赤浦徹さんと永崎将利さんの特別対談で語られた、宇宙ビジネスのチャンスと立ち向かう課題【Space BDキャリアイベント特別レポート】
Space BD代表取締役社長の永崎 将利さんとインキュベイトファンド代表パートナーの赤浦徹さんの特別対談で語られた宇宙ビジネスの今とSpace BDの役割とは
日本橋三井タワー7階 X-NIHONBASHI TOWERにて、Space BDの採用イベントが開催され、Space BD代表取締役社長の永崎 将利さんとForbesが毎年主催する「日本で最も影響力のあるベンチャー投資家ランキング」2024年版の1位に輝くインキュベイトファンド代表パートナーの赤浦徹さんとの特別対談が行われました。
後日談ですが、現地には銀行、証券会社、商社、IT、人材、不動産、独立行政機関、学生……と様々なバックグラウンドを持つ72名が集まっていたそうです。
永崎さんと赤浦さんの対談の話題は宇宙ビジネスの現在地と日本の課題、Space BDの強みと多岐に渡り、イベントに集まった参加者を惹きつけました。宙畑編集部としても宇宙産業の今を再認識できる貴重な対談でした。
本記事は、特別対談で語られた内容のなかでも、特に興味深かったポイントをまとめてご紹介します。
宇宙ビジネスの今を知る4つのポイント
本イベントの司会を務めたのは広報・採用事業を担当する飯塚はるなさんです。当日は飯塚さんがお二人に質問を投げかける形で進行され、最初の問いかけは「宇宙ビジネスの現在地」でした。
永崎さんからは「日本の政府予算が流入し、とても盛り上がっている」「予見性がないビジネス」「ユーザーを増やさなければならない」という3点、赤浦さんからは一言で「宇宙ビジネスは終わっている!?」とおそらくイベントに参加した方からするとぎょっとするような回答がありました。
宇宙業界における起業家としての永崎さんと、宇宙ビジネスに限らず様々な業界を見る投資家としての赤浦さんの視点の違いが現れていました。それぞれどういう意図の回答だったのか、ひとつずつ紹介します。
永崎さんは宇宙ビジネスの現在地について、以下のように話します。
「かれこれ8年ほど宇宙産業に携わってきましたが、今、一番盛り上がっています。宇宙産業で最も多くのお金を払っているのが政府で、その予算がこの3年間で約2.5倍の額になっています。また、赤浦さんをはじめとした投資家のリスクマネーもすごく大きな額が動いていて、チャンスがきています。
ただし、ビジネスとしては、依然としてマーケットがあるわけではないため、予見性がなく、難しさもあります。
だからこそ、自分たちでトライアンドエラーを繰り返していく毎日がすごくエキサイティングで、難しさはあるけれど、自分たちがパイオニアであり、明らかにその地平を拓いてるという感覚を持っています。」
つまり、政府や投資家のリスクマネーなど業界には多くのお金が入って来てはいるものの、ビジネスとしてはまだまだ何が伸びていくのかが定まっておらず、今まさに業界の礎を創り上げていくことができる絶好のタイミングだと話されました。
赤浦さんは第一声から「宇宙ビジネスはもう終わっている」から入り、会場の空気が一変。その真意について、以下のように語られました。
「宇宙ビジネスの現在地について一言で言うと、もう終わってます。やばいです。宇宙ビジネスというのは、まず宇宙へのアクセスが必要ですよね。その唯一のアクセス手段になる世界のロケット打ち上げ需要に対して、SpaceX1社がほぼ独占状態です。
オーストラリアで電力不足があった時も、すかさずイーロンマスクが手を挙げて蓄電設備を作ったとか、イーロンマスク1人が世界を制覇しちゃうんじゃないか?というくらい彼の影響が大きくなっています。」
ビジネスとして大きく成長している業界の、核となる技術である打ち上げをSpaceX1社がほぼ独占しているとも言えるような現状に、投資家という視点から宇宙業界の構造の歪さを強く指摘されました。
SpaceX大躍進の裏側とリスクマネーが日本に流入するきっかけ
では、なぜSpaceXは業界全体に影響を与えるほどに成長することができたのでしょうか。また、なぜ今、日本の宇宙ベンチャー企業に多くのリスクマネーが流入しているのか。赤浦さんはその理由を以下のように語ります。
「SpaceXは、政府を相手として全ての売上を計上して成長しました。アメリカ政府がSpaceXをエコひいきしたから、あれほどの世界を制する会社が生まれたのです。」
そして、そのような現状を知った当時ベンチャーキャピタル協会の会長でもあった赤浦さんは、日本の宇宙産業を強化することとなった大きな出会いがあったとイベントで語られました。
「日本も今それをやらなければいけない。そんな思いを持って様々な啓蒙活動を行った結果、様々な縁をいただき、もらいながら岸田総理に直接お話しできる機会をいただき、ベンチャーキャピタル協会として中小企業イノベーション創出推進事業(以下、SBIR)という、スタートアップに対して、政府調達を優先的にできる枠を設けてほしい、ということをお願いしました。
そして2022年2月11日に岸田総理自ら、スタートアップへ調達の優先枠を設定すると宣言されます。そこから資金流入が加速し、スタートアップ育成5ヵ年計画など、様々な取り組みが行われてきた結果として、今日本のスタートアップが盛り上がっています。」
つまり、現在、民間企業における輸送手段の獲得が期待される政府プログラムSBIRのきっかけを作ったのは赤浦さんだったということです。
2024年の振り返りを各日本企業に伺った際にも、将来宇宙輸送システム、インターステラテクノロジズがSBIRのステージゲート審査を通過し、それぞれ総額で70億円と66.3億円を交付上限額とする決定が行われたことが回答にありました。
宇宙ビジネス企業81社とゆく年くる年、2024年のトピックと2025年の展望 | 宙畑
宇宙ビジネス企業81社とゆく年くる年、2024年のトピックと2025年の展望
宇宙産業の発展には、技術開発を担うモノづくりができる人だけではなく、政府や顧客と話すビジネスマンや投資家が欠かせないのだと再認識した瞬間でした。
「宇宙を自在に、熱く誇れる産業を。」通年黒字を達成したSpace BDが推進する事業
また、Space BDは2024年8月期の決算で短期黒字を達成したことを本イベントで紹介。永崎さんは黒字化の要因とSpace BDが取り組む事業について、以下のように話しました。
「言ってしまえば、損益分岐を超える売上規模に成長したということですが、やはり衛星を中心とする宇宙への輸送サービスの貢献が大きかったです。宇宙産業の発展において、宇宙へのアクセスのハードルを下げることが重要だと、宇宙空間にアクセスする手段であるロケットで物を打ち上げていくというところで、スタートしました。これがSpace BDの基幹事業です。
また、その近隣領域に拡げて、衛星部品やコンポーネントの売買も行っています。
さらに他方では、『宇宙を使ってこんないいことがあった』という事例を作ることで、宇宙に参入してくる企業がもっと増えてくると考えているので、その事例となるべく、創薬開発等が期待されているライフサイエンス領域にも挑戦しており、国際宇宙ステーションを、ライフサイエンスを専門としている企業に使ってもらうということを事業として行っています。
また、祖業とも言える教育の分野にも手を伸ばしています。
全体的にはこんな感じですが、衛星打ち上げの仲介事業者という存在としては、我々が日本でシェア1位を獲得しており、今後はグローバルでトップ3に持っていくということを目標にしています。最終的に、総合商社出身の私が目指す会社の形態は、やはり総合商社、ただし、技術力に立脚した事業開発力、ハンズオンに強いプロ集団を作ることによって、もう何でもビジネスしてしまえと。その立ち位置としては、7年かけてかなり良いポジションにきたと思います。」
「日本にはSpace BDが絶対必要」赤浦さんが考えるSpace BDの役割
様々な事業を行っているSpace BDですが、赤浦さんは彼らのことを「絶対に必要」な会社だと述べ、宇宙ビジネスに流入する資金の流れとSpace BDが築き上げてきた絶対的な信頼をその理由として挙げられました。
「今、宇宙業界には、1兆を優に超えるお金が政府から入ってくるという状況です。それだけのお金が入ってくると、いろんな会社がカオスに発注し合い、産業ができます。その時に一番取引をする会社が、Space BDです。
何かあれば、多くの会社がSpace BDを頼りにしています。ビジネスをしっかりとやっていくとなると、Space BDを介してお金が動いていくことが多くなるでしょう。
Space BDにどんどんお金が流れ、また、Space BDもお金を流していく。そういった流れによって産業化していくので、今後ますます事業として大きく発展していくだろうと期待しています」
「姿勢だけじゃなく実力がある」Space BDの強み
赤浦さんが語ったように、宇宙業界で多くの関係者から頼りにされているSpace BDですが、永崎さんはその強みがなぜ生まれているのか、信頼を得るために大事なことや仕事への取り組む姿勢について、次のように語ってくれました。
「宇宙ビジネスは前例がないことも多く、誰に頼めばいいの?といった時に『ここに投げたら、逃げずに、丁寧に、心こめてやり切る、しかも姿勢だけじゃなくて実力がある』という存在でい続けていれば、この産業がどんなシナリオになったとしても頼られる、その源泉を根源的に持っておくことができると考えています。
無限の当事者意識と会社では言っているのですが『自分がずっこけたら、この会社は、あるいはこの産業は進化が止まるかもしれない』というくらいの当事者意識を持ち、業務にあたるということを徹底しています。」
仕事に対する姿勢だけでなく、実務面においてもSpace BDには様々な会社から信頼を獲得できるだけの実力があると、赤浦さんは話します。
「黒字になっている会社が少ない宇宙ビジネスの現状のなかで、商社としてビジネスをしっかりと行って利益を出すという点では、海外の方々と契約書を取り交わすスキルもSpace BDは非常に高いです。あまり細かいことを言いすぎても信頼関係は結べません。だからといって、契約書をしっかり結ばなければ、売上は立ちません。
Space BDは百戦錬磨の商社でのご経験があるので、そういった実務に非常に長けていて、ビジネスをしっかり作って利益を上げられているのだと思います。
また、投資する事業もあって、実はエンジニアの社員も多く採用しています。商社というだけではなく、技術的なチャレンジもするテクノロジーカンパニーでもあります。
そのため、少し先行投資を含めてR&Dもあると赤字になることもありますが、そこに投資をして成長していけることがSpace BDの強みだと思います。」
つまり、人材の面では、「無限の当事者意識」を持ち、やり抜く力を持ったビジネス集団でありながら、テクノロジーを使いこなす技術力も持った集団であるということ、また、実務面においては、ビジネスという観点で利益を生み出す契約を取り付けることができるという点がSpace BDが他の会社から信頼されている理由ということでした。
Space BDが取り組む「宇宙×教育」から考える宇宙ビジネスで働く面白さ
さらに、Space BDが新たに取り組む宇宙×教育の事業にもからめて、永崎さんは、宇宙ビジネスで働くことの面白さを次のように語ってくれました。
「陸上自衛隊さまとボーイスカウト日本連盟さまをパートナーとして、宇宙飛行士の訓練を正式にJAXAから受託して提供しています。
これからの社会で必要になる人材というのは、グローバルな視点で物事を考え、答えがない社会において、自分で模索しながら問いを立ててチャレンジして、心折れずにトライアンドエラーを繰り返していける人材であると考えているのですが、その点で宇宙と教育というのはとても相性がいいと感じています。
宇宙に挑むと、工学の世界でも、サイエンスの世界でもわからないことだらけですよね。ビジネスにおいても、わからないことだらけです。そして法律の世界においても、国際的にその法が整備されていないという状況です。
つまり、どんな専門領域であったとしても、宇宙に挑むということは、自分でグローバルが当たり前で、自ら問いを立ててトライアンドエラーでやっていく必要があります。その象徴として、宇宙飛行士の訓練というのはとても実用性があると考えています。
こういった要素を再構築して、宇宙をテーマとして扱いながら教育産業に打って出ようというのが我々のコンセプトになっています。」
「変革期に宇宙産業で働く意義とは」二人から力強い最後の一言
トークセッションの最後には、お二人から力強い言葉をいただきました。
まず、赤浦さんからは、「宇宙」という壮大なテーマに挑んでいく理由として、今まさに大きな変革期であると話した上で、以下のようなメッセージをいただきました。
「今、間違いなく時代が大きく変わる変革期だと思います。安全保障の話も含めて、宇宙が大いに注目されていますが、たった一人、自分自身しかいなくても、そんな変革期に変革期だということを知って、チャレンジするかしないかというのは、自分の決断次第だと思います。私は私でやれることに全力で取り組もうと思って、何でもやっています。だから皆さん一人一人が、この変革期に自分が何をどう決断していくかというのを、宇宙というテーマをきっかけに何か考えていただけたら嬉しいなと思います。」
永崎さんからは、Space BDとして一緒に宇宙産業を作り上げていきたいという思いと共に、これからの力強い意気込みを話していただきました。
「とにかく、冷めた世の中を何とかしたいと思っています。キャラクターを押し付けるつもりは全くありませんが、「人生をやりきりたい」とか、「言い訳なく生きていきたい」みたいなテーマを持っておられる方がいたら、うちほどぴったりな会社はないと断言いたします。なぜなら、僕はもうこんな感じで四六時中生きていますので。(笑)
全く裏表なく、そういったものを茶化したり、足を引っ張ったりするのではなく、そういう人同士が高め合って、本気で生きていく。そして、一大産業を作って、その時に「いい人生だったね」って言い合えるような会社を作りたいと思っていますし、その舞台を用意し続けるのが、社長としての自分の仕事だというふうに思っています。」
トークセッションの後には、事業サイドとエンジニアサイドにわかれ、参加者が気になっていることを実際にSpace BDの社員さんたちに質問ができる時間や、参加者同士で交流ができる懇親会の時間も設けられており、会場はずっと賑わっていました。
今日のトークセッションを聞いて、宇宙に興味を持ち、関わっていく方が一人でも多くなることで、宇宙業界が日本の次の30年を作る力強い基盤になっていくことが期待されます。