宙畑 Sorabatake

宇宙ビジネス

「人生最後の転職という覚悟、夢を実現するために来た」楽天、大手流通業を経てCOOとして宇宙企業に転職した宮丸和成さんのWhy Space

非宇宙業界から宇宙業界に転職をした人に焦点を当てたインタビュー連載「Why Space」、10人目のインタビュイーはElevationSpaceでCOOとして活躍する宮丸和成さんです。「人生最後の転職だ!」という覚悟で転職を決めた宮丸さんのこれまでのキャリアと決意のきっかけとは。

非宇宙業界から宇宙業界に転職をした人に焦点を当てたインタビュー連載「Why Space~なぜあなたは宇宙業界へ?なぜ宇宙業界はこうなってる?~」に登場いただく10人目は、楽天や大手流通企業での多様なビジネス領域でキャリアを積み、現在は小型回収衛星の開発に挑むElevationSpaceのCOO・宮丸和成さんです。

本連載「Why Space」では、非宇宙業界から宇宙業界に転職もしくは参入された方に「なぜ宇宙業界に転職したのか」「宇宙業界に転職してなぜ?と思ったこと」という2つの「なぜ」を問い、宇宙業界で働くリアルをお届けしてまいります。

人類初のスペースシャトル・コロンビア号の打上げで芽生えた宇宙への思い

宙畑:ElevationSpaceのnoteで、宮丸さんはもともと宇宙に興味があったと拝見しました。

宮丸:そうなんです。最初に宇宙に惹かれたきっかけは、小学校1年生のときに見たスペースシャトル・コロンビア号でした。1981年のことですね。テレビの映像越しでしたが、シャトルが打ち上がって、そして無事に帰還してくる様子に「これはすごい」と強く心を動かされました。今振り返ると、あの瞬間が自分にとっての「これだ」という原体験だったと思います。

Credit : NASA

宙畑:当時から乗り物全般がお好きだったのでしょうか?

宮丸:そうですね。飛行機やロケット、電車、車……乗り物全般が好きでした。私の育った飛騨高山は山国だったので、船には縁がなかったのですが、船にも興味がありました。子どもの頃、多くの男の子は一度は乗り物に夢中になると思いますが、私は今でも好きなままです。

自分ではあまり覚えていないんですが、中学や小学校の友人に会うと「お前、昔からずっと宇宙のことばっか言ってたよな」とよく言われます(笑)。

その後も、NASA25周年記念で開催された大スペースシャトル展に行きました。名古屋でやっていたのですが、実物大のモックアップ「パスファインダー」が展示されていて、それを見に行ったんです。月の石にも触れて、宇宙飛行士と握手もして、サインをもらって……その時のことは今でも強烈に覚えています。

宙畑:それはとても貴重な体験ですね。

宮丸:そうですね。おそらく当時の親が私の宇宙への熱意を見て「連れていってあげたい」と思ってくれたんだと思います。プラモデルも買ってもらって、組み立てて遊んでいました。低学年の頃の記憶ですが、はっきりと残っています。

宙畑:進路もそのまま宇宙へと一直線だったのでしょうか?

宮丸:はい。迷いはほとんどなかったですね。高校では理系一択で、当時から航空工学に関する本を読み漁って「これをやるんだ」と思っていました。最終的には航空宇宙工学が学べるという理由で防衛大学校に進学しました。自衛官になりたいという思いではなくて、あくまで宇宙につながる道を選んだんです。

宙畑:まさに、小学生の頃の「宇宙に行きたい」という気持ちが、そのまま進路に結びついているんですね。

宮丸:そうなんです。本当に、自分ではそこまで意識してなかったんですが、昔からの友人たちに「やっぱりな」と言われるくらいには、一貫して宇宙に向かっていたようです。

就職では宇宙の道に進まずにビジネスの世界へ

宙畑:大学卒業後は宇宙や航空の専門職ではなく、ビジネスの世界に進まれていますね。その決断に至る背景を教えていただけますか?

宮丸:まず、防衛大学校という環境が、非常に厳しい場所でした。入学時に500人いた同期のうち、卒業までに残ったのは400人ほど。日々「辞めたい」と思うような厳しさの中で、自分自身や人生について自然と深く考えるようになったんです。その上で、航空宇宙工学の勉強自体はすごく楽しかったのですが、「一つの専門性を極めて研究していく」というスタイルが、自分には少し違うかもしれないと感じ始めました。

宮丸:そのような思いを持ち始めていた時に、民間企業で活躍している先輩方と出会い、「こういう社会の変え方もあるんだ」と感じたのが大きかったです。宇宙という夢を捨てたわけではなく、まずは世の中を動かす側に回りたい、ビジネスの世界から大きなことに挑戦したいと思うようになったんです。

宙畑:初めての就職先は人材ベンチャーだったそうですね。

宮丸:はい。創業者が大学の先輩で、著書を読んで「この人に会いたい」と思い、手紙を書いたんです。そしたら実際に会っていただけて、「俺んとこに来い」と一本釣りしていただきました(笑)。業種というよりも、「この人についていきたい」という思いが強かったですね。

宙畑:その後も様々な企業でキャリアを積まれていることを拝見しました。ビジネスの現場での学びについても教えてください。

宮丸:その後、楽天に11年在籍し、物流事業の立ち上げや再構築に関わりました。特に印象的だったのは、新しく始めた事業を一度縮小し、それを中から立て直していくプロセスです。海外の子会社にも入り込んで、楽天の考え方やプロジェクトマネジメント、コスト管理などを徹底的に叩き込んでいきました。これはビジネスの厳しさと面白さを同時に体感した非常に貴重な経験でした。

ビジネスの世界で必要なのは、状況を的確に判断し、前に進めていく力です。防衛大で身についた「折れない心」や、どんな場でもプロアクティブに行動する姿勢が、スタートアップやベンチャーの環境でとても活きました。

宙畑:当時も宇宙や航空への想いは消えてはいなかったのでしょうか。

宮丸:はい。完全に趣味になったとはいえ、宇宙関連の専門誌や資料はずっとチェックしていました。特に小学校のときに行った大スペースシャトル展のガイドブックは、何十回も読んでボロボロになるくらい(笑)。最近メルカリで見つけて、また買い直しました。読むと、当時の記憶が一気によみがえってくるんですよ。

ElevationSpaceの存在を知り、すぐに連絡を取った

宙畑:ElevationSpaceとはどのように出会われたのでしょうか?

宮丸:ある日、楽天時代の後輩が「ElevationSpaceに出資しました!」っていうキラキラした投稿をFacebookに上げていて、それが目に止まったんです。「なんだこの会社は?」と思って調べてみたら「宇宙からの再突入カプセルをやる」と。もう、それだけでアンテナが立ちました。スペースシャトルに心を動かされた自分にとって、「帰ってくる宇宙機」を日本のスタートアップがやろうとしているのは、完全にストライクだったんです。

宙畑:すぐに連絡を?

宮丸:はい、「とにかく紹介してくれ」と後輩に頼んで。当時は転職したいといったことは全く考えておらず、単純に「これはすごいことをやろうとしている」と思って話を聞きたかったんです。

宙畑:実際に話を聞いてみて、どう感じられましたか?

宮丸:オンラインで、代表の小林と話す機会をもらったんですが、技術的な話もすごく深くて、どんどん引き込まれてしまって。紹介してくれた後輩は「2人の話についていけなかった」と言っていました(笑)。ただ、自分にとっては、「過去に学んだ知識や経験が活きる」と直感的に思えましたし、何よりワクワクしたんです。

宙畑:その時点で「ここに入りたい」と思われたんでしょうか?

宮丸:いえ、最初はそこまでではなかったんです。ただ、当時の私は某大手流通業で働いていており、大企業ならではのスピード感や意思決定のプロセスに、どんな状況でもプロアクティブに行動できるという私自身の強みを活かすことができる機会の少なさを感じていました。そういう中で、「再突入」という挑戦に真正面から向き合っているスタートアップと出会ってしまったんですよね。

宙畑:数ある宇宙スタートアップは増えてきている中で、ElevationSpaceに強くひかれた理由をあらためて教えていただけますか?

宮丸:実は、転職エージェント経由でいろんな宇宙関連求人も見ていました。ただ、正直どれもピンとこなかったんです。「観測衛星のコンステレーション」「地球観測データの活用」とか、もちろん重要なことなんですけど、技術的に理解はできるしビジネスモデルもわかる。でも、そうじゃないという思いがどこかにありました自分の中でずっとくすぶっていた「スペースシャトルの再来」みたいなビジョンにピタッと重なったのが、ElevationSpaceだったんです。

宙畑:技術的な憧れと、ご自身のキャリアを活かせるという二つの“可能性”が、そこで結びついたんですね。

宮丸:そうですね。ElevationSpaceが掲げていた「実証の機会を提供し、非宇宙の人たちを宇宙に連れていく」というビジョンにも共感しました。ゼロから事業を作る場合、小さくてもまずはユースケースを作り、そこから事実を積み上げていくというプロセスが非常に重要です。私はこれまで、物流やITの領域で“ゼロから事業を作っていく”という経験をしてきましたが、それを宇宙でやれるなら、本当に意味があると思ったんです。

1年間のインターン期間を経て、COOとして転職

宙畑:ElevationSpaceに入社された経緯についてお聞かせください。

宮丸:最初からいきなり転職という形ではなく、1年間、業務委託として関わっていました。事業開発や営業の戦略立案など、主にビジネス側のアドバイザーとして活動していて、「ここはこうしたほうがいいのでは?」といった提案を重ねながら、少しずつ関与の幅が広がっていった形です。

先ほどの小林との面談の話に戻るのですが、私は航空宇宙工学のバックグラウンドがあるので、小林と高度な技術的な話で盛り上がった一方で、ビジネス側の視点からも貢献できそうだと感じました。当時のElevationSpaceにはビジネスの専門家がまだ不在で、「これは自分の経験が活きるかもしれない」と思ったんです。

宙畑:その1年後にCOOとして入社されていますが、その経緯を教えてください。

宮丸:入社を決断する際、「これが人生最後の転職だ!」という覚悟で話をしました。どうせやるなら中途半端ではなく、責任ある立場でやりたいと伝えたところ、COOとして参画することが決まりました。

宙畑:ご家族との相談などもあったかと思いますが、何か印象に残っていることはありますか?

宮丸:もちろん、家族とはかなり話し合いました。私には娘が3人いて、ちょうど進学期も重なるタイミングだったので、「ちゃんと家族を支えていけるのか」という不安は大きかったですね。また、妻からは「趣味の話なんだから、熱中しすぎて家族のことをおろそかにしないように」とも釘を刺されました(笑)。転職自体はポジティブに捉えてくれたものの、やっぱり現実的な責任も背負っているので、決断には覚悟が要りましたね。

宙畑:その上で、それでも“転職する”と決められた決め手は何だったのでしょうか?

宮丸:やはり「今の宇宙業界には、まだ誰も手をつけていない余地がある」と感じたからです。他の業界では、既にシステムが完成していて、個人の裁量の余地が小さい。でも宇宙業界は、まだまだレールを自分で敷いていける世界なんです。そういうフィールドでこそ、自分の強み——つまり、何も整っていないところに飛び込んで、ゼロから構造を作っていく力が活かせると思ったんです。

宙畑:ご自身の強みを活かす場として、確信があったと。

宮丸:まだ成功しているわけではないので仮説の段階ですが、「このギャップを埋められるのは自分だ」という直感はありました。ビジネスと技術、そして元々の出自である安全保障と宇宙をつなぐ橋渡しができることも、私にしかできない価値だと感じています。

宙畑:まさに、宇宙に魅せられた少年時代の思いが、いま本当の仕事として結実し始めているんですね。

宮丸:はい。趣味が仕事になって、気づけば週7で宇宙のことを考えている。夢の中でも仕事をしてるくらい没頭しています(笑)。

宇宙用部品は高すぎる!? ElevationSpaceが解決する宇宙産業の課題

宙畑:ElevationSpaceで衛星の開発に取り組む中で、今の宇宙産業の課題を感じたことはありますか?

宮丸:あります。現在、私たちは宇宙での実験や製造のための小型回収衛星を開発しています。衛星に実験装置を搭載し、一定期間軌道上で稼働させたのち、地球に回収するというモデルで、将来的には商業宇宙ステーションの代替手段にもなりうる構想です。

ただ、正直に言って、部品等の価格が高すぎます。もとから宇宙に携わっていたエンジニア達は「まあそういうものですよ」って言うんですけど、ビジネス視点で見ると「いや、これは普通におかしい」と。調べてみたら、部品そのものに選択肢がほとんどない。多くの部品が1社独占か、ごく限られた選択肢しかなくて、当然価格も高止まりしてしまうんです。

宙畑:選択肢が少ないから価格が下がらない、と。

宮丸:そうです。しかも、それらの部品が“実績品”でなければならない、という業界特有の制約もあります。でも、その“実績”を積むための実証機会があまりに少ない。だから新規参入が難しく、いつまで経ってもプレイヤーが増えない……この悪循環に強い危機感を抱きました。

宙畑:それを、ElevationSpaceとしても解決しようとされているわけですね。

宮丸:その通りです。私たちは衛星を開発・提供するだけでなく、実証の場そのものを提供することに価値があると考えています。つまり、宇宙に挑戦したい企業——特に製造業の方々に対して、低コストかつ柔軟な実証機会を提供し、その結果を持ち帰って“実績化”してもらう。これが繰り返されれば、新たなコンポーネントの選択肢が生まれ、価格も徐々に下がっていきます。

宙畑:価格だけでなく、産業の裾野も広がる可能性がありますね。

宮丸:部品が安くなるだけじゃなくて、「うちの技術でも宇宙を目指せるかも」と思える企業が増えれば、市場自体が広がります。実際、私たちは日比谷宇宙会名古屋宇宙会といったネットワーキングイベントを通じて、宇宙に興味のある製造業の方々との接点を広げています。中でも、自動車業界を中心とする材料系の企業が多く、軽量化素材や新しいハーネスの開発など、非常に具体的なプロジェクトが生まれています。

宙畑:ISSのような有人施設ではなく、無人の小型衛星だからこそできることもあるのでしょうか?

宮丸:例えば、材料実験では“完全な無人・微小重力環境”がむしろ望ましいケースもあります。人が介入すると、質量や振動による影響が出てしまいます。一方で、バイオ系などマニピュレーションが必要な場合は有人の方が適しています。その上で、大げさな話ではなく、たった1つの小さな成功事例——例えば「宇宙空間で新しい素材を試したら、地上よりも圧倒的に良い結果が出た」とか——そういった事実が、次の挑戦を生みます。それが循環を生み、持続可能な宇宙ビジネスの土台になっていく。ElevationSpaceは、その循環の“起点”になりたいと思っています。

役割は何でもボールを拾う役? ビジネスキャリアが活きた瞬間は?

宙畑:宮丸さんのインタビュー記事などを拝見するとご自身のことを「何でもボールを拾う役」と表現されていますが、どういった意味合いなんでしょうか?

宮丸:本当にそのままです(笑)。誰かが見落としたり、手が回っていなかったり、「これ誰がやるの?」というようなことを見つけたら、自分から拾いにいく。特にスタートアップでは、役割が明確に分かれているわけではないので、そういう動きが必要なんです。

宙畑:入社して間もない頃から、そのスタイルで動かれていたんですか?

宮丸:そうですね。例えば、我々が所有するスラスター燃焼試験場を開設する際には、土地の契約から住民説明会の調整までほとんど私でやりました。
「じゃあ誰がやるの?」ってなったときに、即断即決で自分が動く——そんな場面ばかりです。他にも、資金繰りが厳しい時期には、大手企業との支払スケジュール交渉を行ったりと、本当に何でもやっています。

宙畑:まさに“見つけて拾う”というスタイルですね。そうした対応力は、やはりこれまでのビジネスキャリアから来ているのでしょうか?

宮丸:そう思います。楽天をはじめ、これまで在籍した企業では、毎回違うミッションを担当してきました。その中で身についたのが、「この規模・このタイミングだと、次に何が起きそうか」という勘所なんです。大きな企業でもベンチャーでも、組織が成長する過程で共通して起きる問題ってあるんですよね。今のうちに手を打たないと、あとで大きな問題になる——そんな“兆し”を見つける目は、経験を通して鍛えられました。

宙畑:そうした感覚は、学術畑だけでキャリアを積んできた人には見えにくい部分かもしれませんね。

宮丸:そうかもしれませんね。例えば、学生時代のプロジェクトなんかだと「なんとかなるでしょ」で進んでしまいがちですけど、実際には“なんともならないこと”も多いわけで(笑)。だからこそ、早めに芽を摘む力というのは、現場経験のある人間が担うべき役割だと思っています。

宙畑:それがまさに、「何でもボールを拾う」というだけでなく、「問題の種を見つける」という役割にもつながっているわけですね。

宮丸:はい。拾うだけじゃなくて、「そもそもボールが落ちそうな場所」を先に見つけにいく。そういう視点こそ、ビジネスキャリアで培ってきたものであり、ElevationSpaceのような未知の領域に挑む組織では特に重要だと感じています。

宙畑:まさに、これまでのキャリアが無駄なく活きている瞬間ですね。

宮丸:本当にそう思います。自分の強みは、完成されたシステムの中で歯車のひとつになることではなく、何もないところで仕組みを立ち上げること。そういう意味で、今の宇宙業界は「課題の宝庫」であり、自分のような人間にはうってつけの環境だと感じています。

夢が叶ったのではない、これから夢を実現する。ElevationSpaceの展望

宙畑:ElevationSpaceに転職された際、周囲の方から「夢が叶ったね」と声をかけられたそうですね。

宮丸:はい。でも私はいつも「夢が叶ったのではなく、ここからがスタートなんだ」と答えています。私は、ただ宇宙に関わる仕事に就くのが夢だったわけではなくて、“夢を現実にする”のが自分の役割だと思っているんです。

宙畑:夢を現実にする——とても力強い言葉ですね。

宮丸:宇宙というのは、夢を語りやすい領域です。ただ、夢だけでは終わらせないことが重要で、ちゃんと意味のあるビジネスにしていかなければいけない。ElevationSpaceの取り組みも、「打ち上げて終わり」ではなく、その先にある持続的な価値をどう作っていくかにかかっています。

宙畑:そのために非宇宙のプレイヤーとも協業されているのですね。

宮丸:はい。我々の技術はシーズに過ぎません。それを“現実の解決策”にするには、ソリューションに落とし込むことが必要です。つまり、技術ではなく、技術がもたらす価値を売るという発想が重要なんです。

宙畑:宮丸さん自身が“現実にしたいこと”とは、具体的にどんなビジョンですか?

宮丸:我が国で、宇宙へ行って、運用して、そして帰ってこられる技術を確立すること。これです。日本は宇宙へ行く技術も、運用の技術もあります。でも「帰ってくる」技術はまだない。私たちがその先駆けになりたいんです。最終的には、宇宙空間の交通網を作るような存在に——それが私自身の夢でもあり、会社のミッションでもあります。

宙畑:まさに、個人の夢と会社のビジョンが重なっている状態ですね。

宮丸:そうなんです。自分のやりたいことと、会社の進む方向が一致していること。これが仕事をする上で本当に大事だと思います。そのほうが、チーム全体のエンゲージメントも高まりますから。

宙畑:現在の宇宙業界を見て、どんな伸びしろを感じていらっしゃいますか?

宮丸:宇宙は、日本が再び世界に存在感を示せる数少ない産業だと思っています。打ち上げや運用までできる国は限られていて、そこに“帰ってくる技術”を加えれば、日本発のトータルソリューションが可能になります。人口減少や経済停滞といった課題に直面する日本にとって、宇宙は逆に世界に打って出られるフロンティアなんです。

宙畑:最後に、ElevationSpaceのこれからについて、どのような展望をお持ちですか?

宮丸:我々はまだ発展途上のスタートアップですが、難しいことに正面から挑戦する会社が日本にあるということが、まず大きな意味を持っています。私自身、「これは無理だろう」と言われたようなことを、仲間と一緒に一歩ずつ形にしていく過程にワクワクしています。夢は、語るものじゃなく、現実にしていくもの。その信念を持って、これからも挑み続けます。

宇宙ビジネスに転職を迷っている方への一言

宙畑:宇宙業界への転職を迷っている方、少し興味があるけど一歩を踏み出せないという方に向けて、宮丸さんからのアドバイスをお願いできますか?

宮丸:そうですね……これは一言で言うのは難しいんですが、「何か自分で爪痕を残したい」と思っている方には、ぜひチャレンジしてほしいです。宇宙機の開発というのは、極めてシステム工学的で、いろんな分野の技術が組み合わさってできています。自分の技術がどこでどう活かせるか最初は分からないかもしれませんが、意外とあなたの専門性がピタリとハマる場所があるかもしれない。そんな世界なんです。

宙畑:「宇宙は遠い世界」と思われがちですが、実はそうでもない?

宮丸:はい。もちろんハードルはありますが、それ以上に“まだまだ余白がある”のがこの業界の特徴です。決まりきったレールがない分、自分の力で道を切り拓く余地がある。それが魅力でもありますし、逆に言えば、それを面白いと思える人には向いていると思います。

宙畑:実際に「宇宙をやっている」と実感された瞬間はどんな時でしたか?

宮丸:ベタですけど、筑波宇宙センターの試験施設に立ち入ったときですね。「きぼう」の運用エリアや、チャンバー施設を実際に見たときは、「ああ、自分は本当に宇宙の仕事をしているんだな」と実感しました。最近では、ElevationSpaceの初号機のエンジニアリングモデル(EM)を試験しているんですが、それをチャンバーで見た瞬間も胸が熱くなりました。ほぼ本物の衛星が、いま目の前にある。それは、少年時代からの夢が現実に変わる感覚でした。

ElevationSpaceの求人情報

宙畑:直近では、ElevationSpaceがエンジニア全ポジションで積極採用中と発信されていましたね。改めて、どういった人材を求めていらっしゃるのでしょうか?

宮丸:はい、現在かなり幅広いポジションで人材を探しています。特に推進系エンジニアは絶賛募集中ですね。私たちは小型回収衛星の開発をしているので、スラスターなどの燃焼系の知識や実務経験を持った方がいらっしゃると非常に心強いです。

宙畑:宇宙業界の経験がないと難しいという印象を持っている方も多いかと思いますが、その点はいかがですか?

宮丸宇宙業界出身である必要はまったくありません。むしろ、他業界で特化した技術や現場感を持っている方にこそ来てほしいと思っています。例えば自動車業界で推進や燃焼を扱っていた方などは、技術的な親和性も高く、すぐに活躍できる可能性があります。

宙畑:学生や新卒の方も対象になりますか?

宮丸:もちろんです。エンジニア職に関しては、新卒の方も歓迎しています。スタートアップというと経験者しか入れないと思われがちですが、私たちは未来の担い手を育てるという意識でも採用を行っています。むしろ、今後の宇宙業界全体がそうならざるを得ない時代に入ってきていると感じています。

宙畑:これから宇宙業界で働きたいと考えている方にとっては、門が開かれているということですね。

宮丸:はい。「昔はJAXAか重工系に入らないと宇宙には関われなかった」という時代は終わりました。いまは選択肢が増えていて、ベンチャーでも本格的な衛星開発や打ち上げ、回収まで取り組める時代です。自分のスキルで何か新しいことに挑戦したいと思っている方は、ぜひ気軽にチャレンジしてみてください

編集部がぐっと来たポイント

「夢が叶ったのではなく、ここから夢を現実にする仕事なんです」という宮丸さんの言葉には、背負ってきた覚悟とこれからの挑戦が詰まっていました。事業開発から資金交渉、現場の立ち上げまで“何でもボールを拾う”姿勢に、ビジネスの現場で培われた力強さを感じます。宇宙への憧れを、事業として形にしていくその歩みに、強く心を動かされました。

日比谷宇宙会・名古屋宇宙会について

宮丸さんにインタビューの中で教えていただいた日比谷宇宙会・名古屋宇宙会について、興味がある方は以下の問い合わせ先までご連絡をくださいとのことでした。
民間企業による宇宙ビジネスのセミナーやビジネスマッチングの場として活発な情報交換が行われているようです。

【お問い合わせ先】
https://elevation-space.com/contact