宙畑 Sorabatake

宇宙ビジネス

国産LLM開発を推進するRidge-iに訊く! LLMが広げる宇宙産業革新、5つの可能性

国産LLM開発を進め、人工衛星データのAIサービス事業も推進するRidge-iに、宇宙産業におけるLLM利用の可能性をうかがいました。

2022年11月30日、OpenAI社が開発した「ChatGPT」がリリースされ「AIの新時代だ!」と騒がれたことを今でも覚えているという方は多いでしょう。

あれから約1年半の月日が経過し、ChatGPTに代表されるような大規模言語モデル(LLM:Large Language Model)は実用フェーズに入っています。2023年8月にAI・データ分析コンペティション、DX人材育成を手掛けるSIGNATEが出した試算によると「現状のChatGPTの業務活用は、年間で約25兆円相当の労働価値を創出し、将来的には約40兆円相当まで拡大する可能性がある」そう。

そのような背景から、国内でも国産の生成AI・大規模言語モデル(LLM)の開発の動きが活発化してます。例えば、2023年4月に上場した、AI活用コンサルティング、AI開発、人工衛星データAI解析サービスを手がけるRidge-iは、2023年7月に企業および官公庁が安心して利用できる目的特化型のLLM(さくらインターネットのGPU環境下で構築)の提供に向けて開発を進めると発表しています。

Ridge-iは、過去には駐車場予約アプリ「akippa」を運営するakippaと衛星データプラットフォーム「Tellus」の事業を行うさくらインターネットとの共同研究により、衛星データから駐車場用スペースを自動検出するAIの開発も行っています。

では、宇宙産業に特化したLLMを考えるならばどのような未来が私たちに待っているのでしょうか? Ridge-iにて、衛星解析事業におけるテックリードを担う、畠山湧さんにお話を伺いました。

畠山 湧さん
株式会社Ridge-i
大学・大学院で宇宙工学を専攻し、新卒時に衛星製造メーカーに就職、衛星設計と運用を担当。その後、業界発展のためには衛星利用も重要だと考え、画像AI解析で実績のあるRidge-iに就職。機械学習エンジニア、プロジェクトマネージャーとして従事。

(1)設立背景は技術とビジネスの間にあるギャップの拡大

宙畑:決算説明資料を拝見すると「AI活用コンサルティング・AI開発サービス」「人工衛星データAI解析サービス」「AIライセンス提供サービス」の3つの大きな事業があります。Ridge-iがAIに取り組み始めた経緯からお話を伺えますか?

Credit : Ridge-i

畠山:Ridge-iは2016年に設立したのですが、そのきっかけは創業者であり現社長で、もともとは金融業界のエンジニアだった柳原がディープラーニング初期の時代に「最先端技術をもっとビジネスの現場で活用したい」と考えたことでした。

そのような背景もあり、私たちのコンセプトは「異なる専門性を認め、知見をぶつけ、双方の高みを追求した最高峰のソリューションを提供し続ける」となっています。

ビジネス知識の裾野が広いエンジニアと、元々は外資系コンサル企業で大企業等の課題解決を行っていたビジネス側の人間等が集まり、技術とビジネスを繋げられる会社となっています。

宙畑:AIの企業でありながら、人工衛星データAI解析サービスがIR資料に大きく掲げられているというのは珍しいと思うのですが、衛星データに注目された理由を教えてください。

畠山:私たちが衛星画像を最初に扱ったのが2017年頃で、当時はPlanet Labs(世界で見ても最多の光学の地球観測衛星コンステレーションを構築)を筆頭にコンステレーションっていうワードが盛り上がっており、どんどん増えていくデータを人間では確認がしきれないと騒がれていた時期でした。そのときにちょうどAIの画像処理をRidge-iはやっていたので、代表の柳原が目をつけてこれは何かしらAIが活躍できるチャンスじゃないかというところで、参入したというのがきっかけです。

そのうえで、プロジェクトベースでJAXAさんやその他関心を持っていただける企業の方々と関わっていくにつれて、ポジティブなフィードバックを多くいただき、私たちとしても事業推進のモチベーションがどんどんお客さんと一緒に上がっています。

Ridge-iは、宇宙開発利用大賞において、経済産業大臣賞(2021年)、環境大臣賞(2022年)、国土交通大臣賞(2023年)と3年連続で受賞しています。

(2)LLMが解決する課題とこれまでのAIの違い

宙畑:LLMが誕生したことは、私たちにとってどのような恩恵があると考えていますか?

畠山:今までのディープラーニングだと人間の知識を教えているという形だったところから、LLMがどんどん広がっていくとそもそも教えなくても自分で勝手に学習していくといった自立性と自律性が大きく異なります。

そのため、LLMの誕生は単純な作業の代替ではなく、社員がひとり、ふたりと増えたくらいのインパクトがあると考えています。

宙畑:人口が減少し、一人当たりの作業量が様々な産業において増えている昨今、人が増えるというのはとても嬉しい恩恵ですね。

(3)LLM×宇宙産業の5つの可能性

本章では、宙畑編集部が畠山さんと会話して分類したLLM×宇宙産業の活用事例を5つ紹介します。

1.ロケット・衛星の設計

現在、すでにRidge-i社では、宇宙産業以外での目的特化型のLLM開発が進んでいるそう。そのなかでも、車や航空機といった、開発にあたって安全審査や設計基準などが書かれた膨大な書類からユーザーが知りたい情報を適切にピックアップして、提供するLLMはニーズがあるようです。すでにRidge-iは、車メーカーのSUBARUへの設計開発業務における生成AI活用ソリューションの提供を行っているという実績も2023年11月に発表していました。

宇宙産業においても、ロケットや衛星の開発を行う上で共通文書があります。例えば、JAXAのHPにもある「JAXA共通技術文書」を見てみましょう。

Credit : JAXA

ロケット、宇宙機、地上設備それぞれにたくさんのリンクがあり、リンクをクリックすると50ページを超えるPDF文書が多く存在します。

設計を行ううえで一度は目を通す必要があるかと思いますが、すべてを記憶して開発を行うことはなかなか難しいでしょう。そのようなときに「○○の内容について、どのようなことに注意すべきか教えて」と聞くだけで正確な回答が返ってくるというのは開発をスムーズに進める一助となることでしょう。

2.コミュニケーションの補助とマニュアル作り

続いてのLLM利用の可能性はコミュニケーションの補助とマニュアル作りです。2024年2月、H3ロケット試験機2号機の打ち上げが成功し、日本としては30年ぶりの国産新型の基幹ロケット打ち上げ成功となりました。

ロケットや衛星の開発技術やノウハウは、安全保障の観点から海外から流入することも、海外に流出することも最新の注意を払う必要があり、国内でしっかりと蓄積、継承していくことが重要です。

しかしながら、新型ロケットの開発は毎年1回行うようなものではありません。どうしても10年ぶり、20年ぶりといったある程度の期間が発生してしまい、ベテランの経験者と経験が浅いメンバーとの間には知識のギャップが生まれてしまいます。また、ベテランの経験者は忙しく、経験が浅いメンバーは会話の時間も限られており会話の内容が100%分からない可能性も。

そのような時に、ベテラン経験者の会話が何を行っていたのかをLLMに聞けば、経験が浅いメンバーがベテランの経験者の言わんとすることを理解できるようになるかもしれません。

さらには、その技術と経験を言語化することで、マニュアルとなり、次の世代により良い形で繋ぐ一助ともなるでしょう。

3.衛星データの利活用

LLMが役に立つのは、ロケットや衛星開発のような宇宙産業におけるハード側だけではありません。

地球観測衛星が撮像したデータを解析する際にもLLMが活躍する期待が高まっています。たとえば、2024年3月にRidge-iが発表した「生成AIを活用した衛星データ利用インターフェース」はそのひとつです。

デモの動画では、「つくばの昨年7月の温度を、衛星データから教えて下さい」という入力に対して、適切な衛星データをAIが判断し、解析された状態で地図上に温度を表示しています。

さらに、現在Ridge-iでは、LLMによる温度データの表示だけではなく、衛星画像の取得から過去に開発した物体検出のAIエンジンまでシームレスに統合するところまで開発が進んでいるそう。今後、ユーザーはシステムに見たいものだけを入力し、後はシステムが解析に必要な衛星データや最適な解析手法を自動で選別し、解析してくれるといった世界も可能になると畠山さんは話します。

衛星データの解析を行うには一定の知識とスキルが必要であり、かつ、衛星データと言っても複数あり、入力された内容に対して何の衛星データが適切なのかの判断も一定の知識を求められます。

そのため、衛星データ解析をゼロから学び、できるようになるためにはハードルが高くなっています。それをLLMが自動でやってくれるとなれば、さらに衛星データの利活用は進むでしょう。

例えば、賃貸選びの際に「災害に強く、家賃が〇万円以下の物件を探して」と入力さえすれば適切な物件を見つけてくれるアプリケーションもできるでしょう。

衛星データ×LLMの取り組みは、200機以上の自社衛星を運用する米国のPlanet Labsがデモを発表して盛り上がりもありましたが、すでに日本でも上述のRidge-iのように取り組みを進めている企業がすでに存在します。

また、New Space Intelligenceが「衛星データ提供・解析基盤技術の高度化実証」というテーマで経済産業省のSBIRで採択されており、「複数衛星データ間での相互利用を実現するための位置補正や放射量補正等の前処理技術」「多種多様かつ大量の衛星データをユーザが利用用途に合わせて容易に選択・入手できるようなアクセシビリティを実現するデータ提供技術」の実証が進んでいます。

今後ますます衛星データを活用して知りたいことがより楽に、早く手に入れられる時代が到来することに期待が高まります。

4.言語形式で記載された「ユーザーが実施したいこと」とTLE情報を組み合わせ、自動で適切なタスキング

現在、宇宙空間には地球観測衛星が多数存在しています。そのため、定期的に地球全体を更新するように撮影ができているのですが、大きな災害が発生した場合はもともとあった観測計画を変更し、いち早く発災場所の撮影ができる衛星を特定し、撮像要求(タスキング)を行う必要があります。

しかしながら、上述の通り、複数ある衛星からどの衛星が欲しい情報を最速で得られるのかを適切に把握するのは難しいものです。実際に「多種衛星のオンデマンドタスキング及びデータ生産・配信技術の研究開発」は宇宙開発利用加速化戦略プログラムのプロジェクトのひとつにもなっており、Tellusがプライムとなり、その他衛星データプロバイダーとのコンソーシアムで事業を推進しています。

そこでも、

現在、観測衛星データの利用ユーザは、複数の衛星データプロバイダーから見積もりをとり、最適な商用衛星を選択し、当該衛星による撮像、受信、固有システムでのデータ処理が行われてからデータ配信を受けるため、多種の衛星から最適な衛星の選択には時間、コスト、ノウハウが必要とされている。

関係省庁・自治体・企業等の一般ユーザが、撮影位置、データの種類等を選択するだけで、必要な衛星データがオンデマンド・低遅延で生産・配信される基盤システムを開発することで、災害対応等の即時性を求めるユーザや、多種衛星を組み合わせて利用するユーザへの衛星データ利用が拡大を目指す。

といった記載があります。

例えば、人工衛星(の中でも特に高度が低いものを中心に)の軌道を表すデータフォーマット、2行軌道要素形式(Two-Line Elements: TLE)と複数の衛星の機能をLLMで読み解くことができれば、複数の衛星タスキングは容易になるかもしれません。

さらに、衛星データの解析に加えて、情報を必要としている方への連絡までもLLMで判断し、配信まで行えたらより被害を最小化することに貢献できるでしょう。

5.自律的な宇宙探査

LLM×宇宙産業の可能性を宇宙探査でも考えてみましょう。例えば、月面に探査機を送り込んだ際にカメラで撮像した内容について、過去の論文や研究者が参照する文献を読み解き、自律的にその写真に写っているどの場所に次に向かうとよいかを判断することができるようになるかもしれません。

地球から離れた場所を探査する場合、どうしてもタイムラグが生じてしまい、適切な時期を逸してしまう可能性があります。そのような課題に対して、今後の計算機技術の発展は必要にはなりますが、地球からの指示を待たずに能動的に動ける探査機は調査に役立つでしょう。

(4)まとめ

国産LLMの開発や人工衛星データAI解析サービスなどを手がけるRidge-iの畠山さんにうかがった同社のこれまでとLLMと宇宙産業の可能性を紹介しました。

LLMの登場により、宇宙産業に限らずさまざまな業界において、仕事の進め方やこれまでの常識が変化しているように思います。より便利で豊かな社会を構築するためにはLLMは不可欠な存在となりつつあります。

そのなかで人間がしっかりと向き合って取り組むべきところ、AIに任せるところを認識し、どう動くのかをあらためて問われた取材だったようにも思います。

本記事が読者のみなさまにとって、宇宙産業の未来に期待が高まり、私たちであればこういうことができそう!という興味を持っていただくきっかけとなりましたら幸いです。