史上最大規模。SynspectiveがRocket Labと10機の衛星打ち上げに合意【宇宙ビジネスニュース】
【2024年7月15日配信】一週間に起きた国内外の宇宙ビジネスニュースを宙畑編集部員がわかりやすく解説します。
Synspectiveは6月18日、Rocket LabのElectronロケットで今後10機の衛星打ち上げを行うことに合意しました。同日、Rocket LabのCEO ピーター・ベックさんが来日し、都内で調印式が行われました。
今回合意された打ち上げは2025年から27年にかけて行われるものです。また、SynspectiveとRocket Labは今回の合意のほか2回の打ち上げを2024年内に行う計画です。
過去の実績や柔軟な打ち上げスケジュールなどが評価
調印式の冒頭でベックさんは、「私たちは宇宙経済全体にとって重要な日を迎えています」と話しました。衛星10機の打ち上げ契約は世界的に見ても最大規模です。
Rocket Labはロケット工学を独学で学んだニュージーランド国籍のベックさんが2006年にニュージーランドで設立しました。その後2013年に本社をニュージーランドからアメリカ・カリフォルニア州に移しましたが、現在もニュージーランドとアメリカの両方に拠点を構えています。2017年にElectronロケットによる衛星の軌道投入を初めて成功させ、これまでに49回の打ち上げで183機の衛星を宇宙に届けています。
ベックさんに続き、Synspectiveの創業者兼代表取締役CEO新井元行さんがスピーチを行いました。
「私は6年前にSynspectiveを創業し、当社の歴史のほとんどにあたる時間をRocket Labとともに仕事をしてきました。最初のSAR衛星を打ち上げて以来、この4年間で私たちは多くのことを学び、多くの困難を乗り越えました。ともに学ぶことこそが新しいイノベーションを実現する、あるいは不確実な状況で何かを成し遂げるための唯一の方法です」(新井さん)
Synspectiveは内閣府主導の「ImPACTプログラム」で開発された小型SAR衛星の技術を社会実装しようと2018年に設立されました。2020年代後半に30機の衛星コンステレーション構築を目指しています。
新井さんの言葉の通り、2020年12月に実証機「StriX-α」、2022年3月に「StriX-β」、9月に商用実証機「StriX-1」、2024年3月に「StriX-3」と、4機全ての衛星をElectronロケットで打ち上げています。(※Synspectiveは複数の機体製造を同時並行的に進めており、準備が整った機体から打ち上げているため、打ち上げの順番が前後することがあると説明しています。StriX-2も近い将来に打ち上げられる予定です)
今回の合意に至った理由について「同社(Rocket Lab)による過去の実績はもちろんのこと、柔軟な打ち上げスケジュールと各衛星の正確な軌道投入などをコントロールできる点にあります」と説明しています。
また、新井さんは今回の合意について「衛星の製造工場を設立し、データビジネスを拡大していくために非常に重要なプロセスです」と調印式で話しました。
Synspectiveは6月20日に、シリーズCラウンドで新たに70億円を調達したことを発表し、2024年内に量産工場を稼働させる計画も示しました。30機体制の構築にむけて、衛星の製造と打ち上げが加速していくと見られます。
30年までに市場規模6倍に拡大。NZの宇宙政策
調印式には、ニュージーランドのクリストファー・ラクソン首相も出席しました。ラクソン首相は
「ニュージーランドは、宇宙分野の大きなチャンスがある場所だと考えています。だからこそ、ニュージーランドの宇宙分野がより開かれたものになるように、ロケットを打ち上げる素晴らしい場所だと言ってもらえるようになり、人々を惹きつける場所になるように取り組んでいます」
と話しました。
ニュージーランドではRocket Labを起点に宇宙ビジネスが活発になり、航空宇宙関連のスタートアップも出てきています。2019年には同国の民間の航空宇宙産業人口は1万2000人となり、17億ドルの経済効果を生み出しました。
そのような動きがあるなか、ニュージーランド政府は2023年7月に「New Zealand Aerospace Strategy 2023-2030」を策定し、航空宇宙分野の2030年までの成長戦略を示しました。
これに対して、ニュージーランドの二大政党のひとつである国民党は、New Zealand Aerospace Strategy 2023-2030の目標の達成にむけて、支援政策「Unleashing New Horizons」を2023年10月に打ち出しました。このUnleashing New Horizonsは、2030年までに航空宇宙産業がニュージーランド経済に現在の6倍にあたる100億ドル貢献することを目標に掲げ、宇宙担当大臣の新設、航空宇宙の試験が実施できる特別区域の設置、政府による積極的な衛星データの調達などの支援策が盛り込まれています。
総選挙で国民党のラクソンさんが勝利し、2023年11月に新政権が発足すると、新内閣に早速「宇宙担当大臣」の役職が新設され、ジュディス・コリンズさんが科学・イノベーション・技術大臣を含むほかの職務とともに宇宙大臣に就任しました。
また、6月17日からの3日間にわたるラクソン首相の日本への公式訪問では、SynspectiveとRocket Labの調印式に立ち会ったほか、Electronロケットで衛星を打ち上げたアストロスケールの東京オフィスを訪問するなど、日本の民間宇宙企業の取り組みにも高い関心を示している様子がうかがえます。
ピーター・ベックさんが語る日本の宇宙市場
調印式の質疑応答で宙畑編集部がベックさんに日本の宇宙市場についてうかがうと、このような回答がありました。
「日本は私たちにとって非常に重要な市場です。Synspectiveは重要な顧客ですし、QPS研究所やアストロスケールの衛星も打ち上げました」
「日本の宇宙企業に共通しているのは、これまでにない画期的でユニークなことをやっている点です」
また、日本の宇宙市場の将来性について聞くとベックさんは
「日本の宇宙産業は起業家精神に溢れた始まりの時期にあると思います。私たちRocket Labは世界中の国の企業と仕事をしていますが、日本の宇宙市場が急成長していること、そして企業の質の高さを実感しています」
と話し、宇宙の取り組みを後押ししました。
民間の小型SAR衛星で日本最高分解能25cmの画像取得に成功
Synspectiveは、7月9日に新たな撮像モードであるステアリング・スポットライトモードでのテスト観測を行い、(民間の小型SAR衛星で)日本最高分解能である、アジマス分解能25cmの画像取得に成功したことを発表しています。
新たな撮像モードであるステアリング・スポットライトモードや、その他の撮影モードについては、プレスリリース内から確認いただけます。SAR衛星がどのように上記のような画像を作り出しているかに興味がある方はぜひ「レーダーの基礎から学ぶSAR(合成開口レーダー)の原理と奇跡」もご覧ください。
宙畑編集部のおすすめ関連記事
Synspective、小型SAR衛星による日次干渉SAR画像のテスト観測に成功【宇宙ビジネスニュース】
Synspectiveがウズベキスタンとカザフスタンで覚書を締結。地震リスクの評価や災害対策向上を目指す【宇宙ビジネスニュース】
今週の宇宙ニュース
損保ジャパン・SOMPOリスクマネジメントが衛星に付帯して通信機能を持たせるビーコンを開発する豪企業と協業を検討【宇宙ビジネスニュース】
ElevationSpaceがシリーズAラウンドで約14億円を調達。開発体制の強化へ【宇宙ビジネスニュース】
参考
Synspective、米Rocket Lab社と今後10機の衛星打上げに合意