宙畑 Sorabatake

宇宙ビジネス

宇宙技術を利用して地上に新たな価値を。Startup Weekendプレイベントレポート

週末3日間でスタートアップ起業を体験することができるイベント「Startup Weekend」。2019年4月5日(金)〜7日(日)には宇宙ビジネスをテーマにした「Startup Weekend Space Tokyo Vo.2」が開催されます。本記事は、2019年3月15日(金)に開催されたプレイベントの体験レポートです。

週末3日間でスタートアップ起業を体験することができるイベント「Startup Weekend(スタートアップウィークエンド)」。2019年4月5日(金)〜7日(日)には宇宙ビジネスをテーマにした「Startup Weekend Space Tokyo Vo.2」が開催されます。本記事は、2019年3月15日(金)に開催されたプレイベントの体験レポートです。

Startup Weekendとは?

「Startup Weekend」とは米国・シアトル発祥のスタートアップ体験イベントです。同イベントは、初日はアイデアピッチとチームビルディングに始まり、翌日に専門家によるコーチングを受け、最終日には構想したビジネスアイデアのプレゼンテーションを行うというものです。これまでにFintechブロックチェーンスポーツローカルイノベーションなど多彩なテーマで開催されています。

宇宙ビジネスをテーマにするのは、2017年に続いて2回目。宇宙に興味を持っている人やアントレプレナーシップ(起業家精神)に関心がある人、新しい技術に関心がある人、実際に宇宙に関する技術を研究する人に起業体験をしてもらうことで、新しい風を日本の宇宙開発に取り組むことを目的としています。

左から、リードオーガナイザー 土田 勇介氏
株式会社タイセー常務取締役・Startup Weekend ファシリテーター 岩城良和氏
リードオーガナイザー 増田 勇野氏
JAXA新事業促進部 武田隆史氏 Credit : 宙畑

コーチは、宇宙航空研究開発機構(JAXA)の宇宙イノベーションパートナーシップ(J-SPARC)のプロデューサーを務める 藤平耕一氏、県内の宇宙ベンチャーの創出・誘致を推進する、いばらき宇宙ビジネス創造拠点プロジェクトの立ち上げを行なった茨城県産業戦略部 伴場啓人氏らが担当します。宇宙産業やスタートアップビジネスの知見がある専門家のアドバイスによって、チームで考案したアイデアをブラッシュアップできることが期待できます。さらに、構想したアイデアは内閣府宇宙開発戦略推進室が主催の宇宙を活用したビジネスアイデアコンテスト「S-Booster」へも応募することができ、より白熱した場になるのではないかと思います。

宇宙技術の意外な活用方法

プレイベントの前半は、JAXA 新事業推進部 武田 隆史氏による宇宙技術のスピンオフ事例とJAXAの特許事例の紹介が行われました。

JAXA 武田氏に宇宙ビジネスの概要説明 Credit : 宙畑

宇宙ビジネスというと、ロケットや人工衛星を思い浮かべる方が多くいらっしゃるのではないかと思いますが、武田氏によるとそれらの製造が占めているのは宇宙産業全体のうちの6%。これには会場の参加者からも驚きの様子が伺えました。

ロケットはあくまで輸送手段。利益として重要になるのはその中身となる衛星サービスやそれに関連した地上機器であり、実際に宇宙産業全体中でもそれらが大部分を占めています。さらに最近では衛星データ利用が注目の分野であり、今後も市場が拡大していくことが見込まれているとのことです。武田氏は、宇宙ビジネスとは宇宙を使って価値を世の中に届けることであると話しました。

第一部のメイントピックは、宇宙技術の「スピンオフ」について。

宇宙技術のスピンオフ事例 Credit : 宙畑

一般的に技術開発の中で付随的に製品が発明されることをスピンオフ(spin-off)と呼びます。つまり宇宙分野でいうと、宇宙開発技術で培われた技術を他分野の製品やサービスに応用することを指します。実際に建物内のセキュリティ管理に欠かせない防犯カメラは衛星開発技術から、消臭シャツや下着は閉鎖環境で過ごす宇宙飛行士のために開発された技術を改良されたものなのだそうです。

一方で宇宙開発以外の分野で発明された技術を宇宙分野に利用することをスピンイン(spin-in)と呼びます。先日発表された、自動車メーカー トヨタによる月面車の開発もスピンインの事例の一つです。

30分でここまでできる! 宇宙開発技術を活用したビジネスアイデアソン

続いて後半の第二部は宇宙ビジネスアイデアソンです。運営の皆様のご厚意で、宙畑編集部もアイデアソンを体験させていただけることに……。

今回は、第一部で紹介されたJAXAの使用可能な特許から

  • サーバーを必要としない効率的なエネルギーマネジメントシステム
  • フレキシブルな太陽電池
  • 無線光通信装置およびその通信方法
  • 感圧および感音塗料
  • 流体制御方法
  • 遠近すべてに焦点を合わせる撮影方法

以上の6つの技術がピックアップされました。

この技術を活用したビジネスアイデアを30分間で考えるというのが、アイデアソンのルールです。今回は武田氏による「タケダアワード」が用意されていて、受賞者には副賞もあるとのことで気合いが入ります。

今回のプレイベントの参加者は約20名。各3〜4名のチームに分かれて作業を行います。
編集部の私が参加したチームは、法務関係の仕事に従事している女性とコンサルタントの男性の3人です。選択するチームが少ないだろうという予想から「流体制御方法」を選びました。これは水をはじく疎水性と水と馴染む親水性のコーディングを塗り分け、熱や光、磁場等でそれを流体制御ができる技術です。

アイデアソンに使用された資料 Credit : 宙畑
アイデアソンの様子 Credit : 宙畑

玄関マットや雨具といったアイデアはすぐに出てきたのですが、現状のものに大きな不満を感じている人は少ないのではないかという意見も出て、画期的な製品とは言えません。その後も「工事現場に使えそう」「農業に上手く利用できないか」「ヒートアイランド現象の解消に役立てられないか」と断片的な案は出てきましたが、なかなかまとめることができないまま制限時間が迫ってきます。

ところが残り時間が最後の5分になって「水で流す必要がないリンスインシャンプー」がふと編集部の私の頭に浮かびました。これは髪のケアに必要な成分のみを残して、洗浄に使った必要のない成分は撥水させることができる製品で、災害地や病気により入浴が難しい方をはじめ、忙しく十分な入浴の時間が取れない人にも使ってもらうことを想定しています *。

*今回のアイデアソンは30分間であったため科学技術面での実現可能性は重要視されておらず、実用に向けては検討が必要です。

チームメンバーに説明すると、このアイデアを発表しようと意見が固まり、急いで模造紙にイラストや説明書、企業名(チーム名)、ロゴを書き込みました。アイデアソンの説明を受けたときには、企業名とロゴを決めることは、アイスブレイクが目的だと思っていたのですが、実際に作ってみるとアイデアにより愛着がわき、大切な過程であったことが分かりました。

プレゼンテーションの際には、各チームが30分の成果を60秒で発表しました。今回用意されていたJAXA 武田氏による「タケダアワード」に選ばれた、チーム「いい感じ.com」のビジネスアイデアは、感圧および感音塗料を活用して、電車の車内やオフィスビルや空調を分散管理するというもの。

チーム「いい感じ.com」の皆さん Credit : 宙畑

このアイデアのポイントは、既存の空調設備に後付けで導入することができる点です。オフィスビルで働く誰もが、一度は不満に感じたことがあるだろうこの問題のソリューションに、思わず感心させられてしまいました。
そしてなんと私たちのチームも、武田さんより「意外な活用方法」だと好評をいただき、チーム「いい感じ.com」と一緒に表彰していただきました。

今回のプレイベントでのアイデアソンは30分間でしたが、他業種で働く方々と意見を出し合うことで違う視点にも気づくことができ、さらにビジネスアイデアを考案することのハードルも下がり、大変有意義な時間となりました。本イベントは、3日間53時間が用意されていて、さらに専門家によるコーチングを受けることもできます。より本格的で画期的な宇宙ビジネスアイデアが生まれることはもちろん、宇宙開発を盛り上げる宇宙ベンチャー企業が同イベントをきっかけに生まれるのではないかと期待が高まります。

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