500億円企業への第一歩。将来宇宙輸送システムが再使用ロケットの離発着試験に着手【宇宙ビジネスニュース】
【2024年8月15日配信】一週間に起きた国内外の宇宙ビジネスニュースを宙畑編集部員がわかりやすく解説します。
将来宇宙輸送システムは8月14日、ロケットの離発着試験「ASCA hopper(アスカ・ホッパー)」のミッション説明会を開催しました。説明会で語られた試験の概要や目的、長期的な事業構想をまとめます。
早期の着陸技術の獲得を目指して
将来宇宙輸送システムは2022年に創業した再使用型ロケットによる小型衛星の打ち上げサービスの提供を目指すスタートアップ企業です。
同社は2028年3月までに再使用型ロケットの打ち上げ実証に向けて研究開発に取り組んでいます。将来的には有人飛行も計画されています。
2024年4月にはアメリカのロケットエンジン開発企業Ursa Major Technologiesとの協業を発表しました。
今回発表されたASCA hopperの最大の目的はロケットの開発技術を高めること。全長約4m、重量743kg(燃料充填時)の試験用ロケットを高度10mまで、ミッションの名称の通りホップさせる試験を実施し、ロケットエンジンの燃焼、機体の離着陸、再使用に必要な点検整備の3要素を確認します。2025年の実施に向けて、2024年内は燃焼試験や着陸脚の落下試験などを進めます。
代表取締役の畑田康二郎さんによると、ロケットを地上から打ち上げ、宇宙空間まで到達する技術の成熟度は高まってきているのに対して、比較的実験が進んでいないロケットの着陸技術の早期の獲得を狙ってASCA hopperに先行的に着手したということです。
試験は和歌山県串本町で実施
ASCA hopperの試験は、小型ロケット開発企業スペースワンの射場があることでも知られている和歌山県串本町の実験場で実施されます。
串本町では宇宙の取り組みを推進する機運が醸成されてきています。加えて、ASCA hopperの実験場の場所を貸している清水建設はスペースワンの射場の建設に参画していたこともあり、高圧ガスの充填許可の申請など自治体との調整はスムーズに進んでいるということです。
なお、試験場については「複数探している」と畑田さんは話しました。
再使用型ロケットvs.使い捨てロケット
ミッション説明会の後半は今後の事業計画についての質問が記者から多く寄せられました。
将来宇宙輸送システムのサービスの強みは、高頻度の打ち上げです。衛星コンステレーションの構築など、打ち上げの需要は増しています。複数の衛星を相乗りさせるライドシェアは従来よりも打ち上げ費用を抑えられる一方で、各衛星事業者が希望する日時の打ち上げや希望の軌道に投入ができないというデメリットがあります。
そこで将来宇宙輸送システムは、再使用型の小型ロケットによる高頻度の輸送サービスで衛星事業者が希望する日時、軌道へ衛星を輸送することを目指しています。
再使用ロケットは開発のハードルが高いうえに、帰還時の燃料も搭載する必要があり、使い捨てのロケットのほうが経済的だという見方もあります。畑田さんは、ロケットの製造にかかる費用を削減できることや、機体を繰り返し使うことで信頼性が高まり、衛星事業者が打ち上げ時にかける宇宙保険の料金が下がるといった効果があり、中長期的に見るとコスト競争力があると考えています。畑田さんは具体的な打ち上げ価格にも言及しました。
「人工衛星の打ち上げは1回あたり5億円程度で提供できるように頑張っています。究極的には7機以上の機体を繰り返し使いながら、年間で最大100回の打ち上げ、つまり100回×5億円で(年間)500億円規模のビジネスを目標としています」
将来宇宙輸送システムは総額8.6億円を調達し、文部科学省の「中小企業イノベーション創出推進事業(SBIRフェーズ3)の最初のフェーズに採択され、20億円が交付されました。衛星の打ち上げロケットの開発には250億円程度必要だといい、今後も民間からの資金調達や政府の補助金の獲得を目指す考えですが、将来の上場についても畑田さんは語りました。
「高頻度に打ち上げられる体制を作れれば、20回、50回、100回と打ち上げを実施していくうちに黒字化することを一般投資家の皆さんにもわかっていただけるようになると思います。2028年に衛星打ち上げロケットの開発が完了すれば、公開企業として一般の投資家からも資金を集めながら開発ができるようになります」
国内では2028年頃に小型衛星のコンステレーションを構築する政策目標を打ち出しています。機体の開発を完了させ、こうした大きな打ち上げ需要を獲得できるかどうかが鍵となりそうです。