宙畑 Sorabatake

ビジネス事例

衛星データでソーラーパネルの発電量を予測する! その手法と効果

電力会社が太陽光発電の発電量の推測をするために気象衛星を使っている、と聞きつけた宙畑編集部。どうやって?どんなメリットがあるの?もちろんインタビューに行ってきました。

地球温暖化の防止に有効な再生可能エネルギー。なかでも、太陽光発電は家庭でも手軽に設置できる発電設備として、年々、導入量は増え続けています。

一方で、太陽光発電が増えることでの苦労もあるようで、その苦労の解決に気象衛星が役立っているらしい、との話を知った宙畑編集部。

太陽光発電が増えることによる苦労、そしてなぜ気象衛星がその解決に役立っているのか。関西電力株式会社 送配電カンパニー 系統運用部 系統技術グループ マネジャーの河口 健氏と、同じく関西電力のグループ企業である株式会社気象工学研究所 取締役 技術部長の高田 望氏に伺ってみました。

株式会社気象工学研究所 取締役 技術部長の高田 望氏(左)、関西電力株式会社 送配電カンパニー 系統運用部 系統技術グループ マネジャーの河口 健氏

― 太陽光発電が増えることで何が起きているのでしょうか。

河口氏 あまり知られていないかもしれませんが、家庭やオフィスなどで使われている電気には、実は品質があるんです。発電所で作られた電気は大量に蓄えることができないため、使う量と同じ量の電気を、常に同時に発電する必要があります。

電気の品質を表す数値の1つとして「周波数」があり、品質の良い電気を安定して送り届けるためには、この周波数を一定に保つ必要があります。(東日本エリアが50Hz、西日本エリアが60Hz)電気の使用量に対して発電量が足りなければ周波数は下がってしまい、逆に発電量が多ければ周波数は上がってしまいます。

こうした周波数の乱れは、工場の機械やご家庭の家電製品に悪影響を与え、最悪の場合は停電につながる恐れもあります。

そのため、電力会社は電気の消費量(需要)と発電所の発電量(供給)のバランスを保つ必要があるのですが、太陽光発電は天気によって発電量が左右されてしまいます。

これまでは、季節や1日の時間帯で変化する電気の消費量(需要)を過去のデータ等から予測し、火力・水力・原子力などさまざまな発電方法を組み合わせて発電量を調整してきましたが、太陽光発電が大量に普及した現在では、需要の予測だけでなく、太陽光発電によって発電される量(供給)も正確に予測して、需要と供給のバランスを保つ必要があるのです。

需要と供給のバランスの重要性を語る河口氏

日本では2009年に太陽光発電の余剰電力買取制度(現在の固定価格買取制度FIT)が導入されて以来、太陽光発電の導入量が急増し、2018年12月には関西電力管内だけでも太陽光発電の連系済容量が524万kWに達しました。このため、電力の需要と供給のバランスを保つ制御がより難しくなってきています。

実際、関西電力管内では、晴天の日中であれば太陽光発電によって約400万kWの電力が発電されています。これは、原子力発電所の1基あたりの出力が約100万kWですので、どれくらい大きなものなのか想像がつくでしょう。

そこで、関西電力では気象衛星が撮影した画像データを活用した、太陽光発電の発電量の推定及び予測を行うシステムを導入しました。

― 衛星データがここで出てくるのですね!

高田氏 太陽光発電の発電量の推定及び予測には、関西電力と気象工学研究所で共同開発した、日射量短時間予測システム「アポロン」を導入して活用しています。アポロンは気象衛星「ひまわり8号」が地球を撮影した画像から雲の高度や形状を分析し、地表面の日射強度を推測します。

「ひまわり8号」は可視光と近赤外線、赤外線を合わせた16種類の波長で地球を撮影できます。このうちアポロンでは、可視光と赤外線の画像データを使用します。

衛星から地表を撮影する際、雲があると太陽光の一部が雲の上面で反射され、雲がない部分では地表面まで太陽光が到達します。これにより、可視光による撮影画像では雲がある部分は白く写り、雲がない部分は暗く写ります。その色の濃淡で雲の形状を識別し、さらに赤外線によるデータを使って雲の高さを推定します。

この雲画像から、あらかじめ設定した地点において太陽光がどのくらい遮られるのかという、太陽光の透過度合いを推定するのです。アポロンではこの方法を用いて1平方キロメートル単位で衛星画像から地表面に到達する日射量を計算しています。

― なるほど。太陽光がどの程度太陽光パネルに到達するのかが推測できれば、発電量が推定できると。

河口氏 そうなんです。とはいえ、地表に設置された太陽光パネルに到達する日射量だけで太陽光発電の発電量を推定するのでは、誤差が大きくなります。実際には、各家庭に設置された太陽光パネルの角度や向きが異なるため、発電量に違いがでてくるためです。

そこで、発電量の推定誤差を極力抑えるために、スマートメーター(電気の使用量を計測する電力量計)から過去の発電量の実績データを抽出して、誤差を補正する出力換算係数を算出しています。

最近では、発電量の年平均推定誤差を4.2%にまで改善できています。

― 今の発電量だけでなく、未来の予測も気象衛星データでできるのでしょうか。

高田氏 アポロンは日射量の現在値推定だけでなく、数分先から数時間先の日射量予測も行います。その場合は、雲の移流が大きく影響してきます。

そこで、アポロンでは現在の雲の様子を捉えた画像と2.5分前の画像、そして5分前の画像の3枚から雲の移動ベクトルを導き出します。このベクトルを使って、3時間半先までの雲の移流を予測するのです。

アポロンが導き出す日射量の「推定値」「予測値」について語る高田氏

実は、「ひまわり8号」が撮影したデータを気象工学研究所が受信してアポロンで処理を行い、最終的に関西電力の中央給電指令所に推定値が届くまでには約15分かかります。したがって、厳密には現在の発電量の推定値は、15分前の雲データと雲の移動予測から計算した予測値ということになります。

現在関西電力では、アポロンを利用した発電量の「(現在)推定値」「(短時間)予測値」に加えて、数値気象モデルによる発電量の「(翌日)予想値」も行っています。

― 「推定値」「予測値」「予想値」という3つのデータは、どのように使い分けて活用されているのですか。

河口氏 電力の供給は、「ベースロード」と呼ばれる原子力発電などの非調整電源からの発電が基盤となり、その上に火力発電や水力発電などの調整可能電源からの電力を積んで供給量を調整します。そこに、天気によって発電量が左右される、太陽光発電が加わってくるのです。

そのため、まずは前日に得られる太陽光発電の「予想値」から、翌日の火力発電機の運転計画を検討します。そして、当日は3時間半先までの「予測値」を見て、電力の供給力が需要を大きく超えそうであれば発電機を停止し、不足する場合は追加で発電機を起動するなどして供給力を確保します。

火力発電機の場合、発電機の種類や停止状態によっても異なりますが、指令を出してから発電するまでに数時間かかってしまう場合もあるため、3時間半先の予測値が大きな意味を持ちます。

また、現状太陽光発電でどのくらい電力が作られているかが把握できなければ、需要と供給のバランスを保つことはできません。「推定値」は、現在の全体の発電量を知るために必要なのです。

― アポロンを運用されて、目に見える効果がありましたか。

河口氏 火力発電は高出力の状態で一定運転させた方が燃料の効率が良いため、経済性の観点から火力発電機は、極力少ない台数で効率的に運転をすることが求められます。アポロンの導入によって太陽光発電の予測精度が上がり、火力発電機の適切な運用が可能になりました。

従来はアポロンほど高精度に短時間先を予測するシステムがなかったので、発電機の停止の判断が難しく、万が一予測が大きく外れた場合に備えて、多くの発電機を低出力で運転している場合もありました。現在は予測の精度が上がったことによって、最適な発電機台数で運転できる機会が増加しました。予測が大きく外れることがなくなったので、発電単価が高い発電機は停止しておき、発電単価が安い発電機だけを万が一のために動かしておけばよくなったのです。

今後はさらなる経済性を目指し、2018年度には、発電単価が異なる複数の火力発電機に対して、それぞれの出力配分を決めて全体の発電量を最適化する「ELD(経済負荷配分装置)」と「太陽光発電の推定及び予測システム」を連携させる計画です。

― 衛星利用に関する今後の課題としてはどのように考えていますでしょうか。

高田氏 気象衛星も「ひまわり8号」になって、16種類の波長で撮影した画像データが提供されるようになりました。それらのデータをすべて活用して組み合わせれば、今まで把握できなかったさまざまな情報が得られるかもしれません。

ただ、それらのデータを活用して、過去の日射量にまで遡って推測値を詳細に検証しようとすると、日々の撮影データをすべてサーバ上に保存しておく必要があります。

今後の衛星データ活用は膨大なデータ保存が鍵を握る

過去の衛星画像データも提供していただければありがたいのですが、そういったサービスはまだ行われていないため、自社で膨大なデータを保存しておく必要があります。今後、こういった過去の衛星画像データの提供が可能になると、活用の幅もどんどん広がっていくのではないかと思います。

写真:小口 正貴

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