宙畑 Sorabatake

宇宙ビジネス

宇宙はもはや”手段”の時代。ビジネス利用が広がる超小型衛星の市場規模と事業社まとめ

大型衛星に比べ、費用も期間も少なく開発ができる小型衛星。小型衛星の中でも超小型衛星を開発する事業社が増えてきています。どのような分野にどんな企業が取り組んでいるのか、さらに小型衛星を作ってみるにはどうするのかについても紹介します。

2018年にキヤノン電子が小型衛星を打ち上げたり、ソニーの光通信技術やRICOHの360度カメラが宇宙で使われる実験についてのニュースは覚えているでしょうか?
大手もベンチャーも、多くの企業が今、超小型衛星市場に繰り出しはじめています。なぜ今、超小型衛星が注目されているのでしょうか。また今後ビジネスに超小型衛星を利用することはできるのでしょうか。
今回は、超小型衛星の概要と市場規模について、超小型衛星の事業を行う企業の紹介、さらには私たちが実際に打ち上げる方法についてご紹介します。

※2021年9月1日、衛星の利用周波数帯の許認可に関する記述を修正いたしました

1.超小型衛星とは何か?

1-1.そもそも「超小型」とは何なのか?

人工衛星のサイズは大型や小型、そして一番小さい超小型など、多種多様となっています。
例えば、いつも天気予報でお世話になっている日本の気象衛星「ひまわり」は大型で、太陽電池パドルを開いた状態ではマイクロバス(7×3m)と同じくらいのサイズ(本体は2×3m四方)です。一方で、超小型衛星は洗濯機ほどの大きさのものから、一番小さくて10㎝四方のものまであります。なんと小さいサイズは手のひらに収まってしまう程小さいのです。

NASAの公式サイトでは、小型の中でも以下の表のように細かく定義されています。

引用サイト:NASA HP

この表に対応すると、「超小型」とは正確には「10-100 kgのMicrosatelliteのサイズ」が該当します。補足すると、10㎝四方の衛星は「1U」というサイズで呼ばれており、衛星のサイズの規格として広く使われています。主な分類の衛星の重さとコスト、開発期間は以下の通りです。

超小型衛星が発案された当初は、大学などの研究や教育目的で使われていましたが、最近は企業の新規事業をはじめとしたビジネスに使われるようになってきました。

1-2.超小型衛星の利点は何か?なぜいま流行っているのか?

では、この超小型衛星を使うメリットは何なのでしょうか。それは、低コストと短い開発期間にあります。

・低コスト

一つ目は大型衛星に比べて圧倒的にコストが安いことです。
コストの面でなぜ安くなるのかは、衛星の開発費用と打ち上げ費用に理由があります。
開発費においては、衛星本体が小さいので部品も少なく済むため安くなるのです。
打ち上げ費用においては、もちろん大型衛星よりはるかに小さいので、物資として食料などと一緒に打ち上げ、国際宇宙ステーションから放出してもらったり、大きな衛星を打ち上げる際に「相乗り」というシステムを使って一緒に打ち上げてもらうことができます。
つまり宇宙へ行く「ついで」に便乗することで安く打ち上げることができるということです。
ちなみに、JAXAの小型ロケットSS-520や、インターステラテクノロジズが開発しているロケット「ZERO」のように、小型のロケットで宇宙に飛ばすという手段もあります。

・短い開発期間

次に、開発期間についてです。
大型衛星では製作に短くとも5年ほどかかりますが、超小型衛星は2年もかからず製作することができます。つまり大型衛星を開発するのに比べれば、少ない人手や予算で製作することができるのです。

例えば大学生の場合には、「衛星を作り始めた代と打ち上げて運用する代が全然違う」とはならず、開発から運用までを在学中に経験してしまえるというありがたい状況です。
企業でも同じように、検証目的のために気軽に人工衛星を開発できるのがメリットとなっています。

この2つの特徴から、超小型衛星は大量生産ができるということが分かります。こちらが大型衛星と大きく異なる点です。大量生産が可能になれば、常に頭上に衛星を配置することや携帯電話のように「マイ衛星」を持つこともできてしまいます。このように利用方法が広がることで、今まで衛星には無縁だった人も超小型衛星のメリットを受けることができます。
このような理由で、超小型衛星は今まさに注目されているのです。

2.超小型衛星の市場規模

ここでは超小型衛星たちが実際にどのくらいビジネスとして盛り上がっているのか、数字を用いながら見ていきたいと思います。

2-1.近年の打ち上げ状況

Bryce Space and Technology(旧Tauri Group)が出しているSmallsats by the Numbers2020によると、超小型衛星の打ち上げは2017年から急激に増加し、2019年には389機が打ち上げられています。

引用サイト:Smallsats by the Numbers2020 | BRYCE space and technology

その内訳を見てみると、打ち上げられた超小型衛星のうち、商用衛星が占める割合が2012年は6%だったのに対し、2019年には62%にも増加していることから、近年の商用目的での超小型衛星の利用が急激に進んでいることが分かります。

引用サイト:Smallsats by the Numbers2020 | BRYCE space and technology

また、商用衛星のうち、2019年の企業ごとの占める割合は43%がPlanet社、14%がSpaceX社、13%がSpire社となっています。
2017年に88機が打ち上げられたplanet lab社のFlock衛星や、SpaceX社のStarlink衛星などの通信衛星が多くの割合を占めています。
Flock衛星はリアルタイムで光学的に地球を監視、Starlink衛星は以前より強力な通信網の配置、といった例のように、商用衛星のコンステレーション化も進んできています。

引用サイト:Smallsats by the Numbers2020 | BRYCE space and technology

2-2.超小型衛星の市場規模

宇宙ビジネスの市場規模は約29兆円。そのうち超小型衛星の市場規模は、2019年のレポートによると、2710億ドル、日本円にすると2.7兆円と言われています。このうち衛星データを用いたビジネスが占める割合は45%、地上設備が58%を占めています。

引用サイト:State of the Satellite Industry Report | The Satellite Industry Association (SIA)

2-3.超小型衛星市場の担い手は?

引用サイト:Smallsats by the Numbers2020 | BRYCE space and technology

次に、市場の担い手です。
まず商用衛星の用途として、2014~2017年ごろまではリモートセンシングを目的とした地球観測衛星の打ち上げがほとんどでした。
しかし2019年になって、通信衛星が圧倒的に増えています。2019 年にスタートしたSpaceX社のStarlink衛星は、2020年10月6日に15回目の打ち上げに成功し、合計で900機以上の衛星を打ち上げたことになります。

また、2012年あたりは超小型衛星の相乗り打ち上げが10%ほどだったのが、2019年では20%ほどに増加しています。これも打ち上げ数が増加しているのに寄与していると推測されます。
また近年では宇宙産業を事業として設立した企業ではなく、キヤノン電子やAmazonウェブサービスやSONYのように元々宇宙には関係のなかった大企業が参入するといったケースが多く見られます。このような動きがますます宇宙利用の需要を高めていくと考えられます。

3.超小型衛星の利用方法

ここでは、超小型衛星が具体的にどんなふうに使われているのか、利用分野ごとに見てみましょう。
超小型衛星の利用分野は主に通信・技術実証・安全保障・リモートセンシング・科学観測があります。

引用サイト:Smallsats by the Numbers2018 | BRYCE space and technology

3-1.通信/IoT

通信分野では、宇宙の軌道に12,000機の超小型衛星をコンステレーションする計画のSpaceXのStarlink衛星があります。今までインターネットを利用することができなかった高緯度地域に通信網を形成することや、今までより強力で高速な通信を実現するというものです。

超小型衛星は安価で一度に大量に打ち上げることができるため、数を打ち上げるほど”隙間のない一つの網のように”地球をカバーすることができます。

SpaceXは2020年中に北アメリカやカナダでのサービス開始を予定しており、翌年には人口の多い地域はほぼすべてカバーできるように整備する予定です。

また、多くの基数を軌道上に配置することを活かして地上にあるIoTセンサーとの常時通信を可能にするIoT衛星と呼ばれるものもあります。

IoT衛星とは、地上や海上などに置かれたセンサーの情報を衛星で集め、地上へまとめて送信することでセンサーをネットワークに組み込むシステムです。世界中のセンサーのデータを集めることは物理的に難しいですが、地球の上空を周回する人工衛星であれば、世界各地のセンサーと通信し、データを集めることができます。

3-2.技術実証/教育目的

技術実証や教育目的の事例として、過去に国際宇宙ステーション(以下、ISS)にある日本実験棟「きぼう」からの放出がされたミッションをご紹介します。
ISSへの補給船の打ち上げには毎回放出する衛星を公募する枠があり、その枠を使って主に大学が作った衛星や、大型衛星までは打ち上げないけれど宇宙空間で技術立証をしたいという目的の衛星が打ち上げられます。

この機会を活かし、大学での教育目的に超小型衛星が作られることが多くありました。学生にとって超小型衛星を開発することは、技術者として必要な経験を詰むことができる絶好の機会でもあったのです。現在では技術実証に利用されているケースが多く見受けられます。

3-3.リモートセンシング

リモートセンシングとは、リモート(遠隔)から対象物に触れることなくセンシング(調査)を行うものです。これは宇宙空間だけでなく、ドローンや飛行船など地球上でも遠隔操作することはリモートセンシングに含まれます。
衛星は上空から広範囲を見渡すことができるので、広い地域を一気に観測することができます。

また、リモートセンシングの観測方法には様々なものがあり、超小型衛星のセンサには大きく分けると「受動型センサ」と「能動型センサ」の2種類があります。

太陽光などの反射を用いて観測を行う「受動型センサ」は、基本的に昼間のみの観測に使われます。具体的には光学観測です。
もう一つの「能動型センサ」は衛星から電波を発信し、地表面などの観測対象から反射した電波を観測するものです。雲の影響や昼夜の影響を受けず、24時間観測を行うことができます。これには電波観測やSARと呼ばれるものがあります。

SARとは、(SAR:Synthetic Aperture Radar:合成開口レーダー)というもので、衛星が発信した電波が地表で跳ね返ってきたものを観測します。

SAR衛星の欠点は自ら電波を観測するため電力消費量が多く、大型衛星にしか搭載されていませんでしたが、近年の技術の発展によって超小型衛星にも搭載できるようになっています。観測方法のさらに詳しい分類を知りたい方は以下の記事もお読みください。

今回取り上げた観測方法について、光学観測ではPlanet Labs、電波観測ではSpire社、SAR観測ではICEYE社などが代表的です。また、日本の企業ではNECの衛星も有名です。以下の記事ではSAR衛星について詳しく取り上げています。

次に、日本の光学観測の一例を紹介します。AXELSPACEのWNISAT-1R は、季節ごとに変化する北極海の氷を監視することで、海氷を避けて安全な航行ができる船舶ルートを提供しています。具体的には、WNISAT-1Rの観測結果と既存の衛星データを組み合わせることで、年間を通して海氷の様子を予測します。

長年船舶業界を支えてきたウェザーニューズはAXCELSPACEに出資しており、共同プロジェクトとして定常運用が行われています。

ウェザーニューズ、「北極海の海氷傾向2020」を発表 北東航路は8月中旬、北西航路は9月中旬に開通する見込み

他の事例については、4.注目の超小型衛星で詳しく取り上げます。

3-4.科学観測

科学観測にも、超小型衛星が使われています。超小型衛星は、今までは地球周回軌道を回るものしかありませんでしたが、東京大学が開発した「PROCYON」によって、深宇宙(※)を目指すことができると証明されました。「PROCYON」は、2014年に「はやぶさ2」の相乗り衛星として打ち上げられ、イオンエンジンを用いて小惑星の近くを通るミッションでしたが、エンジンの不調によってそれは叶いませんでした。

しかし、地球から離れた深宇宙で、超小型衛星の基本機能の実証に世界で初めて成功しました。現在東京大学を初めとするチームは新しい深宇宙探査の超小型衛星、「EQUULEUS」を開発しています。
※深宇宙:一般に地球からの距離200万km以上の場所のこと。月までは38万kmなので、その4倍以上になります。

3-5.それ以外の新しい利用方法

超小型衛星を誰でも打ち上げることができるようになった分、色々な利用方法を試す機会も広がってきています。

例えば、人工的に流れ星を流し、宇宙をエンタメで利用しようという「ALE」であったり、今国際問題となっている「宇宙ゴミ」を超小型衛星で掃除するという「ASTROSCALE」であったり、様々な利用方法があります。

4.注目の超小型衛星

ここでは、どのような企業の超小型衛星が注目されているのかを具体的に解説していきます。

4-1.通信/IoT

・Myriota(オーストラリア)

Myriotaは、キューブサットを使った衛星を50機運用し地上のIoTセンターで取得したデータをクラウドに集めて、ユーザーが利用することを可能にしています。
地上から600kmの軌道を周回する衛星は、地上のモジュールからの大量の信号を一斉に受け取り、クラウドに集められたデータは、APIを使ってクラウドにアクセスすれば、地球上のどこからでもデータを入手することができます。
これにより、海の真ん中に設置したブイで海の状態を測定したり、離れたところにあるタンクの水位を分析してオーナーに伝えたり、遠く離れた場所のモニタリングを実現することができます。

2020年3月には、カナダの企業exactEarthとAISデータの契約を結んで、サービスを開始しました。exactEarthは、船舶追跡および海上の状況認識のための衛星AISデータサービスを提供する大手プロバイダーで、日本では株式会社IHIジェットサービスがそのデータの占有販売権を持っています。衛星AISデータとは、船舶に搭載されている自動船舶識別装置 (Automatic Identification System, AIS)から送信される位置やスピードのデータを収集して提供するサービスのことです。

この契約により、第一世代のコンステレーションから4基の衛星と地上局をMyriota Canada Inc.に売却する契約を締結したことを発表しました。これにより、Myriota が進めるIoT計画はさらに加速しています。

企業サイト:Myriota

・Kepler(カナダ)

Keplerは、衛星コンステレーションを用いて宇宙空間における携帯電話の電波塔を作り、通信網を確立することを目的に設立されたカナダのベンチャー企業です。他の衛星や宇宙ステーション、ロケットなどとリアルタイムで通信することを確立させます。同社が提供するサービスの例を以下にご紹介します。

Global Data Service
低軌道の衛星を用いて、衛星帯域幅を最適化することで遅延耐性(遅延に強い性能)のあるデータ通信を行う機能を提供し、早く・安く・気軽に使える通信サービスを目標に掲げています。また、衛星だけではなく地上で使う「everywhereIOT」と呼ばれる衛星接続モジュールも開発しています。

2018年に打ち上げられたGEN1に続き3機目となる衛星TARSが2020年9月3日に打ち上げられ、グローバルデータサービスのレベルを向上させています。TARSは従来のKuバンドに加えてナローバントを追加することで、Kuとナローバンドの両方を低軌道(LEO)から提供する最初の企業となっています。

2020年度には10機のGEN1衛星の打ち上げを計画しており、合計140機のコンステレーションに向けて計画を進めています。

企業サイト:Kepler

4-2.技術実証/教育目的

技術実証の事例として、過去に国際宇宙ステーションにある「きぼう」から放出されたミッションをご紹介します。

・東京大学「AQT-D」

通常、衛星は化学エンジンや、イオンエンジンに代表される電気推進エンジンが使われていますが、推進剤に人体に有毒な物質が使われることも少なくありません。そこで、人体に無害である水を推進剤とする超小型衛星の開発を行っています。

・九州工業大学/Nanyang Technological University(シンガポール)

「SPATIUM-I」
超小型衛星に搭載するための原子時計の宇宙での動作確認、そして電離層をマッピングするためのシステムの技術実証を目的としています。

小型化を目指した技術が宇宙で動作するかどうかを実験することができることも、超小型衛星の利点です。

この二つの事例からも分かるように、超小型衛星では低コストで気軽に打ち上げられるという利点を活かし、今まで宇宙で試されていなかった新しいシステムを宇宙に打ち上げ、実証することができます。

4-3.リモートセンシング

・光学観測のPlanet Labs

Planet Labsは地球観測データを提供するアメリカの企業です。既に300を超える人工衛星を打ち上げており、現在は200機の超小型衛星を運用しています。

特徴は、日々の撮影範囲の広さであり、3~5 m程度の分解能で地球を毎日撮影していることです。従来では細かい分解能で高頻度で観測することは実現できなかったため、Planetが地球観測網を構築した際には、「リアルタイムグーグル」という単語が使われるようになりました。
提供しているデータは、農業、首都経済や資源、森林の観測、地図データへの貢献など、地球上の様々なデータを網羅しています。また機械学習を利用して膨大なデータの解析も行っています。

Planetの特徴は、衛星の造り方にもあります。従来までの衛星は、入念に設計・製造・試験を行った上で打ち上げていましたが、Planetはアジャイル開発の思想を衛星開発に取り入れています。ひとまず衛星を打ち上げ、運用し、課題を抽出した上で改善して衛星を打ち上げる、というサイクルを繰り返し、衛星のバージョン管理を行うことで、無駄な手間は省き、衛星開発を安くできるように工夫がされています。

企業サイト:Planet Labs

・ SARのICEYE 「ICEYE-X1」

世界初の100kg以下のSAR衛星であるICEYE-X1は2018年に打ち上げられたばかりです。現在では3機でコンステレーションに成功し、今後、合計18機を打ち上げる予定です。
衛星画像の提供について、通常は画像取得からデータ提供まで24時間でありますが、「緊急の要望に対しては数時間でデータを提供することも可能」であり、即時性にも優れていることが分かります。

また、2020年3月には今まで静止画のみであったSAR画像を、連続的に撮影して動画を作成することに成功しました。
1つの地点に対して衛星が撮影できる枚数は非常に少なく、動画を作成することは困難でしたが、ICEYE社は独自の技術によってこれを実現しています。

Credit : ICEYE Source : https://www.iceye.com/press/press-releases/iceye-demonstrates-sar-video-capability-from-current-sar-satellite-constellation

この動画では、船や車がゆっくりと動いていく様子が捉えられています。

また同社は、2020年10月には、過去の約1万8000点に及ぶSAR画像を公開すると発表しました。注文をすれば画像はGoogle Earthなどの地図システムで開くことができます。

企業サイト: ICEYE

・電波観測のSpire

Spire社が提供するのは、船舶の位置情報(AIS)や航空機の位置情報、大気の掩蔽(えんぺい)観測による情報の3つが代表的です。船や航空機の運行情報は、陸・海・空を問わず物流業界のニーズに応えています。掩蔽観測とは、地球の大気を隔てて同社の衛星間で電波のやりとりをし、”大気のスキャニング”を行うものです。GPSなどの航法衛星から送られてくる信号の受信機を使って、受信した信号の屈折具合から、大気の温度や水蒸気量などを観測します。

2020年6月には、NASAと1年間、このデータを提供することで契約を結びました。現在軌道上で88機の衛星を運用しています。

企業サイト:Spire

このほかにも、複数機を軌道上に配置することで観測の頻度を向上させたり、共同ミッションを行ったりすることが、超小型衛星をリモートセンシングに用いるメリットです。

他の事例はこちらもご覧ください。

4-4.科学観測

・キヤノン電子「CE-SAT-Ⅰ」

光学電機メーカーキヤノン電子が打ち上げた超小型衛星では、光学地球観測を行っています。初号機で搭載されたキヤノンのカメラで撮影された地球の画像はとても綺麗です。
同社はこのような超小型衛星の大量生産、コンポーネントや撮影された画像データの販売なども行う予定です。

企業サイト:キヤノン電子

・EQUULEUS:EQUilibriUm Lunar-Earth point 6U Spacecraft(エクレウス)

少し未来のお話になりますが、東京大学では地球周回軌道の外まで超小型衛星で探査する計画が進められています。

大きな科学観測ミッションは以下の3つです。
1つ目は、地球の磁気圏プラズマの全体像を地球から離れた距離から極端紫外光で撮像することです。ラグランジュ点と呼ばれる、月と地球の重力が特別な関係になる地点から、今まで超小型衛星では撮影することのできなかった地球の全体像の撮影に挑みます。
2つ目は、月の裏面における月面衝突閃光の観測です。月の表面に物体が衝突して発光する月面衝突閃光という現象を詳しく調べることで、将来の月面有人宇宙開発への影響を調査します。
3つ目は、シス・ルナ空間(地球から月軌道周辺までの空間)におけるダスト環境の評価です。上記ミッションでのダスト観測と合わせて、地球・月の重力圏に一時的に捕捉されてる固体物質(ダスト)の調査を行います。

このEQUULEUSミッションは、今まで地球周辺のみで運用されていた超小型衛星が、地球軌道から離れた地点でも運用される新しい時代へのさきがけになると考えられています。

地球―月ラグランジュ点探査機EQUULEUSによる深宇宙探査CubeSat実現への挑戦 | JAXA HP

4-5.それ以外の新しい利用方法

・株式会社ALE「ALE-1」

超小型衛星の「エンタメ」としての利用も進んでいます。
株式会社ALEの「ALE-1」では、時刻・場所を指定して、人工の流れ星を発生させることを目標としています。エンターテインメント事業の発展だけでなく、人工流れ星の発光を利用した高層大気の分析も行う予定です。

現在2号機まで打ち上げられていますが、流れ星の源となる粒の放出機構に不具合があり、次に打ち上げられる3号機での実験を予定しています。

企業サイト:ALE Co.,Ltd

4-6.まとめ

超小型衛星の利用事例について、分野ごとに紹介しました。本記事で紹介したものは世界の超小型衛星のほんの一部にすぎません。どのサービスも超小型衛星の特徴を活かし、新しい技術の宇宙での実証を気軽に可能にすることが期待されています。
キヤノンの例のように企業の強みである独自の技術を宇宙に応用することで新しいビジネスを開拓したりと、超小型衛星の可能性は”使う人によって無限大だ”ということが分かります。

この記事を読まれているみなさんの得意技術をさらに発展させたり、やってみたいことを実現したりすることができるかもしれません。
この記事を見て少し興味を持った!という方は、紹介した小型衛星の利用や、今後宙畑に掲載の宇宙ニュースにもぜひ注目してみてください。

今回紹介した衛星の一覧

5.超小型衛星を開発するには

これまで超小型衛星の事例を細かく見てきましたが、多くの方は話を聞いても自分が打ち上げるなんて考えられないと思われるのではないでしょうか?

実は、超小型衛星を自分で作るキット、あるいは基本的なところは作ってあるキットが存在します。
キットを購入する価格は状況によって変わりますが100万円程度です。打ち上げの費用は1UをISSから放出した場合、300万円~となっています。(ロケット単体で打ち上げた場合は5億円ほど)
キットを購入し、ミッションを考えて打ち上げのチャンスを得ることができれば、あなたも宇宙で新しい事業を始められる可能性があります。
最後にキットの具体的な入手方法を紹介します。

・OPUSAT-KIT(日本)

大阪府立大学が主体となって打ち上げた超小型衛星「OPUSAT」の基本機能(バス機能)を利用して作られた1Uサイズのキットです。ミッション機器以外は動作するように組み立てられているので、ミッション機器を作り、それに合わせてバス機器の改変を行えば簡単に衛星が完成します。

サイトHP:OPUSAT-KIT

・makesat.com(日本)

株式会社インフォステラが衛星開発用の商品を販売しています。衛星に必要なバス機器だけでなく、打ち上げサービスや地上局をはじめ、衛星を打ち上げた時にロケットの振動や宇宙環境に耐えられるかをチェックする試験の機会といった、必要なものをほぼ全て販売しています。同社はクラウドベースの地上局サービスを運営していて、世界中の地上局の衛星との交信の機会をシェアすることを可能にしています。

サイトHP:makesat.com

・Cubesatshop(オランダ)

オランダのデルフト工科大学のプロジェクトに関わった方が創立したオランダの企業ISIS( Innovative Solutions in Space BV)が運営する超小型衛星の部品を販売するサイトです。このサイトでは様々な企業が部品などを出品することができ、超小型衛星業界のAmazonのようなものとなっています。販売元は約28社あり、約100点以上の商品を比較しながら購入することができます。他のサイトでは価格が要相談の場合が多いですが、このサイトでは機器類はほぼ値段が提示されていることが特徴です。

サイトHP:Cubesatshop

・GOMSPACE(デンマーク)

デンマークの企業が販売する衛星コンポーネントです。こちらも機器をはじめ、地上局や構体、ソフトウエアなども販売しており、1Uに限らず、大きいサイズにも対応しています。

サイトHP:GOMSPACE

・Space BD(日本)

こちらはコンポーネントの販売は行っていませんが、衛星のミッションの策定から製造、打ち上げ機会の提供までを一貫してサポートをする事業を行っています。2019年にはH-2AロケットおよびH3ロケットの相乗り打ち上げの機会を提供する唯一の事業者に選定されました。

サイトHP:Space BD

衛星を自作するときに気を付けたいのは、部品を宇宙用にしなければならないということです。部品によってはそのまま宇宙に打ち上げると放射線によって有害なガス(アウトガス)を発生したり、温度差に耐えられなかったりします。

また、衛星をなんとか打ち上げたあと一番大切なのは地上局です。衛星がいくら元気に動いていても、地上と通信ができなければ何の意味もありません。微弱な電波を利用するといった特殊な場合を除いて、衛星は利用する周波数帯を総務省へと申請し、許可をもらうことで地上と通信できるようになります。その場合、無線の資格等も必要となってきます。

10年ほど前では、衛星を作成することすら一般人には難しかったのですが、今ではサービスとして購入することができます。自社のあるコンポーネントを宇宙で利用してみたいということであれば、残りのコンポーネントを購入するのもよし、ミッションだけに全力を注ぎたいということであれば、キットを購入するといったように、様々な手段が考えられます。

宇宙なんて無縁だと思っている方にも、機会があれば挑戦してみたいという方にも、宇宙を利用する機会はかなり開かれていると言えます。

6.まとめ

ここまで超小型衛星について解説してきました。安く早く製造できる超小型衛星は、宇宙を利用する敷居を大きく下げました。現在では衛星を用いたビジネスと地上局のビジネスが、超小型衛星の市場規模を占めています。現在2.7兆円の市場規模は、ますます成長していくことでしょう。
そんな超小型衛星が利用できる分野は、利用者のアイデア次第で多岐に渡ることも分かりました。
2003年に東京大学と東京工業大学が世界で初めての超小型衛星を成功させてから、20年近くが経とうとしています。そして今では世界中の大学機関の壁を超えて多くの人々が超小型衛星を利用できる世の中になっています。

超小型衛星の”大量生産できる”という利点から様々なことができるようになり、もともと宇宙産業に縁のあった企業はもちろん、縁のなかった企業も参入して市場はどんどん大きくなってきています。
そして宇宙は、”思いがけない事業が実は実現できる”未知の可能性を秘めた領域です。

皆さんの抱えている課題を解決する”手段”として、「超小型衛星」を検討してみてはいかがでしょうか。