「涙を流しながら地球が自転するのを見ています」15名の宇宙飛行士が集い語った宇宙から見た地球の感動と変化、次世代への思い【IAC 2024レポート】
IAC 2024に15名の宇宙飛行士が集い、「地球の持続可能性の促進: 国際宇宙飛行士による宇宙からの洞察」と題された記者発表会で語られた内容をまとめました。
2024年10月17日、イタリア・ミラノで開催されるIAC 2024にて「Promoting Earth’s Sustainability: Insights from Space by International Astronauts(地球の持続可能性の促進: 国際宇宙飛行士による宇宙からの洞察)」と題された15名の宇宙飛行士が集う記者発表会が開催されました。日本人宇宙飛行士としては、若田光一さんと野口聡一さんが参加されていました。
1時間におよぶ貴重なQ&Aセッションで大盛り上がりだったため、すべてを本記事で紹介することはできませんが、現地で印象に残ったポイントを3つに絞り、本記事でご紹介します。
(1)“まだ”美しい宇宙。だが、徐々に危険な変化をしている
記者発表会において、モデレーターからの最初の問いかけは「宇宙飛行の経験の中で、気候変動の影響による地球の表面や大気の明らかな変化を観察したことはありますか?」でした。
この質問に対して、最初の回答は、2005年に最初に宇宙飛行しており2005年、2020年と3回の宇宙飛行を経験されている野口さんでした。
野口さんは「宇宙はまだ美しいが、最初の宇宙飛行と比較して徐々に極地の氷河が溶けていることが明確に見えている。これは危険な兆候であり、私たちは地球規模の沸騰状態にある。そして、私たちは素晴らしい地球環境を大切にしなければならないというサインである」と話しました。
また、地球の変化について、もう一人印象的な変化を教えていただいたのはESAの宇宙飛行士、Luca Parmitanoさんでした。Lucaさんは2013年と2019年の2回、宇宙飛行の経験があります。
Lucaさんはアマゾンの森林について以下のように話しました。
「2013年、森の写真を撮りながら上空を飛んでいました。飛行時間は約4分です(ISSは約90分に1回地球を一周します)。それくらい大きいんです。信じられない光景です。それは常に濃い緑のカーペットでした。眼下に広がる広大な森を見るのは、喜びと安らぎの美しい感覚を与えてくれました。しかし、そのわずか6年後、私が見たのは全く異なる環境でした。私たちの視界に次々と現れ続けた火事とは別に、人為的な火が森の木々を一掃し、牧草地のためのスペースを作るために作っていました。」と話します。
ただし、森林が開拓されて牧草地が広がることは必ずしも悪ではありません。その点も踏まえて以下のコメントを続けました。
「私たちに悪意があり、ただ森を燃やしたいだけなわけでもありません。ニーズがあり、地元の人々がどこかで見つけなければならない資源は必要です。例えば私達がヨーロッパ諸国で成功しようとすれば、世界の他の場所にも影響を与えてしまいます。また、同様に私たちの選択、私たちの日常の選択、何を食べるか、何を選ぶか、何を着るか、何の交通手段を使うかは、他の場所に影響を与えます。
そして、選択によっては、人々をどこか別の場所に追いやり、資源を使い果たし、千年前の森を焼き払って牧草地を作るようにし、私たちが脅威にさらされる可能性があるのです。
ただし、今を生きる人たちは選択をすることができます、この惑星の資源がよりよく分配されることを可能にする選択をすることができます、そうすれば、他の場所の人々が彼らの選択をし、私たちの惑星をすべての人にとって美しく保つことができます。
地球はかつて緑でしたが、今後、氷河が溶けると水の量が増え、青が多くなるでしょう。少しだけ考えてみてください。どうすればいいんでしょうか。毎日何ができますか?小さくても何ができるのでしょうか?小さなアクションでも良い結果が生まれます。」
この発言の後、記者発表会では自然と拍手が生まれていました。その場にいた私は地球の変化を直接見た宇宙飛行士の皆さんからの体験を直接聞くことができたため、とてもラッキーだったように思います。北極海の氷が溶けていることは衛星データを見れば確認ができますが、実際に人間が宇宙に行って見ること、それを発信していくことの重要性を感じました。
一方で、衛星データは誰でも、すぐに地球の状況を確認できるものであり、時には危機感を持てる有用なツールでもあると考えています。「衛星データをより宇宙飛行士のみなさんの体験に近づけるためにどのような工夫ができるか?」という質問を用意していたのですが、残念ながら記者発表会では質問タイムがないほどの大盛り上がりでした。また機会があれば宇宙飛行士の皆さんに質問をしてみたいと思います。
(2)イタリアで設計・製造された宇宙の窓「キューポラ」の功績
また、イタリアで開催されたこともあり、イタリアの企業であるAlenia Aeronauticaが製造・設計を行った宇宙の窓「キューポラ」についても「キューポラによって宇宙飛行士の地球を見る意識に変化がありましたか?」という質問がありました。
この質問に対しても最初の回答者は野口さんでした。野口さんは2010年にキューポラを設置したことに触れ「キューポラは宇宙飛行士のマインドを大きく変えた」「キューポラは地球への共感です(Cupola is empathy with Earth)」と話します。
「ただ地球の観測窓というだけではありません。特に初めて宇宙飛行をした宇宙飛行士のほとんどがキューポラに入り、涙を流しながら地球が自転するのを見ています。それほど感動的なものです。これは小さな窓から見たり、写真を撮ったり、気候を分析したり、単にシーンを見たりすることではありません。キューポラは地球に共感し、私たちはこの美しい地球を大切にしなければならないと考える。これはイタリアにとって大きな成果です」と続けました。
また、キューポラについて、もうひとりご紹介したい宇宙飛行士のコメントがあります。それは、アラブ首長国連邦の初の宇宙飛行士であるHazza Al Mansouriさんです。Hazzaさんは次のようなコメントをしました。
「最初は自分の家や街、そして海や山を探して自分の国を探すのですが、自分の国を認識するための国境がないことに気づきます。
そして、昼間に地球を見ていると、ここの星には居住するのが難しい、この地球に人間はいないと思ってしまうほどです。
ただ、夜になると、これらの都市の光が輝き始めます(ISSでは地球を1周する約90分の間に昼と夜があり、45分ごとに昼夜が逆転します)。ドバイの場合は、パーティーや私が作った島を見ることができます。それはただ驚くべきことです。
今は700人に満たない宇宙を経験した宇宙飛行士がおり、宇宙で地球を見るという特権を身に付けました。それは全世界80億人と比較するととても小さな数字です。宇宙に来た私たち全員がここにあるものに感謝して、次の世代のために私たちのために保持しなければならないものであることを認識しています。」
今、宇宙に行ったことがある宇宙飛行士は全人類の約0.00001%。地球に共感すること、国境がないと理解すること……キューポラは宇宙飛行士にとってもとても大きな経験を提供し、そしてその後の宇宙飛行士の皆さんが次世代のために今もなお発信や活動をされている動機にもつながっているようにも感じました。
ロケットでISSに行ってから宇宙に行き、キューポラに到達して90分間地球を眺められる(できればリアルタイムで同期しているもの)ようなVRアプリが出たら真っ先に購入したいと思いました。
(3)「昨日のコーヒーは明日のコーヒー」宇宙のための研究はどのように地上に役立てられるのか
最後に興味深かったQ&Aのテーマは「宇宙ミッションの技術開発は、地球の持続可能性を向上させるためにどのように活用できるのか」「地球の利益のために、宇宙での研究はどのように重要なものとなるのか」という地球⇔宇宙の相互の関係について問われた2つの質問です。
まず、地球の持続可能性につながる宇宙技術として例にあげられたのは、水の再利用です。最初に回答したのはオーストリアで医師としての肩書も持つバックアップ宇宙飛行士としてミッションを待つCarmen Possnigさんでした。
Carmenさんは南極基地での勤務経験があり、そこでの水の再生利用装置について、以下のように話しました。
「南極の遠隔基地やISSでは、水を節約する必要があるため、できるだけ多くのリサイクルを試みています。フランスで開発されたシステムは、南極で機能しており、私たちが使用する全べの水の90%以上をリサイクルしています。
南極大陸には非常に手付かずの環境があり、非常に壊れやすいので、できるだけ保存したいと考えているため、廃棄物をできるだけ少なくしています。
そしてもちろん、この水のリサイクルシステムは宇宙で使用でき、南極大陸だけでなく、人々が非常に困難な状況で生活している地球の遠隔地でも使用できます。例えば、ナイジェリアのサハラ砂漠の地域から、水がほとんどない地域まで、同じシステムが現在使用されています。
このシステムは、一度インストールすると非常に使いやすく、人々は今よりも良い条件でそこに住むことができます。そしてもちろん、火星に行くときも、すべての望む食料を摂取することはできませんし、必要なすべての酸素と水を持っていくことはできません。
現在、多くの研究者が火星での循環型、循環型経済の生き方に取り組んでいます。そのため、現場で見つけたもの、土壌や空気からすべての資源を取り出し、現場で生き残るために必要なものを生産しようとしています。」
宇宙という極限環境での水再生装置のアップデートは、今、水不足で困っている地上の人たちにとっても非常に重要なシステムとなります。また、今後ますます地球における水不足の問題が深刻化することが予想される昨今において、地球の持続可能性を保持する上で必要な技術と言えるでしょう。記者発表会では「昨日のコーヒーは明日のコーヒー」という宇宙飛行士ならではのあるあるジョークも紹介されました。
ちなみに、水再生装置については、日本では栗田工業という会社が取り組んでおり、ISSでの実証も終えています。先日宙畑でも取材をしましたのでぜひ記事を楽しみにお待ちいただけますと幸いです。
また、宇宙での研究における地上転用について、若田光一さんも事例を紹介されていました。それは、宇宙空間の過ごし方が生物学的にどのように人間の健康維持に関連するかを左右しており、その研究結果は特に日本のような高齢社会においてとても重要だというものでした。
「宇宙や無重力では、そこで長時間過ごすと骨密度が使われ、筋肉が萎縮するため、克服しなければならない課題がたくさんあります。
このような問題を避けるために、宇宙飛行士は毎日約2時間、ISSで運動しています。また、骨量減少対策として使われる薬の被験者としても私は幸運なことに参加できました。
現時点では、ISSにある非常に効率的な運動器具のおかげで、骨量の減少を避けることができたと思います。
そして、このような技術や知識、そして宇宙応用で考え出した対策は、地上での応用にも活かすことができます。日本は、私を含め、高齢化社会の国の一つです。適切な食事、適切な運動、適切な睡眠、これらとこの有人宇宙探査を通じて開発された薬の組み合わせがあれば、より多くの利益を得ることができます。」
宇宙飛行士の仕事は、宇宙上で様々な実験をしたり、ISSの維持をしたりといったことだと思っていましたが、自身の身体さえも研究対象として未来の科学発展のためにささげられているのだなということにあらためて気づかされました。
以上、今回1時間にわたる記者会見のすべての内容をお伝えはできませんでしたが、現地に参加したものとして印象に残ったことを抜粋してお伝えしました。
記者会見全体を通して、宇宙飛行士は地球を誰よりも俯瞰的に見ることができて、地球という一つの惑星の変化を自分事として感じることができる職業であること、また、その経験を持って次世代への投資のために今もなお活動を続けられていることを強く実感しました。
宇宙飛行士の皆さんは様々な場所で今回語られたような地球規模課題への挑戦や宇宙で実感されたことの発信を続けられています。メディアや衛星データを通して地球の今を実感することと、宇宙飛行士の皆さんから直接お話を聞くことは大きな違いがあると思います。ぜひ宇宙飛行士の皆さんの声を直接聞けるようなイベントがあれば積極的に参加してみてください。