これまでの”常識”が変わる、「衛星データ」 はビジネスに革命を起こすのか?
2019年3月某日に渋谷で行われた「衛星データはこんなに活用できる?様々な分野でビジネスをアップグレード」のイベントレポートです
農業、漁業、金融、マーケティング、製造業……。
これら異業界のビジネスを劇的にアップデートしてくれる1つのデータがあります。それが最近脚光を浴びている「衛星データ」です。衛星データとは人工衛星から取得できるデータのこと。Googleマップの画像やGPS機能なども衛星データに含まれる、私たちの生活に身近なデータでもあります。
2019年3月12日に東京・渋谷で行われたイベント「衛星データはこんなに活用できる?様々な分野でビジネスをアップグレード」では、衛星データを既存のビジネスに活用する事例が数々と紹介されました。
「衛星データは簡単に利用できて、自分たちのビジネスにも応用できるんだ」と、衛星データ活用の可能性を感じられるイベントの模様をお届けします。
ビジネスを劇的にアップデートする衛星データ
イベントのイントロダクションでは、宇宙ビジネスの文脈で語られる「衛星データ」について、内閣府宇宙開発戦略推進事務局 参事官補佐 長宗豊和さんにより語られました。
「『宇宙ビジネスは自分とは関係ないな』と思う方も多いかもしれません。しかし、既存のビジネスをアップデートするヒントを宇宙ビジネスから得られるのです。宇宙ビジネスといえばロケットやサテライト、月面開発などでしょう。しかし今日はこういう話を一切しません」
今回のイベント全体のメインテーマは「衛星データ」であると長宗さんは続けます。
「衛星データはビッグデータのうちの1つであり、既存のビジネスをブラッシュアップするものです。ロケットを打ち上げるような宇宙ビジネスを0→1からはじめるわけではありません。皆さんにご提案したいのは、衛星データを使って既存のビジネスを4→7にグレードアップすることです。
2019年2月に衛星データプラットフォーム「Tellus」がオープンされるなど、衛星データの活用はどんどんオープンになっています。明日ロケットを打ち上げることは難しいですが、衛星データを使ってみなさんのビジネスをアップデートすることはすぐに可能なのです」
それでは、衛星データとは何なのでしょうか?「大きく2つの種類にわけられます」と長宗さんは言います。
「1つはEOデータ(地球観測データ)です。例えばGoogleマップで確認できるような、宇宙から写真を撮った衛星画像ですね。これに加えてEOデータでは様々な情報を読み取ることができます。地形、地球の気温、雨の量や気温、風の速度、さらには驚くことに、地上の植物のタンパク質量もわかります。
もう1つはポジショニングデータ。主にGPS機能や車のカーナビに利用されています。そんな私たちの身近にあるポジショニングデータで、2018年に革命が起こりました。『みちびき』と呼ばれる日本版のGPSの開発です」
高精度のポジショニングデータを取得できる衛星「みちびき」。2018年11月1日に開催されたみちびきのサービス開始記念式典では、安倍総理や山崎直子宇宙飛行士といった方々も出席しました。大きな注目が集まるみちびきについては、詳しく後述いたします。
衛星データの利用はオープンになりました。そして様々なビジネスを劇的にアップデートしてくれるデータとして、大企業をはじめとして活用が広がっているのです。
AI技術とEOデータを組み合わせよう。ビジネスの可能性は無限に広がる
1つめのセッションではEOデータをさまざまなビジネス領域でつかった事例を紹介します。登壇はオービタル・インサイト社の清水邦夫さん。
「オービタル・インサイト社は2013年にできたシリコレンバレー発のスタートアップ企業です。2018年に東京とロンドンのオフィスも完成しました。弊社の代表はもともとNASAでロボットをつくっていました」
オービタル・インサイト社は政府系と金融系のクライアントが多いと言います。防衛省、自衛隊、ゴールドマン・サックス、JPモルガン、東京海上日動……錚々たる機関が衛星データを利用しているのです。
「弊社では衛星データの分析をAIに任せています。人間が到底できないスピードで、AIは地球をスキャンして計算や分析をしてくれるのです」(清水さん)
ではAIによって衛星データはどのように分析され、実際のビジネスに利用されているのでしょうか。実際の事例を紹介してもらいます。
「有名な事例が2つあります。まずは車のカウントです。衛星写真を見ればアメリカの広大なショッピングモールの駐車場にある車を確認できます。駐車されている200台ほどの車を数えるのに人間は8分〜10分かかる。しかしAIなら0.001秒でカウントできるのです。これをアメリカ全土の店舗でやれば、ショッピングモールの親会社が決済発表をする前に、業績が予想できるのです。金融系のクライアントが多いのはこういった理由です。
もう1つ有名な事例が、原油タンクです。原油は空気に触れると劣化します。そのため原油量が少なくなると原油タンクの蓋が落ちるのです。そうなると原油タンクの内側と外側の影に差ができるんですね。影と時刻と太陽の位置がわかれば、タンクの蓋がどれだけ落ちてるか推定できます。そして原油タンクの縦と横の大きさを確認すれば、タンクの原油量を計算できるんです。
アメリカは原油の貯蔵量を発表しているのですが、アメリカが発表した数値と衛星データの計算値を比べると誤差は0.1~2%でした。なので衛星データを見れば、OPEC(石油輸出国機構)の1つの加盟国が『原油量の貯蔵量を増やす』と発表したのは本当かどうか、原油貯蔵量を発表していない国が原油をどれだけ蓄えているのかなど、計算すればすぐにわかるんです。そのためコモディティトレーダー、経済、原油価格が影響するクライアントはこのデータを重宝していますね」(清水さん)
衛星データの活用はこれだけではありません。利点は地球全体をマクロに分析できること。
店の駐車場だけでなく、街や国全体の車も数えられます。
「国や街の規模になると、車の数を人では絶対数えられません。人間が計算すると4000年はかかると言われています」と清水さん。
「弊社で2009年時点からエジプトの車を数えました。ある経済学者は車の数とGDPは相関すると言います。これまで誰も実証できなかったのですが、衛星データで実証するとGDPと相関することがわかりました。マレーシアのクアラルンプールでも相関関係がみられました。しかし東京とNYでやると相関しなかったことから、発展途上国のみ相関関係が現れることがわかったのです」
さらにマクロな視点で衛星データは活用できます。ある国際機関では大陸単位で車を数えることで、二酸化炭素量との相関関係を見て、地球温暖化の証明に利用しています。
「地球規模にスケールしてさまざまなデータを分析できることは、AIと衛星データを組み合わせる最大の利点です」と清水さんは言います。
そして、特定の対象(車、原油タンク、木など)を検知し計算をしてビジネスへの応用を実現するだけでなく、国の「貧困率」を測るのにも衛星データ活用の可能性はあります。
「メキシコの貧困率に関するデータをAIに学習させます。貧困の1つの要因となる水不足を衛星画像からAIが分析することで、メキシコの10年後の貧困を予測できるんじゃないかと、活用を進めています」
AIと組み合わせることで、衛星データは無限の可能性を開くことができるのです。
衛星データを見てみたい!という方はぜひTellusを触ってみてください。Tellusの利用登録はこちらから。
日本版GPS・みちびきの可能性
つづいては、「みちびき」を用いたポジショニングデータの事例を紹介します。登壇はソフトバンク株式会社ICTイノベーション本部の磯部和紀さんです。
ソフトバンクが開発に取り組んできた衛星「みちびき」。わたしたちが慣れ親しんでいるGPSはアメリカがあげた衛星の名前です。ちなみにロシアがあげた衛星はGLONASS(グロナス)とよびます。
みちびきは、想像以上にわたしたちの身近にあります。日常的に使っているスマートフォンの多くはみちびき対応のもの。近年Googleマップなどの位置情報サービスの精度が改善されているのは、みちびきが搭載されているおかげです。市販されているカーナビにもみちびきのポジショニングデータが利用されています。
「ソフトバンクは2018年9月、『準天頂衛星対応トラッキングサービス』という法人向けサービスをリリースしました。ソフトバンクから専用の受信端末を提供して、お客さまのパソコンやスマートフォンから閲覧できるようにしてあります」(磯部さん)
みちびきの最大の特徴は±3m以内の高精度測位。衛星から取得するべき情報を地上側で補完するアシストGPSや地図情報を利用して精度を高めるマップマッチングなし、衛星測位のみで高精度測位を実現しています。ちなみにソフトバンクの実証結果では誤差は1〜1.8mを記録しています。みちびきほどリーズナブルな価格かつ高精度測位の実現は、従来のシステムではありませんでした。
しかしなぜ従来の衛星測位の精度は低かったのでしょうか? 磯部さんいわく、2つの大きな要因がありました。
「1つめは気象による要因。人工衛星の信号は微弱な電波なので、雨雲があるだけで電波が屈折してしまうんですね。すると衛星の電波が端末に到達する時間が長くなり、衛星測位にズレがでてしまうのです。
2つめは地上特有の要因です。雨雲など同様、人工衛星の電波が建物に当たってズレる場合があり、衛星測位に誤差を生んでいました。
そこでみちびきを活用することで、これらの問題が大きく改善されます。みちびきでは悪天候の影響を補正する特殊な信号が出ます。『この地点ではこれだけ信号がズレるよ』いうデータを受信するので、ズレが補正され、測位精度が高くなるのです。
もう1つ、地上特有の問題に対して。みちびきは日本の真上を飛んでいるので、建物の影響を受けにくいのです。そのため従来の衛星と比べて、みちびきは高精度の位置情報を提供できるのです」
ではみちびきを使うことで、どのようなビジネスをアップデートできるのでしょうか? 紹介する事例の1つめは2014年、みちびきが正式にリリースされる前の実証実験について。高精度測位とカメラの認識技術を組み合わせて町おこしをした事例になります。
「ARコンテンツと高精度測位を組み合わせた実証実験です。検証したのは『エヴァンゲリオン』の舞台になったの箱根。何もない空間にスマートフォンのカメラをかざして、等身大のエヴァンゲリオンをARで表現する実験を行いました。これにはカメラの認識技術と、自分の位置を正確に認識する高精度な位置情報が必要です。みちびきとカメラの認識技術を組み合わせることで、ARを正確に表現できます。町内のARマーカーを巡ることで作品のストーリを追体験できる企画が話題を呼び、町おこしを実現しました」(磯部さん)
そして事例の2つ目は京都の宇治市で行った実験です。宇治市では、道路の路面状況を検知する取り組みを行っています。
「みちびきの位置情報とソフトバンクが開発したセンサーを組み合わせて、道路を色分けし、『この道はひび割れしているから補修しなければマズイ』『この道は整備されている』という路面状況のマッピングをつくりました。
最終的に路面状況はカメラの画像解析と連動させて判別する必要はあります。しかし、この検証には大きな予算が必要なんですね。細かい道に行けば行くほど予算は削られるので、安価に補修箇所をみつけられるこの取り組みには期待が集まっています」(磯部さん)
様々な可能性を秘めているみちびきでは、災害危険情報「L1Sメッセージ」の活用も進められています。現在の災害情報の配信は地上のネットワークに頼っている状況です。そのため地上のネットワークが潰れると情報配信が困難になってしまいます。しかしみちびきを使えば、衛星から災害情報を知ることが可能です。このように、災害に役立てる取り組みも今後ますます進められていきます。
宇宙ビジネスのアイデアが1000万円に生まれ変わる!
最後のセッションでは、2019年2月21日にリリースした日本初の衛星データプラットフォーム「Tellus」の可能性を話してもらいました。登壇者は経済産業省宇宙産業室の國澤朋久さん。
「Tellusの新しさは3つあります。1つめ、日本の高性能なデータが無料で公開されること。
高解像度な光学やSAR衛星データを利用できます。さらに地上データも今後、続々と搭載される予定です。
2つめ、衛星データの解析に必要なコンピューティング(計算)環境を提供していること。衛星データは解析するときの容量が重い傾向にあります。そこでTellusではクラウド上でコンピューティングリソースを提供して、衛星データの解析を支援します。もちろんこれも無料です。
3つめ、商業利用が可能なこと。衛星データは参入障壁が高かったのですが、Tellusを利用することで、衛星データビジネスを低リスクで行うことができます」(國澤さん)
Tellusに無料登録することで、衛星データをクラウド上で自由に見て分析することができます。しかし、なぜ経産省がTellusをつくることになったのでしょうか?「衛星データを『どこで』『どのように』利用できるかわからない状況だったから」と國澤さんは言います。
「以前は衛星データの容量が大きすぎるのでローカルPCでいじれなかったり、専用のソフトウェアが必要だったりしました。そこでTellusではクラウド上で衛星データを公開しました。誰でも衛星データを利用できるようにしたのです」
Tellusでは高解像度の衛星写真のほかにも、地上データも活用することが可能です。この2つを組み合わせればデータ活用の可能性は大きく広がります。たとえば土砂崩れがおこるときの様子を機械学習させることで「このような動きをすると土砂崩れが起きる」と、自動検知するアルゴリズムの開発ができるのです。それを実現できる環境がTellusには用意されています。
そしてイベントの最後に内閣府宇宙開発戦略推進事務局の長宗さんから、大きな夢が広がるビジネスコンテスト「S-Booster」の紹介がありました。
「これは単なるビジネスコンテストではありません。S-Boosterでは宇宙のアセットを活用したビジネスアイデアを募集し、アイデアの事業化に向けた支援を行います。
選考通過者はは5ヶ月間の無料メンタリングを専門家から受けられます。そして11月のファイナルラウンドに進み、優勝者には賞金1000万円を贈与いたします。
アイデア段階のビジネスを、投資家やベンチャーキャピタルが出資するラウンドであるシリーズAにまで到達させるのがS-Boosterの狙いです。面白いアイデアを思いついたら、ぜひ応募してください」
まとめ
衛星データはビジネスの可能性を大きく広げます。今回紹介したEOデータやポジショニングデータはTellus上で無料で試すことができます。簡単に登録できるので衛星データを使ってみてください。
そして今回のレポートを読んで「衛星データは◯◯の課題解決に役立つのではないか?」など新しいビジネスアイデアが浮かんだ方もいるかもしれません。その場合はぜひ「S-Booster」に参加してみてください。
「S-Booster」の応募期間は2019年4月21日までです。衛星データ、ビジネス業界、日本経済の可能性を広げるビジネスアイデアを考えて応募すれば、優勝賞金1000万円を得られるチャンスがあります。ぜひ参加を検討してみてください。
S-Booster公式サイト:https://s-booster.jp/
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