご紹介した「プラネタリー・バウンダリー」が限界を超え、地球という惑星の「健康状態」が悪化してしまうと、人間の健康にも悪影響を与えてしまうということが明らかになっています。
例えば、2019年の一年間に大気汚染が原因で亡くなったと推定される人数は世界中で約670万にものぼり、地球環境の問題が人々の健康に大きな影響を与えていることが分かります。
押さえておきたい! 「プラネタリー・ヘルス」の要点
大気汚染による健康被害の事例のように、地球温暖化・海洋酸性化・森林破壊といった地球規模の課題=「地球の不健康状態」が、人間の健康リスクにも密接に関わっているということが、近年エビデンスをもって証明されるようになりました。
他にも、気温上昇によって、心筋梗塞や肺炎などの疾患リスクが高まると言われています。
プラネタリー・ヘルスとは、このように地球の環境変化が人々の健康にも影響を及ぼしていることが明らかになっている中で、「人の健康と地球の健康にまつわる問題を一体的にとらえて対策を打つ」という考え方です。
プラネタリー・ヘルスはこれまでのグローバル・ヘルスをさらに発展させた健康概念です。健康の対象が「人間」から「地球全体」へと拡大したこと、持続可能性という観点で健康を捉えることで「将来や次世代の健康」という時間的要素が追加されたこと、途上国だけでなく先進国も含めた全世界共通の医療課題を解決する動きとしてアップデートされています。
実際に、人間と地球の健康の両方に寄与する事業への取り組みにも注目が集まっています。
事業としての取り組み事例として、
・一般的な木々と比較し、最大50倍多くのCO2を貯蔵できるマングローブの保護(地球温暖化対策)
・植物ベースの代替肉の開発・提供(生活習慣病対策や水資源の保全、CO2削減)
・人工衛星データ×保健医療データによる大気汚染や気温変化のモニタリングと疾患リスクアラートを発令するシステムの構築
などがあります。さらなる事例や詳細について知りたい方はぜひこちらの記事もご覧ください。
プラネタリーヘルス実現に向けた衛星データを利用した取り組みとは
【その3】あらためて考える「サステナブル」な社会活動とSDGs、健康な地球を未来に残すには
ここまで、地球がすでに限界を迎えてしまっている領域があることや、地球の健康状態は人類の健康とも繋がっていることをご紹介しました。地球をよりよい環境にして、未来社会に受け継いでいくために重要なのが「サステナブル」というキーワードです。
押さえておきたい! 「サステナブル」の要点
「Sustainable(サステナブル)」とは「持続可能である状態」を意味し、ビジネスの場面でも、短期的な目標達成のために人々の健康や資源、環境などを犠牲にしてしまうことなく、それらを未来の世代にも継承していくという意味で用いられることが増えてきました。
近年テレビなどでも取り上げられるようになり、より多くの人に知られるようになった「SDGs」は、「Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)」を意味します。これは貧困、不平等・格差、気候変動による影響など、世界のさまざまな問題を根本的に解決し、すべての人たちにとってより良い世界をつくることを目的として、2030年までに人類が達成を目指すべき17の目標と169のターゲットで構成されている世界共通の開発目標です。
地球環境保護の観点にも関わる目標には、
7.エネルギーをみんなに そしてクリーンに
13.気候変動に具体的な対策を
14.海の豊かさを守ろう
15.陸の豊かさも守ろう
などが挙げられます。
国際的な研究組織「持続可能な開発ソリューション・ネットワーク」(SDSN)の報告によると、2030年まで残り7年となった現在も、世界全体の達成度は67%弱にとどまり、「17の目標を個別にみても、世界レベルで達成できると予測されるものは一つもない」との指摘がなされています。日本も「気候変動に具体的な対策を」といった環境問題に関連する目標では「深刻な課題がある」との評価が多く、特に厳しい現状が示されました。
【その4】ウェルビーイングとは? 地球の健康と私たちの心身の健康を無理なく達成するために
ここまでの内容では、「地球を守るために人間が今の豊かな生活を手放して我慢をしないといけないのだろうか?」と印象を持つ方も多いかもしれません。
一方で、地球環境を守るため、人間が極端な我慢や無理をすることで心身の健康を損なってしまうのも、プラネタリー・ヘルスが良い状態とは言えないでしょう。そこで適切なバランスを考える鍵となるのが「ウェルビーイング」です。
押さえておきたい! 「ウェルビーイング」の要点
「ウェルビーイング(well-being)」とは、心身と社会的な健康を意味する概念で、満足した生活を送ることができている状態・幸福な状態・充実した状態などの多面的な幸せを表します。瞬間的な幸せを意味する「Happiness」とは異なり、「ウェルビーイング(well-being)」は、「Sustainable(サステナブル)」つまり「持続的な」幸せを意味します。
人々のウェルビーイングを実現する手段として、近年では「働くことにおける幸福」にも注目が集まっています。例えば、ウェルビーイングビジネスを定義する8つの原則として以下のようなものがあります。
1.ビジョンの再定義:自然との調和を保ちながら、社会のニーズに応える
2.透明性の確保:環境、社会、経済のパフォーマンスに関するデータを開示
3.外部性の内部化:環境的及び社会的影響を認識し、負の外部性を減らす
4.長期的なビジョン:会社、社会、自然を含む全ての重要な利害関係者に利益を
5.人を資産にする:社内の声を優先する
6.生産のローカライズ:エネルギー源や財源、流通のローカライズ
7.サーキュラーエコノミーへの切り替え:環境および社会システムとの共存
8.多様性を受け入れる:価値観、所有構造、財務の多様性を認識
こういった項目を参考に、企業の視点から社会構造における課題を解決していくことは、個人の心身の健康や地球環境の改善をもたらすアクションにも繋がっていくでしょう。
また、ウェルビーイングを考えながら、その他3つのキーワードの実現を両立する考え方に近いものとして、一つ目のキーワードとしてあげた「プラネタリー・バウンダリー」に、(水、食料、ヘルスケア、住居、エネルギー、教育へのアクセスなど)人間にとって不可欠な社会的ニーズに関する最低限の基準の充足度を示した社会の境界(ソーシャル・バウンダリー)を加えた研究もあります。
その研究では、人間の経済の「安全な活動空間」を定義し、人間活動が地球の生態学的上限を超えず、人類が社会的基礎の下に落ちない領域を「ドーナツ内での生活」と名付けています。
ドーナツ内での生活については、環境省が発刊するレポートに詳細が記してありますので、興味を持った方はぜひご覧ください。
未来の社会を考えるキーワードとの向き合い方
本記事では、未来の社会を考える4つのキーワード「プラネタリー・バウンダリー」「プラネタリー・ヘルス」「サステナブル」「ウェルビーイング」についてご紹介しました。
自分の実生活からは遠く離れているように感じる内容も含まれていたかもしれませんが、まずは興味を持った項目について詳しく知ることや、周りの人と話してみること、会社で勉強会を開くということも大切な一歩になります。
また、企業として取り組んでいく具体的なアクションでは、「【その4】ウェルビーイングとは?」で紹介した「ウェルビーイングビジネスを定義する8つの項目」をもとにすると実践のアイデアが浮かびやすいかもしれません。
例えば、既存事業に対する再生可能エネルギーの利用やリサイクルの促進の見直しなどの方法を検討することや、これまで活用していなかった新しい技術を取り入れることもその方法の一つです。
そして、読者のみなさま自身も「プラネタリー・ヘルス」に含まれる地球の構成要素のひとつです。自分自身が「ウェルビーイング」な状態であるかということを考えてみたり、地球環境を「サステナブル」にしていくために少しずつでもより良い選択を積み重ねようという意識を持ったりすることも、私たちが安心して暮らし続けられる未来社会を作るプロセスとなるでしょう。
編集後記:未来の社会の動向を計測する手段としての衛星データ
宙畑では、今回あげた未来社会を考える4つのキーワードの達成度を計測し、より良い未来へと物事を進めるツールとして衛星データが機能すると考えています。
衛星データは、地上の状態や大気の状態、その他様々なデータを、地球全球を国境関係なく、定期的に、人が訪れることなく観測し、記録に残すことができます(さらに、過去に記録に残したデータであれば遡って確認することも可能)。
地球の持続可能性を把握するというのは、いわば地球全球の健康診断をするということ。そのツールこそ衛星データなのではないでしょうか。
すでに温室効果ガス濃度や森林の状態把握など、衛星データを活用して地球の状態を全球で把握する取り組みは始まっています。
宙畑では「プラネタリー・ヘルス」の実現や、地球の生物多様性を守るため、より良い地球の未来を考えるために必要な指標を計測するために衛星データを活用した事例を紹介しています。
地球の自然を数字で“見える化”!? 生物多様性を守るためのビッグデータ×衛星データ活用
プラネタリーヘルス実現に向けた衛星データを利用した取り組みとは
GDPだけでは測れない豊かさを測る「新国富指標」とは~見えないものの価値の測り方~<前編>
ぜひこれらの記事も合わせてご覧いただけますと幸いです。