宙畑 Sorabatake

安全保障

Planet LabsがNATOと数百万ドル規模の契約、日常監視および早期警戒能力の提供へ【宇宙ビジネスニュース】

2025年6月12日、Planet Labsは北大西洋条約機構(NATO)から数百万ドル規模の契約に選定されたと発表。その概要を簡潔にまとめました。

2025年6月12日、光学センサの地球観測衛星コンステレーション構築におけるリードランナーであるPlanet Labs(以下、Planet)は、北大西洋条約機構(NATO)から数百万ドル規模の契約に選定されたと発表しました。

この契約は、NATO同盟の戦略的関心領域における高度な日常監視および早期警戒能力の提供を目的としています。

(1)NATO宇宙戦略の進化と安全保障上の意義

NATOが衛星画像に着目するようになった主な背景には、2019年の宇宙を作戦領域とする戦略的転換にあります。2022年に採択された「Strategic Concept(戦略概念)」では、戦略的競争相手や潜在的な敵対国が宇宙アクセスを制限し宇宙能力を劣化させる技術に投資していると明記し、脅威認識が高まりました。

決定的な転機となったのはウクライナ戦争で商用衛星画像が防衛戦略において重要な役割を果たしたことです。

この実戦での有効性実証を受け、2023年にAPSS(Alliance Persistent Surveillance from Space)プログラムを設立し、17加盟国(2024年7月時点)が5年間で10億米ドル以上を投資して仮想衛星コンステレーション「Aquila」を構築することとなりました。

精密攻撃、ミサイル発射探知、指揮統制、情報収集など多面的な軍事作戦上の必要性と、商用宇宙技術の発展によるコスト削減とリアルタイム広域監視の実現可能性が相まって、衛星画像がNATOの抑止・防衛態勢の中核要素として位置づけられています。

(2)Planet Labsの多様な衛星コンステレーションとその価値

Planetの特徴は、民間企業で世界最多200を超える小型の地球観測衛星(3メートル解像度)をコンステレーションとして運用をしており、地球全体の陸地を毎日撮影する能力にあります。

この「日常的な地球観測」は、従来の衛星システムでは実現困難な頻度での監視を可能にし、変化を即座に検知できます。

また、同社は、異なる能力を持つ複数の衛星コンステレーションを運用しており、すでに紹介した3メートル解像度での日常的な広域監視に加えて、SkySatやPelicanによるより詳細な高解像度画像、Tanagerによる400を超える波長帯を持つハイパースペクトラルデータを提供します。これらのシステムが相乗効果を発揮し、Tip and Cueオペレーション(プロアクティブな広域異常検知から異常を検知してからのさらに詳細な監視)が可能となります。

そして、これらのサービスを提供する上で欠かせないのが技術がAIです。

Planetは1日40TB相当という、大量のデータを毎日撮影しています。それだけのデータの解析を人力で行うのは非常に大変である一方で、AIの利用が進むことによる新たな功績がどんどん蓄積されています。PlanetのAI利用についてはぜひ以下の記事も合わせてご覧ください。

(3)NATOの早期警戒を変えるSINBADとは

リリースには、本契約は「Planetの衛星データと知見を、特にスマートな兆候・警報、広域検知(SINBAD:Smart Indications and Warning, Broad Area Detection)プロジェクトを通じて迅速に統合することは、世界的な認識を強化し、複雑な安全保障上の課題に迅速に対処するために不可欠です。」と言及がありました。

SINBADは、NATOの先進的な監視・早期警戒システムプロジェクトです。本プロジェクトは、人工知能を活用して変化を検知し、自動的に警告を発する年間を通じた大規模地域の頻繁な監視を目的としています。

具体的には、継続的な地球観測による持続的宇宙ベース監視、AIによる異常検知と迅速な通知システムによる強化された早期警戒・警告、そして海上活動の包括的な監視を行う海洋領域認識(MDA)の三つの主要機能を提供します。

(4)両社のコメントから見る民間技術が支える集団安全保障の未来像

NATO最高連合軍司令官ピエール・ヴァンディエ提督は、今回の契約について次のように述べています。

「Planetとの提携は、彼らの広域監視技術とAI・機械学習分析を組み合わせることで、NATOにとって重要な前進となります。これにより、我々は持続的な宇宙ベースの監視能力を獲得し、強化された早期警戒指標を支援し、海洋状況認識を強化することができます。Planetの衛星データと洞察の迅速な統合、特にスマート警戒・警告広域検知(SINBAD)プロジェクトを通じて、我々の世界的な認識を強化し、複雑な安全保障上の課題に迅速に対処することが不可欠です。この取り組みは、技術的優位性の維持、戦略的優位性とコスト効率性の確保というNATOのコミットメントを強化し、抑止力を直接的に向上させ、集団防衛を強化し、リアルタイムの状況認識によって我々の戦闘員に力を与えるものです。」

Planetのウィル・マーシャルCEOは、今回の契約について次のように述べています。

「NATOとの成長は、Planetが日常的なグローバルインテリジェンスに不可欠なデータ収集の規模と頻度を提供できる独自の能力を証明しています。10年以上にわたり、Planetはグローバルな日次モニタリングをフラッグシップ製品として位置付けてきました。現在、私たちは同盟が地域における包括的な状況認識を確立し、この重要な時期に不可欠な役割を果たすための市場リーダーとしての地位を固める機会を得ています。」

両者のコメントにもあるように、現代の複雑な安全保障環境において、民間の宇宙ビジネス企業への期待が高まっています。また、Planetに限らず、各国で、安全保障用途の宇宙技術利用に関する契約が加速しており、今後の動向に注目です。

【関連記事】