宙畑 Sorabatake

Tellus

衛星データを72時間で学ぶ!カリキュラムの実例紹介

本記事では、沼津高専で実施した、Tellusと宙畑を用いた授業カリキュラム及びその成果についてご紹介します。 学生が実際に受講し、最終成果物を発表した72時間で構成される講義の流れをそのまま掲載しますので、本記事に沿って学習することで、Pythonを扱ったことがない、もしくは初学者な方であっても、Pythonによる簡単な衛星画像処理をご自身でできるようになるでしょう。

1. 導入

本記事では、沼津高専で実施した、Tellusと宙畑を用いた授業カリキュラム及びその成果についてご紹介します。

学生が実際に受講し、最終成果物を発表した72時間で構成される講義の流れをそのまま掲載しますので、本記事に沿って学習することで、Pythonを扱ったことがない、もしくは初学者な方であっても、Pythonによる簡単な衛星画像処理をご自身でできるようになるでしょう。

2. 授業の前提条件

2.1. 学習の方向性

沼津高専の授業では「竹村彰通(2019)日本のデータサイエンス教育をリードする滋賀大学の挑戦.統計2019年7月号:45-49」の内容を参考に今回の専攻科実験のシラバスが組まれています。

特に、データサイエンティストの育成に必要な教育として以下3つの観点が重要とのこと。
①大規模なデータを加工、処理する情報技術(データエンジニアリング)
②多様なデータを分析、解析する統計技術(データアナリシス)
③ビジネスや政策など様々な領域の課題を読み取りデータ分析による知見を活かして解決していく(価値創造スキル)

2.2. 授業対象者のレベル

次にどのような学生が本授業を受講したのかについて紹介します。

本授業は、環境エネルギー工学コース1年前期のカリキュラムに含まれる専攻科実験にて、衛星画像を用いたデータサイエンス教育として行われました。

今回の授業を受講した学生の出身学科は、電気電子工学科2人、電子制御工学科6人、制御情報工学科3人、物質工学科3人と多様です。そのため、得意な分野が大きく異なり、実際にプログラミングに関するアンケートを行ってみると、下記の様になりました。
アンケートを見ると、プログラミングについては少し苦手または苦手な学生が43%(図1)、Pythonを用いたことがない学生が36%(図2)及びその言語を用いて画像処理を行ったことがない学生が64%(図3)いることがお分かりかと思います。

図1.あなたのプログラミング技能を教えて下さい(言語は問いません)。
図2.この専攻科実験以前に Python を用いてプログラムを作成したことはありますか。
図3.Pythonを用いて画像処理を行ったことがありますか。

3. 授業構成

今回の授業は以下のスケジュールで行われました。

表1.専攻科実験のスケジュールと内容

日付 曜日 方式 内容 プラットフォーム
 1 6月26日 eラーニング ガイダンス及び初心者向け学習 GC
 2 7月1日 eラーニング 初心者向け学習 GC
 3 7月3日 eラーニング 初心者向け学習 GC
 4 7月8日 eラーニング 初心者向け学習 GC
 5 7月10日 eラーニング Tellus関連学習 GC一部Tellus
 6 7月15日 eラーニング Tellus関連学習 GC一部Tellus
 7 7月17日 eラーニング Tellus関連学習 GC一部Tellus
 8 7月22日 eラーニング 宙畑事例学習 Tellus
 9 7月31日 eラーニング 宙畑事例学習 Tellus
10 8月5日 eラーニング 宙畑事例学習 Tellus
11 8月7日 eラーニング 宙畑事例学習 Tellus
12 8月19日 eラーニング 宙畑事例学習 Tellus
13 8月21日 eラーニング 班毎に考案:打合せ&作業 Tellus
14 8月26日 eラーニング 班毎に考案:打合せ&作業 Tellus
15 8月28日 eラーニング 班毎に考案:打合せ&作業 Tellus
16 9月2日 eラーニング 班毎に考案:打合せ&作業 Tellus
17 9月4日 eラーニング 班毎にプレゼン作成 Tellus
18 9月9日 eラーニング プレゼン発表会 特になし
19 9月11日 eラーニング 各自で報告書作成 特になし

水曜日14:50-17:40、金曜日13:20-17:40
eラーニング:アクティブラーニング
初心者向け学習:Tellus×TechAcademy初心者向け Tellus 学習コースlesson 1-7
Tellus関連学習:Tellus Trainer Mission 3~7
宙畑事例学習:宙畑の解析事例を選択し班毎に実施 事例1~5
GC: Google Colaboratory

方式は、eラーニングとアクティブラーニングを取り入れており、先のデータサイエンティストの育成に必要な教育としての3つの方針について、それぞれ以下のような狙いをもってプログラム作成と準備がされていました。

①大規模なデータを加工、処理する情報技術(データエンジニアリング)について

授業では、プログラミング言語Pythonの初心者向け学習を2つの解析環境を用いて行われました。

1つはGoogle Colaboratory、もう1つはTellusの開発環境です。いずれも無料で解析環境を提供しているプラットフォームです。

Google Colaboratoryを用いた理由は、Googleアカウントを取得すれば、全学生がいつでも自宅から解析環境を利用できることと、自身でPythonの環境構築を行う必要がないからです。

Tellusの開発環境を用いた理由は、Tellusのデータにアクセスするのに必要であることと、こちらも環境構築を必要とせず、自宅からアクセスできるからです。

いずれもクラウドの開発環境となっており、自身が保有するパソコンのスペックにあまり依らずに解析できることは、授業で利用してもらう上で大きな利点だったとのこと。

②多様なデータを分析、解析する統計技術(データアナリシス)について

授業では、班(4~5名)に分かれて宙畑の事例学習を、Tellusを用いて実施されました。

宙畑には、Tellusの使い方衛星データに関しての入門的なこと解析ノートブック事例衛星画像等を用いた機械学習等の記事が掲載されており、第8回から第12回の5回にわたって、各班が興味ある事例を、記事に沿ってプログラミングしながら学習しました。

宙畑の記事を利用することで、なぜそのようなことに取り組んだのかという動機、それを確認または証明するための方法とPythonコード、得られた結果、そして首尾良くできた、またはできなかった理由を考察できます。

これは、仮説検証を行う実験のカリキュラムと非常に相性が良いとのこと。

③ビジネスや政策など様々な領域の課題を読み取りデータ分析による知見を活かして解決していく(価値創造スキル)について

3つ目の方針を実現するため、学生が主体的に学ぶ、アクティブラーニングを取り入れました。

班毎に自分たちの行った内容を最終的にスライドにまとめて発表するのですが、「はじめに、方法、結果、考察」という構成を必ず守るようにと伝えました。

今回に限らず多くの場面で生じることですが、対象に対していろいろ試して良い結果が得られないことが普通です。

なぜ良い結果が得られなかったか原因を考え、別のやり方を試します。この繰り返しです。

しかし、発表ではそのような試行錯誤を述べている時間はありません。班の中で議論して、その背景や動機も修正しつつ、ストーリーを考えながら発表としての着地点を模索するような仕組みの検討に力を入れています。

4. 授業を通して出てきたアイデア紹介

では、実際にどのようなアイデアが出たのか。3班それぞれの発表内容をはじめに・方法・結果・考察に沿って紹介します。

1班:地球温暖化による農業への影響調査

はじめに:温室効果ガス増加による地球温暖化により、平均気温の上昇や異常気象が多発するといわれています。これにより様々な農作物へ被害が及ぶ可能性があります。そこで、静岡県で身近な農作物であるお茶に着目しました。お茶生産地の特徴を調べ、地球温暖化による影響を考えました。

方法:お茶の栽培条件は、気温、降水量、斜度が重要です。お茶の荒茶生産量は、静岡県が1位、鹿児島県が2位で、3位以下を大きく引き離しています。そこで静岡県と鹿児島県に絞って、生産地としての特徴を比較しました。気温と降水量についてはアメダスデータを用いました。斜度についてはTellus APIからASTER GDEM2のPNG標高タイル画像を取得し、標高の式を用いてRGB値から標高を計算し、求めた値をもとに3次元グラフを描画し、グラフから最大値・最小値と距離を求めて傾斜を計算しました。

結果:静岡県及び鹿児島県について、年平均気温はそれぞれ17.1℃及び18.7℃であり、年降水量はそれぞれ2050mm及び2607mmでした。斜度については、グラフを示します。

考察:静岡県と鹿児島県の気温と降水量には、茶の生育に大きな制約が出ることはないと考えられます。近年、鹿児島県での茶生産量が増加しているのは、斜度が緩やかなための機械化導入が進んでいることが理由として挙げられます。これらについては、今後、更なる資料による検証が必要と考えます。その他の温暖化影響の例として、サクランボの適地が北へ移動するテーマについても調べましたが、ここでは割愛します。

2班:衛星データ(SAR画像)を用いた土砂災害対策の検討

はじめに:環境白書にあるように国内外で深刻な気象災害が多発し、地球温暖化で今後気象災害のリスクが更に高まると予測されています。気象庁のデータによると1900年から2019年のトレンドとして日降水量100mm以上の年間日数が増えています。大雨による災害として、河川の氾濫や土石流及び土砂崩れの発生が増えることが予想されます。そこで、衛星データを用いた土砂崩れ発生箇所を抽出することを試みました。

方法:ALOS-2(だいち2号)の画像を利用しました。データが提供されている2018年の期間、①北海道厚真町の地震による土砂崩れを対象、②高知県大豊町の大雨による土砂崩れを対象にしました。Tellus OSからタイル座標を取得し、タイル座標を緯度経度に変換し、ズーム率・タイル座標・シーンIDからAPIによって撮影時期の異なる2枚の画像を取得し、取得した各画像に対して赤/青を色付けして合成、差分を目視で確認しました。

結果:下記に示します。

考察:①の結果は、比較的よく抽出できたと考えられます。その要因は、土砂崩れ面積が大きいこと、土砂崩れの形、特に横方向に長く衛星から捉えやすいと考えられました。➁は、首尾良く行きませんでした。その要因は、観測地点がレーダーシャドウにあたる解像度の限界であること、土砂崩れの面積が小さいことが挙げられます。今後の改善案としては、zoom率の再設定と別の時期のデータを取得することが有効と考えています。この方法の活用例としては、河川上流における土砂崩れの調査(土砂によるせき止めダムの早期発見)、山間部における土砂崩れの調査(状況把握に時間を要する場所の観測を支援)、地形変化の調査(自然環境の観測を支援)等が挙げられます。

3班:商業施設での人流データの解析

はじめに:商業施設でイベントが開催されると、人の集まる数は増えます。イベントによって、また商業施設の規模によって人の集まりに違いが出るのか調べました。イベントによる人口の動向は何に役立つのか、という問いに対して、人を集め宣伝したい企業などがイベントを開催するのに参考にできる、交通整理等の参考にできると考えられます。

方法:モバイル空間統計で各商業施設での人口の変動の情報を調査しました。変動のあった日にどんなイベントがあったのか調べました。調査期間は、2016年7月から2017年6月です。Tellus上の開発環境を利用し、APIアクセスで取得したデータをPandasを用いて整理・可視化しました。モバイル空間統計としては、NTTドコモが提供する「モバイル空間統計」を取得するAPIで、時間帯別・エリア別に人口統計情報を取得 (制限あり)しました。調査した場所は、東京23区内にあるとしまえん、明治神宮野球場、玉川高島屋、東京国際展示場とし、横浜市にある日産スタジアム、赤レンガ倉庫、横浜八景島シーパラダイスとしました。

結果:各施設の最も訪問者のべ人数が多かったイベントをまとめました。東京国際展示場のコミックマーケット90の3日目で約45万人、玉川高島屋のTamagawa Special Daysで約20万人、赤レンガ倉庫のHanabi NIGHT CARNIVAL with LAURENT-PERRIERで約19万人、明治神宮野球場の真夏の全国ツアー2016~4th YEAR BIRTHDAY LIVE~で約13万人、日産スタジアムのFIFAクラブワールドカップジャパン2016準決勝で約11万人、としまえんの練馬まつりで約11万人、横浜八景島シーパラダイスの花火シンフォニア― meets Sky Light Magic ―で約4万人でした。年代で色分けした棒グラフを掲載しました。

考察:それぞれの展示場での日変化及び時間変化のグラフから、平常時とイベント時における一日当たりの訪問者数の多い日、一日の中でも時間当たりの訪問者数の多い時間帯があること、イベントによって訪問者年齢層が異なることが分かってきました。花火大会や祭りは人が集まりやすいこと、ショッピングモールのセールはかなりの集客が見込める(高島屋で1.2~1.4倍)こと、コミケなどのアニメ系のイベントは平常時と比べると 非常に多くの人が訪れること、ライブは若年層が中心に訪れていること等です。以上のことから、取得した訪問者数データは、企業が広告の宣伝効果を検証することができる、平常時と比べて交通整理の人員がどれだけ必要か、どの時間帯が混雑するのかを検証し、対策を講じることが可能だとわかりました。

5 今回のPBLを通して分かったこと

本授業を通しての学びについて、教員の方より以下のようなコメントをいただきましたので、最後に紹介いたします。

衛星データは、データサイエンス教育の題材に適していると感じました。実際に衛星データは、防災・災害監視、土木・建設、地理情報、農林水産、エネルギー・資源、気象・環境、海洋、通信・測位、教育・デザイン、国際協力の分野など広く利用されています(JAXA 第一宇宙技術部門.衛星データ利用分野, http://www.sapc.jaxa.jp/)。学生が、魅力ある題材を探すのに事欠かないと感じています。

今回のデータサイエンス教育を実施するにあたって3つの方針①大規模なデータを加工、処理する情報技術(データエンジニアリング)、②多様なデータを分析、解析する統計技術(データアナリシス)、③ビジネスや政策など様々な領域の課題を読み取りデータ分析による知見を活かして解決していく(価値創造スキル)、に少しでも近づくことを目指しました。学生のアンケート回答(末尾参照)をみると、その目標をある程度は実現できたと感じています。当初はコミュニケーション不足に不安を感じていました遠隔での取り組みは、eラーニング及びアクティブラーニングと親和性があることが実感できました。

6. 編集後記

本記事では、沼津高専にて検討頂き、実践された内容をご紹介頂きました。最終発表会にも参加させて頂いたのですが、どの班も導き出された結果に対して深く考察をまとめていて、主体的な探究学習の大切さを教えてもらいました。また、学習する素材として、公開中のラーニングコンテンツや宙畑の記事を利用頂けていること、一企画者としてとても嬉しく感じました。

今回ご紹介頂いた授業構成案は、個人学習する上でも有効です。プログラミングによる衛星データ解析を学ぼうにも、衛星データについてさっぱり分からない、という方は「自宅学習におすすめ!11日でマスター衛星データの学び方ガイド2020」も合わせてご覧ください。

沼津高専さんの授業構成をモデルケースとして、他の学校の方々にも、Tellusと宙畑を利用した探究学習をしてもらえると嬉しいなと思います。

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おまけ:今回の取組に対する学生のアンケート回答

Q1.オンライン教材を通して、衛星データ解析を学ぶ上で必要な知識・技術を十分に学習できた。

Q2.上記のように回答した理由を教えて下さい。

元の知識がなかったため、理解するのに苦労した。Tellusが扱いやすかった。衛星データを扱ってプログラミングすることが初めてで、情報の抽出などさまざまな操作を行うことができ、とても勉強になりました。動画なので実際にどうやるのかも載っていたため分かりやすかった。宙畑で事例をなぞることで具体的な活用法を学ぶことができたが、得られる情報が断片的でもあった。Tellus×TecAccademyの学習コースの説明が分かりやすかったから。衛星の活用分野が広く、まだまだ学習には時間がかかりそうと感じたから。eラーニングは個人のスピードで学習を進められるので良いと思った。短期間で多くの教材を学ばなければならなかったため、十分に学習、習得できたとは言い難いから。解析に必要な知識や技術はあまりなかったが、オンライン教材を通して学ぶことができたから。宙畑のような、コード付きの実例がたくさん存在したため、それらを参考にして組み立てることができた。APIやリファレンスでは分からない、実際の取り扱い例を見ることができたのが良かった。

Q3.今回有益であった専攻科実験の内容はどれですか。全て選んで下さい。

Q4.アクティブラーニングの判別テーマを実施する上で、教材として提供して欲しかった内容(ライブラリや解析手法等)があったら教えて下さい。

全体的なAPIリファレンス。データの公開期間がもう少し広いとデータを取りやすくなる思った。

Q5.今回解析した分野は何ですか。全て選んで下さい。

Q8.継続して衛星画像解析について学んでみたいと思いましたか。

Q9.上記のように回答した理由を教えて下さい。

研究に使えれば便利だと思ったから。一人ではプログラムを組むのは難しく,画像取得が困難ため。今後、社会に出た時に必要なスキルだと思ったから。何か衛星データを用いてできるような内容を思いついたら実践してみたい。いろいろ幅が広い分野を解析できるから。日常生活で、衛星を活かせると感じるときがあったため。衛星データの活用事例について実際に作業を行いながら確認できたから。衛星データを利用したサービスなどが今後も増えていくと感じているため。衛星画像から様々なデータを入手できるのは面白かった。今回初めて衛星画像の解析やPythonに触れ、いろいろな解析が自分でもできることが分かったので、継続して学習し、こういった解析ができるようになりたいと考えたから。衛星からのデータを利用することで普段日常では気づかないようなところまで解析することができ、非常に面白かったから。手軽に衛星画像を取得できるプラットフォームを知れたので,今後もテーマが思いつけば活用していきたいと考えた。