農林水産業を衛星データでアップデートする厳選されたアイデアが集結! NEDO Challenge, Satellite Dataのワークショップ参加レポート【PR】
「NEDO Challenge, Satellite Data -農林水産業を衛星データでアップデート!-」のイベントで語られた農林水産業の課題や、多くの課題を解決する衛星データを活用したソリューションのアイデアを紹介します。
2025年10月24日、日本橋三井タワー7階 X-NIHONBASHI TOWERにて、NEDO Challenge, Satellite Data -農林水産業を衛星データでアップデート!-の第1回ワークショップ(キックオフ&ネットワーキング#1)が開催され、1次審査を通過した12チームと外部団体(生産者・行政機関・研究機関・農林水産関連企業など)、同時開催の衛星データ活用アワード1次選考通過者、同アワードのメインスポンサーである農林中央金庫の関係者が会場に集いました。
宙畑メモ:【NEDO Challenge, Satellite Data -農林水産業を衛星データでアップデート!-とは】
経済産業省からの交付金により、NEDOが実施する懸賞金活用型プログラムで、各テーマで1位に1000万円、2位に500万円、3位に300万円という懸賞金が支払われます。今回は、衛星データを活用した「生産現場の課題解決に資する技術開発」「資源の管理・監視および物流の高度化に資する技術開発」という2つのテーマで募集が行われました。
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今回、2つのテーマに計59の応募があり、12チームが1次審査を通過。昨年は3テーマで67の応募だったため、昨年以上に応募があったそう。応募チーム増加の背景には、コンテストにおける研究レベルの向上、参加者増加、共同研究機会の創出を目的として準備されたコンテスト参加候補者同士の連携を促すマッチングプログラムが寄与したとのこと。
当日のワークショップでは、1次審査を通過した12チームが開発を目指す技術紹介がピッチ形式で行われたほか、経済産業省製造産業局宇宙産業課の高濱航課長、農林水産省大臣官房政策課技術政策室の阿部尚人室長、農林中央金庫事業戦略投資部の高橋安芸介副部長による講演がありました。
本記事では各講演で語られた本プログラムへの期待と1次審査を通過したチームのピッチ内容をまとめてご紹介します。
(1)ユーザー起点の衛星活用ソリューションが宇宙産業発展の起爆剤となる
経済産業省製造産業局宇宙産業課の高濱課長からは「宇宙産業政策について」と題して、経済産業省における宇宙産業活性化の取り組みについての説明と本イベント参加者への期待が語られました。
今回のテーマである農業のような私たちの生活にとって身近なもの、また、その他の産業、さらには安全保障など、それらを支える基盤として気象衛星含む地球観測衛星、GPSのような測位衛星、Starlinkのような通信衛星があります。
また、今後さらなる衛星の機数増加と技術の進化により、宇宙利用は私たちの生活に欠かせない存在となっています。
そして、そのような宇宙産業の活性化による経済への貢献と社会基盤への貢献を加速させる役割を担っているのが、経済産業省製造産業局宇宙産業課です。
その上で、今回のイベントの参加者に投げかけられた言葉で宙畑編集部が印象的だったのは「宇宙産業の発展においてユーザーが最も重要である」ということです。
ユーザー、つまり、衛星を活用したソリューションで(お金を支払う価値があるほどの)解決したいニーズを持つ人にどれだけその価値を届けられるか。ユーザーは解決したいニーズがあっても、必ずしも衛星データを使いたいわけではありません。
衛星データは課題解決のための手段のひとつであり、他のデータやツールも組み合わせてより良いソリューションを生み出すことが重要です。
そのようなソリューションが多く生まれることで、衛星データがさらに広く利用され、衛星を作り、ロケットで打ち上げたいというニーズがより高まることとなります。
その点、今回のNEDO Challengeのような懸賞金型プログラムでは、衛星データ活用と相性の良いだろう課題が先に設定され、様々なソリューションのアイデアを持つチームが集いました。農林水産業に関わる様々なプレイヤーが集う幾度もの機会を通して、ソリューションがさらにブラッシュアップされることが期待されます。
高濱課長は「ぜひとも世界に出て行って稼いでもらいたい。そして、皆さんのイノベーション力でぜひ日本としての必要なインフラを構築してもらいたい」と1次審査通過者への激励を送りました。
(2)衛星活用が望まれる、農林水産業の喫緊の課題
農林水産省・政策課技術政策室の阿部室長からは「農林水産業が抱える課題と衛星データへの期待」と題して、日本の農林水産業が抱える喫緊の課題と合わせて、衛星データのどのような点に課題解決の可能性を見出されているかの説明がありました。
まず、気候変動や大規模自然災害の増加は、農林水産業にとって大きな課題です。この変化は農林水産業に直接関わっていない私たちにとっても身の危険を感じているという人も多いでしょう。
具体的には、気温の上昇によって農作物の品質が悪くなったり、生産量が減るほか、自然災害の増加は育てていた農作物が出荷できなくなってしまうリスクのほか、大規模災害の場合には生産の回復に期間を要します。
また、農林水産業の課題はそれだけではありません。農林水産業に従事する人の減少、そして少子高齢化も大きな問題となっています。
当日、阿部室長より説明があったのは、農業従事者数が直近20年で半減しているということ、また、20年後でも農業を支えることができる60歳未満の農業従事者数は全体のわずか20%しかいないという厳しい状況でした。
さらに、農業経営体数は今後10年間で半減すると見込まれ、日本の食料生産量の維持がますます難しくなることが想定されています。
こうした課題の解決には「生産性の抜本的な向上」が必要であり、そのための手段のひとつとしてスマート農業技術の開発・導入が掲げられています。そこで期待されているのが人工衛星です。
人工衛星の利用については、地球観測衛星が撮影・取得したリモートセンシングデータだけでなく、ロボットトラクターなどの自動走行には測位衛星による測位情報が不可欠です。
また、阿部室長からは「統合農地データ」「青果物卸売市場調査結果など農林水産省の各種統計情報・市況情報」などがAPIで取得できる気象や農地、収量予測など、農業に役立つデータやプログラムをAPIで提供する公的なクラウドサービス「WAGRI」や農業者やメーカーの方などが会員となっているスマート農業イノベーション推進会議(IPCSA)についても説明がありました。
高濱課長の言葉にも「衛星データを地上の様々なデータと組み合わせていただきたい」とあったように、衛星データは地上のデータと組み合わせることで精度が上がり、ユーザーにとっても使いやすいソリューションとなり得ます。
「現在提供されているデータやプログラムは223APIと色々あるので、ぜひ皆様にもご活用いただければ幸いです」「(新たなソリューションを生むためには)衛星をはじめ、これまで関わってこなかった様々な分野の方に参画していただくことが重要と考えています」と阿部室長から参加者への期待の言葉が投げかけられました。
(3)農林中央金庫が衛星データ活用アワードに期待すること
また、当日は「NEDO懸賞金活用型プログラム”NEDO Challenge, Satellite Data –農林水産業を衛星データでアップデート!-」と連携した衛星データ活用型プログラム「衛星データ活用アワード」の紹介もありました。
本アワードには「持てるすべてを『いのち』に向けて。〜ステークホルダーのみなさまとともに、農林水産業をはぐくみ、豊かな食とくらしの未来をつくり、持続可能な地球環境に貢献していきます〜」というパーパスのもと、食と農の未来を支える挑戦を続ける農林中央金庫が協賛。当日は「本アワードを通じた農林水産業の未来への期待」と題した、農林中央金庫事業戦略投資部の高橋安芸介副部長による講演が行われました。
農林中央金庫は、農業協同組合(JA)、漁業協同組合(JF)、森林組合(JForest)のグループを基盤とした協同組合の全国団体の組織です。高橋さんからは、JAグループの全国団体の組織で分かりやすく例えれば商社機能を担うのが全農であり、農林中央金庫が金融機関(銀行のような機能を果たす)の機能を担うと説明がありました。
農林中央金庫についての説明で興味深かったのは「川上から川下まで食農バリューチェーン全体に対してソリューションを提供している」という以下のスライドです。
つまり、農林中央金庫は、農林水産業における生産に限らず、物流、そしてさらにはその先にあるビジネスまで一気通貫でのバリューチェーンを常に理解し、見ている組織です。
では、農林中央金庫が実感する農林水産業の課題は何か。それが1枚に分かりやすくまとめられたのが以下のスライドです。
農林中央金庫は農林水産業の課題のフェーズを「足元の変化」と「新たな課題」の2つに分けています。
その上で、足元の変化では「農業構造の変化(農業従事者の減少といった生産基盤が縮小)」「不確実性の増加(気候変動や生産資材の価格の変化など)」によって経営の課題が生まれ、「技術革新」を把握し、経営課題と合わせてテックの重要性が増加しています。
つまり、農林水産業における新しい課題は「経営の課題」と「技術の課題」の2つに分けられ、両輪で解決していく必要があると高橋さんは説明します。
2つの課題は、農林水産業の川上から川下まで共通して存在し、それぞれのサプライチェーンで2つの課題解決を行うための重要な基盤(コーディネーター)として存在するのが農林中央金庫です。
そして、今回の衛星データ活用アワードへの協賛もコーディネーター活動のひとつであると高橋さんは話します。具体的に衛星データに期待することは「コストの削減」「付加価値の向上」「新しい価値の創出」の3点であり、本アワード以降も実現したい未来に向かって実証実験の協力や出資も行っていきたいと参加者への激励の言葉が投げかけられました。
(4)1次審査通過者の多種多様な技術開発アイデア
では、今回、1次審査を通過した技術開発アイデアはどのようなものだったのか。
各チームのアイデアをテーマ別にまとめたのが以下になります。
全59の応募チームから厳選された12チーム。農業が7件、水産が2件、林業が1件、農林水共通が2件という結果でした。
本プログラムの事前告知記事として公開した「衛星データが切り拓く“次世代の一次産業”に資する技術シーズ求む~NEDO Challenge, Satellite Dataの応募開始~」では、衛星データ活用が期待される5つのキーワードとして「生産性の向上」「スキル継承」「業務効率化」「管理と監視」「物流の高度化」があると紹介しました。
その上で、今回の1次審査通過のアイデアを眺めてみると、「適地の評価・探索」「品質向上」といった上述した5つのキーワード以外の衛星データ活用があると分かります。
「適地の評価・探索」については、地球温暖化によって日本の中でも各種農作物を育てられる環境が刻々と変わっている中、衛星データから農作物にとってより良い環境はどこかを評価・探索するという内容です。
例えば、日本の主食であるお米についても、地球温暖化の対策を何も行わなかった場合、稲の収量が下がる影響があると予測されています。
一方で、果樹については地球温暖化によって栽培適地が拡大しつつあります。実際に、北海道では、気温上昇によりワイン用ブドウの栽培適域が拡大し、全国でも有数の栽培面積となっているようです。2025年1月から2月にかけて行われた「醸造用ぶどう生産者アンケート調査」では、規模拡大意向の生産者(回答対象者には醸造用ぶどう生産への新規就農・参入希望者も含む)が35%超ということからも今後の生産は活発化することが見込まれます。
では、栽培を新たに行う場合、どこで育てるのが良いか。その評価・調査のために衛星データを活用することが期待されています。
今回のピッチで紹介されたのは気象データ、標高データ、土壌データなどを衛星データから取得するというものでした。
また、「品質向上」については、その言葉の通り、衛星データを活用することによって、生産量の向上だけでなく、品質についても一定以上の農作物を生産できるようになるというソリューションです。
土壌の状態や気象条件を加味した栽培適地に加えて、どの程度の肥料を追加すればよいのかといった生育過程においても衛星データを利用することが期待されています。
当日は、1次審査通過した全チームのピッチがあり、イベントに参加していた生産者・行政機関・研究機関・農林水産関連企業といった関係者へのアピールの場となりました。
今回の1次審査通過チームのアイデアを、上述した衛星データの活用用途と合わせてマッピングした結果が以下になります。
衛星データ利用が農林水産業において様々な利用用途があると感じさせられる素晴らしいピッチの数々でした。
(5)懸賞金型プログラムが宇宙業界外からの参入を促し、宇宙産業を活性化する
第1回ワークショップでは、ネットワーキングの時間に会場参加者がそれぞれに交流し、非常に盛り上がっていました。
宙畑編集部もネットワーキングに参加させていただき、1次審査通過者と会話して印象的だったのは、今回の懸賞金型プログラムが「衛星データ活用を本格的に考えるきっかけとなった」という声でした。
例えば、キリンホールディングス様は、自社ワイン製造の原料であるブドウ栽培において衛星データ活用ができるのではないかと見出され、1次審査を通過。もともと考えていたわけではなく、懸賞金型プログラムが告知されてから衛星データを使って自社で何かできるのではないかと考え始めたとのこと。本プログラムが宇宙業界以外のニーズを持つ企業による衛星データ活用の起点となった象徴的な事例です。
また、「衛星データ活用による“コーヒーがあたりまえに飲める未来”の実現」を目指すDNPデジタルソリューションズ様も、衛星データ利用で何かできないかとは考えていた中で、今回の懸賞金型プログラムがあると知り、応募を決めたとのこと。本プログラムが本格的な検討を行うきっかけになったことがうかがえます。当日のピッチで「私たちエンジニアにとって集中力や休息、コミュニケーションのお供であるコーヒー」と、身近なテーマから衛星データ活用アイデアを考えられていたことも非常に面白いポイントでした。
衛星データを活用したビジネスアイデアを発想し、実現するためには、宇宙業界以外のあらゆる産業の参入が求められます。
以前、経済産業省宇宙産業課の高濱課長に宙畑がお話をうかがった際に、宇宙産業の好循環の歯車を回す必要があるというお話を伺いました。
まずは日本として衛星の量産体制を構築することに注力するとのお話でしたが、衛星の量産体制ができた際には、その衛星を活用したサービスが生まれ、市場が拡大することが重要です。その点、市場拡大をけん引する可能性がある衛星データの利用拡大アイデアやプレイヤーは不足しています。
そのような課題に対して、今回の懸賞金活用型プログラムは、ひとつの模範的な解決策かもしれません。以下は今後のスケジュールです。
まずはアイデアが集まる場を作り、1次審査にてより良いアイデアを持つチームを厳選。選ばれたチームは、複数回のワークショップ参加の機会や、有識者や技術者からのアドバイス(メンタリング)を受ける機会が与えられ、半年以上の時間をかけてソリューションやビジネスプランを作りこむことができます。
今回のように、これまで衛星データ利用について本格的に考えてこなかったという企業が、関係ある事業ドメイン(今回は農林水産)をフックに衛星データに興味を持ち、事業アイデアまで考えるというのは非常に素晴らしい事例創出のきっかけとなっていることを1次審査通過チームへの直接のヒアリングで実感しました。
また、すでに衛星データ利用に取り組んでいるチームにとっても、農林水産関係の企業・法人に自社の技術やアイデアをアピールする非常に良い環境となっています。
(クロスニホンバシ)」。まさに農業関係者と宇宙ビジネス関係者がクロスする場所となっていました。
1月下旬に予定されている第4回ワークショップでもネットワーキングの時間が設けられています。農林水産業、衛星データ活用、いずれかに興味がある方はぜひその機会に参加されてみてはいかがでしょうか。
2026年7月15日の最終選考会にて、日本、そして、世界の農林水産業を衛星データでアップデートする素晴らしいアイデアが生まれる可能性に期待が高まる第1回ワークショップでした。

