欧州衛星データ利用レポートを読み解く!産業別衛星データ利用のミライ
本記事では、欧州連合宇宙計画局(EUSPA)がまとめた2022年の地球観測・GNSSの市場レポートの概要をまとめてお伝えします。
はじめに
私たち宙畑編集部は、衛星データ利用についてより加速させるために、どんな内容をお伝えしていくべきか、日々試行錯誤しながら記事作成を進めています。
衛星データ活用は日本に限った話ではありません。海外ではどのように使われているのかを知ることは、日本での利活用を考える上で重要な指針となります。
本記事では、EUの宇宙プログラムの運営機関である欧州連合宇宙計画局(European Union Agency for the Space Programme:EUSPA)がまとめた2022年の地球観測・GNSSの市場レポートの概要をまとめてお伝えします。
EO & GNSS Market Report
https://www.euspa.europa.eu/european-space/euspace-market/gnss-market/eo-gnss-market-report
ヨーロッパでの動向が、皆様の衛星データ利活用の一助になれば幸いです。
概要
EUの宇宙プログラム
EUには大きく分けて、以下4つの宇宙関連プログラムが存在しています。
測位:GALILEOとEGNOS
衛星から送られてくる信号を処理して位置、速度、時間を決定
Galileo:民間利用を主目的にした欧州の測位衛星
Egnos:欧州の衛星航法補強システム。3つの静止衛星と30以上の地上局で構成
通信:GOVSATCOM
EUや国家公的権威が緊急時や安全保障などで用いる衛星通信ネットワーク
地球観測:COPERNICUS
欧州委員会が運営するEUの地球観測プログラム
DIASと呼ばれるプラットフォームからFull, Free and Open(FFO)データポリシーに基づいて公開
宇宙状況監視:SPACE SITUATIONAL AWARENESS
欧州での宇宙空間へのアクセスを確保するための取組(宇宙デブリや宇宙天気、地球近接物体など)
レポートのエグゼクティブサマリー
本レポートの概要は以下の通りです。
GNSSとEO(Earth Observation)が可能にする売上は、2021年に30兆円(€200 Billion)であり、次の10年で約74兆円(€500 Billion)に到達する見通しです。
2031年までに100億個以上のGNSSデバイスが世界中で使われ、その中身は、消費者向けサービス、旅行、健康セグメントが主であり、ダウンストリームサービスでは今後、農業、都市開発、インフラが伸びると予想されています。地域別でみると、アジア太平洋地域が支配的なマーケットと述べられています。
地球観測分野のデータおよびサービス売上においては、北米が支配的であり、次いでアジア太平洋、欧州という順番になっています。今後伸びるのは都市開発、保険と金融、エネルギー資源で、消費者向けサービスや旅行、健康も好調との予想です。
また、欧州の地球観測分野の産業は、中小企業とスタートアップが多くを占めることも特徴です。
地球観測市場概要
地球観測市場の主要なパラメーター
本レポートでは、地球観測市場について、鍵となるパラメーターを以下の通り上げています。
・光学、熱センサ:太陽エネルギーの反射や放射。
・レーダーセンサ:長い波長、地表に放射して跳ね返りを見る。
・空間分解能:ピクセルのサイズ。中低分解能、高分解能、超高分解能(VHR)など。
・時間分解能:どれくらいの頻度である場所を撮影できるか。
・波長分解能:光学のスペクトルの幅。特定のアプリケーションに使用される。
・カバレッジ(観測範囲):地上観測や航空機よりも広い。軌道によって何日おきに撮れるか異なる。
地球観測市場の定義
本レポートでの地球観測市場の定義は、地球観測データと付加価値(value-added)サービスが可能にしている様々な産業セグメントの多様なアプリケーションを市場と定義しています。
衛星データそのものの売上はEOデータプロバイダとユーザーの間の金銭的なトランザクションで、付加価値サービスはEOプロダクトやサービス、インフォメーションプロバイダとエンドユーザーの間のトランザクションのことを指します。
また、本レポートは商用EO市場のみに特化し、助成金の活動などは含めておらず、気象系のサービスも含めていません。
地域別の分析では、売上は収益が発生した国でカウント、もしくは提供している企業の本社でカウントしています。
地球観測地域別市場規模と将来予測
地球観測の現在の需要と未来予測は上記のようになっています。
全体として、データそのものの売上とアプリケーションの売上を合わせて、2021年からの10年でおよそ2倍程度になると予測されています。
その中でも、アジア太平洋地域は2021時点で売上規模は世界2番手で、今後10年で最も伸びる地域となっています。
また、セグメント毎の現在の市場の大きさ(CAGR)と成長性は上のグラフの通りとなっています。
現時点で最も大きい規模なのは保険と金融の分野であり、今後の成長率という意味でも保険と金融市場が抜きに出ています。
地球観測市場バリューチェーン別売上トップ10企業
また、2019年の売上のトップ10の企業についてもリストアップされています。
コペルニクスで提供されている地球観測サービス
欧州では、大気、海洋、土地被覆、気候変動、危機管理、安全保障の6つのテーマに沿って衛星データのサービス展開がされており、Full, Free and Openのデータポリシーでデータや付加価値サービスを提供しています。
コペルニクスの核となるユーザーは、国際的な機関や国、地方の公的機関が、政策の定義、実施、執行、および監視のために使用しています。
商用ユーザーは、持続性や気候リスクに関するビジネスユーザーだけでなく、自身のリソース(農家や船会社、航空会社など)の使用の最適化などに使われ、アカデミック領域でも使われています。
GNSS市場概要
GNSS市場の主要なパラメーター
本レポートでは、GNSS市場のパフォーマンスの鍵となるパラメーターを以下の通り上げています。
・利用可能時間(Availability)
・精度:実際の値と計算値の差分
・継続性
・信頼性(Integrity):
・Time To First Fix (TTFF):起動して精度内の値を出すまでにかかる時間
・ジャミングへの堅牢性:電波干渉を緩和し、最低限のサービスを継続する
・スプーフィング(なりすまし)への堅牢性:スプーフィングを防ぎ、検知し、緩和する能力。ユーザーが信号を使っていることの認証
・GNSSのパフォーマンスとは別で、消費電力、レジリエンス(回復力)、接続性、相互運用性、追跡可能性なども重要な要素である。
GNSS市場の定義
本レポートでは、GNSSベースのポジショニング、ナビゲーション、タイミング(時刻決定)が重要なイネーブラーとなるデバイスの売上や、増強(Augumentation)と付加価値サービス(総称して”サービス”とする)から得られる売上までを市場とみなしています。
増強サービス(Augumentation)にはGNSS Augumentation サブスクリプションに加えて、デジタルマップなどのソフトウェアプロダクトやコンテンツを含みます。
付加価値サービスには、ナビなど位置情報系のサービスを動かすためにセルラーネットワークからダウンロードされたデータやGNSSが寄与しているスマートフォンのアプリ(売上や広告、アプリ内課金など)、複数の車のマネジメントサービスの月額課金やドローンサービスなども含まれます。スマートフォンなど複数機能を有するものはデバイスの総額ではなく、GNSS分の価値だけを計上しています。
具体的には以下の通りです。
・GNSSが使えるスマートフォン:GNSSのチップセットの部分だけ計上
・航空機:フライトマネジメントシステムの中でGNSSの価値の分だけ計上
・精密農業:GNSS受信機、地図、ナビゲーションソフトの価値分を計上
・救命機器:Personal Locator Beacons と Emergency Locator TransmittersのGNSS搭載機器と搭載していない機器の差分のみ。
GNSS地域別市場規模と将来予測
GNSS市場はデバイスとサービスの売り上げともに、2021年からの10年間で2倍以上となる予測となっています。
その中でもアジア太平洋地域は、2021年時点でデバイス、サービスの売上ともに最も大きな規模となっており、2031年も高い値となっています。
GNSS市場バリューチェーン別売上トップ10企業
バリューチェーンそれぞれの2019年の売り上げのトップ10の企業は上記の表の通りです。
カーナビなどによく用いられているためか、自動車企業やカーナビサービスを提供する会社の社名がありますね。
欧州注目市場:グリーンとDX
グリーン政策
The European Green Dealは、2019年に発表されたEU政策のイニシアティブで、国連の2030アジェンダおよびSDGsの実行のためのEUの戦略の中心になっています。2050年までに最初の気候ニュートラルな大陸になるための新しい地球に優しい経済モデルを構築することを目指しています。
EU Space and Green Dealは、EUの宇宙分野のエコシステム(CoperunicusとGalileoとEGNOS)がGreen Dealが表明している内容に対してどう貢献するかをまとめたものになっています。
公的/民間の金融機関では、グリーンで持続可能な投資を通じて、気候変動と戦っています。
政府では、Sustainable Europe Investment Plan (SEIP)やEuropean Investment Bank(EIB)などを通じて、European Green DealやSDGsに沿った投資を実行しています。2025年までに投資の全てをパリ協定に沿ったものにし、green effortを年間の投資の半分まで高めようとしています。民間の金融機関でも同様にESGにフォーカスした動きが出てきています。
このような動きの中で、地球観測とGNSSは、グリーンに対する投資のコンプライアンスやモニタリング、効率性に寄与できます。greenwashingと呼ばれる虚偽の取り組みを見抜くことなどが期待されています。
地球観測が貢献できる事例は以下です。
・森林減少や生物多様性の管理
・汚染の追跡
地球観測とGNSSのコンビネーションで貢献できる事例は以下です。
・スマートエナジーグリッド:GNSSを使った精細時刻同期
・エネルギー生産の運用計画立案
・インフラ監視やメンテナンスの最適化
・サプライチェーンマネジメント
DX
Europe’s digital transformation by 2030は、デジタルスキルを持った人財、安全で実務的なデジタルインフラ、ビジネスにおけるデジタルトランスフォーメーション、公的機関のデジタル化の4つのポイントを推進するプログラムです。
DXに対し、地球観測とGNSSが支援するプログラムとしては以下のようなものがあります。
・Destination Earth (DestinE)
Europe’s digital transformationの元で作られるデジタルツイン
2024年から公開を開始し、2030年に完全なデジタルレプリカを作る
・Horizon Europeと呼ばれるプログラムの上図の5つのミッションエリアで、地球観測やGNSSが貢献しています。
地球観測やGNSSはサプライチェーンにも貢献しています。
COVID-19を経てOn Time, In Full, No Error, No Contact(OTIFNENC)というコンセプトが生まれました。
具体的には以下のような事例があります。
・GNSSは食料品のサプライチェーンの全てのステップをサポートし、消費者に透明性や追跡可能性を提供、安全な方法で場所の情報を提供しています。
・e-コマースのユビキタス化
・マイクロモビリティに貢献
・green transitionや持続可能な目標達成へ貢献
・地球観測はより持続可能な経済的な意思決定に貢献する
また、アプリ例としては以下のようなものがあります。
・Carbon Tracker and WattTime:AIを使った高解像度の化石燃料発電所からのリアルタイムCO2排出のマッピング
・initiative led by SEI and Global Canopy, Trase:熱帯雨林のリスクや森林減少を企業単位で可視化する
・Global Canopy:リスクプラットフォーム、森林減少を進める企業などに投資するのを防ぐ
・Global Fishing Watch:違法漁業や持続性の低い漁業のパターンを機械学習で識別
以降、18分野に分けて、各産業での地球観測データとGNSSのトレンドや市場規模についてご紹介していきます。
(1) 農業
産業内でのセグメントとユースケース
農業分野において、衛星技術が使われるユースケースは大きく4つ挙げられています。
※以下、地球観測分野の場合にはEO、GNSSの場合にはGNSSと表記します
1.環境モニタリング
・炭素吸収量・含有量アセスメント [EO]
・環境インパクトモニタリング[EO]
2.天然資源モニタリング
・バイオマスモニタリング [EO] [GNSS]
・生育予測 [EO] [GNSS]
・土壌状態モニタリング [EO] [GNSS]
・植生モニタリング [EO]
3.運用管理
・アセットモニタリング [GNSS]
・農機の自動運転 [GNSS]
・CAPモニタリング [EO] [GNSS]
・農機具の誘導 [GNSS]
・農業マネジメントシステム [EO] [GNSS]
・農地定義(区画定義)[EO] [GNSS]
・家畜につけるウェアラブルデバイス [GNSS]
・牧草地の管理 [EO]
・精密灌漑 [EO] [GNSS]
・農薬や種などを状況に応じて可変にしていく仕組み(Variable rate application) [EO] [GNSS]
4.農業向け天候サービス
農業向け気候サービス [EO]
農業向け天気予報 [EO]
トレンド
ベンチャーキャピタルや大手企業による革新的な農業ソリューションへの大規模な投資が、今後の市場展望を形成していくと言われています。
グリーンディールの主要な構成要素であるEUのFarm to Fork戦略は、農業における持続可能な管理手法の導入のペースを作ることになるでしょう。
・Farm to Fork戦略:持続可能な栄養素管理、土壌保全、肥料や農薬の減量、GHG排出量の監視、生物多様性の保全などをまとめた戦略
土壌の持続可能な管理と生物多様性の保全には、GNSSとEOを活用した高度なソリューションが必要とされています。その中でも、土壌の保全はHorizonの主要ミッションの一つで、地球観測衛星を使った土地被覆分類調査(LUCAS)や土壌モニタリングシステムなどのツールで貢献できるとしています。
【技術キーワード】IoT、HPC(High Performance Computing)、Blockchain/Distributed Ledger Technology (DLT)→食品のトレーサビリティに使用
売上推移とその内訳
GNSSデバイスのアプリケーション別の出荷台数を上図に示します。
グラフから、農機のガイドが主だったが、自動運転が伸びていることが分かります。
有機野菜の認証制度に地球観測やGNSSの技術が使われていることなどが伸びている理由です(Ecocertなどの認証機関で利用)。
また、今後は家畜につけるウェアラブルデバイスが成長する見通しで、労働力削減やタンパク質増加、動物を健康にする、土地利用の最適化などに役立つとされています。デバイスの小型化、省電力化、接続性などが向上して市場全体が拡大していくという予想です。
地球観測データの売上予測は上図の通りです。
収穫量予測は農家だけでなく、エコノミスト、金融トレーダーや食料安全保障の公的機関などでも使われるようになるでしょう。
また、リモセンがCarbon Farming(大気中のCO2を地表面に捉える)に貢献することも期待されています。
(2) 旅行・健康
産業内でのセグメントとユースケース
旅行と健康分野における衛星技術のセグメントとユースケースは、以下の通りです。
1.輸送や行列管理:
・医療分野:ウイルス拡散の追跡を匿名化した位置情報で公的機関に送付するサービス(DiAry、Zostaň Zdravý)[GNSS]
・デリバリー:気象データや地上のセンサ情報から路面状況・天候などを加味した配達時間の精密な計算(Uber×Tomorrow.io)[EO・GNSS]
・店舗の行列やピーク時の混雑を表示する(GoogleMap・FreMEn・Filaindiana)[EO・GNSS]
・都市圏のロボット走行:GNSSだけでなくLiDARやRTK測位などを併用して室内や農場での無人制御(ROVER4RT、10LINES、CloudMinds、Boston Dynamics)[GNSS]
2.環境モニタリング:
・風・大気の質:Windy(風、波、大気質、雷などの流れを可視化)、IQAir(大気汚染の影響度を独特な指標で評価、空気清浄機などの製品も販売)[EO]
・大気汚染(工場由来、NO2)・火災:The BreezoMeter開発のAPIではCopernicsのCAMSで大気質のデータを取得[EO]
・UV:Accuweather(旅行や害虫などの屋外活動や風邪、関節炎などの健康に関する指標提供)[EO]
3.位置情報によるサービス提供最適化:
・クレジットカードの信頼性担保:位置情報や決済時間から不正利用を監視(Venmo、Mastercard、Visa、Revolut)[GNSS]
・Context Awareness・ジオターゲティング広告:位置情報やWi-Fiなどの接続状況に応じて広告を変更[GNSS]
4.スポーツ / 健康管理:
・スポーツへの利用:位置情報×ARグラスで次の進行方向の提示、音響型のARランニング向けアプリ[GNSS]
・ウェアラブルデバイス:健康状況の検知・管理、異常があれば通知(Duo Skin、The Ghost Pacer)[GNSS]
5.エンタメ:
・ゲーム利用:職業訓練用途でVRやXRを活用し作業効率化(オリオン宇宙船の組み立て)[EO・GNSS]
・環境再現:地球観測データの活用(SpaceData、Blackshark.aiなど)[EO・GNSS]
・位置情報の共有:Zenly、NauNau、Life360、whooを利用した待ち合わせ、携帯紛失時の検索、「常に友達とつながる安心感」[GNSS]
・競技配信への活用:競艇など水上スポーツにGNSSを利用したリアルタイム配信(N-Sports tracking Lab)[GNSS]
トレンド
コロナの影響により、ヘルスケア市場が拡大し、そのインフラの整備が進展しています。
持続可能で長期に渡って利用可能なサービスが注目されています。
位置情報サービスにおいては、その正確性と他のデータとの統合性が重要視されています。what3wordsのような高精度な位置情報サービスは、救助活動や自動車業界への応用が広がっています。
VRによる教育訓練では、多様な仮想環境の作成がますます重要になっています。
売上推移とその内訳
衛星測位システムのデータ・サービスの売上予測は上図の通りです。
位置情報を活用・追跡するサービスが圧倒的に増えています。
ハードウェアの収益はわずかで、データによる付加価値やデバイスの拡張性に期待が寄せられています。
地球観測データの売上予測は上図の通りです。
ジオターゲティング広告が市場の大部分を占めています。
環境データやその評価関連は単体では弱く、組み合わせが重要です。
ゲームはVRやGNSSとの併用で市場が拡大する可能性があります。
地域別売上はアジアが主で、中東・南米・アフリカはインフラを含めた開拓の余地があります。
(3) 環境モニタリング
産業内でのセグメントとユースケース
環境モニタリング分野における衛星技術のセグメントとユースケースは、以下の通りです。
・温室効果ガスモニタリング市場への民間企業参入
・自社活動の環境影響評価、ESG遵守への関心
・ESG遵守の反映、透明性、持続可能性への企業取り組み
・EU環境コンプライアンス保証(ECA)関連政策
・WaterFrameworkDirectiveに基づく有害藻類(HABs)のEO利用検討
・廃棄物処理分野における環境犯罪撲滅のためのEO活用
環境関連の裁判手続きにおけるユースケースは、特に地球観測(EO)データの法的証拠としての活用に関わります。この分野では、EOデータが大気、水、土壌の排出基準違反など具体的な環境問題の特定に役立てられています。これにより、広範囲の領域をカバーし、現地に出向かずに行うことができる効率的な環境モニタリングが可能になります。
環境犯罪の告発においては、EOデータが証拠として使用されることがあります。しかし、この活用にはいくつかの課題も存在します。各管轄区域においてEOデータを証拠として使用するための手続きや条件が異なるため、一貫した適用が困難な場合があるのです。
また、EOデータの解釈能力に制約があり、衛星の能力に関する一般の認識不足や、データの信頼性や正確性に関する懸念もあります。EOデータの解釈と認証の標準化が進んでいないため、裁判での使用において問題が生じる可能性もあります。
これらの課題にもかかわらず、EOデータの裁判所での使用は、環境法の専門家の認識を向上させ、地球観測企業に新たなビジネスチャンスをもたらすなど、潜在的なメリットを持っています。
トレンド
環境分野における衛星技術は、公共と民間の増加する投資と技術革新の波に乗り、企業の環境影響評価やESG遵守に大きな役割を果たすようになっています。
特にEUの環境コンプライアンス保証関連政策がEOデータやアプリケーションの需要を促進しており、温室効果ガスモニタリング市場への参入や環境、社会、ガバナンス(ESG)の文化への企業の移行が見られます。
このトレンドは今後も拡大し、地球観測に基づくソリューションの需要増加が予想されます。
売上推移とその内訳
2021年には売上高が192億円(€120 Million)1億2000万ユーロに達し、2031年には304億円(€ 190Million)への成長が見込まれています。
環境資源管理が売上の半分以上を占める主要なセグメントとして位置付けられ、その地位は今後も維持される見通しです。
また、環境監査セグメントは緩やかに増加傾向にあり、影響評価及びESG関連の売上も重要な要素となっています。
(4) 林業
産業内でのセグメントとユースケース
林業分野における衛星技術のセグメントとユースケースは、以下の通りです。
・森林の全サイクルをカバーし、森林の多様な活用を促進する新しい森林政策
・コペルニクスとガリレオ衛星データの活用、特に森林火災対応
・SAFERS(レジリエントな社会における森林火災の危機に関する構造的アプローチ)の実施
・REDD+を通じた途上国の森林保全活動への国際社会の経済的支援
・持続可能な森林管理のためのEOアプリケーションの潜在性評価
トレンド
コペルニクスとEGNSSが「将来の森林」の維持管理において重要なツールになりつつあります。
GNSS関連では、林業分野におけるGNSS機器販売数が微減傾向にあり、森林調査関連機器のシェアが落ちる一方、林業機械の自動化関連機器の販売が伸びると見込まれています。
EO関連では、米国が中心のマーケットですが、アジアの成長も大きく、将来的にはEUに匹敵する見込みです。データ販売は違法伐採、森林植生健全性、森林調査、森林伐採証明書、バイオマスの各分野で微増が見込まれています。
売上推移とその内訳
林業分野におけるGNSS機器販売数は微減傾向にあります。
森林調査関連機器のシェアが大きく落ち、林業機械の自動化関連機器の販売が伸びており、今後も同様の傾向を見込んでいます。
米国中心のマーケットですが、アジアの伸びも大きく将来的にはEUに匹敵する見込みです。
データ販売は違法伐採、森林植生健全性、森林調査、森林伐採証明書、バイオマスの各分野で微増の見込みとなっています。
(5) 気候サービス
トレンド
気候変動への適応と緩和のための行動が必要であるという認識の高まりが、気候変動サービスの需要を高めています。気候変動サービスの主な利用者はEU内外の公的機関、特に政策立案に関わる機関や、環境機関などが多いです。
また、気候変動に関連するアプリケーションやサービスへの資金提供は、政治的な優先順位の高まりと連動して増加しています。
衛星から取得されたデータは、カーボン・オフセットや気候モニタリング製品にますます活用され、EOサービスの大規模かつ持続的な市場を形成していくと予想されています。具体的には、下記の図からもわかるようにEOサービスの売上は2021年からの10年間で約50%の成長が見込まれ、2031年には720億円(約4億5,100万ユーロ)に達すると予想されています。
アプリケーション別の売上図を見ると、気候モデリングが30~40%の大きな割合を占めていることがわかります。また、成長予測でも他のアプリケーション(気候モニタリング、気候予測、気候変動緩和・適応戦略)が微増なのに対して、気候モデリングは約40%の成長が予想されています。
衛星データは現場観測データと掛け合わせて気候モデルの作成に利用されており、気候変動モニタリングや気候予測モデルなどその例は多岐に及びます。
更に、海面上昇や大気中の温室効果ガス等の気候変動に影響する因子や影響を及ぼすもの自体を監視する事例も多いです。
GNSSは地球観測衛星データと比べて適用範囲は限られるものの、気候や植生などの現象測定をサポートするために、電波掩蔽測位やGNSS反射法などの技術が用いられています。
公的機関の動き
気候サービスの分野では公的機関を中心に様々なプロジェクトが活動しています。以下に代表的な例をいくつか示します。
1.EO4SD Climate Resilience initiative
・ESAが主導するプロジェクトで、サービスを提供するEO企業と国際金融機関が協力して、EOソリューションの価値を示し、気候脆弱性のモニタリングと管理をサポートする高レベルのデータを提供しています。
・中米カリブ海地域、東アフリカ地域、中央アジア地域、南アジア地域で実施され、強固で最新の気候レジリエンス指標に関心を持つ気候融資の主要機関(世界銀行、アジア開発銀行、米州開発銀行など)が主導するフラッグシップイニシアティブやプロジェクトを支援しています。
2.欧州気候適応プラットフォーム ClimateADAPT
・欧州委員会と欧州環境庁(EEA)のパートナーシップで構成されており、欧州気候変動センター(European Topic Centre on Climate)の支援を受けています。
・欧州の気候変動への適応を支援するため、ユーザーが以下のようなデータにアクセスできるように整備しています。
・欧州で予想される気候変動
・地域の現在・将来の脆弱性
・EU、各国、国境を超えた適応戦略や行動
・適応のケーススタディと適応オプションの可能性
3.サステナビリティプロジェクトEarth’s Digital Twin and the Destination Earth initiative(DestinE)
・ECMWF、ESA、EUMETSATが実施するイニシアチブであり、地球の超高精度デジタルモデルを開発し、自然や人間の活動を監視・シミュレートしています。
・持続可能な開発を可能にし、欧州の環境政策を支援するシナリオを開発・テストしています。
4.Copernicus
・欧州委員会(European Commision)が主導するプロジェクトであり、気候サービス分野では特にSentinel-6 (Sentinel-3の後継機)による海抜測定を行っています。このデータは2030年までの取得し続けることが保証されています。
・他にも極地の氷や雪の観測、CO2排出量の監視などを行っています。
・Copernicus が所有するSentinel衛星群ではカバーしきれない、超高解像度光学、レーダー、ハイパースペクトルなどは民間のプロバイダーと連携してデータを提供しています。
EOでの利用事例
カーボン・オフセット市場
・二酸化炭素の排出量をリアルタイムで追跡し、管理します。
・森林炭素クレジット(森林が吸収する二酸化炭素量)を算出し、売買します。
気候モデリング
・観測された気候変動が、どの程度人間活動によるものなのか、あるいは自然現象によるものなのかを調査するために使用されます。
・各国の気象庁やECMWF、NOAAなどの機関によって作成、使用されています。
GNSSでの利用事例
GNSSの利用は限られているものの、GNSS電波掩蔽測量やGNSS反射計などを用いて、EOをサポートしています。どちらの技術も、ガリレオとその衛星が提供する性能の向上から恩恵を受けています。
GNSS電波掩蔽観測
衛星測位電波が大気中を伝搬する際に被る遅延と屈折による測定誤差から、水蒸気等の大気情報を得る観測方法。これによりEO観測データの補正を行います。
GNSS反射計
地球表面で反射した測位衛星の電波を受信し、解析することで、地球表面の状態を観測することができます。
気候サービスのバリューチェーン
(6) エネルギーと原材料(鉱物)
産業内でのセグメントとユースケース
エネルギーと原材料分野における衛星技術のセグメントとユースケースは、以下の通りです。
EOの用途:
・再生可能エネルギーのための紫外線や風の状態の予測
・採掘のための特定の鉱物の豊富さの評価
・建設プロセスの計画や監視
・プラントの運転期間中、より広範囲の状況や環境への影響を監視するために使用されています。
特に鉱山では、高解像度のEOデータがピット斜面や地盤変動の影響を監視するために使用されています。
原料においては、マルチスペクトルEO画像の活用が期待されています。
別の例では、SARが海面上のあらゆる油漏れを検出し、石油埋蔵量の存在とその位置に関する情報を提供します。SAR画像は天候による制約を受けません。小型衛星の新しいコンステレーションの登場により、SARは海洋モニタリングの分野で将来的に有利に働く可能性があります。
GNSSの用途:
・高精度のGNSSが現場調査や、土木作業員やブルドーザーの安全な誘導に使用されています。
・衛星データは、鉱業の操業後の段階、特に現場の清掃、リハビリテーション、廃棄物管理において貴重です。
トレンド
EUの目標は、2050年までに気候変動に左右されない国を目指し、EU全体で電力の32%を再生可能エネルギーで賄うというものです。これらを達成するためには、EUの宇宙プログラムによって提供される情報とサービスが大きな役割を果たしています。
・power-to-X solutionsは、太陽光や風力で発電した電力を、水素や熱などに変換して貯蔵し、それを再び電力に戻すことで電力網の柔軟性を向上させる技術です。電力を使って水を水素と酸素に分けることをpower-to-hydrogenと言います。EOは、変換後の貯蔵や輸送インフラをサポートするために活用される可能性がありますが、ハザードに関する感度は解像度に大きく依存しています。
売上推移とその内訳
売上推移とその内訳については、2020年のEOデータとサービスの収益は560億円(€350 Million)であり、用途別の内訳は以下の通りです。
・34%:原材料のサイト選定、計画、モニタリング
・24%:再生可能エネルギーのサイト選定、計画、モニタリング
・17%:エネルギー・鉱物資源プラントの環境影響評価
エネルギーや原材料の分野では、GHG排出量や有害廃棄物に関する評判は良くないですが、EOはこの分野の環境フットプリントをモニターし、削減するのに役立っています。原材料や再生可能エネルギーの多くのサイトが世界の孤立した場所で開発されているため、EOが宇宙からコスト効率よく、サイトの発見、計画、管理を可能にする有効性と効率性を反映しています。
(7) 保険・金融
産業内でのセグメントとユースケース
保険と金融分野における衛星技術のセグメントとユースケースは、以下の通りです。
保険業界での活用:
・特定地域の洪水などのリスクを算出するモデル構築(Risk Modelling)[EO]
・災害が発生した際に、保険金の支払いを迅速に事実に基づいて行うために観測する(Event Footprint)[EO]
・特定の閾値を観測した場合に、あらかじめ取り決めていた内容に従って保険金を農家などに支払うインデックス保険(Index Production)[EO]
金融業界での活用:
・石油在庫量や穀物生産量に代表される先物取引での利用(Commodities Trading)[EO]
・零細農家など向けの信用評価を行う上での事実確認(Risk Assessment)[EO]
・金融市場における時刻合わせや決済サービスにおけるGNSS認証[GNSS]
トレンド
トレンドでは以下のような展望があります。
金融機関(銀行や機関投資家)は、投資判断をより情報に基づいたものにするため、衛星データへの期待を高めています。気候リスクを考慮に入れた信用査定の必要性に対する認識が広がっているためです。
例えば、森林破壊の可能性を評価するためにも衛星データが用いられています。保険会社は、リスク評価の精度向上と料金設定の適正化のために、衛星データを商品ポートフォリオに統合しています。
さらに、豪雨だけでなくサイクロン、干ばつ、海岸の浸水など、様々な災害リスクに対応する保険商品の開発が期待されています。
農業分野では、不正な保険金請求の有無をチェックするためにもこのデータが利用されています。
CopernicusとGalileoのプログラムが連携し、金融機関と保険会社の成長に貢献することが期待されています。地球観測データとIoTビーコンデータの補完的な利用は進み、これにより、よりパーソナライズされた高精度の保険商品開発や、地上データが不足している地域の地理情報マップの作成が進んでいます。
売上推移とその内訳
アプリケーション別の売上予想を上図に示します。
売上推移とその内訳に関しては、先物取引、インデックス保険、リスク評価ビジネスが今後10年で大きく伸びると予測されています。
リスクモデリングは現時点では最もシェアを大きく占めていますが、伸び率は上記3つと比較すると小さいです。
地域別の売上予想を上図に示します。
地域別に見ると、北米での伸びが圧倒的であり、EUとアジアの伸び率は同程度とされています。
(8) 道路・自動車
産業内でのセグメントとユースケース
・道路と自動車分野における衛星技術のセグメントとユースケースは、以下の通りです。
・制限速度に応じた自動速度適応システム。
・天候や車線表示の状態に左右されない車線維持システム。
・事故データレコーダー。位置情報を記録する素子を装備した車両は事故発生時にその情報を送信する。
・輸送効率向上によるグリーンディールへの貢献(混雑緩和によるCO2汚染削減)。
・コペルニクスのデータを使用して、自動運転機能を備えたコネクテッドカーに接続し、僻地や気象条件の影響を受けやすい未舗装道路を走行するドライバーをサポートする。
トレンド
新型コロナウイルスの影響により、世界的に自動車産業の生産と販売が遅れ、全地球測位システム(GNSS)の導入も遅れています。
自動車業界は、プラットフォームとしての自動車へのシフトを進め、持続可能な輸送手段、特に電気自動車(eモビリティ)の普及に注力しています。また、安全規制の強化により、欧州の自動車市場でのGNSSの利用範囲が広がっています。
現在、世界の道路の80%が未舗装であり、環境や天候による影響を受けやすい状況にあります。このため、道路情報や交通混雑情報の提供が重要視されており、事故発生時の迅速な情報把握にも寄与しています。
売上推移とその内訳
自動車産業では、道路用全地球測位システム(GNSS)の出荷台数が年平均成長率10%で増加しており、2020年には1億1,000万台を超える出荷台数に達しました。
一方で、車載システム(IVS)の増加とパーソナル・ナビゲーション・デバイス(PND)の縮小傾向が見られ、これにより自動車市場はナビゲーション・アプリケーションに大きく依存しています。
車両の運転データを収集・分析し、自動車保険のリスク評価や料金設定を行う保険テレマティクスも重要な役割を果たしています。2020年には約1,800万台に達する成長を遂げ、過去の年平均成長率(CAGR)を見ると、他のアプリケーションと比較して最も高い成長率を示しています。
また、市場成長を支えるもう一つの重要なアプリケーションは、緊急支援です。特に欧州市場では、2018年以降eCallシステム(車両緊急通報システム)が義務化され、搭載される車種が増加しています。
新型コロナウイルスの影響により、マイクロモビリティがマイカー利用に代わる持続可能な選択肢として再び注目されています。都市部では、自転車シェアリング(eスクーターシェアリングとともに)がGNSS出荷台数の約7%を占めており、新しいトレンドとして成長しています。
(9) 漁業
産業内でのセグメントとユースケース
漁業分野における衛星技術のセグメントとユースケースは、以下の通りです。
1.水産養殖 (Aquaculture)
・水産養殖業務の最適化 [EO・GNSS]
・養殖場の選定 [EO]
2.漁業 (Fisheries)
・違法・報告されていない・規制されていない漁業(IUU)のコントロール [EO・GNSS]
・漁獲量の最適化 [EO]
・魚群の検出 [EO]
・集魚装置 [GNSS]
・漁船の航行 [GNSS]。
トレンド
漁業と水産養殖市場では、増大する食料需要と持続可能性への志向が主要なトレンドとして現れています。これらの市場は、農地が減少し、食料の需要が増加する中で、ますます重要性を増しています。特に、ブルーエコノミーの拡大を目指し、水産養殖業への投資とイノベーションが進められています。
政策的な取り組みも、持続可能でレジリエントな漁業と水産養殖のソリューションへの需要を促進しています。これらの傾向は、食料供給の安定と環境への影響を最小限に抑えるための新しい技術と方法の開発を後押ししているのです。
売上推移とその内訳
過去10年間で、漁業のナビゲーションデバイスの年間販売台数が約75,000台から150,000台以上に倍増しました。この成長の背景には、ナビゲーションの安全性向上と、GNSS追跡漁具や魚群検出をサポートするEO製品への依存があります。
2021年に約86億円(€54 Million)だったEOデータおよびサービスの漁業セクターへの年間売上は、2031年には約147億円(€92 Million)に成長すると予測されています。
魚群検出とIUU漁業コントロールの収益は、予測期間中ほぼ同等のシェアを保つと見られています。2031年までに、魚群検出の収益の約97%がサービスから、IUU漁業コントロールの収益の約67%がサービスから、33%がデータ販売から得られると予想されています。
(10) 航空・ドローン
産業内でのセグメントとユースケース
航空・ドローン分野における衛星技術のセグメントとユースケースは、以下の通りです。
Copernicusを活用した航空・ドローン分野のサービスは以下のユースケースがあげられます。
1.「AsSISt(Aircraft Support & Maintenance Services)」(有人航空機向け):
・Copernicus Atmosphere Monitoring Service(CAMS)を活用して、航空機の整備分野における大気条件(摩耗、詰まり、腐食)の算出に必要な大気データを取得。
・航空会社や製造業者のコスト削減、有害な粒子による航空機への影響モニタリング、整備計画立案を支援。
2.Myriad(ドローン向け利用):
・Sentinel衛星シリーズの画像データを使用してAIによる土地変化の検出、その情報を用いた自律型無人ドローンの自動飛行。
・産業地域でのモニタリングコスト削減、災害後の衛星画像と最新のドローン画像の統合による効率的な対応。
EU・EUSPAの注目プロジェクトは以下のものが挙げられます。
1.MyGalileo Drone Competition:
・衛星測位システム「Galileo」の活用を促進し、Galileoからの位置・時刻情報を利用するドローンのアプリケーションやサービスの創出に貢献。
2.DELOREAN(Drones and EGNSS for Low Airspace Urban mobility):
・Urban Air Mobilityや自律型無人ドローンの安全な航行を保証するための基準と規制の定義への貢献。
・CATEC, GeoNumerics, Airbus, Correos, Bauhaus Luftfahrt, Eurocontrol, Universitat Politècnica de València (UPV), PildoLabsなどの企業・団体が参加。
3.Scandinavian Air Ambulance – BSAA-REACH:
・スウェーデンの保健地域で航空・交通サービスが利用できない地域へのヘリコプター運用を支援。
・GNSSを利用した離着陸手順や低高度航路(LLR)の実装プロジェクトを進行中。
トレンド
GNSSは、航空およびドローンナビゲーションにおいて長年重要な役割を果たしてきました。近年、ドローンの利用増加、Urban Air Mobility(都市型空中移動)の拡張、環境への関心の高まりなど、多くの変化が見られます。これらの変化は、航空およびドローン分野でのGNSSの利用拡大に加え、GNSSとEOデータの組み合わせへの期待を高めています。
航空分野では、GNSS機能を備えた航空機の導入が進んでいます。コロナの影響により、古い機材の退役が進み、より環境に優しい高性能な新型機への置き換えが加速しています。
特に、EUではLPV(Localizer Performance with Vertical Guidance、航空機が着陸する際に使用する計器進入方式)機能を持つ機体が24%増加し、GBAS(Ground-Based Augmentation System、航空機を安全に滑走路へ誘導するための無線航行方式)システムの導入により、電波異常や電波干渉への耐性が強化されることが期待されています。
ドローン分野では、2020年7月からEUでドローンの操縦者とドローン自体の登録が義務化されました。Urban Air Mobilityの分野では実証実験とルールの策定が進行中です。また、コロナ以降、ドローンの利用が加速し、特に医薬品の配送や公共エリアの消毒散布に利用される例が増えています。
EOデータの利用も航空分野で拡大しています。これには、地形や障害物のモニタリング、環境影響の評価、飛行場の大気汚染や環境計画への応用などが含まれます。EU内の航空会社は、排出ガスと使用燃料に基づいた環境評価を行い、排出ガスの削減に取り組んでいます。
最後に、コロナによる航空交通量の大幅な減少は、PBN(Performance-Based Navigation、航空航法ルートの構造を再設計および最適化する手法)の現代化を加速させました。GNSSとEOデータの連携を通じて、航空機の運用効率の向上が期待されています。
売上推移とその内訳
・世界のドローン市場は、2020年の約3兆円(€19 Billion)から2025年には約6兆円(€ 37 Billion)に成長し、GNSS対応のドローン出荷台数は今後10年間で年間1000万台を超える見込みです。(ドローン市場の年平均成長率は13.8%の見込み)
・重要インフラ検査やドローンによる宅配・ネット通販などの用途は、ドローン市場全体の中で最大の市場分野と予測されます。
(11) 緊急事態管理と人道支援
緊急事態管理・人道支援領域は、公共団体による市場と考えられがちですが、サービス、アプリケーション、デバイスの提供には、さまざまな民間のプレーヤーが関与しています。これらの民間のプレイヤーは、各国政府、国際機関、NGOなどの活動をサポートしています。
産業内でのセグメントとユースケース
コペルニクス危機管理サービス(CEMS)は、COVID-19危機への対応を支援するために、迅速な地図サービス(地理空間情報から数時間から数日以内に作成される高解像度地図)を提供しています。病院、屋外市場、公園などの関心領域を特定し、ロックダウン措置をサポートしました。
地理空間データと人工知能を組み合わせたGeoAIという発展的な分野もあり、現在感染している人の位置に基づいてCOVID-19の拡散を予測するために利用することができます。
例えば、スペインのアプリケーション「AsistenciaCovid-19」は、匿名ベースで位置情報を収集し、ビジュアライゼーションやジオアナリティクスなどのツールを用いて、当局がCOVID-19の拡散をより的確に把握できるようにしています。
Galileoは緊急警報サービスを2021年からユーザーに無料で提供しています。リターンリンクと対応ビーコンの市場への投入により、リモートビーコンアクティベーションサービス(RBA)が可能になりました。RBAは、関係当局が遭難を宣言した際に、航空・海事関係者がビーコンを遠隔操作で起動させることができ、捜索活動の効率化に貢献しています。
トレンド
EOとGNSSの組み合わせは、緊急対応に必要な全体像を提供するためにますます増加しています。
MEOSAR (Medium Earth Orbit Satellite Search and Rescue)の本格運用が間近になり、ガリレオ・サーチ&レスキューの地上設備は、それに向けてアップグレードが行われました。MEOSARを通して、年間約2000人の人命救助が行われています。
ガリレオ・リターンリンク・サービスの運用が開始され、欧州で最初のリターンリンク対応ビーコン(Personal Locator Beacon) が市場に投入されました。リターンリンクでは、遭難者が自分の信号が救助者に受信されたことを確認可能であり、遭難者の心理的不安が軽減され、救助率の向上が見込まれています。
人道支援分野では、EOを活用して事象発生後のリアクティブな行動のみならず、発生前のプロアクティブな行動を起こすことが注目されています。たとえば、衛星画像データにより研究者は災害のリスクを予測するモデルを構築し、災害の被害を軽減するための事前対策を提案することができます。さらには、地滑りや森林の小規模火災など、自然災害の深刻なリスクが検出された場合、事前に避難計画を立てることができます。
UAVは捜索・救助活動において人命救助に貢献する大きな可能性を持っていますが、現在は飛行時間に制限があるため、その能力を完全に活かすことが難しい状況です。この課題をクリアするために、SARAプロジェクトでは、地球観測データを利用した半自動システムを構築し、疑わしい場所を中心的に検出して、SARによる捜索のサポートをしています。
SINSINプロジェクトは1~2機の衛星しか見えない状態での位置特定を可能にするために、中地球軌道ローカルユーザー端末(MEOLUT)をアップデートしています。これにより、山岳地帯やジャングルでの測位精度を向上させ、救助までの所要時間を短縮することができます。
E2mCプロジェクトでは、自然災害を早期に発見するために、ソーシャルメディアとクラウドソーシング機能を備えたCopernicus EMSコンポーネントを開発しています。これにより、現場からの迅速な影響評価や、早期の警報指示などを行うことができます。
売上推移とその内訳
2019年のGNSSコンポーネントおよび受信機メーカーにおいて、欧州が複数の上位を占め、Oroliaは世界で売上2位となりました。
全体では、欧州企業のシェアは33%で、北米の43%に次ぐものでした。
EOでは、北米(36%)、アジア太平洋(34%)、欧州(17%)の順で市場が拡大しています。EUでは、THALES(e-Geos)とIndra Siste-masが主要企業となっています。
GNSS対応テレマティクスは危険なエリアで活動する人道支援団体で使用されており、他の配送車両の位置や緊急の避難情報の変化など、リアルタイムで情報を取得することができ、スタッフの安全性や効率的なルートの作成に貢献しています。
2031年には、ラピッドマッピングのためのEOデータとサービスの市場が最も大きくなり、総収入の27%に相当する約145億円(9100万ユーロ)を超えると予想されています。
(12) 生物多様性・生態系・自然資本
生態系はすべての生物と、それらが相互作用する環境から構成されています。そして、天然資源や土地とともに、自然資本という概念を構成しています。
さらに、一つの生態系や生息地内のすべての生物は生物多様性を構成しています。これには、種の数と多様性、そして温度、酸素濃度、二酸化炭素レベルなどのあらゆる環境的側面が含まれています。
産業内でのセグメントとユースケース
生態系の保全の様々な分野でGNSS・EOは利用されています。
世界で12,000基以上ある海上石油・ガスプラットフォームは、老朽化に伴い今後数千機レベルで廃止・改修される必要があります。しかし、これらのプラットフォームには海洋生物が住み着いていたり、損害状況が分からない部分があることなどから、廃止・改修の優先順位をつけることが困難です。
そこでEOの画像を利用して、これらのプラットフォームの状況のモニタリングが行われています。
また、絶滅の危機にある野生動物に小型のGNSSデバイスを装着して、生息地域や群れの移動周期などを把握することも行われています。
さらに、サンゴ礁の保護にもEOは大きな貢献をしています。米国海洋大気庁(NOAA)によると、2014年から2017年にかけて世界の熱帯サンゴ礁の75%以上が白化・酸性化を引き起こすほどの熱ストレスを経験し、海の魚の25%が健康なサンゴ礁に依存しているとされています。
Copernicusは世界の海洋酸性化を毎月監視し、Sentinel-3とNASAの中分解能撮像分光放射計(MODIS)のデータはグレートバリアリーフ全体の3D水質モデルを提供しています。
その他にもSentinel-2のデータは、サンゴ礁の健康評価とモニタリングのためのマッピング(生息域、水深、水質)と変化の検出のアルゴリズムの開発に使用されています。また、温度ストレスマップは、白化現象が発生する危険性のある地域を特定するのに有効なツールであり、生息地マップは、修復プログラムの優先順位の特定、魚の繁殖域などの生態系サービスのモデルの作成に役立てられています。
トレンド
国連は2018年にUN Biodiversity Labを立ち上げ、特に地理情報の取得・処理が自国では困難な国の意思決定者たちに向けて、生物種の保護地域・絶滅危惧種・気候変動・土地利用などのデータをインタラクティブマップ上で提供しています。
売上推移とその内訳
売上は上昇する予測ですが、水性・沿岸部のエコシステムは海、陸などの要因が複雑に関係しており衛星画像でキャプチャするのが難しいため、売上が伸び悩んでいます。
全体的に微増が予想されています。
陸地、雪、氷地域のエコシステムで売上の増加が予想されています。
北米を中心に売上の増加が見込まれています。
(13) 鉄道
GNSSとEOは様々な形で鉄道分野に貢献しています。
たとえば、インフラ監視や混雑状況の提供など、GNSSはすでに安全面以外での多くのサービスを提供しています。さらに、運行管制システムにGNSSを導入する準備を進めており、より効率的な列車運行への道を切り開いています。
一方で衛星画像は線路の変形監視、植生侵入の検出、自然災害のリスク評価等のソリューションを提供し、現地調査の必要性を減らすことを可能にしました。
その結果、GNSSとEOは従来のソリューションと比較して、安全性を高め、インフラの管理と運用にかかるコストを削減することに成功しています。
産業内でのセグメントとユースケース
鉄道は非常に安全性が高いだけでなく、EU全域の輸送関連の温室効果ガス排出量の0.5%未満しか占めておらず、持続可能な輸送手段として注目を浴びています。GNSSベースのソリューションでは、交通網の遮断に対する早期の発見や、運用コストの削減、効率性を高めることが可能であり、インフラ管理における効率化に大きな貢献をしています。
また、EUの線路の大部分は植生のある場所にあり、線路を安全に利用するためにこれらを監視する必要があります。このような監視作業は鉄道事業者の主な支出分野の一つですが、高解像度の衛星データを活用して植生監視を低コストで行う取り組みが実施されています。
たとえば、マルチバンド画像によって台風に弱い植生タイプを判別したり、ステレオ画像によって木の高さを推定して変化を監視したりしています。
EGNSS (European Global Navigaton Satellite System)はEU内の様々な種類の列車位置情報アプリケーションを統合して、一つのアプリケーションでより多くの旅客情報を利用することができます。たとえば、TVG等を利用する数百万人の乗客にリアルタイムで正確な列車の位置情報を提供しています。
トレンド
GNSS市場の成長は、利用方法の多様化と密接に関連しています。2016年以降、GNSSデバイスが管制システムに組み込まれるようになり、出荷台数の15%に過ぎませんが非常に高価であるため大きな収益を上げています。
また、2018年以降、線路脇の人員保護にも活用が始まっています。
さらに、列車の位置把握にGNSSを使用することで運用コストの削減が可能になりましたが、分岐点や都市部の建物密集地域では精度が低下するため、マルチセンサーアーキテクチャーとデータフュージョンアルゴリズムが不可欠となっています。
たとえば、GNSSと慣性運動の両方を使用するデータフュージョンアルゴリズムの使用例があります。さらに、マルチコンステレーション、マルチ周波数、マルチパスの導入によって、都市における位置把握の精度を向上することを目指しています。
列車の運行は2023年の実用化を目処に自動化を目指していますが、EUの鉄道環境はシステムや環境が複雑であり、解決すべき点が多くあります。そのなかで、高精度な位置情報の相互運用性を確保する取り決めとしてTSI (Technical Specifications for Interoperability)が採択されました。
TSIには各サブシステムが満たすべき技術的・運用的基準が定義されており、将来的にGNSSに関する定義を付加していく必要があります。さらに、ドローンの利用を想定されており、衛星データと組み合わせることでさらにサービスの効率性を高めることが期待されています。
売上推移とその内訳
過去2年間、欧州企業の市場シェアは15%前後で安定していますが、一方で市場はアジア企業によって大きく支配されており、日立だけで世界シェアの約50%を占めています。
GNSS受信機数は主に安全管理上重要ではないアプリケーションにおいて進みつつあり、2011年以降の鉄道開発とデジタル化において、衛星利用の重要性が浮き彫りになっています。GNSS受信機の約60%はインフラ管理用途に、約20%は旅客情報システムに組み込まれています。
GNSS受信機の出荷台数は2021年では25万台ですが、2031年には80万台を超えると予測されており、鉄道分野におけるGNSSの重要性を浮き彫りにしています。
北米とアジア太平洋地域の年間出荷台数は正解の約4分の3を占めており、残りの4分の1はほぼ欧州市場で占められています。
一方、中東、アフリカ、南米、カリブ海諸国ではGNSS市場の黎明期であり、出荷台数の多くを占める地域とこれらの地域との間に鉄道開発の格差があることを示しています。
(14) 都市開発・文化遺産
トレンド
都市計画・都市開発分野において、3Dモデリングのニーズが高まっています。そのなかで正確で信頼性の高いGNSSとEOデータを使用して、既存の2Dのモデルを3Dに統合する動きが進んでいます。
さらに、GNSSを搭載したAR技術により、現地で、または高解像度の衛星画像に重ねて都市デザインを没入的に視覚化する取り組みも行われています。
現在はこのようなスマートシティのデジタルツイン(DTSC)はニューカッスル、ロッテルダム、ボストン、ニューヨーク、シンガポール、ストックホルム、ヘルシンキなどの一部しかありませんが、2025年には約500都市のDTSCが利用されると予測されています。
さらに将来的には、交通機関の最新情報、SNS情報などを含むリアルタイムのデータストリームと3Dモデルを重ね合わせて、都市の完全なライブビューが提供される予定です。
また、GNSSによるより正確な位置情報を得るために、衛星の位置補正、大気補正、時刻補正などが行われています。さらに、建物内部はレーザー・IMU・カメラを統合したSLAM技術やポータブルレーザースキャナーによって、建物の外部だけでなく内部の詳細なモデリングも可能となっています。
コペルニクスプログラムでは都市計画や文化遺産のモニタリングを支援しています。たとえばCLMS (Copernicus Land Monitoring Service)は文化遺産の地盤沈下などのリスクを監視したり、CEMS (Copernicus Emergency Management Service)は都市の自然災害に関する様々なサービスを提供しています。
そのなかで、Sentinel-1と-2は建物の高さの検出に利用され、Sentinel-5Pは都市の大気汚染のモニタリングに貢献しています。
売上推移とその内訳
GNSS受信機は2021年からの10年間で200万台から400万台へ倍増する見込みで、特にアジア太平洋地域での大きな発展が成長が予測されています。
GNSSデバイスとサービス売上においても成長が見込まれており、特にアジア太平洋地域がその中心的な役割を担っています。
EOデータ売上は今後10年間で約1.5倍の成長が見込まれており、特に都市の測量とマッピングの分野で大きな成長が期待されています。
EOサービス売上は今後10年で2倍以上の成長が見込まれ、特に都市の測量とマッピング分野、都市モデルの分野で大きな成長が期待されています。
(15) 宇宙
そのミッションにかかわらず、地球の軌道上にある衛星にとってGNSSは、コスト削減や運用性の向上、観測データの信頼性の向上など多方面的に役に立ちます。
GNSSは地上だけではなく、軌道上にある他の衛星のためにも利用されています。GNSSは高度8,000kmまでは地上と同様に利用可能ですが、それ以上の高度では電波が微弱となり運用が困難です。そのような場合には衛星に超高感度受信機を搭載する必要があり、そのコストと重量の削減が目指されています。
また、月軌道での衛星測位システムも計画されており、測位・航行・時間(Position Navigation Time: PNT)を月近傍でも提供することが目的とされています。
トレンド
NewSpaceの潮流によって、宇宙産業では民営化・民主化が急速に進んでいます。
年平均の衛星の打ち上げ数は、2009年から2018年が230機であったのに対して、2019年から2028年には990機に達すると予想されています。
また、低軌道への1キログラムあたりの打ち上げコストは、1981年に1000万円(約68000ユーロ)であったのが、2020年には13万円(約850ユーロ)まで下がり、2040年には6400円(約40ユーロ)までコストを下げることが目標とされています。
NewSpaceの流れを大きく特徴づけているのが、民間企業によるメガコンステレーションの構築です。これらの小型の衛星群は、標準化された部品やソフトウェアドリブンの手法を取り入れたことにより、従来の衛星よりも小さく、軽く、安価に製造することが可能です。
これらの衛星は主にLEO(低軌道)に打ち上げられるため軌道内の衛星数が増加しており、衛星同士の衝突や干渉を防ぐためのSTM(Space Traffic Management)の必要性が指摘されています。
また、軌道の混雑に伴い、様々な軌道サービスが誕生しています。デブリ除去や衛星廃棄・寿命延長のためのドッキング、既存衛星への測位デバイスの追加などが代表的なサービスです。
売上推移とその内訳
地域別GNSSデバイス数は2021年からの10年間で3倍近くに成長することが見込まれており、特に北米(アメリカ)市場の大きな成長が期待されています。
GNSS受信機の出荷数は、NewSpaceのビジネスモデルに牽引され今後10年で増加することが期待されています。
メガコンステレーションの小型衛星のほとんどは、GNSS受信機搭載の必要性があり、これらの衛星の運用期間は比較的短いため、買い替え頻度も高く、GNSS受信機産業の主要な原動力となっています。
ただ、NewSpaceのビジネスモデルが長期的にどの程度の成功を収めるかは予測するのが難しく、また、これらの予測は現状予定されている衛星のみを対象としているため、流動的であることに注意する必要があります。
(16) 健康
産業内でのセグメントとユースケース
健康分野における衛星技術のセグメントとユースケースは、以下の通りです。
1.医療用ドローンの利用
・テストサンプル、医療用品、血液バンクなどの遠隔地への配送[GNSS]
・ガーナにおけるCOVID-19ワクチンの配送[GNSS]
2.感染症のモニタリング
・心血管疾患や呼吸器疾患に関連するエアロゾル、紫外線(UV)放射、藻類のブルームの監視[EO]
・緊急時対応
・緊急通報の位置情報提供[GNSS]
・救急車両の最適な配置[GNSS]
3.大気汚染のモニタリング
・大気成分の大規模衛星ベースの観測[EO]
・空気質サービスの提供[EO]
4.スタートアップによる革新的ソリューション
・アドレナリン自動注射器[GNSS]
・医療サービスのためのドローンによる最終配送[GNSS]
・自動外部除細動器の配送システム[GNSS]
・ドローンを使用した医療品の自律配送システム[GNSS]
トレンド
グローバルな医療ニーズへの対応には、EOとGNSSが重要な貢献をしています。特に医療用ドローンや感染症のモニタリングにおいて、EOとGNSSが提供するデータとサービスが中心的な役割を果たしています。
空間データの自動化とデジタル化のトレンドは、グローバルな健康危機への効果的な対応を可能にし、eHealthなどのデジタル化トレンドを通じてパンデミックへの反応を強化しています。
EOは、従来から心血管疾患や呼吸器疾患に関連するエアロゾル、紫外線(UV)放射、藻類のブルームなど、人間の健康に悪影響を及ぼす要因のモニタリングに貢献してきました。
大気汚染は、都市地域の人口増加に伴い、公衆衛生にとって重要な課題となっています。大気汚染は人間の平均寿命を約8ヶ月短縮すると推定されています。
売上推移とその内訳
医療用ドローン市場は、2027年までに約1300億円(€800 Million)に達すると予測されています。これは、遠隔地での医療用品の配達、特にコロナワクチンの配達において重要な役割を果たしています。
(17) インフラストラクチャー
GNSSとEOは初期の立地選定から、建設プロセスの監視、運用でのオペレーションまで、
インフラ業界になくてはならない重要な貢献をしています。
産業内でのセグメントとユースケース
Sentinel-1を使用したInSAR(干渉SAR)は、ミリメーター単位で地盤の変化をモニタリングすることができます。この技術はダムの経年劣化や、パイプラインの監視などに用いられており、EOのインフラへの利用の代表的なユースケースです。
コペルニクスは無料でデータを提供しているため、インフラ計画の最初期の段階から、立地の検討や将来への影響を検討するために使用されています。
また、コペルニクスの低解像度のデータで関心のあるエリアにあたりを付けてから、民間衛星の高解像度のデータを購入したり、ドローンによる画像を撮影したりして更に細かい調査を行うというケースもあります。
トレンド
2050年のクライメイトニュートラル目標に向けて、温室効果ガス排出量の5~12%を占める建設業界は、より持続可能な開発を目指してGNSS・EOの活用を進めています。
また、2020年にITU(International Telecom Union)は通信機器においてGNSSを基準の時間とするレポートを発表しており、特に正確かつ迅速な時間情報が必要なアプリケーションへの利用が期待されています。
これは5Gにより高速かつ大量のデータの送受信が可能になることによって、ますます利用が進むことが期待されています。
売上推移とその内訳
大規模な5Gの実装はいくつかの地域ではまだ初期段階であるにもかかわらず、EU、アジア太平洋地域、北米が通信インフラの現代化をリードしています。全体としてもインフラにおけるGNSSの需要は今後も伸び続けると予想されています。
EOデータ売上は今後10年間も安定して上昇することが期待されています。しかし、その地域内訳はアメリカを中心とする北米と、中国を中心とするアジア太平洋地域が60%以上を占めており、地域間の格差を小さくすることが課題として挙げられています。
(18) 海洋・内陸航路
EOとGNSSはコンテナ船のオペレーションから趣味のボートまで、様々な海洋での活動をサポートしています。
トレンド
海洋輸送はCOVID-19によって大きな影響を受け、GNSSのデータを使用して海洋輸送のトラッキングをするAIS (Automatic Identification System)によると、2020年は前年に比べ港の使用率が大きく低下したことが報告されています。
さらに、COVID-19は安全性を確保しながらも船内スタッフを削減する契機となり、自動化・デジタル化がこれまで以上に重要になっています。
その流れのなかで、5Gは港のオペレーションの自動化に大きな貢献をし始めています。アントワープでは近い将来に自律型の船舶やトラックを導入することを視野に入れ、港の状況の画像やレーダーデータをリアルタイムで中継する5G接続タグボートを作成しました。
港における5Gへの流れは、GNSSベースのナビゲーションツールの採用を増加させ、これまで手動で操作されていた機器が自動化されるきっかけとなっています。
課題としては、自律型船舶の開発が盛んに行われていますが、通信フォーマット、国際的な法的枠組、用語、データ形式の標準が定められていません。そのため港から港への自律型船舶の航行が現状では困難です。
そこで国家と湾口当局たちは国際的な標準を設定するために協議を始めています。これらの基準は今後の自律型船舶の広範な導入の鍵となります。
過去10年間でGNSSデバイス出荷量は微増していますが、2019年にはCOVID-19の影響で成長率は2008年の金融危機以来の低水準を記録しました。レクリエーションナビゲーションは依然として最大の市場であり、2020年には160万ユニットが出荷されています。
EOデータとサービスの売上は2021年には125億円(7800万ユーロ)に達し、北米、次いでヨーロッパが支配的な地域です。ヨーロッパは今後10年間で最大の市場に成長することが予想されています。また、南米・カリブ海地域は年平均成長率7%と最も高い成長率が期待されています。
まとめ
以上、非常に長くなりましたが、ヨーロッパで作成された、地球観測データと位置情報データの利用に関する、各分野の事例や市場規模まとめをお伝えしました。
皆さんのお仕事に関わる分野について新たな発見はあったでしょうか。実際のレポートにはここでは紹介しきれていない内容や、附属のレポートなどが数多くありますので、興味を持った箇所はぜひ原文をチェックしてみてください。
EO & GNSS Market Report/EUSPA
https://www.euspa.europa.eu/european-space/euspace-market/gnss-market/eo-gnss-market-report