衛星から噴火はこう見える! キラウェア火山観測の光学・SAR比較
ハワイで起きた噴火の様子を光学衛星の画像に加え、合成開口レーダー(SAR)衛星の画像での解析にチャレンジ。SARで見えて、光学で見えないものとは? 宙畑メンバーが気になったヒト・モノ・コトを衛星画像から探す不定期連載「宇宙データ使ってみた-Space Data Utilization-」の第2弾。
宇宙(衛星)データは何ができて、何ができないのか。
宙畑メンバーが気になったヒト・モノ・コトを衛星画像から探す不定期連載「宇宙データ使ってみた-Space Data Utilization-」の第2弾。
第1弾の「桜」に続き、今回は「火山の噴火」にフォーカス!
今回は2018年5月にハワイで起きた噴火の様子を光学衛星の画像に加え、合成開口レーダー(SAR)衛星の画像での解析にも挑戦してみた。
なお、この記事で紹介する考察は研究機関の観測結果や現地の情報を参考にはしているが、宙畑編集部は火山研究者でもなければ衛星画像解析の専門家でもない。詳しい現状や解析結果は参考にしたリンク先を参照していただきたい。
(1)光学衛星とSAR衛星の特徴おさらい
光学衛星とSAR衛星の違いをご存じだろうか。簡単に特徴を並べると以下のようになる。
光学衛星の特徴
・太陽の光に照らされた地球を観測する
・高解像度で観測が可能
・曇りや雨、夜には観測ができない
・色が識別できる
合成開口レーダー(SAR)衛星の特徴
・衛星から電波を発射し地上から跳ね返ってきた電波によって地上を観測する(後述)
・解像度は光学センサーに劣る
・曇りや雨、夜でも地表を観測できる
・色が識別できない
SAR衛星の特徴で「衛星から電波を発射し地上から跳ね返ってきた電波によって地上を観測する」とある。
これはどういうことかというと、そもそも光学衛星は衛星の真下を観測するが、SAR衛星は衛星から斜め下方向に電波を発射する。斜め下方向に電波を発射すると地形によって帰ってくる電波に違いが出てくる。真下に電波を発射すると地形の違いを捉えることが難しい。
水面や、舗装された地面だと、発射された電波はほとんど衛星に返ってこないが、木が生い茂っている森や山地だと、複雑に反射した電波が帰ってくる。この帰ってくる電波の違いで地上の様子を捉えるのがSAR衛星の特徴である。
※SAR衛星について詳しくは「人工衛星を利用した地球の調べ方」や「SAR衛星とは?ASNARO-2で広がる宇宙ビジネスの可能性」で
(2)光学衛星で見たハワイの火山
では、ハワイのキラウェア火山の噴火を衛星画像で見てみよう。まずは光学画像から紹介する。
上の画像は、2018年5月14日にLandsat-8が捉えたデータから作成した。
Landsat-8の画像のダウンロード方法と加工の仕方は、「1時間で完成!0から始める衛星画像の作り方」で紹介した方法と同じである。
白い雲があって少しわかりにくいかもしれないが、画像の左側から噴煙が上がっているのが見つかるだろう。地図から判断するにハレマウマウ火口だとわかる。また、画像の右側に細かい雲が多いが、レイアニ地区で比較的モクモクと立ち上っている部分があることを覚えておいていただきたい。
次に、Landsat-8が同じ日に捉えた地表面温度の画像を作ってみた。
黄色や赤いところほど地表面温度が高くなっている。印の中で真っ赤になっているところが先ほどの画像で印をつけた煙を出している噴火の火口のようだと推定できる。噴煙と水蒸気の違いなのか煙の温度も違っているようだ。
Landsat-8の光学画像ではここまで調べることができた。では次にいよいよSAR衛星のデータのダウンロード、そして加工に挑戦しよう。
(3)SAR画像を無料ダウンロードできるsentinel衛星データ
SAR衛星データをダウンロードするために、sentinelという衛星を紹介する。
Sentinel衛星とはヨーロッパ宇宙機関(ESA)が開発した地球観測衛星で、コペルニクス計画というプロジェクトの一環として打ち上げられた衛星の総称である。
Sentinelは1~6まで異なるセンサーが搭載され地球のあらゆるデータを観測する予定であり、現在、1、2、3まで2機ずつと5を1機打ち上げに成功している。
このsentinelの衛星シリーズの中で、sentinel-1Aと1BがSARを搭載している衛星であり、データも無料公開している。
≪参考≫
・コペルニクス計画のHP
・Copernicus Space Component and its possible mid-term evolution
≪Sentinel衛星のデータダウンロード方法≫
sentinel衛星のデータは下記のHPでユーザー登録を完了すれば、以下の手順でダウンロードできる。
Copernicus Open Access Hub
1.観測したい場所を決める
HPにアクセスするとヨーロッパを中心とした世界地図が表示される。画面を動かし、マウスでドラッグして観測したい地域を指定しよう。
2.画面左上の検索ボックスから詳しい観測条件を絞り込む
たとえば、期間を絞り込む場合は、下の図のようにカレンダーのアイコンをクリックすれば指定の期間で観測したデータを検索できる。
3.検索結果から衛星データをダウンロード
検索ボタンをクリックして出てきた検索結果の中からダウンロードしたいデータの「Download Product」をクリックすればダウンロードできる。
ちなみに、それぞれのデータは約1GBほどあるのでパソコンのスペックによっては、ダウンロードにものすごい時間がかかるのでご注意を。
(4)SAR衛星データの画像編集方法
ダウンロードしてファイルを開くといくつかのフォルダに分かれており、「measurement」というフォルダを開くとTIFFファイルのデータが2つ入っている。
これは、VVとVHという2種類の電波で捉えたデータが入っているためであり、かなり専門的な内容になるので説明は省略してしまうが、地表の見え方が少し違う。
早速データを開いてみると真っ黒な画像になっているため、EISEIで開いたときは「色・明るさ」で調整しよう。
データを開いて色・明るさを調整する方法は、「1時間で完成!0から始める衛星画像の作り方」の「植物を際立たせた衛星画像」の内容で再度確認してほしい。
EISEIで開いて、それぞれ「色・明るさ」で自動処理をかけた状態まで加工してみた。左側が、7月1日にsentinel-1Aが捉えたVHのデータ。観測範囲の関係でハワイ島の全体は入っていない。右側が、6月10日にsentinel-1Bが捉えたVVのデータ。
この2枚を見ていずれも明らかに何かがおかしいのがわかるだろうか。ハワイ島の本来の形は、地図画像のとおりであり、ハワイ島の向きがおかしいのである。
1Aは、上下が逆転していて、1Bは左右が逆転している。ほかのデータと比べるためには画像の向きを合わせるという手間も発生する。以上の予備知識を踏まえてSARデータで噴火の様子を調べていく。
上で紹介した画像だけでは、ズームしてみても何が写っているのかはわかりにくい。
そこで、まずもう少し見やすい画像に加工してみよう。先ほど、データをダウンロードすると2種類のデータがあると紹介したが、この2つのデータを適当に色分けしてみる。
たとえば、青をVV、緑をVV、赤をVHに振り分けてみる。逆転している画像の向きは変更した。
左の画像は6月10日にsentinel-1Bが捉えたデータから、光学画像で噴煙を上げていたハレマウマウ火口付近を拡大。右の画像は同じように、3月30日の同じハレマウマウ火口付近を拡大したもの。
比べてみると中心にある火口が左の6月10日のほうがより陥没しているように見える。
また、火口から左下付近に黒く覆われた部分が広がっている。これは火山灰が堆積したエリアだと推測できる。
さらに今度はsentinel-1Aで捉えた1月14日の観測データと7月1日の観測データを一つの画像にかけ合わせてみる。
レイアニ地区を拡大して見てみよう。
黄色い部分と青い部分があることがわかる。
黄色い部分は、過去は電波がよく反射してて反射されにくくなった部分。住宅地や木々があり凸凹していた地域が、流れる溶岩によって滑らかになったと考えられる。
一方、海に面しているところが青くなっている。海は水面なので電波はほぼ反射されずに黒く映るはず。
青いところは過去は水面だったのが、溶岩が海に流れ出て陸地になって電波を水面だった時より反射しやすくなったと推測できる。
このように光学衛星の画像だと雲や噴煙があり地表が観測できないが、SARの画像で見るとくっきりと地表の様子、過去と比べた変化を見ることができた。
≪参考≫
・「だいち2号」によるハワイ・キラウェア火山噴火および地震の観測結果について
・【ハワイ島】キラウェア火山噴火に関する最新情報
・ハワイ火山国立公園
(5)天気や昼夜の影響のないSARデータへの期待
光学画像とSAR画像を比較してわかることは、光学画像でもわかることはあるが、SAR画像でしかわからないこともある。もちろん逆もまたしかりである。
ただし、雲や昼夜の影響なく地表面が調べられるという点から、今回のような噴煙で地表が見にくい火山の被害エリアを調べることに、SAR画像はかなり適しているといえるだろう。
さらに今後SAR衛星が全世界のデータを蓄積し続けていくとどうなるか。ある時点とある時点の地形の変化を雲がかかっていようがいまいが関係なく、数か月、数年の違いだけではなく、数十年、数百年の変化も調べることができることになっていく。
現在、SAR衛星のデータは防災利用のほかにも森林の分布の変化や北極海氷の動きなどを把握することにも活用されている。
今後、地上のデータやほかの衛星のデータなども掛け合わせることで、新たな使い方も見つかるかもしれない。