宙畑 Sorabatake

宇宙ビジネス

人工衛星の「面白い!」が詰まった名古屋市科学館のこだわり探訪

名古屋市科学館の展示に鳥肌が立ちっぱなしだった宙畑編集部。そのこだわりについて、主任学芸員/プラネタリウム解説者の毛利勝廣さんにインタビュー!

誰もが楽しみながら科学に親しめる、国内屈指の素晴らしい総合科学館が名古屋にある……そんな前評判を以前から聞きつけていた宙畑取材班。その「名古屋市科学館」を訪れ、名古屋市科学館 主任学芸員/プラネタリウム解説者 毛利勝廣(もうり・かつひろ)さんにインタビューの機会をいただきました。

展示エリアをチラッと覗くと、地球観測衛星の展示を発見。しかも人工衛星の静止軌道、低軌道までもが再現されています。

期待感に湧く一同。こういう“サイコー!!”な模型を目の当たりにして、私たち、なんだか興奮してきました。

「ここまで踏み込んでディテールを作り込むとは、かなりのマニアックな人たちが運営に関わっているに違いない」「彼らのこだわりとは一体、どんなものなのか……?」そんな想いが沸々と湧き上がります。

それでは早速、毛利勝廣(もうり・かつひろ)さんとのインタビューのはじまりです。

今回インタビューに答えていただいた毛利勝廣(もうりかつひろ)さん

毛利勝廣さんは、名古屋市に生まれ、名古屋大学理学研究科地球科学科を専攻・修了。NTTおよびNTTデータ通信を経て、1990年から現職。ご専門はプラネタリウム、天文教育、情報技術の天文教育への応用ということで、プラネタリウムでの解説はもちろん、コンテンツの企画運営およびそれらに関わる研究を行なっています。

(1)名古屋市科学館の地球観測衛星展示と、そのこだわり

――早速ですが毛利さん、名古屋市で、なぜ手厚く科学を紹介しているのですか?

毛利 名古屋市科学館は、昔は市立名古屋科学館という名前だったのですが、昭和37年、1962年に開館しています。当時、この地域で「伊勢湾台風」という大災害があって、建設が半年遅れたと聞いていますが、内容は計画通りに実現されました。

最初に開館したのは、天文館。プラネタリウムと天文、原子力の展示でした。というわけでプラネタリウムに関わる天文の学芸員は全体の中でも約半分と多いんです。自分もその7人の中の一人です。

――そのような経緯があったんですね。

毛利 ええ。そしてこの科学館は、当初は宇宙に関する展示からスタートしています。プラネタリウムを作り、天文全般とエネルギー政策としての原子力の展示からはじまり、やがて理工系全般が揃いました。ですから、プラネタリウムの学芸員はもともとたくさんいます。僕もその中の一人です。

――展示コンテンツの制作意図を教えてください。

毛利 我々天文学芸員のメインの仕事は、もちろんプラネタリウム。宇宙・天文担当の7人が全員で内容を吟味して、毎月、コンテンツを変えてやっています。

一方で、展示室では、プラネタリウムでは見せにくいものをテーマにしています。だから、5階の展示室では宇宙をテーマとしているのですが、星座の絵をどこにも貼ってません。プラネタリウムの中でやれるからです(笑)。

――なるほど!

毛利 さらに、この地球の周りを回っている人工衛星の軌道ですとか、気象衛星「ひまわり」からどういう映像が来ているのか、とか。そういったテーマは、プラネタリウムでは語り切れない。語るべきことが多すぎて、それをやっていたら毎月そのテーマになってしまいますからね(笑)。ですから人工衛星関連は、展示室で表現しようと決めたんです。

――リアルタイムに情報量が積み重ねっていきますから。かえってプログラムに落としにくいのかも……

毛利 そうですね。それともうひとつはJAXA(ジャクサ)との協力関係が背景にあります。屋外に「H−ⅡB」ロケットがあったり、「きぼう」があったでしょ。あれは全部、試験機です。本物と同じ大きさで、本物の材質のもの。あの貴重なアイテムをお預かりして、展示しています。

――展示方針は、名古屋市からの要請ですか?

毛利 我々、学芸員からの発案です。この衛星軌道をこういう風に見せたいとか、表現方法の詳細な部分も含めて、自分たちで考えています。

例えば、衛星軌道を水平にすると皆さんの目線より高くなっちゃうので、斜めにしたり。静止軌道を示すために、地球の自転と同じように光を動かして見せたり。そういう平面画像では語りにくい事例を、立体模型できっちりと表現しています。

――学芸員さんたちの熱意が、展示物からも伝わってきます。

毛利 (笑)。特に理工館6階「最先端科学とのであい」ゾーンは、オープン当初から随分テコ入れしているんですけれども、例えば、今、観測に関わっている人工衛星が地球上空のどこにいるのかを模型とともに、上の画面でリアルタイムに表示しています。

今、あそこに「ひまわり」、ここには「ゴーサット(いぶき)」、そちらには「ISS」というように、このフロアでは空間を大きく使って観測衛星を紹介しています。「ISS」が名古屋上空に見えるときは予報を出して、皆さんに見ていただくための活動もしているんですよ。

――気象衛星「ひまわり」については、さらに切り出して展示をされていますね。

毛利 「ひまわり」のリアルタイムウェブを利用しています。利用者が各自のスマホでも見れるようにQRコードを貼っていますが、これも我々、学芸員からの発案。「ひまわり」の映像は、僕らは本当に宝物だと思っています。生の地球の姿が見えるのですから。

Credit : 情報通信研究機構(NICT)

――対象に対してのアクセス方法までも紹介する理由は何ですか?

毛利 皆さんに、宇宙や天文と能動的に繋がってほしいと考えているからです。プラネタリウムで観た星を、それだけで終わらずに本物の空で見上げてほしい。宇宙開発事業に対しても同じことで、ISSを見上げてほしい、ひまわりの画像で楽しんでほしいんです。

――では、宇宙を魅力的に紹介するうえで、どんなことが重要だとお考えですか?

毛利 宇宙なんて遠く離れたこと、日常生活とはあまり関わりがないこととして語られる場合が多いのですが、我々はそのように考えてはいません。いま自分がいるこの場所も、宇宙の中の大事なポジションのひとつです。惑星も、人工衛星も、見ることのできない重力波源であってもプラネタリウムでは位置を示します。

それは決して絵空事ではなく、いまその方向に実際に観えていたり、たとえ目視できなくともその方向のずっと先で現実に起きていることとして、実感してほしいのです。すべては皆さんに関わりのあることで、皆さんの頭上で起きていることなのです。

(2)衛星データ ☓ プラネタリウム

毛利 2018年12月には、『朝はどこからやってくる』というプログラムをプラネタリウムでやったんですよ。新年の初日の出って、やや南にズレた位置から上って来るんですが、その位置は季節で変わります。特に、春分とか秋分の頃はものすごく変わるんですよ。そういった話をプラネタリウムで太陽を何周も何周も回しながら見せています。しかも「ひまわり」が観測した映像を利用して。

春分の日、ひまわりから観測された地球。夏至、冬至の日と比較すると違いが明らか Credit : 情報通信研究機構(NICT)

――それは考えたことが無かったです!

毛利 春分と秋分だと真横。夏至だと上から。冬至だとこっちから、って。日本列島を宇宙から観るとこうなりますと、「ひまわり」の映像を駆使してプラネタリウムで説明しているんですね。

「ひまわり」の気象衛星以外の利用方法、それは宇宙から地球を観る目です。僕らは、そういう観点で「ひまわり」の映像を使っています。

「ひまわり」が撮影した映像がリアルタイムでオープンにされていることって、本当にすごいことなんですよ。天気予報で普段、目にする情報レベルとはぜんぜん違うところに、僕らはすでに来ているんですね。

気象観測という側面を超えて、人間が宇宙に対するアクセスログを残すという意味で、さらに踏み込んだものが刻々と積み重なっているんです。

――確かに、その通りですね! 

毛利 アポロ計画で人々に最も影響を与えた映像と言われるのは「地球の出」でした。

ところが、現代の僕らは、こうした映像を毎日、リアルタイムで観られるわけです。その意味では今のところ、日本が一歩進んでいます。

――日本の気象衛星「ひまわり」が、最も新しい設備を搭載しているという意味ですね?

毛利 そうです。宇宙に上げ直したばっかりですからね。2014年と2016年に上がっていますから、2014年の技術レベルを今の「ひまわり」は実装しているんです。

アメリカ、EUもすぐに追従してくるでしょうが、今、この日本を中心としたオセアニア一帯を中心に、最新映像が残されているわけです。アポロ計画で、人類があんなに苦労したものを、我々はこうやって毎日観ていられる。こういうデータがどんどんオープンにされるということはすごく大事なことだと思います。

――2019年1月は、「高エネルギー天文学」という、マニアックなテーマをやっていますね。

毛利 ガンマ線バーストがどうなるか、とか(笑)。スイフト衛星が撮った映像を利用して、実際に空の中で、どこに現れたかというのをプラネタリウムで表現しました。リアルで本当の空とつながることに意味があるので、グラフで「いま、これだけ出ています」って言われたって面白くないじゃないですか。なのでデータを打ち込んで、プラネタリウムに投影して。「あっちで見れた」「こっちでも見れた」って、全天を万遍なく観ていただきました。

――各データは、皆さんが論文検索で取得してこられるんですか?

毛利 もちろんそうです。学芸員なので、そういうのを調べるのは本務です。今、ドクター2人、修士5人の合計7人のチームです。

――もしも、あらゆる人工衛星データを名古屋市科学館で利用できることになった際は、どんなことを実現したいですか?

毛利 実際にデータを見てみないと分からないですが、来館者の意識といかに結びつけることができるかを考えると思います。

――では、最後に今後このような人工衛星データがとれると嬉しい、プラネタリウムで使いたい、というものがあれば教えてください。

毛利 来館者の皆さんが、夜空を見上げる際に役立つデータがほしいです。その意味では、いわゆる光害関連ですね。他にもどのようなデータがあるのか、衛星データについて、もっと勉強したいと思っています。

(3)インタビューを終えて

名古屋市科学館こだわりの人工衛星模型展示をこの目で見たい、そしてこだわりの展示を企画した方の考える未来の衛星データ利用の話をお伺いしたいと考えていた宙畑編集部。

実際にお話をして強く印象に残ったことは、「これからの衛星データ」ではなく「今取得できる衛星データ」でもアイデア次第では十分に価値あるものに変換できるということでした。

今すでにある科学情報を、より面白く、実になるように、施設に訪れた方に伝えるために何ができるのかを考え続ける。今後も名古屋市科学館の展示が時代の流れとともにどのように変わっていくのか注目していきたいと思います。

(4)おまけ:人工衛星に使われている科学技術の展示紹介

最後におまけとして、名古屋市科学館の展示室で見つけた、人工衛星に使われている科学をいくつかご紹介します。

デジタル画像:解像度

人工衛星から地球などを撮影する際に利用されています。
解像度は、地上分解能、という単語で表現されることがあります。

電磁波:赤外線

物質や現象により、発する、もしくは反射する電磁波が異なります。
リモートセンシングでは、この特徴を利用して、各種現象や物体の状態を推測します。

太陽光発電

人工衛星が宇宙で動くために必須な電力。
太陽光発電により、駆動に必要な電力を供給します。

熱伝導・電気伝導

宇宙では、空気の流れ(対流)がありません。
そのため、材質の特徴の差を利用することで、熱を移動(熱伝導)し、温度を制御します。

形状記憶合金

人工衛星は大きくできる方が性能的には有利ですが、ロケットに搭載できるスペースは限られています。

小さく搭載し、宇宙に行ってから大きく展開することが多々あり、この際に形状記憶合金の技術が利用されることがあります。

 

以上、人工衛星で使われている科学展示5選でした。

ここでご紹介した5つの展示以外にも、実は人工衛星で使われている科学の展示がたくさんありました。ぜひ名古屋市科学館を訪れて、科学の楽しさを知り、宇宙に思いをはせてみてください。

【名古屋市科学館】
サイトHP:http://www.ncsm.city.nagoya.jp/
住所:〒460-0008 愛知県名古屋市中区栄2丁目17-1 芸術と科学の杜・白川公園内
開館時間:9:30~17:00※入館は16:30まで
休館日:基本は月曜日、第3金曜日、年末年始※行かれる際は必ずサイトHPのカレンダーをご連絡ください

写真:溝口智彦