「複数社から見積もりが取れる領域は開発しない」宇宙空間で巨大建造物を組み立てるSpace Quartersが宇宙関連スタートアップでIVS初優勝
次世代の起業家の登竜門とされる国内最大級のピッチコンテスト「IVS2026 LAUNCHPAD(ローンチパッド)」にて、Space Quartersが宇宙関連スタートアップで初優勝となりました。事業概要と展望について、プレゼンターも務めた同社COOの高橋さんのコメントと合わせて紹介します。
次世代の起業家の登竜門とされる国内最大級のピッチコンテスト「IVS2026 LAUNCHPAD(ローンチパッド)」が2026年7月3日、京都市内で開催されました。
国内外から過去最高となる500社超の応募が集まる中、頂点である「スタートアップ京都国際賞(優勝)」に輝いたのは、宇宙空間での建築ロボットシステム「DAIQ(大工)」を開発するSpace Quarters(スペースクォーターズ)です。同社は2022年に設立された、東北大学発のディープテックスタートアップで、宇宙関連スタートアップの優勝は初めてです。
同社の共同創業者であり取締役COOを務める高橋宗徳さんは、プレゼンテーションおよび直後の囲み取材において、同社が目指す破壊的なイノベーションと、それを実現するための強固な技術基盤、そして極めてユニークな開発体制を余すところなく語りました。
(1)宇宙開発のROIを抜本的に改善する
高橋さんはピッチの冒頭、「SpaceXがロケット輸送に革命をもたらし、誰もが宇宙に行きやすい時代が訪れようとしています」と宇宙産業の現状を評価。
その一方で、ロケットの輸送先や対象に目を向けると状況は一変すると指摘します。
国際宇宙ステーション(ISS)の開始以降、宇宙空間での技術革新は特に起きておらず、完成した構造物をロケットの先端に詰め込んで打ち上げる手法のままだということです。
これでは、ロケットよりも大型の構造物を作ることができず、結果として(唯一の宇宙への輸送手段を持つ企業が定める料金に依存することや、大型の構造物を打上げることによる効率が良く電力発電ができ、大型構造物由来の高性能な衛星を宇宙空間に配備できないため)コストが高止まりし、収益性が限定的になります。
実は、米航空宇宙局(NASA)も過去に宇宙建築のプログラムを支援しましたが、コンマミリオーダーの動作精度といった壁に阻まれ、昨年までにすべてのプログラムが終了してしまったとのことです。
この課題に対する同社のソリューションが、建材をロケットで打ち上げ、ロボットシステム「DAIQ」を用いて宇宙空間で直接組み立てるという宇宙建築技術です。ロボットが輸送された建材を取り出し、所定の位置へ移動させ、はめ込み、接合するという一連のフローを、工場ラインのように一気通貫で行います。
高橋さんは「サイズあたりの輸送コストを10分の1にし、10倍以上のサイズの巨大構造物を立てることができます。これにより、宇宙建築のROIを100倍にするような破壊的イノベーションを起こすことが可能になります」と力強く宣言しました。
(2)「保有と運営」で巨大市場へアクセスする最終的な事業モデル
初期のターゲット市場として見据えるのは、月面基地と17兆円の市場規模がある衛星通信市場です。月面基地の建設においては、同社の技術を用いることで、1構造物あたり輸送費の削減効果のみで300億円もの経済効果を生むといいます。
さらに、世界で初めて月の砂(レゴリス)由来の建材の接合にも成功しており、将来的には地球から建材を運ぶことなく、現地資材での建設も可能になるというブレイクスルーを提示しました。
また、衛星通信分野では現在、SpaceXのStarlinkに代表されるように、小さいアンテナを搭載した衛星を膨大な数(約4万機)打ち上げて地球全体を覆うアプローチが主流となっていますが、これには莫大な投資が必要となります。スペースクォーターズは、宇宙空間で超大型の通信用リフレクター(アンテナ)を直接構築することで、「同等の高速大容量通信を4万機ではなく1機から実現する」という独自案を話しました。
静止軌道への大型構造物の配備であるため、低軌道衛星と比較すると遅延は発生することが想定されますが、一方で、1機で全地球の3分の1の範囲をカバー可能です。すでに同市場の60%の事業者から強い引き合いがあり、国内ではスカパーJSATと協業を進めていることを明らかにしました。
そして、ピッチの中で高橋さんは、自社のロボットで建築を行い完成した構造物をお客さんに販売するだけでなく、事業モデルの最終形態として「建築物の一部保有・運営に関わることで、巨大な宇宙市場全体のマーケットにアクセスしようと思っている」と、さらなるスケールアップを見据えたビジネスモデルの展望を語っていました。単なる建設請負業者にとどまらず、自らが宇宙インフラの運営側となることで、宇宙産業のエコシステムの中核を担うという野心的な構えです。
(3)完全インハウス開発が生む強みと「お金が減らない」理由
高橋さんは表彰式後の囲み取材で、過去の宇宙建築プログラムが頓挫した困難な技術的障壁をいかに突破しているかを解説しました。その最大の武器が、完全なインハウス(自社内)開発体制です。
同社には世界の宇宙開発コンペティションの日本チームリーダーや、ISS「きぼう」モジュールのプログラムマネージャーなど、日本のモノづくりや宇宙開発に携わってきたコアメンバーが集結しています。
宇宙建築の要となる溶接技術について「1970年代に旧ソ連が電子ビーム溶接技術を宇宙で実証していますが、100kgオーダーの重さがあり、ロボットに搭載するには大きすぎました」と指摘します。同社はこれを、電源と溶接機込みで約5キロにまで小型化することに成功したといいます。
「ロボット、溶接機、接合プロセス制御、電源、建材開発をすべて一気通貫で社内で開発しています。すべてが連関し合っているため、1つの最適なシステムとして組んでいけることが一番の強みです」と話します。
また、優勝賞金1000万円の使い道を問われると、高橋さんは「我々は投資家の皆さんから『お金が減らないスタートアップ』として有名なんです」と笑顔で明かしました。
その理由は、最先端の開発環境ゆえの必然にあります。「ロボットの性能を確認するための試験装置がそもそも世の中にありません。そのため試験装置から自分たちで設計・開発して組んでいます。結果として買い物がなく、自分たちで作っているものしかないため、お金が減らないのです」と語ります。
同社には「複数社から見積もりが取れる領域(=すでに世の中に存在し代替可能なもの)は開発しない」という明確な大方針があり、これが無駄な資金流出を防ぎつつ、他社に追随を許さない技術的優位性を築く原動力となっています。賞金はシミュレーションツールや計測装置など、開発環境を一段とアップグレードさせるために充てる予定とのことです。
(4)2031年のIPOへ向けた明確なロードマップ
事業化に向けたマイルストーンも着実に進んでいます。すでに自社ラボ内では無重力を模した重力補償装置下において、DAIQが自律的に組立・溶接施工を行うことに成功しています。さらに、真空チャンバーを搭載したパラボリックフライトにおいて、無重力・真空環境を模した溶接テストにも成功しています。2028年にはISSでの船外暴露実験(宇宙空間での溶接ユニットの実証実験)の予約を完了しています。さらに、政府の宇宙戦略基金(20億円の予算)にも採択され、2029年には月面極域での施工開始を目標に据えています。
今後の組織拡大とIPO(新規株式公開)についても具体的な展望が語られました。「2029年の商用リフレクターの販売開始と宇宙実証を行うタイミングで組織を現在の規模から40名体制へ拡大します。そして、2031年から2032年ごろのIPOと商業1号機の打ち上げを目指し、その頃には従業員100名を超える体制を見据えています」と力強い将来図を描いています。
(5)日本の技術力で宇宙というフロンティアを拓く
「4年間ずっと変わらずこのコンセプトでやってきました。『本当にできそうか』という技術的な疑念を向けられることも多かったのですが、今回はワクワクや期待値がその懸念を上回ることができました」と優勝の喜びを噛み締めた高橋さん。
授賞式のコメントでは、「日本の大工さんが清水寺を協調・分散して建てていったように、既存の宇宙ロボットの代表例であるロボットアームだけがあっても宇宙建築物は建てられません。巨大なクレーンだけがあっても清水寺の施工は完遂できず、日本の大工さんが協調・分散して建てていった通り、DAIQのようなロボットシステムが必要なのです。日本の技術力や建築へのリスペクトを持って取り組んでいきたい」と語りました。
この事業構想に対し、元国土交通省の建設業課長という経歴を持つ京都府の西脇隆俊知事も「宇宙は海上以上に大きなフロンティアです。是非とも飛躍してください」と熱い期待を寄せました。
囲み取材の最後、新たな起業家へのメッセージを求められた高橋さんは次のように語りました。「誰かが求めているから作るのではなく、自分たちで新しいマーケットを主体的に作り上げ、切り開いていくことが起業の原動力です。足りないものは埋め、自分たちで作り上げながら新しい道を開いていく。それが誰かへのメッセージになればと思います」。
日本が培ってきた精密なロボット技術やファクトリーオートメーション、そして宇宙開発の蓄積。これらを結集し、「日本から宇宙を建築する」という壮大なフロンティアが、世界の宇宙産業の勢力図を大きく塗り替えようとしています。

