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ビジネス事例

物流×宇宙(人工衛星利用)、現状と事例 【宙畑業界研究Vol.6】

宙畑では宇宙ビジネス(主に人工衛星利用)の可能性を探るため、様々な業界と宇宙の関係を紹介する【宙畑業界研究】の連載を行っています。第6回目となる今回のテーマは「物流」です。

<はじめに>

宙畑では宇宙ビジネス(主に人工衛星利用)の可能性を探るため、様々な業界と宇宙の関係を紹介する【宙畑業界研究】の連載を行っています。

第6回目となる今回のテーマは「物流」です。

本記事では、宇宙技術の他産業展開に関心のある方に向けて、物流業界の業界構造や国内外の市場の特徴、テクノロジー活用動向などの概観を説明し、衛星データの活用事例と今後の展望について紹介します。

また、自社の物流事業において新規事業をご検討中の方も、3章以降で参考となる事例があるかもしれません。“物流x衛星データ(宇宙技術)”という組み合わせにおいてビジネスアイデアのヒントになれば幸いです。

(1)物流業界の市場規模と特徴

コロナ禍において、人々の生活は大きく変わりました。特に、“移動”に関して、「人の移動」が中心となっていた生活から、需要の高まりに伴い「モノやサービスの移動」が注目されるようになっています。

そのため、「モノの移動」そのものである物流業界も今後大きく変わっていくでしょう。

まず本章では、物流業界の市場規模や国内外の市場の特徴について解説します。

そもそも物流とは、日本工業規格(JIS)によれば[1]、「物資を供給者から需要者へ,時間的及び空間的に移動する過程の活動」であり、「一般的には、包装、輸送、保管、荷役、流通加工及びそれらに関連する情報の諸機能を総合的に管理する活動。」として定義されています。また、対象領域を「調達物流、生産物流、販売物流、回収物流(静脈物流)、消費者物流」などと特定して呼ぶこともあります。

つまり、モノの移動に関する全てのプロセスを総合して物流と呼び、関連する領域やプレイヤーも多様です。さらに、現在では、商品を流通させるだけの“物流”から、物流全体を管理するロジスティクスという考え方が主流となっています。

国内の市場規模は、矢野経済研究所の調査によると[2]、陸・海・空の運輸事業や宅配事業、倉庫事業、引っ越し事業などを含む物流の17業種を総合した市場規模として2018年度までの推移と2019年度、2020年度の予測を算出し、2020年度には24兆円に上ると考えられています。

世界全体でみると、2018年には680兆円規模という試算も出ており、アジアで300兆円、北米で170兆円を占めているようです[3]

以下、日本と海外の特徴をそれぞれ見ていきましょう。

<日本の物流市場の特徴>

2017年度までの実績と2018年度~2020年度までの予測について、物流業界の市場規模推移は下図の通りとなっています。

なかでも、トラック輸配送は重量ベースで国内貨物輸配送の9割を占め、トラック運送業は市場規模で旅客輸送に匹敵する15兆円の規模となっており[4]、島国の日本では物流市場の大部分をトラックが占めるものとなっています。

矢野経済研究所より「物流17業種総市場規模推移と予測」のグラフを抜粋 Credit : Yano Research Institute Ltd

日本の特徴としては、配達におけるラストワンマイルのサービスレベルの高さが挙げられます。他の先進国で8~9割という納期遵守率が日本では99%という調査もあるうえ、低温・定温配送技術が高く、配送による腐敗や損失はほとんど発生していません。

一方で、宅配便のうち、約15%が再配達となっており、運送事業者の作業効率の悪化やCO2排出量の増加など社会的損失が課題となっています[6]

<海外の物流市場の特徴>

地理的、政治的な要因も絡んでくるため、グローバル全体の傾向を一括りにして物流業界の特徴を捉えることは難しいですが、自国内の物流を重視して陸上輸送が物流市場全体のうち大きな割合を占めることは日本と同様です。そのため、日本同様にどの国でもトラック輸送における人手不足が大きな課題となっています。

また、海上輸送については、世界の港湾のコンテナ取扱量をみると[7]、中国やシンガポール、香港、マレーシアなどアジア諸国がトップ10のほとんどを占めています。

その要因としてはアジア諸国の急速な経済発展とともに、アジア向けの国際物流におけるハブ港となるための港湾間競争が激化したことが挙げられます。競争力強化に向け、港内の大規模化やコンテナターミナルによる荷役作業の効率化が急速に進められたことで、利便性の向上や、港湾利用料の引き下げが見られ、これらの主要港に荷役が集中したと考えられます。

(2)物流市場の分類と課題

本章では物流市場の分類と課題を紹介します。

まず、物流市場を考える場合、サプライチェーンにおけるプロセスの分類と事業形態の分類の2つの視点が重要になります。

先にサプライチェーンにおけるプロセスでの分け方を紹介すると以下4つの領域があります。

1.調達物流
原料や部品を調達する物流を指し、モノづくりには欠かせない物流です。生産計画にあわせて必要なものを必要なタイミングで必要なだけ供給することが重要です。

2.生産物流
調達した原料や部品の在庫を管理し、生産工程で発生する工場内の物流、仕掛品や製品の管理、包装、梱包、出荷以降の販売物流までの物流などマネジメントの側面が強い自社周辺の物流を指します。

3.販売物流
工場で製造された製品を物流センターへ運び、販売店を通してエンドユーザまで届ける一般的な物流です。

4.回収物流
エンドユーザまで届いた製品が消費され、使用されなくなった後に発生する、廃棄または再利用時の物流を指します。エンドユーザから逆流するような物流にも見えることから、静脈物流と呼ばれることもあります。

私たちが消費者として関わるのは販売物流と回収物流です。上記4領域に様々な事業者が複雑に絡み合っているのが現在の物流業界です。

次に、物流市場はどのような事業形態分類ができるのか、その代表的なプレイヤーと合わせて説明します。

<事業形態分類と代表プレイヤー>

1.キャリア
国際物流において、航空機や船舶など自社で輸配送手段を保持し、港間の輸配送を行う運送会社を指します。
代表プレイヤー:スイスMSC、シンガポールAPL、デンマークMaersk、台湾Evergreen、日本郵船、商船三井

2.フォワーダー
キャリアの輸送手段を利用して貨物運送の取り次ぎを行い、自社の陸運機能により貨物の受け取りから配達までを行う事業者を指します。
代表プレイヤー:スイスK&N、デンマークDSV、仏SNCF、独DBシェンカー、日本通運、ヤマトホールティングス

3.インテグレーター
キャリアとフォワーダーの両方の性質を備え、自社で航空機などを保有し、かつ、トラックなどの陸上輸送機能により貨物の受け取りから配達までを全て自社で行う事業者を指します。
代表プレイヤー:米UPS、米FedEX、独DHL、オランダTNT

4.3PL(サードパーティロジスティクス)
荷主や運送事業者以外の第三者が、荷主に対して包括的に物流業務を受託することを指します。輸配送に閉じず、ロジスティクス全体として、調達物流から静脈物流まで荷主の物流プロセス全般における改革の提案、運営を行います。
代表プレイヤー:米XPO Logistics、日立物流

ここで、収益が世界トップ10の物流事業者をみてみましょう。下図の通り、自社で輸配送機能を持ち、フォワーディング業務も実行可能なインテグレーターが上位を占めていることがわかります。また、従業員数に表れている通り、莫大な事業投資によりこれだけの収益規模を実現しています。

以上、物流市場の2つの視点での分類について紹介しました。では、今後も需要が高まると予想される物流業界にはどのような課題があるのでしょうか。

物流業界全体を通して発生している代表的な課題は、①物流プロセスのブラックボックス化、②余剰在庫の発生、③トラック輸送における人手不足 ④強化される環境規制への適応 ということが挙げられ、以下でそれぞれ説明します。

1.物流プロセスのブラックボックス化
1つのモノを運ぶというだけでも多くの事業者や組織が複雑に関係しています。特に国際物流においては、輸出入に伴う手続きが事業者・国ごとに異なり、とても煩雑です。そのため、リアルタイムに事業者を跨いで詳細な配送状況を把握することはとても困難です。

2.余剰在庫の発生
より遠隔地への配送となるほど、発注からモノの到着までリードタイムが長くなり、また、想定外のアクシデントによる破損なども発生しやすくなります。欠品リスクを回避し、これに迅速に対応するため、在庫を余剰に保持することが多く、物流コストが高止まりしてしまいます。

3.トラック輸送における深刻な人材不足
陸上輸送の大部分を占めるトラック輸送においては深刻なドライバー不足が国内外で課題となっています。人手不足の原因は、労働人口の減少そのものの影響もありますが、低賃金・労働環境の悪化なども影響しています。

4.強化される環境規制への適応
ヨーロッパ諸国が世界をけん引する形でCO2の排出量削減目標が年々高くなってきています。ESGやSDGsの浸透に伴い、大手事業者には取り組みが求められる状況です。

(3)デジタルテクノロジーの活用

上述した事業環境の変化、業界課題を背景として、物流業界におけるデジタルテクノロジー活用が進んでいます。

物流は、多種多様なモノやヒト(事業者)、コト(手続き)が複雑に絡み合っているため、機械化が難しく、人の手による作業が多いことが特徴です。属人的な業務によりブラックボックス化や無駄が発生するなど、第2章で紹介した課題もこれに起因しているものがほとんどです。

こうした中、物流プロセスの追跡・管理をクラウドなどのデジタル上で実現しプラットフォームを構築、展開している事業者を指すデジタルフォワーダーという新しいプレイヤーが登場しています。そして、煩雑で属人的であった手続きまわりの簡略化や効率化を目指して、荷主と運送事業者をオンライン上でマッチングするマーケットプレイスサービスも広がりを見せています。これらにより、物流プロセスが透明化・可視化・効率化され、在庫も適正化されていくことでしょう。

また、トラック輸送における人材不足を解消するため、自動車メーカー各社と物流事業者が提携して自動運転やロボットによる荷積みの自動化などの実証実験が取り組まれています。

画像認識技術の発達により限られたスペースの中であっても多様な製品や空間そのものを自動で認識できるようになり、AmazonやアリババのようなEC事業者最大手を中心に、倉庫業務も自動化が進んでいます。アフターコロナ時代は、EC需要は増加の一途を辿ると考えられ、このトレンドは今後も続くでしょう。

そして、環境影響への懸念から、従来トラックなどの自動車で行われている貨物輸送における単位重量あたりの環境負荷をより削減可能な鉄道や船舶などの利用へと転換することを指すモーダルシフトに関する取り組みが、各国において政府主導で始まっているという点も今後注目が集まるでしょう。

最後に、技術革新により便利になった社会では、エンドユーザの要求がより高度になってきており、物流においても、「より早く」「より正確に」モノが届くことが期待され、エンドユーザ自身で「現在の配送状況はどうか」が確認できることを望んでいます。輸配送事業者自身が配送状況をリアルタイムに正確に把握し予定通りに届けること、複数の事業者の情報やデータを組み合わせ、エンドユーザが手軽に配送状況を確認できる状態を構築することが求められています。

以上、物流業界におけるテクノロジー活用の今について紹介しました。次章より物流における衛星データ活用について紹介します。

(4)物流x衛星データの事例紹介

物流における衛星データ活用としては主に位置情報データを用いた業務改善が推進されています。なかでも以下2つの活用は物流業界の改善に大きく寄与しています。

■コンテナ位置特定による物流効率の向上

準天頂衛星みちびきのデータを活用し、コンテナやその土台となるシャーシ(フレームに車輪がついた土台)の位置を特定することで、工場などの広い駐車場や移動スペースでドライバーが対象のコンテナを積んだトラックを探し回る時間を削減し、物流効率の向上を実現するサービスが登場しています。

これには、コンテナやシャーシの位置情報を取得するための無線ICタグを開発し、取り付け、タブレット端末などで位置が確認できるアプリケーションが提供されています。衛星データとICタグを組み合わせることで、位置情報を補強し高い精度を実現しています。

★位置情報に関する詳細記事はこちら

■フリート車両の位置特定による運行管理

長距離を移動するトラックなどの車両の追跡や運行管理にも測位衛星を利用されており、精度の高い位置情報をリアルタイムに取得できます。日本の場合、配送予定時刻を厳守することが重視される傾向が強く、ドライバーが過度な速度で走行し、事故などを引き起こすリスクがあります。そのような中で、測位情報から算出された走行速度を監視することで安全運転の管理も行っているのです。

その他のユースケースについて、内閣府は下図のようにまとめています。物流とは外れますが、タクシーにおけるデータ活用 は宙畑でも取材していますのでぜひこちらをご覧ください。

自動車(物流・旅客)利用イメージ 内閣府 8

次に、実際に衛星データを用い、特にテクノロジー活用が進んでいる領域である「物流プロセスの可視化」ソリューションを展開している、アーリーステージの注目の海外スタートアップを紹介します。

■Wakeo

フランスのスタートアップWakeoは、化学や医薬品からNGO団体まで幅広い業界に対して、B2Bマルチモーダルで、海、空、道路における輸送フローをリアルタイムで可視化するSaaSプラットフォームを提供しています。完全に自動化された追跡プロセスはもちろんのこと、ルートを外れた場合にアラートを自動で発することができ、輸配送プロセスにおける早期の意思決定を可能とします。

■Portcast

シンガポールのスタートアップPortcastは、物流データだけでなく、AISや気象衛星などの衛星データなどを活用して、大手貨物事業者に対して、精度の高い貨物需要の予測とリアルタイムの船舶及びコンテナの追跡情報をプラットフォーム上で可視化して提供し、物流コストを最適化することで収益性向上を支援します。

■TRAXENS

フランスのスタートアップTRAXENSは、独自開発のIoTトラッキングデバイスと物流情報プラットフォームを中心に、複雑化するサプライチェーンのリアルタイムモニタリングソリューションを提供しています。これらのソリューションにより、海上輸送コンテナ、鉄道輸送コンテナ、トラックなど、グローバル物流で用いられる多様な輸送形態に対応し、陸海一貫輸送で地理的・時間的な制約の無いシームレスなトレース、リアルタイムでの物流データ収集が可能となります。

(5)物流業界における宇宙技術活用の未来

データドリブンな次世代のロジスティクス実現には、同報性(多くのモノやヒトに対して同時に情報を提供することができるという特性)や広域性(広範囲に情報を送信したり、広範囲の情報を収集したりできるという特性)、耐災害性(地球上で発生した災害などの影響を受けないという特性)、遠隔性などの特性を持った衛星データの活用は不可欠になってくると考えられます。

そして、衛星データとひとことで言っても、輸配送のモニタリングには航空機や船舶・トラックなどの輸配送機能そのものの位置情報が必要で、輸配送計画を立てる際には気象情報を、実際のルート検索時には交通状況を、環境対応の効果検証のためには特定の地域のCO2排出量を……というように、光学/SAR画像、測位情報、気象情報、エアロゾルデータなど、様々な衛星データの活用が期待できます。

今回ご紹介した事例やスタートアップは位置情報の利用がほとんどでしたが、ヨーロッパ宇宙局ESAが支援するアーリーステージのスタートアップには光学画像を使ったソリューションを提供する企業も出てきているようで、市場の反応に注目したいと思います。

次回の「宙畑業界研究」は自動車業界を予定しています。お楽しみに!

[1] https://kikakurui.com/z0/Z0111-2006-01.html
[2] https://www.lnews.jp/2019/07/l0711412.html
[3] https://www.statista.com/statistics/1069868/total-global-logistics-market-size-region/
[4] https://www.mlit.go.jp/common/001354690.pdf
[5] https://www.lnews.jp/2017/04/j041905.html
[6] https://www.mlit.go.jp/common/001354692.pdf
[7] https://www.mlit.go.jp/common/001013336.pdf
[8] https://qzss.go.jp/usage/useimage/us03_auto-logi.html