RESTEC、全日空商事、MUFGに聞く、衛星データ利活用のポテンシャル:神奈川県・衛星データ利活用プロジェクト推進事業【PR】
神奈川県が2025年度から開始した「衛星データ利活用プロジェクト推進事業」、メンターを行っている3社にそれぞれの取り組みの意義や期待を伺いました。
神奈川県は2025年度から、衛星データを活用した新たなビジネスモデル創出や県内産業の活性化をめざす「衛星データ利活用プロジェクト推進事業」を進めています。
「衛星データ」は、「衛星観測データ」と「衛星測位データ」の両方が対象となっており、1プロジェクト当たり最大600万円の支援を行うことが発表されていました。
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採択結果は以下の3件。経費の一部補助や専門家(メンター)による支援が行われています。
・衛星×AIによる遊休農地探索プロジェクト(スペースシフト、インフォマティクス)
・変位解析によるインフラ管理ソリューションの現地実証プロジェクト(スペースシフト、日揮グローバル)
本記事では、各プロジェクトに伴走するメンター3社へのインタビューを通じて、取り組みの意義やビジネスモデル創出への期待を伺いました。
(1)農産物の1か月先の価格を予測
メンター:リモート・センシング技術センター(RESTEC)奥村 俊夫さん
「衛星データと予測AIが拓く、『かながわブランド農産物』の未来価格予測AI-Hamster-開発プロジェクト」(以下、価格予測プロジェクト)は、衛星データで作物の生育状況を把握し、AI技術と組み合わせることで、農産物の未来の市場取引価格を高精度で予測できる新サービス「AI-Hamster-」を開発する取り組みです。
神奈川県は三浦大根やキャベツといったブランド農産物の産地です。AI-Hamster-は、まずは神奈川県内の給食センターや病院で活用され、その後は全国の食品関連事業者へと展開していく予定とのこと。
価格予測プロジェクトのメンターを務めるリモート・センシング技術センター(RESTEC)は、リモートセンシング技術の開発・普及を目的に1975年に設立された財団法人です。これまでJAXAによる衛星開発の支援をはじめ、衛星データの受信・処理、校正検証、データの配布や解析技術の研究開発、幅広い業務を担ってきました。近年は民間の衛星プロバイダーも増加しており、そうした企業とも連携しながら、リモートセンシング技術を社会に役立てるための各種ソリューション提供にも取り組んでいます。
RESTECは、農業分野での衛星データ利活用にも早くから力を入れ、農林水産省をはじめとする機関と一緒に、衛星データを使った作物収量の予測に取り組んできました。RESTECの奥村 俊夫さんによると、農水省が衛星データを導入して米の収量予測を始めた際にも、RESTECが事業者として予測モデルの開発に取り組んだそうです。今ではその仕組みが全国で使われるようになり、民間向けには米以外の作物に広がっています。
では、そのような前例がある中で、今回のプロジェクトにはどのようなチャレンジ要素があるのでしょうか。実は、衛星データだけで農作物の価格を予測できるわけではありません。衛星で確認できるのは作付面積や生育の様子まで。価格を見通すためには、市場の動きや統計データ、AIによる分析など、別の種類のデータや技術が欠かせません。
短期的な価格や収量については、農林水産省が明日の市場価格予測の速報値を公表していますが、衛星データはより長いスパンの予測が期待されています。奥村さんは「1か月以上先の(作物の)価格がどう動きそうかが分かれば、生産者や流通に関わる人たちをはじめ、ビジネススタイルを変えられる人が世の中にはたくさんいるはずです」と話しました。
神奈川県内の企業や団体による衛星データ利活用のポテンシャルについて伺うと、最新の技術に挑む企業から、長年の経験と専門性を持つ老舗企業まで、多様なプレーヤーが集積していて、利用者側も提供者側も裾野が広く、母数そのものが多い地域であることが強みだと話しました。
神奈川県の衛星データ利活用プロジェクト推進事業は2025年度が初年度ですが、奥村さんは「この種の事業は継続してこそ価値が出る」と指摘します。
最後に奥村さんは、企業や自治体とともに市場を広げていきたいと話し、次のようにメッセージを寄せました。
(2)遊休農地の約60%を自動で判定
メンター:全日空商事(ANATC)鬼塚 慎一郎さん
「衛星×AIによる遊休農地探索プロジェクト」(以下、遊休農地探索プロジェクト)は、農地の活用状況の分かる衛星画像データを活用し、AI技術と組み合わせることで、遊休農地の可能性を可視化することのできる遊休農地探索サービスを開発する取り組みです。
遊休農地とは、かつて農地として利用されていたものの、長期間耕作されておらず、再び耕作される見込みもない土地を指します。農業従事者の高齢化などを背景に増加傾向にありますが、放置すると害虫や害獣の発生源になる恐れがあるほか、固定資産税の扱いや地域の税収にも影響が及ぶことがあり、社会課題となっています。
遊休農地探索プロジェクトのメンターを務めるのは、ANAホールディングス(ANA)のグループ会社の全日空商事(ANATC)です。
ANAグループは2016年に宇宙の取り組みをスタートさせ、衛星データやスペースポートなど幅広い領域に事業を展開してきました。ANATCは、商社として、日本の宇宙産業に貢献できることを常に模索しているとANATCの鬼塚 慎一郎さんはいいます。日本では大企業にリソースが集中しがちで、スタートアップ企業が必要な環境を整えるのは簡単ではありません。そこでANAグループの総合力やものづくりからサプライチェーン、リスクマネジメントまで、ビジネスを動かすための多様な手法を生かし、スタートアップ企業の挑戦を後押ししたい考えです。
またANATCは、海外でバナナ農園を運営するなど農業分野にも事業を広げており、店頭で見かけるバナナの中には同社が手がけたものも多いといいます。航空宇宙とは一見かけ離れているように見える農業ですが、ANATCにとっては決して遠い分野ではなく、むしろこれまで培ってきた経験を活かせる領域だと鬼塚さんは話します。
遊休農地の確認は、これまで自治体職員が一軒ずつ現地を訪れて行ってきました。今回の遊休農地探索プロジェクトでは、衛星画像から草の伸び方や管理の有無といった地表の変化を読み取り、遊休農地の可能性をスコア化して判定します。企業が持つノウハウをもとに特徴を整理し、地図と連携して色分け表示できるようにしたことで、広い範囲をまとめて把握できるようになりました。全体の6〜7割ほどを自動で判定できる見込みで、これまで人手に頼ってきた調査の負担を大きく減らせると期待されています。
続けて、鬼塚さんに衛星データ利活用のユースケースとして、特に注目している分野はどこかを伺うと、「海でしょう」と即答しました。神奈川県は長い海岸線を抱え、港湾、洋上風力など海と接する産業やインフラが多く存在します。衛星データを使えば、広い範囲を一度に見渡し、海と陸の境界領域で何が起きているのかを把握することができます。こうした海域の観測は、日本発のソリューションの海外展開にとっても大きなチャンスになり得ると鬼塚さんはいいます。
また、神奈川県のように都市部から農地、工業地帯、山間部まで多様な地形を抱える地域では、衛星データの使い道はさらに広がります。鬼塚さんは、空き家や災害リスクといった身近な地域課題にも衛星データが生かせる可能性があると指摘します。山林や中山間地域では地表の水分量を把握することで土砂災害の兆候をつかめる可能性があり、「神奈川に隣接する静岡の熱海で起きた土砂崩れのような事例を、少しでも早く察知する体制が整えば、人災を防げるかもしれない」と語りました。
(3)労働力不足の課題にこたえる、インフラ管理
メンター:三菱UFJ銀行(MUFG)サステナブルビジネス部宇宙イノベーション室 橋詰 卓実さん
変位解析によるインフラ管理ソリューションの現地実証プロジェクト(以下、インフラ管理プロジェクト)は、同一地点を繰り返し撮影した衛星画像を解析し、港湾や鉄道などのインフラ設備に生じる小さな変化を捉え、状況を把握できるアプリケーションモデルの開発に取り組んでいます。
メンターを務めるのは、三菱UFJ銀行(MUFG)サステナブルビジネス部・宇宙イノベーション室です。MUFGグループは総資産が日本の国家予算を上回る規模を持ち、その影響力の大きさから社会課題の解決につながる先端技術への取り組みを進めてきました。なかでも宇宙分野は1960年代から調査やファイナンスを続けてきた領域だといいます。同室の橋詰 卓実さんは、金融機関で宇宙に特化した組織を持つ例は世界的にも珍しいと話します。MUFGでは、長年の知見を生かしながら、投資や融資の設計、関係省庁等との意見交換などを通じて宇宙関連企業の支援にも力を入れています。
衛星の利活用もその中心にある領域のひとつです。位置情報、通信、地球観測など領域は多岐にわたりますが、橋詰さんは「地上での活動と結びつけて価値を生みやすい分野」として特に注目していると話します。実際MUFGはすでに衛星データを活用しており、関連企業への投資や、衛星データサービス企画(SDS)社への出資などを通じて、国内外のインフラ設備の管理・検証にも利用しています。
長年宇宙産業に携わってきた橋詰さんは、ここ数年で衛星データの価値が一段と高まっていると感じているといいます。データの種類が増え、データを取得できる頻度も上がり、技術的に使いやすい環境が整ってきたことに加え、社会側のニーズも追い風になっています。日本では労働力不足が深刻化しています。「人の手が減るほど、代替手段として衛星の役割は大きくなります」と橋詰さんは話します。
今回のプロジェクトテーマでもある衛星を使ったインフラ管理の省力化について伺うと、「日本では『まずは小さく』という発想になりがちですが、それでは投資コストを回収できません。むしろ広域で取り組む方が衛星データの価値が発揮できます」と橋詰さん。コスト削減の効果はケースによって大きく変わるものの、一般的には、広範囲を対象とするほどメリットが増します。特に海外インフラの現地確認に衛星を活用するケースでは、その利便性がより分かりやすいといいます。
また、衛星データと組み合わせる技術としては、橋詰さんはAIと地上センサを挙げました。特に企業が独自に蓄積してきたデータは、外からは見えない『暗黙知』として強みになるといいます。
神奈川県のプロジェクトへの期待を伺うと、同県が都市・工業・農業・海山など多様な環境を持つことが、インフラ管理技術の実証に適した点だと語ります。
最後に、衛星データ活用に関心を持つ企業や自治体へのメッセージを尋ねると、橋詰さんは次のように答えました。
(4)神奈川県ならではの多様な衛星データ利用実証
今回、神奈川県の「衛星データ利活用プロジェクト推進事業」に採択された3つのチームについてのインタビューを紹介しました。
宙畑で本事業について紹介した記事「1プロジェクト当たり最大600万円の支援!神奈川県の衛星データ利活用プロジェクト推進事業始まる」では、神奈川県の土地利用について以下のように紹介していました。
宙畑編集部としては、スマートシティ化を進めるにあたっての衛星データ利用アイデアが集まるのではないかと考えていましたが、今回採択されたアイデアはどれも、その予想を上回る、神奈川県ならではの3者3様のアイデアであった点が、非常に興味深いポイントでした。
神奈川の名産品を対象とした農作物の1か月先の価格予測、さまざまな土地利用がされている神奈川県だからこそのインフラ管理や地物(まずは遊休農地から)……今回の成果が非常に楽しみなプロジェクトが採択されました。

