宙畑 Sorabatake

宇宙ビジネス

もしも住宅情報のプロ「LIFULL HOME’S」が衛星データを使ったら 住まい探しの新時代が到来する!?

戸建て、マンション、賃貸、別荘……私たちの住環境を支える企業のデータ活用について宙畑編集部が突撃取材! 衛星データ活用のヒントもいただきました。

ビッグデータというバズワードが飛び交うその裏側で、膨大な量のデータの荒波をどのように乗りこなせばよいのかが分からない……ましてやデータを活かして事業を成功させるとなるとさらにハードルが。

そんな思いを胸に、宙畑編集部が気になる企業を突撃する本連載「データ迷子からの脱却! ビッグデータ時代のデータ活用術を探る」の第2弾です。今回は、“したい暮らしから、部屋を探そう。”をコンセプトに不動産・住宅情報サイト「LIFULL HOME’S」を運営している「LIFULL(ライフル)」へ。

なんと扱っている物件数は、国内418万9,015件(※)にのぼります。膨大な物件情報を扱う舞台裏では、はたしてどのようなデータが使われているのでしょうか? 合わせて、住まい探しで衛星データが必要とされる可能性もディスカッションしてきました。

(1)春といえばお引越し!物件検索界の巨星のもとへ

春はお引越しのピークシーズン。理想の住まいを探せるサイトはたくさんありますが、とりわけ新しい物件探しのスタイルを打ち出しているのが「LIFULL HOME’S(ライフルホームズ)」です。

エリア、家賃、広さといった従来の検索機能はもちろん、「#快適なネット生活が送りたい」「#服に囲まれたい」といったハッシュタグでも物件を検索できるなど、ユニークな仕掛けもいっぱいです。

400万以上にのぼる膨大な物件情報を整理し、ニーズに応じて魅力的に見せるワザはきっとデータ活用の賜物。その現場から衛星データ活用のヒントを学ぶべく、宙畑編集長・中村がサイトの企画・運営を行う「LIFULL(ライフル)」本社へ。株式会社LIFULL CDO 野口真史さんにお話を伺いました。

株式会社LIFULL CDO LIFULL HOME’S事業本部 マーケティング戦略室長の野口真史さん。同時にデータ戦略室長も兼任。

(2)理想の暮らし方から物件を探せる「タグ検索」を導入

中村こんにちは。今日は御社のデータ活用のお話を聞きにきました!

野口弊社でデータを使う分野といえば、やっぱり物件情報の「検索」がメインですね。あとは、広告やマーケティングの領域でAIを絡めて活用することが多いです。

中村物件の探し方って変化してますか?

野口現在も基本的には「スペックから探す」の探し方が主流ですね。エリア、家賃などから絞り込んでいく検索方法です。

中村ぼくが探すときもそうですね。すっかりおなじみ。

野口でも、スペックだけではなく、「したい暮らし」からも家を探せると楽しくない? という発想で始めたのが「タグ検索」です。

中村「#服に囲まれたい」「#桜が見たい」「#建具がイエロー」「#セキュリティ対策」。ユニークですね。どなたがタグを決めるんですか?

野口タグの内容については社内で企画しています。「こういうタグを作ったら使ってもらえそうだよね!」というアイデアを出して、実際に物件を検索して、ちゃんとボリュームがあるかどうかを調べながら増やしています。

中村考えるのが楽しそうですね。「使ってもらえそうなタグ」のアイデアはどこから?

野口たとえば、LIFULL HOME’S内のサービス『LIFELIST(ライフリスト)』の記事への流入キーワードや物件を探すときのフリーワード検索でよく使われるワード、ほかはグーグル検索のクエリなんかを参考にしています。

中村なるほど! フリーワード検索なんかは特に、まだ顕在化されていない、潜在的なニーズをつかめそうですね。ちなみに、この「タグ検索」導入の前後で、トラフィックに変化はありましたか?

野口CMなどプロモーションにも力を入れているので、タグ検索だけの影響はわかりづらいのですが、タグを経由して不動産会社さんへの送客が数多く発生しています。好評ですよ!

(3)経営の意思決定精度を高めるデータ活用と展望

野口今、私自身がよく見ているのは「検索ログ」ですね。面白いんですよ。「ユーザー側のニーズ」と「今LIFULL HOME’Sのサイトに載っている物件情報」との需給ギャップがデータとしてよく見える。

中村というと?

野口たとえば「ユーザー数>コンテンツ(物件情報)数」というようなギャップがある場合は、コンテンツを増やしたい。そのためには、少しでも多くの不動産会社様に協力を仰ぐことが優先事項になります。逆に「ユーザー数<コンテンツ(物件情報)数」になっている場合は、ユーザーを獲得したい。そのための手段の一つが広告だったりします。

中村組織的な戦術としてのデータ活用ですね。

野口データを解析することで、経営の意思決定の精度を高めていくことこそ、私が今取り組んでいるミッション。いわゆるデータ・ドリブン経営です。ただ、自社にデータがまだまだ少ないと感じています。

中村データが少ない?

野口LIFULL HOME’Sは「すべての不動産取引がオンラインで完結する環境の整備」を目標に掲げています。サイトとしても、ユーザーの体験を優先するため、特にユーザーの情報を行動ログ以外は取得などはせずにサイトを使える設計にしていました。

中村つまり、ユーザーの属性データは御社で所持されているワケではない。

野口そうなんです。最近はサイトを改修しながら、外部データと連携して、ユーザーのことをより深く理解するためのデータを集めています。

中村おお! 情報を加工したり、推測したりする技術はAIによってどんどん進化していますからね。ついに足りなかったピースが埋まり始めた、と。

野口はい、これからどんな成長を遂げられるか、ぼく自身とてもワクワクしています。

中村それは楽しみですね! 精度高くユーザーニーズをつかめるようになったら地方行政や文部科学省あたりに「どこに小学校を作ると需要があるか」といった提案もできそう。

野口確かに。物件のデータは、集まればそれがそのまま街の情報になっていきます。その場所に引っ越そうとしている人の情報は、まさに一種の人口動態。行政や他業種とそうしたデータを連携して、さらに住みよい社会や街を作っていけたら面白いですね!

(4)住まい探しにおいて、衛星データがお手伝いできること

中村ここで、物件検索におけるデータ活用を長年やってこられた野口さんにお願いがあります。

野口はい。なんでしょう?

中村ぼくたちの住まい探しがもっと便利に、楽しくなるような衛星活用のアイデアを一緒に考えてください!

野口人工衛星って衛星写真のイメージしかないなぁ……。衛星ではどんなデータを取れるのでしょうか?

中村物件情報に絡みそうなデータでいうと、次のようなものが取れます。

・地表面の温度
・土砂崩れの位置
・黄砂の飛散状況
・浸水地域
・海抜
・災害のリスク判定
・夜間光
・建築状況

野口なるほど、幅広いですね! ちなみに、衛星ならではの利点を教えてください。

中村最大の利点は、「“点”ではなく“面”で、一度に広い範囲を見られる」こと。情報更新の頻度も、毎日、あるいは長くとも1ヶ月に1回は更新されます。

野口いいですね。この中だと、私が気になるのは「建築状況」です。広範囲の建築状況がわかるなら、「日本全国の物件の把握」というミッションにぴったりかも。上空から新築物件を見つけ出せるってことですよね?

中村できると思います! もともと地面だったところに家が建つので、衛星から取れるデータから新築物件や新しい施設、逆に焼失した不動産も判断できると思います!

中村「点」じゃなく「面」で捉えるという点を活かすなら、その街だけの特性をとらえるのも一つ。例えば、夜間光が少ない街なら「#星が見える街」と言えますよね。

野口あっ、そういう意味では、衛星データの力があればもっと進化できるかもしれないことが一つあります。

中村教えてください!

(5)「騒音」や「日照」もスペックとして検索できる時代へ!

野口実は今、環境センシングに注目しています。

中村環境センシング?

野口物件の中に、「騒音」や「日照」に関するセンサーを置いて、そこで取得したデータをスペックとして見せる取り組みを始めています。

家を探すとき、「音」と「光」のスペックは客観的に表現されていません。一般的に「気に入った物件があったら、昼と夜、それぞれ見に行きましょう」「自分で体感しましょう」と言われていました。でも、もうそろそろそういう時代は終わらせたいと考えています。

中村実証実験は始まっているんですか?

野口はい、約20件の空き物件の屋内にIOTセンサーを設置して実験しました。実際に数値を取ってみると、例えば騒音については平日と週末はしっかりと差が出ていました。きっと交通量の差だと思います。

センサーによってとれた数値は、不動産会社の営業の方の体感値とも合致していましたから、実験はおおむね成功といえます。ただ、大変な労力とコストがかかりました……。

中村その点は衛星がお手伝いできるかも! 地上データとの組み合わせや検証は必要ですが、日々の車の交通量変化を推測できるので、騒音の推測に役立ちそうです。道路から物件までの距離もわかりますよ。

野口そこに物件の建物の向きや窓の位置といった情報も加われば、どのくらいの騒音が来るか予測できます。もっといえば、窓のスペックによってどのくらい防げるかもきっと計算できる。

中村さらに、悪い環境条件だけでなく、物件の位置や窓の方向がわかるなら「#富士山が見える」みたいな物件も自動的に割り出せるかもしれません。以前、衛星を使って富士山が見えるスポットを探したことがあるんです

野口不動産会社からの手入力での情報がなくても、物件の向きや高さ、方向、窓の位置と言った状況から「たぶん見えるよね、富士山」とか「たぶん見えるよね、海」という推測ができるようになるかもしれません!

中村タグ検索がさらに楽しくなっちゃいますね。

野口これぞまさにデータが真価を発揮する領域ですね。情報収集はコストがかかるものですが、衛星データは無料で手に入るものがあるとは……。まずは無料のデータで遊んでみるのも楽しいでしょうね♪

中村ぜひ。そして住まい探しの新時代を見せてください! 今日はありがとうございました。