宙畑 Sorabatake

Tellus

衛星データで地域課題・社会問題を解決!オンライン・デザインソンイベントレポート

2020年8月29日(土)に完全オンラインで開催で開催したたオンライン・デザインソンに完全密着(オンラインですが)。イベントの模様をお届けします!

2020年8月29日(土)に完全オンラインで開催で開催したたオンライン・デザインソンに完全密着(オンラインですが)。イベントの模様をお届けします!

主催者紹介

本イベントを主催したのは3つのチーム、Code for Japan、Tellus(テルース)、Goodpatch Anywhereです。それぞれのチームについて紹介します!

Code for Japanは、市民・企業・自治体(行政)の三者が、それぞれの立場を超えて、様々な人たちと「ともに考え、ともにつくる」社会を実現するために多種多様なサービスやイベントを展開しています。

Tellus(テルース)は、「宇宙を民主化する」というビジョンを掲げ、衛星データを利用した新たなビジネスマーケットの創出を目的とする、日本発のクラウド環境で分析ができるオープン&フリーなプラットフォームです。衛星と地上の複数のデータをかけ合わせ、新たなビジネス創出を促進するためのあらゆるファンクションを提供しています。

Goodpatch Anywhereは、プロダクト開発、新規事業立ち上げ、ブランド構築、組織支援など、クライアント企業の様々なビジネス課題をデザインの力で解決するGoodpatch社のフルリモートチームで、日本や世界中から集まったメンバーが参加しています。また、UI/UX担当として、Tellus(テルース)の開発チームに参画しています。

イベント概要・当日の流れ

これまで、数々の地域課題を解決していく仕掛けを生み出してきたCode for Japan、Tellus、Goodpatch Anywhereのメンバーと共にデータの利活用アイデアを考え、プロトタイプまで1日で落とし込むことを目指してイベントが開催されました。

<当日の流れ>
10:00-10:05 ご案内
10:05-10:10 企画・主旨説明
10:10-10:30 「衛星データの利活用とTellusについて」
10:30-10:40 チーム分け発表
10:40-10:50 今日使うツールの使い方についての説明
10:50-12:00 ワーク(1)課題抽出とアイディエーション
12:00-13:00 <昼休憩&覗き見タイム>
13:00-17:00 ワーク(2)ブラッシュアップ
17:00-18:00 成果発表
18:00-18:30 表彰・まとめ・記念写真

オンライン・デザインソンの様子・手法紹介

Design Councilが提唱するイノベーションのプロセス

冒頭Goodpatch Anywhereの大橋さんから紹介があったのは、Design Councilが提唱するイノベーションのプロセス。このプロセスには大きく2回の発散と収束があります。

1つ目の発散と収束は、課題の発見(Discover)と定義(Define)です。
ここで大事なこととして大橋さんが説明されていたポイントが「よい問いを立てること」です。

具体的に喜ぶ人の顔が見えない問いではなく、なんとかしたい!と思えて手を動かしたくなるものが良いということです。そしてこのポイントの簡単なチェック方法として、クラウドファンディングでお金が集まりそうかを考えると良いというヒントをお話されていました。

今回のテーマが「地域課題・社会問題」であり、オンライン開催ということもあってか、様々な地域に暮らす参加者の皆さんから様々な課題が飛び出していました。

2つ目の発散と収束は開発(Develop)と提供(Deliver)です。
1つ目の発散と収束で出たアイデアを実装していきます。

アイデアから画面イメージに落とし込んでいくMiroの様子

オンラインでのグループワークということで、miroの「オンライン付箋」という機能を使って各チームのアイデアをまとめていきました。

今回のイベントでは、各チームにエンジニアやUI/UXデザイナーの方々がいる構成となっていたため、実際に衛星データを使った簡単な解析や、アプリの画面イメージなどを作るチームもいました。

成果発表会!各チームの結果発表

冒頭でご紹介した通り、今回は1日で課題発見からサービスのアイディエーション、そしてプロトタイプまで作ってしまおうという野心的なプログラム。

参加者は初対面のメンバーでチームが組まれ、完全オンラインのみで話合いが行われ、衛星データについて必ずしも全員が詳しいわけではないという状況で、通常のデザインソンイベントよりも難しい状況のように感じられましたが、どのチームも発表時間が近づくにつれ、エンジンがかかり始め、すごいスピードでアイディアがブラッシュアップされて行きました!

ここで簡単に各チームの発表をご紹介したいと思います。

● Team Moon「むかでハザードマップ」

Team Moon「むかでハザードマップ」のMiro

和歌山県在住のチームメンバーから出た「むかで対策」という地域課題に向き合ったチームでした。

実際に衛星画像を使った植生解析から、むかでが出やすいスポットを可視化してみるなど、プロトタイプという意味でも完成度の高い出来となりました。

●Team Mars「子供安心マップ」

このチームが選んだ課題は「子供が安心して暮らせる地域」。深掘りしていく中で様々なアイデアが生まれましたが、その中から衛星データとの組み合わせも考慮して、常時には子供が遊べる場所が分かるマップを、非常時には安全な場所が分かるマップが表示されるアプリの提案が行われました。

子供向けということで子供が分かりやすい言葉や表示などにもこだわられていました!

●Team Mercury「まつたけファイナンス」

Team Mercuryが注目したのは「松枯れ」という森林の課題。地方では大きな課題となっているそうです。

この課題にポジティブにアプローチしようというのが「まつたけファイナンス」のアイデアです。

株のように松茸(が育つ場所)に長期的な投資を行うことによって、地域にとっては松枯れの防止、ひいては環境問題の解決に、購入者にとっては美味しい松茸が手に入るということになります。

●Team Jupiter「みずたまりアプリ」

Team Jupiterが注目した課題は近年、頻繁に発生するようになっている「水害」。
こういった災害系で難しいのは常時に使われないこと。この問題を避けるために「みずたまり」というワードを使うことで、ユーザーにポップな印象を与えています。

Team JupiterのMiro。実際に解析や画面イメージも作成!

早い段階でテーマ選定が行えたTeam Jupiterは、衛星データに詳しいメンバーやデザインに強いメンバーなど、それぞれの強みを活かして、サービスの深掘りができている点が印象的でした。

●Team Venus「移住カルテ」

実際に地方に移住してリモートワークを行っているメンバーと、地方移住がしたいメンバーがいたTeam Venusが注目したテーマは「移住」。

簡単な質問に応えることで、衛星データを活用して、自分におすすめの移住先を提案してくれます。

ユーザーから見える画面イメージだけなく、その裏側でどんな衛星データを使えば良いか、その実現性はあるかなどもしっかり検討されていました。

Goodpatch Anywhere、Code for Japan、Tellusに聞くデータビジネスのツボ

各チームからの発表終了後は、審査員から各賞の発表がありました。
審査員は主催の各チームから1名ずつ代表者が担当しました。

・Goodpatch Anywhere 事業責任者 齋藤 恵太
・Code for Japan 代表 関治之
・さくらインターネット株式会社(Tellus) フェロー 小笠原 治

以下では、各賞の発表と宙畑編集部がお伺いした追加のテキストインタビューをご紹介します。

Goodpatch Anywhereに聞くデータを使ったサービスデザイン

Goodpatch Anywhereの齋藤 恵太さんが選んだのはTeam Moon「むかでハザードマップ」。

受賞のポイントとして、課題からサービスデザインへの一連の流れのきれいさと、この短い時間の中で実際に解析まで含めたプロトタイプを作られていた点が評価されました。

企画・運営を行われたGoodpatch Anywhereの皆さんにお話をお伺いしました。

– 今回のイベントの企画を行った背景・経緯を教えてください!

衛星データといえば、宇宙関連機関やテック系の団体が主催することが多く、データをどう解析するか、見せるか、という視点になりがちだと感じていました。今回はエンジニアさんの目線にプランナーやデザイナーの目線をクロスさせていくことで、「なにかの課題を解決するサービスを提供する」ことに主眼を置いて、衛星データの活用に対する新しいアプローチを構築したいと考えています。

もちろん「課題解決」はこれまでも意識されてきたのですが、環境問題などの「大きな課題」を扱ってしまいがちです。デザイナーのアプローチは、どうしたら人を動かせるのだろう?などの「人に紐付ける」アプローチです。人に注目したアプローチと、データに注目したアプローチを結びつけることによって、より実現可能性の高いアイデアの創出ができるのではないかと期待しました。
(Goodpatch Anywhere 大橋さん)

また、Goodpatch Anywhereを立ち上げた経緯として、さくらインターネットフェローの小笠原治さんの記事に事業責任者の齋藤が感銘を受けていたこと、憧れだったシビックテックのCode for Japanさんとも以前のプロジェクトでご一緒させて頂き「地域課題を解決」という共通項で今回のイベントにお声掛けさせて頂いたことなど、様々なご縁で開催させて頂いたことはとても感慨深いです。
(Goodpatch Anywhere 須貝さん)

– 今回のイベントは完全オンラインで開催されたイベントでした。普段からフルリモートワーク集団であるGoodpatch Anywhereがイベント企画の際に、オンラインアイデアソン開催にあたり注意したポイントがあれば教えてください。

Miro上に用意された「衛星用語コーナー」

オンラインでのイベントは何度も開催していましたが、デザインソン は初めての経験でした。1day開催だったので、なるべく議論に時間を割けるよう自己紹介をコンパクトにしたり、衛星データの取り扱いが初めての方のために「衛星データ用語」や「衛星データ基礎知識」のコーナーをMiro上につくりました。

当日スタッフも各チームに参加しました!

また、アイデアやデザインをしっかり実現可能なものとしてアウトプットするために、衛星データに詳しいTellusのスタッフのみなさんや実際に衛星データや統計を扱ったことのあるエンジニアさん、まさに地域課題に日々向き合っていらっしゃるCode for Japanさんにチームに入って頂き、よりリアルなビジネスへと繋げることを意識してイベント設計を行いました。
(Goodpatch Anywhere 須貝さん)

– Goodpatch Anywhereがデータを使ったサービスアイディアを創出する際に、気を付けているポイントがあれば教えてください。

衛星データを扱ったプロジェクトはTellusのデザインプロジェクト以外にまだないのですが、まずは開発者サイドが持っている思い込みの枠からいかに脱却するかということでしょうか。そのために、UXデザインとしては超基本ですが、いろんな人に話を聞くというところからスタートするべきかなと思います。

今回も、地方に住んでいる人だからこその実体験や考え方が参考になったプロジェクトが多かったように見受けられますので、まずはユーザーとなりそうな人に丁寧に話を聞くことから始めることになると思います。

そこに加えて、その業界でビジョナリーとされるような研究者の方であったり、そのテーマをずっと考え続けてきた人、そのテーマで事業を行っている人と話を聞いていくと、様々な人の目線の交点が見えてきたり、アイディアが生まれる軸を見出すことができるようになると思います。
(Goodpatch Anywhere 齋藤さん)

Code for Japanに聞くデータを使った社会課題解決

続いて、Code for Japan代表の関さんから「Code for Japan賞」の発表がありました。
選ばれたのはTeam Mercuryの「まつたけファイナンス」。

関さんが注目されたポイントは、「まつたけファイナンス」の三方良しのビジネスモデル。地域課題を解決しながら、土地の所有者や購入者それぞれにメリットが生まれているという点が評価されました。

– 今回、このイベントにCode for Japanさんとして参加されようと思った理由、経緯を教えてください!

個人的に、NASA主催のSpace Apps Challenge というハッカソンの日本地域のオーガナイザーの経験があったり、宇宙データには興味を持っていました。また、最近地域課題解決にも衛星データを使った事例を見ることが増えてきており、Code for Japan としてももっと課題解決と衛星データが活用できるよう、つながりができると良いなと思っています。
(Code for Japan 関さん)

– これまでのCode for Japanさんの活動の中で感じる、データを使った社会課題解決の意義と課題感を教えてください。

これまでも、Code for Japan の活動はデータ活用が多くの地域で使われています。
行政オープンデータ活用の推進を始め、COVID-19 対応でも感染者数や病院の空き状況可視化など、様々な活動を行っています。データを活用することで、地域課題への対応をより高度に行うと同時に、住民の参画もしやすくなります。
一方、まだまだ有用なデータ自体が揃っていないことと、活用のアイデアや経験が不足しているのが現状です。
(Code for Japan 関さん)

– 衛星データやTellusに対する期待があれば教えてください!

だいぶ使いやすくなってきたとは言え、まだまだ衛星データは活用にあたっての難易度が高い状況です。今回のような機会を通じて、敷居を下げていくことが重要だと思います。

また、衛星データのみで解決できることは限られてくるので、ドローンやIoTなど、地上のデータと組み合わせたソリューションを考えて行くような組み立ても必要かと思います。
(Code for Japan 関さん)

Tellusが目指すビッグデータとしての衛星データ

最後に、Tellusの開発・運用を行っているさくらインターネット株式会社の小笠原より「Tellus賞」の発表がありました。

「Tellus賞」に選ばれたのはTeam Venusの「移住カルテ」でした!他のチームで検討されていた課題を全て吸収できるような主語の大きさが評価のポイントでした。

– 今回のイベントの企画を行った背景・経緯を教えてください。

Tellusでは現在、データ解析・リモートセンシングに興味のあるエンジニアさんやデータビジネスに興味のあるプランナーさんに使っていただけるよう意識して、プロダクト開発をしてきました。

Goodpatch Anywhereチームとは、日々TellusのUIUX改善や新規プロダクトについて議論をしています。Tellusですでに提供しているプロダクトについてはユーザーが存在するので、そのユーザーの使い方を観察したり、意見を伺うことで改善していくことができます。

しかし、衛星データを使った事例をもっと増やしたいと思った時に、今のTellusのアプローチで解決できていない課題がなんなのか観察したいという意見が上がりました。(言って良いのかわからないですが…笑)

よくあるパターンとして、「プランナーがいいアイデアを思いついたけど、デザイナーやエンジニアが近くにいないので実現できない」というのがあります。アイデアソンで出たアイデアが実現まで到達できない理由がこのあたりかなと。

そこで、プランナー・デザイナー・エンジニアで構成されたプロダクト制作チームを編成したときに、チームがどんな課題にぶち当たるのか検証し、今後に生かしていきたいと思い、デザイナーやエンジニアを擁するGoodpatch Anywhere、Code for Japanの2者との連携でイベントをすることに決めました。
(Tellus 城戸)

– 今回のイベントを受けてTellusへの反映事項があれば教えてください。

実際にイベントをしてみて、「身近な課題と衛星データをつなげられない」「データや環境の準備に時間がかかるため、エンジニアがいたとしても机上での会話になりがち」などの課題が見えてきました。これらを解決できるよう、今後検討していきたいと思います。
(Tellus 城戸)

イベントを終えて

イベントが始まる前は、「オンライン」で「衛星データ」を使った「デザインソン」をたった1日で、初めて集まるメンバーで行うというのはなかなか難しいのではないかな、という印象をもっていました。

しかし、始まってみると「オンライン」だからこそ参加できた地方在住メンバーの声が課題発見のリアルな声になったり、プロトタイピングを行う過程をリアルタイムに画面で共有できることで非常に短い時間での試作が可能になったりと、オンラインイベントだからこその価値を感じることができました。

一方で、プログラムの時間の短さもありますが、実際に衛星データを使った解析までたどり着けたチームは少なく、そもそも「衛星データでなにができるか」の部分のインプットや初見での解析のしやすさなどの点は、Tellusや宙畑としての課題として、改めて感じる機会でもありました。

今後、宙畑でもさらなる「分かりやすさ」を目指して、記事の作成を行っていきたいと思います!