宙畑 Sorabatake

ビジネス事例

明日の天気予測で何屋が儲かる? POSデータ×衛星データへの期待

風が吹けば桶屋が儲かる。気温が上がればホットコーヒーが売れる。では、何度から売れ始めるの?

いつの間にか入れ替えられている「あたたかい」飲み物 Credit : sorabatake

10月に入って急に寒くなったかと思えば夏日を記録したりと、天気に振り回される今日この頃。

IBMが気象データを利用したビジネスに本格的に参入したということをご存知の方も少なくないでしょう。

IBMも注目する気象サービスの市場規模、そして天気予測とビジネスは実際にどんな関係があるのか。

気象庁発表の事例から「気温が売れ行きに影響する商品」の一例をピックアップし、最後に気象衛星データ以外の衛星データでも何かできるのではないか、という期待について本記事でご紹介します。

(1)気候リスクとは

普段あまり意識することが無いかもしれませんが、気象は農作物の生育だけでなく、暑い日がすぐ終わってしまうとアイスの売上低下、暑い日が続くと秋衣料の売上低下など、様々な産業に影響を与えます。言い換えれば、様々なビジネスが気候によって影響を受けるリスクを抱えている。それが、気候リスクです。

おそらく天気予報も何もなかった時代においてはリスクなのはわかっているけれどどうしようもないもの……だったものが、天気予測の精度が上がり、ネット技術が発達したことで、気象リスクを逆手に取れるのではないか?と関心が高まっています。

たとえば、明日明後日の気温が下がるのであれば、アイスの仕入れを抑え、ホットコーヒーを多めに仕入れる、店頭POPを予め作成しておくなどはイメージしやすいかもしれません。
※(5)天気予測を用いた在庫予測精度アップで売上に貢献!で具体例をご紹介しています

 

(2)気象サービスの市場規模は6000億円以上!?

気象サービスの市場規模はどの程度あるのかというと、株式会社ウェザーニューズが出している「2019年5月期 第1四半期決算短信」によれば、6000億円以上と想定されています。

さらに、この市場規模については気象リスクへの関心の高まりとネット技術の発展によって、今後も成長を続けるとウェザーニューズは見込んでおり、今後の伸びに期待が高まります。

では、実際にどのような産業(商品)が気象リスクを受けるのか、分かりやすい事例を気象庁がいくつか発表しているので、ピックアップしてご紹介します。
※すべての事例において、実際には商品を置き始めたタイミングでもある可能性があるため、絶対にそうだとは言えないかもしれません

 

(3)気温が下がると売れる商品

まずはこれから本格的な冬に入るにつれて売り上げが伸びる商品を気象庁の調査から3つご紹介します。

・石油ファンヒーター

Credit : 気象庁

まずは石油ファンヒーター。上の散布図を見ると一目瞭然ですね。気温が低くなるについれて販売数が増えていることが分かります。

1月、2月の気温が低いものの、販売数が伸びていないのは、12月の時点で今年石油ファンヒーターを必要とする人はほとんど購入してしまったからと予想されます。

※参考
気候リスク管理技術に関する調査(家電流通分野)

 

・ホットコーヒー

Credit : 気象庁

次にホットコーヒーの事例。販売数は22℃を下回るまではほぼゼロで、気温の低下に伴い増加することが分かります。

※参考
気候リスク管理技術に関する調査(清涼飲料分野)

・ニット

Credit : 気象庁

最後にレディースニットの販売数と平均気温の関係。気温トレンドの下降に合わせて販売数は伸びていき、平均気温がおおむね27℃(最低気温24℃)を下回る頃から販売数の伸びが大きくなっていることが分かります。
※実際には商品を置き始めたタイミングでもある可能性があるので、一概にそうだとは言えないかもしれません

※参考
気候リスク管理技術に関する調査(アパレル分野)

 

(4)気温が上がると売れる商品

次に、気温が上がると売れる商品についても気象庁の調査から、その一例をご紹介します。

・サンダル

Credit : 気象庁

まずはサンダル。サンダルは春先に売上を伸ばす商品で、平均気温が15℃を上回る頃から販売数の伸びが大きくなることが分かります。年によってそのタイミングに1か月近く差の生じることがあるようです。

※参考
気候リスク管理技術に関する調査(アパレル分野)

・経口補水液

Credit : 気象庁

次に猛暑が続く昨今、最近その名前をよく聞くようになった経口補水液。図を見ると経口補水液の販売数は昇温期に平均気温が23℃を超える頃に急増していることが分かります。

※参考
気候リスク管理技術に関する調査(ドラッグストア産業分野)

・ファミリーアイス

Credit : 気象庁

最後にみんな大好きファミリーアイス。2018年は「アイスボックス(森永製菓)」「サクレ(フタバ食品)」といった氷系アイスが生産が追いつかないと報道があり話題になりましたね。

ファミリーアイスの販売数は気温が高いほど増え、昇温期(2~7月)には平均気温が15℃を超える頃から販売数が伸びています。

さらに、平均気温が25℃を超えると販売数が急増するだけでなく、昇温期(2~7月)・降温期(8~1月)に限らず販売数がかなり多くなっていることが分かります。

※参考
気候リスク管理技術に関する調査(スーパーマーケット及びコンビニエンスストア分野)

 

(5)天気予測を用いた在庫予測精度の向上で売上を伸ばす!

気温が下がると売れ始める商品、気温が上がると売れ始める商品をご紹介しましたが、おそらく読者のみなさんにとっては「そんなの当たり前じゃないか」という商品ばかりだったかと思います。

ただ、ここで重要なのは販売数が変化する気温は何度なのかまでわかっているということです。この気温がわかっていると、仕入れの個数や自動販売機のホット飲料の入れ替えタイミングなどを最適化することで売上を伸ばすことができます。

たとえば、以下の自動販売機の事例(気象庁の調査)をご覧ください。

Credit : 気象庁

これは、東京都内の屋外自販機31台を選び、①ホット飲料への切り替えが10月17日以前だった15台と、②10月18日以降だった16台の二つのグループに分けて、ホット飲料とコールド飲料の販売数を比べたグラフです。

緑の線で示した平均気温がぐぐっと下がった10/15以降、うまくホット飲料の販売を開始できた自動販売機はコールド飲料の売上が下がった分をホット飲料で補填できています。

一方で、切り替えが遅かった自販機グループはホットの売上が伸びず、前の週の半分以下の売上になっています。

これはほんの一例ですが、家電量販店の場合でも、「仕入量の決定、変更」「売り場での販促資材(POPなど)の掲示」「売り場での商品の展示規模の拡大、展示位置の変更」「人員配置の調整」など、様々な点で売上を伸ばす施策を実施できることが容易に想像いただけると思います。

※参考
気候リスク管理技術に関する調査(清涼飲料分野)

 

(6)POSデータ×衛星データへの期待

さて、宇宙ビジネスメディアである宙畑がなぜ天気ビジネスの話題を取り上げているかというと、今回ご紹介した事例のように、POS(販売時点情報管理)データ×衛星データが今後興味深い事例をたくさん作っていくのでは?とワクワクしているからです。

衛星データで分かることの概観 Credit : sorabatake

衛星データは、一般的に気象情報として提供される雨雲の位置はもちろん、衛星によっては、二酸化炭素濃度や地表面温度、植物の有無といった様々な情報を私達に教えてくれます。

※衛星データで分かることについては「衛星データのキホン~分かること、種類、頻度、解像度、活用事例~」をご覧ください

たとえば、路上の温度データを衛星から把握し、自販機が設置してある場所の温度データから、ホットとコールドの入れ替えの最適化もできるようになるかもしれません。

また、気温xPOSデータの相関性に加えて、衛星から取得できる特定の植物の分布データxPOSデータで花粉症関連商品との相関性が見つかる、衛星から取得できる大気の二酸化炭素濃度データxPOSデータで特定商品との相関性が見つかる、といった可能性があるのです。

需要予測の精度が上がるということは、店舗側の売上が上がると同時に、いち消費者としても、花粉症がひどくて薬局に駆け込んだときに欲しい商品が売っていない、売り切れ……という残念な体験を避けられるという生活体験の向上にもつながります。

「今欲しい」がECサイトでは配達の期間だけタイムラグが生まれてしまいますが、近くのお店で売っていればその願いをかなえることができます。

限られたリアル店舗の棚に何を置くのか。今後POSデータと衛星データ含む様々なデータの掛け合わせによってお店側と生活者双方の幸せにつながることを期待するばかりです。

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