宙畑 Sorabatake

解析ノートブック

今日は野川でブラヒトシ! 国分寺から等々力へと流れる野川と崖線(がいせん)の散策

某大人気番組が大好きな地理オタクであるTellusメンバー・ヒトシさんが、”ブラブラ”Tellusを眺めながら知られざる街の歴史や人々の暮らしに迫る「ブラヒトシ」。 第三回目企画となる今回は、国分寺から等々力渓谷まで歩く! です。

 

某大人気番組が大好きな地理オタクであるTellusメンバー・ヒトシさんが、”ブラブラ”Tellusを眺めながら知られざる街の歴史や人々の暮らしに迫る「ブラヒトシ」。

第三回目企画となる今回は、国分寺から等々力渓谷まで歩く! です。 

〜自転車なし、競歩なし、妥協なし(?)企画〜

※尚、本記事は土曜日19:30〜放送されていた某大人気番組とは一切関係がありませんが、番組を愛してやまないメンバーでお届けしています。

これまでのブラヒトシ

今回のブラヒトシ登場人物はこちら

hitoshi

おなじみのTellusの営業マン

鉄人スポーツマンにして、熱狂的な地理オタク。

muta

Tellusビジネス企画担当

宙畑では編集部も担当し、ブラヒトシでは進行役を務める。地理も歴史も学校の授業では習ったけど、いまいちわかっていない。

nakamura

日常のありとあらゆる場所で衛星データ活用の機会を窺っている宙畑編集長。

歴史や地名の由来などを知るのが好き。

mukaida

何かにつけては宙畑の無茶ぶりに付き合ってくださる、衛星データのプロ。

nakajima

初登場のソラノメイト。衛星データ初心者。

muta

さて、第三回目のブラヒトシ、国分寺駅前に集合しました!ヒトシさん、今回のテーマは?

hitoshi

じゃじゃん!国分寺崖線です!

hitoshi
東京の多摩川沿いってさ、「なんとなく坂多いな〜」と思わない?あれ、全部崖線なんだよ!

hitoshi
今回は、この崖線に沿って流れる「野川」と一緒に、水源の国分寺駅から等々力渓谷までおよそ距離25km、歩いていくよ!

nakamura

なかなかハードですね…歩けるかな…

muta

今回の全体マップはこちら!

Tellus上で書くと以下のようになります。

※国分寺駅から出てている赤線は今回の軌跡です

スタート地点は画面左上にある国分寺駅から、右下の二子多摩川を越えて、等々力渓谷まで歩いて行く計画です。

国分寺駅に集合して、まずは周辺の地図をチェックするヒトシさん、向井田さん、ムタ

東京の西側周辺に名水が多いワケ

hitoshi
ところで、今日のテーマであるがいせん(崖線)ってムタちゃんはどれくらい知ってる!?

muta

崖や急斜面が続いている境界線のことですよね!

hitoshi
そうそう!今まさに我々がいる国分寺周辺から広がってるんだけど、プレートが動いたり、風とかで侵食されて削られて作られたものなんだよね。

nakamuramutamukaidanakajima

なるほど!

※細かい説明は以下の通り

世田谷区ホームページ

上図にある通り、崖(上総層の上らへん)には「ローム層」という水を貯えたり、水を通したりする層があります。このローム層から、ちょろちょろ水が出てくる、つまり「湧き水」がでてくるわけです。

そして、下図は国分寺崖線。この地図の通り崖線が、東京都を西から東へ連なってできていることがわかります。

世田谷区ホームページ

今回は、この崖線(がいせん)に沿って、総距離およそ25kmを歩きながら、地形と人の暮らしの結びつきを探っていきます。

崖線からの湧き水は暖かい

野川方面から北上して最初の目的地、殿ヶ谷戸庭園に向かおうとすると、さっそく坂道が…これも崖線です。

殿ヶ谷戸庭園内には段丘崖(だんきゅうがい:段丘を形成する際に生じる急な崖や斜面のこと)があります。そこから湧き水が出てきます。

これらを利用して作られた近代の別荘庭園が「殿ヶ谷戸庭園」です。

muta

“Tellus Traveler” を使って、このあたりの傾斜を見てみましょうか。
今回使用したデータセットは、【Tellus公式】ASTER GDEM ver.3です。
(描画入力最大値を”90”, 透過度を”50%”に設定)

左下に表記があるように色が ”茶→赤→黄→緑→青” となるに連れて地形の標高が ”低く” なっていきます。

最初の崖線スポット、殿ヶ谷戸庭園(とのがやとていえん)に到着しました。国指定名勝!

先ほどの標高図を殿ヶ谷戸庭園をさらにズームしたのが上図です。

左上部あたりにある国分寺駅が茶色になっていて標高が高いのがわかります。

そして、赤枠で囲った殿ヶ谷戸庭園は ”赤”や”オレンジ” とまばらに含まれており、庭園内も北西(左上)から南東(右下)に向けて徐々に標高が下がっています。

殿ヶ谷戸庭園園内マップ
公益財団法人 東京都公園協会

園内マップを見てみると、南北が逆向きですが、標高が低くなっているところに”次郎弁天池”という池があるようです。

さっそく門をくぐると、駅前の喧噪が急に収まり、落ち着いた緑がきれいな庭園です。

自然豊かで奥ゆかしい建物があり、坂で乱れた呼吸が落ち着きます。

奥に進んでいくと、たしかに急斜面をどんどん下りていく作りになっています。

さらに進んでいくと…

湧き水を発見!

 

hitoshi
あ、湧き水でてるね!あったけぇー

nakajima
(どれどれ) あったかいですねー (温泉くらいあったかいのかと思った・・・)

nakamura

(どれどれ) あったかいですねぇ・・・ぬるい!

hitoshi
地層の中を通り抜けている水だから、冷たくならないんだな!
※水温は年間通して15~18℃くらいとのこと

崖線からしみ出す湧き水を触るナカムラ編集長

muta

こうやってみると、たしかに急斜面の途中から湧き水(ナカムラ編集長がいるあたり)が出ているということが良く分かりますね!

hitoshi
こういった場所は湧水源と呼ばれ、関東ローム層に浸透して地下水になって、崖線下から湧いてきているんだね!

nakajima
国分寺駅周辺の人の多さに比べると、空いていて良いところですね!

湧き水を活かした庭園は小金井周辺にいくつも

殿ヶ谷戸庭園を後にした一行は、崖線沿いをどんどん南下していきます。

崖線に沿って歩くので、たくさんの坂道に出会います。最初は「おお~これが崖(がい)ですか!ナイス崖(がい)だね!」と盛り上がっていた一行ですが、早くも口数が少なくなってきて…

muta

はい、崖線を跨ぐ急な貫井トンネルを頑張って登った先が、次の崖線スポット、滄浪泉園(そうろうせんえん)です。

滄浪泉園マップ

hitoshi

小金井周辺に詳しい人から、滄浪泉園も、うまく崖線を取り入れて整備された庭園だと聞いたよ!楽しみだね!

muta

先ほどと同じようにマップと比較してみましょう。
まずは普通のマップです。赤枠で囲った部分が滄浪泉園です。

【Tellus公式】ASTER GDEM ver.3(描画入力最大値を”90”, 透過度を”50%”に設定)

そして地形を考慮したものです。

湧き水は”青点”で表示していますが、マップ上の上部から下部にかけて標高差があり、ハケから湧き水が出ていることが納得できます。

nakamura

園内に立て看板がありますよ! ハケ? ハケってなんですか?

hitoshi
崖(がい)が浸食されてできた地形で、ハケから湧き水が出てるんだ。「水ハケがいい」とかいう言葉も関係がありそうだよね。ハケは我々の暮らしと密接に結びついているんだね。

※「ハケ」
野川沿いの崖線周辺を古くから「ハケ」と呼んでいるそうです。
何万年も昔に多摩川によって削られてできた地形、歴史を感じるところですね。

この場所も自然がきれいで、崖で乱れた呼吸が再び落ち着く場所です。

小金井の名前の由来は崖線だった!?

nakamura

「小金井」の名前の由来もハケから来ているんですね!?

hitoshi

昔は水が貴重だったからね。黄金に値する湧き水が豊富に出てくるから「小金井」となった、ということなのかも。

※小金井の名前の由来は諸説ありそうです。

崖線から野に出た水が集まって川になったので、「野川」とも

hitoshi
崖線に沿って流れている野川も、今回の旅の重要なポイントなんだよね!水源が国分寺駅の近くにあるから行ってみよう!

※野川の水源は国分寺駅から少し離れた、日立製作所の研究室敷地内にあります。(青丸部)
(一般公開されていません)

国分寺駅近くを流れる野川。小さな小川くらいの水量。

mutaまだ細い川ですが、しっかりと水の流れが確認できますね。
この川を今日はたどっていくんですね!

滄浪泉園の裏手にある路地には野川に流れ込む小さな水路がある。

nakamura

さっきの滄浪泉園で湧き出ていた水が庭園の外に出て、路地を通って、野川に流れ込んでいくんですね~こういう光景ってなんかいいですよね!

さらに進んでいくと、ひらけた場所にでました。

nakajima
この川が野川ですか!国分寺駅近くでみた時より、だいぶ水量が増えてきましたね!

hitoshi

お、また、ハケから来ている湧き水発見!ここもあったけぇー

nakajima
ですね! (15度くらいかな)

ローム層から流れてきている湧き水が合流し、一行の歩みと共に野川はどんどん大きくなります。

 

nakamura

もしかして野川って、野にでてきた水を集めた川だから「野川」っていうんですかね!?

muta

・・・(調べる)。 ハケに沿ってたくさんの小さな流れが集まって一つの川になり、これが野川になる、という説がありますね。 野を流れるから野川っていう説も。。

nakamura

なるほど!地形と普段良く聞く地名が繋がっていくのは面白いですね!

※参考:「野川が消える」

 

hitoshi
川ができると、きっとそこから水を引いて田んぼを作ったり、畑で野菜を育てたりするよね、そうやって、崖線が川を作り、川が人々の暮らしを作ってきたんだろうね

崖線を利用して大学の陸上部が練習も

muta

国分寺駅から徒歩12分のところにある東京経済大学の中にも崖線があるんですが、今日は大学入学共通テストなので入れませんでした…残念…

国分寺キャンパスの自然環境上の特徴 | 東京経済大学 (tku.ac.jp)

mukaida

でも、大学前の道もだいぶ急な坂道ですね~。お、陸上部が走ってますよ!

muta

鞍骨坂(くらぼねざか)という坂だそうですよ。

※鞍骨坂、昔、雨が降った時は人も馬も滑って歩けなかった。それくらい鞍(馬のこと)でも骨を折る坂、なのだそうです。

引用:http://kokufu.tokyo/spot_detail.html?id=301

hitoshi
崖を利用してトレーニングしてるんだね~現代でも、人がちゃんと崖を利用して、ここで暮らしている感じがたまらないね!

mukaida

坂ばっかで疲れますね(トレーニングになりますね)。

hitoshi
崖線に沿って歩いてるからね。さあ、どんどん行かないと日が暮れちゃうよー

nakamuramutamukaidanakajima
(まじか…)

崖線沿いには神社が多い?

muta

今回、崖線がテーマということで、色々と調べていたんですが、崖線沿いには神社も多いみたいですね。

hitoshi

一段高いところに神様を祀るってことなのかな、これも崖線と人々の暮らしとの繋がりだね。

muta

ということで、続いては京王線つつじヶ丘駅近くの柴崎稲荷神社に到着です!鳥居をくぐった先の階段が、まさに崖ですね!

mukaidanakamura

ぼ、ぼくたちはここで待ってるから、みんなで参拝してきたらいいよ(こんな急な階段もうへとへとで登れないよ…)

神社脇の道路の傾斜を計測すると、なんと15°!

地形と湧き水を活かした庭を作った武者小路実篤

muta京王線つつじヶ丘駅を抜けて、続いて到着したのは、調布市にある実篤公園です。
武者小路実篤さんは、崖線を利用して自身の庭を作ったと言われているんです。
どんな素敵なお庭なのか、お邪魔してみましょう!

muta

こちらもTellusの地形図でみてみます。
少しわかりづらいですが、ここは殿ヶ谷戸庭園のような大きな標高差はなさそうですが”黄色”と”青色”が敷地内で広がっており高低差、ハケがあります。

hitoshi
おお!ここにも、ハケがあるよ!ハケから湧水が出てるね!

公園全体図 Source : https://www.mushakoji.org/about/kouen.html

崖線周辺には、「富士見台」「富士見橋」などの展望スポットが多い

都立武蔵野公園の中、野川沿いを歩いていると…

muta

見てください!あの階段、「はけの森97階段」って書いてありますよ!登ってみましょうよ!

hitoshi
おお、むたちゃん、いいね!行ってみよう!

mukaidanakamura

(97段、まじか…)

muta

おお~~!ヒトシさん、遠くの方に富士山が見えます!

hitoshi
それだけ崖の高低差があるからだね!崖線上には、富士見台とか、冨士見坂とか、富士山が見えることに由来した地名もよく見られるよね!

三鷹市で配っている「出山横穴墓群8号墓保存・公開施設」パンフレットに載っている周辺マップ。「国分寺崖線」と「富士山ビュースポット」の文字が。

muta

この先にある国立天文台の裏手も、崖(はけ)のみち遊歩道と呼ばれていて、富士山のビュースポットがあるみたいですよ!行ってみましょう!

mukaidanakamura

(また下って登る気なのか…)

hitoshi

おお~、崖(がい)の上から、富士山がまた見えたね!

nakamura

反対側は、国立三鷹天文台で、あそこに見えているのは太陽フレア望遠鏡ですね!(大学時代に天文台の特別公開があった際に教えてもらいました)。

muta

さて、そろそろ終盤にさしかかってきました!世田谷区の成城四丁目緑地にはなんと「崖線樹木園」なるところがあるらしいですよ!

nakamura

崖線樹木園???

hitoshi
崖線沿線の樹木をまとめて展示しているんだね!

hitoshi

ほら、「国分寺崖線は世田谷のみどりの生命線」だって!

muta

世田谷区は崖線上に多くの緑地を作っているみたいですね!

hitoshi

崖線が水を生み、水が生命を育む!素晴らしいね!

hitoshi

さあ、暗くなってきたし、本当は二子多摩川を越えて、等々力緑地まで行きたかったけど、この先の小田急線成城学園駅をゴールにしようか!ラスト崖(がい)登っていくよ!

mutanakajima
はい!!!!!

mukaidanakamura

(もう限界だよ…)

 

成城学園まで皆集中して黙々と歩き続けます。

 

muta

小田急線を渡る橋に、ちょうど富士見橋という橋があるので、そこをゴールにしましょう!
hitoshi

お!ちょうど富士山と写真を撮るための枠があるじゃないか!みんなで写真を撮ろう!はい、チーズ!

muta

夕陽をバックにうっすらと富士山も見えて、最高ですね!

 

東京周辺でも、富士見橋はいろんなところに点在しています。
富士山が見えれば「富士見橋」と呼ばれているのかもしれません。

昔から富士山が地域の人々の生活の一部だったことが想像できます。

また、「富士見坂」という富士山が見える坂もあります。
国分寺崖線に沿った世田谷区の岡本(二子玉川駅より徒歩約30分)という場所です。

今回は成城学園がゴールになりましたが、ブラヒトシは終了です。

次回はもしかしたら等々力渓谷までいくのかも!?

本日のおさらい

ここまで国分寺から野川や国分寺崖線に沿って歩いてきました。

Tellus Travelerを使い標高地形図を重ねて見てみましょう。

画面左上に国分寺駅があり、そこから右下に向かって野川が流れ、画面右下に成城学園駅があります。さらに行くと二子玉川駅があります。

野川を境に(特に画面中心部付近については)標高が変わっているのが良くわかりますね。
また、今回巡った箇所も標高の境目近くにあることがわかります。つまり、崖線に沿って歩き、崖や坂があり、ハケがあり、湧き水がありと、今までの事象が地形とともにわかるのではないでしょうか。

途中立ち寄った殿ヶ谷戸庭園や滄浪泉園、野川中洲北遺跡、武者小路実篤記念館が崖線に沿って位置しているわけですね。

このように標高地形図から崖線や野川を確認し、実際歩いてハケや湧き水を見つけることができ、東京の歴史が見え隠れしていることを実感した一日だったと思います。

mukaida

ガイってタイ語で「鶏」っていう意味なんですよ。知ってました?

nakamura

へぇ、そうなんですか。

mukaida

焼き鳥屋行きたいっすね

 

nakamuramutahitoshinakajima

焼き鳥屋行きましょうー

 

muta

本日の歩いた距離は20.47km!私の足で38,000歩、上った階段は、なんと72階相当でした!

ルートの高さ履歴。崖線の上と下をたくさん上って下りたことが分かります。

歩いたルートは以下の通り(赤線)

お疲れ様でした!