人事改革の1年間。Virgin Galactic COOがオーストラリア宇宙庁長へ【週刊宇宙ビジネスニュース 2020/11/9〜11/15】
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Virgin Galactic幹部が交代。宇宙旅行サービス拡大へ向けた人事改革か
2019年12月にIPOを果たしたVirgin Galactic(ヴァージン・ギャランティック)は、宇宙船の最終デザイン公開に踏み切るなど、目前に迫る宇宙旅行サービスの提供に向けて、事業を進めている様子が窺えます。
2021年第一四半期には、パイロットのほか4人の従業員を加えての有人飛行試験と会社の創設者であるリチャードブランソン氏が搭乗する試験飛行が実施される予定です。
その裏では、これまで同社のCEOを務めたGeorge Whitesides(ジョージ・ホワイトサイズ)氏が、最高宇宙責任者(Chief Space Officer)に就任。新CEOには顧客体験の向上に特化した、元Disney Park International・社長のMichael Colglazier(マイケル・コルグラジア)氏を迎えました。さらにVirgin Galacticは、年内に現COOが退任し、最高情報責任者(CIO)を迎えます。
COO パレルモ氏がオーストラリア宇宙庁長に就任へ
11月13日、Virgin GalacticのCOOを務めるEnrico Palermo(エンリコ・パレルモ)氏が、オーストラリア宇宙庁(Australian Space Agency 以下ASA)の長官に就任することが発表されました。
パレルモ氏はオーストラリア出身。大学卒業後、コンサルティング会社などを経て、2006年にVirgin Galacticに最初の従業員として入社しました。2018年には、SpaceShipTwoを開発するVirgin Galacticの子会社・TheSpaceship Companyの社長を務めたあと、2020年にVirgin GalacticのCOOに就任しました。
パレルモ氏のASA長官就任に対して、オーストラリアのScott Morrison(スコット・モリソン)首相は、以下のようにコメントしています。
“Palermo’s leadership will rocket Australia toward our goal of becoming a major player in the international space industry, while providing benefits across our economy,” Morrison said in the statement.
(和訳)「パレルモ氏のリーダーシップは、私たちの経済全体に利益をもたらしながら、国際宇宙産業の主要なプレーヤーになるという目標に向けて、オーストラリアを急上昇させていくでしょう」
ASAは、2018年にオーストラリアの宇宙産業の成長を目的に開設しました。特に各国の宇宙機関との連携を積極的に推進しており、アルテミス協定にも署名しています。また、2020年7月にはJAXAと宇宙利用に関する協力覚書を取り交わし、さらに小惑星探査機「はやぶさ2」のサンプルリターンミッションにおける共同声明を出しました。
宇宙開発新興国のなかでも一際積極的に活動するASAに、有人宇宙業界で経験を積んだモパレルモ氏がジョインすることで、モリソン首相がコメントしている通り、オーストラリアの宇宙産業を大きく成長していくのではないかと考えられます。
Virgin Galacticは、証券取引委員会への提出書類に12月4日付けで、パレルモ氏が辞任する旨を公表していますが、後任は明らかになっていません。
最高情報責任者にIT業界でのキャリアを持つアリステア氏を任命
さらにVirgin Galactic は、11月9日に、最高情報責任者(CIO)に、Alistair Burns(アリステア・バーンズ)氏を任命したことを発表しました。
同社のCIOは今回新たに割り当てられた役職です。バーンズ氏は、防衛や航空宇宙、医療をはじめとする幅広い市場に、特殊電子システムやコンポーネントを提供するグローバル企業・OSI Systemsで5年間にわたって副社長兼CIOとして勤務していた経験があります。
Virgin GalacticのCEOであるコルグラジア氏は、以下のようにコメントしています。
“Alistair brings a wealth of IT experience having worked at some of the largest global companies. His appointment demonstrates the growing scale of our operations, and Alistair will be key to ensuring that we are equipping our team with the best technology as we progress towards commercial service.”
(和訳)「アリステア氏は、複数の大手グローバル企業で働いてきた豊富なIT経験でチームの知見を広げます。彼を任命したことは、私たちの事業の規模が拡大していることを示しており、アリステア氏は、私たちが宇宙旅行を商業サービスに向けて前進させるのにチームに必要な、テクノロジーを確実に提供するキーマンとなるでしょう」
Virgin Galactic は2020年の1年間で、CEOおよびCOOが交代し、最高宇宙責任者(Chief Space Officer)とCIOのポストを新設しました。来年にはいよいよサービスの提供が見込まれる同社に、引き続き注目していきたいと思います。
「宇宙資源法案」今国会での成立を目指す方針
11月5日、自民党の宇宙・海洋開発特別委員会などが、宇宙資源の所有権を認める法案を了承したことが報道されました。
宇宙資源とは、宇宙空間や天体にある水や鉱物のことを指しています。米国は2015年、ルクセンブルグは2017年に法律を制定。さらに月面の探査や開発計画が進むに連れて、宇宙資源の採掘が徐々に現実味を帯びてきていて、その所有権のあり方が日本国内においても議論されてきました。
法案には、宇宙資源の探査や採掘を目的とする衛星の管理許可に特例を設け、事業者には事業計画に基づいて採取した宇宙資源の所有権を認めるといった内容が盛り込まれているとのことです。
ispaceがアルテミス計画への参画に向けて米国オフィスを開設へ
11月9日、月面探査を計画するispaceは、米国・コロラド州 デンバーに新オフィスを構えることを発表しました。同社は、東京オフィスのほかに、宇宙資源探査に積極的な姿勢を示していたルクセンブルグに拠点を開設しています。
ispaceは、非営利研究開発組織であるドレイパー研究所(The Charles Stark Draper Laboratory, Inc.)を主契約者とし、パートナーとしてNASAが実施している商業月面輸送サービス(Commercial Lunar Payload Services 通称CLPS)に参加しています。
今後もCLPSやそのほかの機会を通じて月探査を実現したい考えで、米国での継続的な投資と事業展開を計画しているとのことです。
また、米国オフィスの開設に際し、デンバーを選定した理由には、開発チームの設立に向けたエンジニア候補人材の豊富さをあげました。プレスリリースによると、米国で最初に採用したエンジニアは、SpaceXで数年にわたってファルコンロケットの新型機導入の現場などをを経験した人物であり、ispaceではランダー開発の責任者を務めるとのことです。
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参考
Virgin Galactic prepares to transition to operations
A new Head for the Australian Space Agency
オーストラリア宇宙庁とJAXA(宇宙航空研究開発機構)宇宙利用に関する協力覚書署名
Virgin Galactic Appoints Alistair Burns as Chief Information Officer