宙畑 Sorabatake

衛星データ

9種類、10の衛星画像で見る、フンガ・トンガ-フンガ・ハアパイ火山噴火の爪痕

日本時間の1月15日に発生したフンガ・トンガ-フンガ・ハアパイ火山における大規模噴火を様々な地球観測衛星が撮影しました。本記事では、9種類、10の衛星画像について解説しています。

日本時間の1月15日13時頃、トンガ諸島付近のフンガ・トンガ-フンガ・ハアパイ火山で大規模噴火が発生。その影響で世界中で潮位が上昇し、日本でもカキの養殖いかだが流される、停留していた漁船が転覆するなど、少なくない被害が発生しました。

そして、トンガの噴火の影響を表すデータとして、様々な衛星画像がテレビやSNS上で紹介されていたのを見たという方も少なくないのではないでしょうか?

本記事では、衛星画像から分かることを衛星データプラットフォーム「Tellus」のオウンドメディアである宙畑目線で、トンガの噴火について公開された衛星画像をまとめました。

ぜひ、この機会に衛星画像の特徴や、衛星画像には様々な種類とそれぞれの強みがあることを「そうなんだ!」と知っていただけますと幸いです。

(1)確認する衛星画像の種類と時系列

1.2種類に大別される衛星画像~光学とSAR~

まず、衛星画像の話をする際に、衛星画像には大きく分けて2種類あるということを知っておくことが重要です。一つは、光学の地球観測衛星が撮影したデータ(光学画像)、もう一つは合成開口レーダー(SAR)の地球観測衛星が撮影したデータ(SAR画像)です。

画像だけをみても、見た目は明らかに違うことは分かるかと思いますが、具体的に何が違って、どのように使い分けるのか、ということはイメージしづらいかもしれません。

ざっくりと2つの画像の違いを例えるなら「光学画像が視覚情報で、SAR画像は触覚情報」となります。

目でみると物体の色や形、物体が何なのか識別できるものの、明るく無ければ何も見えないのが、光学画像。テレビのバラエティ番組で目隠しして箱の中に入っているものを当てるゲームのように、物体がつるつるしているのかふわふわしているのか、また物体の形状を知ることができるのがSAR画像です。

光学画像は物体の色や形、物体自体の識別に適していますが、夜や雲に覆われてしまうと何も見えなくなってしまいます。一方のSAR画像は、自ら発した電波の跳ね返りを観測しており、電波は雲を通過するため、雲がある地域でも地表の観測が可能です。見え方が太陽光の状態に左右される光学センサと比較して、2時期の画像を見比べて変化を検出することが得意です。

2.光学画像の大きな強み、複数の波長を用いた物体検出

また、光学画像にはもう一つ、面白い強みがあります。それは、人間の目で見たままの画像を撮影するだけではなく、人間の目には見えない光の波長帯の反射も撮影できるということ。

物質によって、反射もしくは吸収しやすい光の波長帯が異なります。その特性を利用することで、宇宙から地上にある物質がそれぞれなんなのかということを判別することができるのです。

例えば、植物は近赤外線という、人の目には見えない光の波長帯を反射しやすい性質を持っており、近赤外線の波長を用いることで、植物の活性度を宇宙から把握できます。

今回のトンガの例で言えば、火山の噴火によって火山灰の降灰が広範囲に影響を与えたと言われています。火山灰の降灰エリアを衛星画像から判別できるか、確認してみたいと思います。

(2)記事で紹介する衛星画像の種類

今回の噴火について、その規模や影響を調べる際に確認する衛星画像の種類を紹介します。

■光学の地球観測衛星

・ひまわり
おそらく日本人であれば多くの人が知っているだろう気象衛星です。地上約36,000kmの宇宙空間、静止軌道(地球の自転と同じ速度で周回する軌道)にあり、常に日本上空の気象状況を観測しています。また、観測範囲は東アジアや西太平洋と、 地球全表面の約4分の1にもわたり、今回のトンガの噴火も観測範囲に入っていました。

・WorldView-3
民間の商用衛星の中では、最も解像度の良い衛星画像を撮影できる地球観測衛星です。その解像度は約31cmと、車の数を数えられることはもちろん、人の影も捉えられるほど。実際の被害状況を詳細に確認する上では最も適した衛星と言えるでしょう。

・ASNARO-1
今回、トンガの噴火後の状況を確かめるために、無料で紹介できる画像としては、WorldView-3の次に解像度の高い光学で観測する衛星です。解像度0.5mの白黒画像と2mのカラー画像を撮影できるもので、経済産業省からの委託を受けて、一般財団法人宇宙システム開発利用推進機構とNECが開発しました。

・Sentinel-2
欧州連合(EU)とヨーロッパ宇宙機関(ESA)の地球観測プログラム「コペルニクス計画」による地球観測衛星群です。Sentinel-2は光学センサを搭載した陸域観測衛星で、AとBの2機体制で運用されています。

・Senitinel-5P
Sentinel-2と同様にコペルニクス計画により運用されている地球観測衛星です。温暖化や大気汚染の指標となるSOXやNOXといった主要な大気質の微量ガスとエアロゾルを全球で観測します。紫外線、可視光線、近赤外線、短波長赤外線を測定する分光器により観測しています。

・しきさい(GCOM-C)
宇宙から地球の気候変動を観測することを目的とした人工衛星。大気中の微粒子や植物の活性度などを調べることが出来るほか、海水面温度を250m解像度で確認することができます。また、しきさいは2021年8月に起きた海底火山による軽石の判別を行う際にも活躍した衛星です。

■SARの地球観測衛星

・Sentinel-1
Sentinel-2/5Pと同様に、欧州連合(EU)とヨーロッパ宇宙機関(ESA)の地球観測プログラム「コペルニクス計画」による地球観測衛星群です。Sentinel-1はSARセンサを搭載した陸域観測衛星で、AとBの2機体制で運用されています。地表面形状、陸域画像取得、海面画像取得、海上風(水平方向の風向と風速)、海面の流速、波高、海氷の分布・タイプなどを観測できます。

・だいち2号(ALOS-2)
日本発の陸域観測技術衛星として、世界中の大規模自然災害をSARセンサによって観測します。災害状況の把握以外にも、国土や資源を管理する上でもデータが利用されています。

・ASNARO-2
光学のASNARO-1と同時期に、トンガの状況を確認できる画像として、Tellusに衛星画像が公開されたものです。解像度は1m程度となっており、今回紹介するSARの衛星画像の中では最も高解像度です。こちらも経済産業省の助成事業としてNECが開発しました。

それでは、光学衛星とSAR衛星に分けて、それぞれの衛星でどのようなデータを確認できるのか紹介していきます。

(3)実際の衛星画像を確認する

■光学衛星

Credit : JAXA、気象庁

地球観測衛星データサイト」で公開されている気象衛星「ひまわり」による噴火観測です。

気象庁から提供を受けたひまわりデータを、JAXAが等緯度経度格子に加工した上で可視化したものです。噴煙と衝撃波が火山島を中心とした円形に広がる様子が分かります。

・WorldView-3

Credit : Maxar Technologies

Maxar Technologiesがオープンデータプログラムで公開した、フンガ・トンガ-フンガ・ハアパイ火山噴火前後の街のWorldView-3の衛星画像画像を左右に並べたもので、左側が噴火前、右側が噴火後になります。

WorldView-3の衛星画像は上述の通り、商用で購入できる衛星の中で最も高解像度で、住居の形もはっきりわかりますね。また、噴火後の衛星画像を見ると住居の屋根に火山灰が積もっている様子が分かります。

・Sentinel-2

また、噴火によって火山灰が南にあったトンガの首都があるトンガタプ本島に降灰して影響を与えているとの発表がありました。WorldViewのtrue画像で見ると街並みが灰色になっていることは分かりますが、これが火山灰なのか、屋根の色なのかをきちんと判別することは人間の目では難しいように思います。

そこで、可視光以外の波長を用いて、火山灰か否かの判別ができないかを試してみた、というのが以下の画像です。

衛星リモートセンシングによる火山灰堆積厚把握手法について」によれば、植生以外の領域で NDVI(植生指数) の変化を調べることにあまり意味はないという前提があったうえで、降灰量が 10cm 程度まではNDVI の減少率と降灰量との間には比較的良い相関関係があったとあります。

実際に今回の噴火がどの程度の降灰量となったのかは分からない状態ではありますが、NDVIのデータを見ると、火山後の衛星画像では、植物があっただろう場所が白くなっていることが分かります。

・ASNARO-1

ASNARO-1が捉えた噴火後の海底火山のデータもTellus上に公開されました。Sentinel-2よりも高解像度の衛星画像となっています。

・Sentinel-5P

こちらはSentinel-5Pが観測した1月13日から19日までのSO2のタイムラプス画像です。観測できていない(観測値として値を保証できない)範囲はマスクされて赤色で塗りつぶされていますが、15日以降に噴火に由来すると推測される高濃度のSO2が西に流れているのが見て取れます。

・しきさい

Credit : JAXA

海域火山である海底火山や火山島の活動状況の把握には、周囲に発生する変色水の分布や色の変化を見ることが有効なのだとか。実際に大噴火の前日には上記のような変色水が見られ、噴火後でも大規模な変色水が確認されたことで、引き続き火山活動が活発な可能性があると見られています。

■SAR衛星

・Sentinel-1

Sentinel-1の衛星画像のタイムラプスを作成してみました。2021年12月22日の画像でも噴火が確認でき、2022年1月15日の噴火直後の衛星画像では海底火山の中心部が消失していることが確認できます。

・ALOS-2(https://earth.jaxa.jp/ja/data/policy/index.html)

Credit : JAXA

JAXAからもALOS-2が捉えた噴火前後の海底火山の様子が公開されました。Sentinel-1でも見たものと同様に、中心部が消失していることが確認できます。

・ASNARO-2

Tellusに公開されたASNARO-2の画像は噴火した火山ではなく、街の様子を捉えたSAR画像でした。ご覧いただくと、さすが高解像度のSAR画像、住宅の大きさや形が分かります。

(4)複数の衛星画像を眺めて考える、各種衛星画像の扱い方

今回、9機の地球観測衛星が取得した10枚の衛星画像を並べて紹介しました。火山の噴火という一つの事象に対して、様々な衛星画像が噴火の規模やその影響をそれぞれの強みを活かして私たちに教えてくれているということがあらためて分かりました。

今回の比較を通して、ここまで記事を読んでいただいた読者の方に、今後衛星画像を扱う上でぜひ覚えておいていただきたいことを3つまとめてみました。

①衛星画像の解像度ごとに、分かることは異なる

まず、当たり前の確認ができたという内容になりますが、衛星画像の解像度ごとに分かることの差があります。光学の人工衛星であれば、WorldView-3の衛星画像では、家ごとに状態の把握ができるのに対し、Sentinel-1の衛星画像では、降灰がざっくりとこのあたりにあっただろうということしか分からないですね。

つまり、何を見たいかによって、衛星画像を使い分ける必要があるということです。

②SAR衛星は雲の影響を受けづらく、地上の状態を素早く把握する上では便利?

今回、光学衛星とSAR衛星では、噴火の状況を把握する衛星画像を撮影できたタイミングが異なります。今回の噴火については、雲や噴煙の影響を受けない特性があったSAR衛星の方が、地上の状態を私たちに先に教えてくれました。
※Sentinel-1の画像が1月15日、Sentinel-2が1月17日

何か衛星画像を見てみたい事象があり、地上の状態をまずは知りたい!という場合は、SAR衛星から先に調べてみるとよいでしょう。

※もちろん、各種地球観測衛星の回帰日数と天気によっては、光学衛星の方が先に地上の状態を把握できる可能性もあります。

③光学の地球観測衛星は様々な波長帯を観測しており、噴火の影響を把握する上で多様な使い道がある

冒頭の衛星画像の種類を解説した内容と重複しますが、SAR衛星が雲の影響を受けずに地上の状態が分かるという強みがある一方で、光学衛星は火山灰の降灰状況といった、SAR衛星では判別しづらい違いを人の目で見て確認しやすいという強みがあります。

SAR衛星で分かる地上の変化だけではなく、より詳細に遠隔地が変化した状態を知りたい場合は、光学衛星のデータが役に立つことが多いでしょう。

(5)まとめ

以上、1月15日に発生したトンガ諸島付近の大規模噴火の影響を9機の衛星画像で確認し、衛星画像とはなんぞやという内容とその衛星ごとの違いやデータそのものをあらためてご紹介しました。

今回はオープンデータとして配布されている、無料で紹介できる衛星画像のみを記事で掲載しています。今回のトンガの噴火については、Planet Labs社等も画像を撮影し、Twitter上で紹介していました。

また、本記事を執筆している1月下旬になっても、トンガ火山噴火起因の津波によるペルー沖油流出事故のオイル漏出の観測結果や、衝撃波が広がる様子をSAR衛星により観測したなど、トンガ諸島付近の大規模噴火に関連する衛星画像が続々と公開されています。

ぜひ、衛星画像で確認したい!という事象が発生した場合は、本記事に書かれた内容を参考にして、様々な衛星画像をご自身で探してみてください。